≪本論・シルカ平原攻略戦・起2≫
私はイェンやオウタと並んでシルカ平原を前進していた。
平原なので、広大で平らな野原が広がっている。
周囲には、私達と同じように平原を進む冒険者達のグループが幾つも確認できる。
それらのグループは私達と同じ有無種だけではなかった。
有耳種、有角種、有尾種、有紋種、有毛種と、すべての種族がそこにはいたのである。
なぜ、こうした事態になってしまっているのか?
それは各帝国のレイドパーティが奇しくも時を同じくして攻略戦を開始し、一斉にシルカ平原へ雪崩れ込んだためであった。
この時、シルカ平原のどのエリアを自分達の戦域とするのか、というエリア分けの取り決めが行われなかったため、戦線が入り混じってしまい、全種族がごちゃ混ぜになってしまったのである。
この時、六カ国不戦条約があったので、各種族の冒険者同士の衝突は回避された。
しかしやはり、皆、レイシストで他種族を見下しているので、融和する訳が無く、自種族で小さなグループを多数形成し、他種族のグループとは距離を開けて戦場を前進して行くという状況になったのである。
こうしてシルカ平原は、様々な人型知的生命体が打ち解け合う事はなく同じ場所に混在している
【種族のサラダボウル】
となったのである。
そうしたサラダボウル状態で、図らずも他種族と共に平原を進んでいた時、唐突にそれは起こった。
前方にいた冒険者の頭部が突然、弾け飛んだのである。
一人だけではない。
何人もの頭が爆ぜて飛び散ったのである。
弾け飛ぶ部位も頭部だけに止まらず、腕、手、肩、腿など様々である。
人体を欠損した者達がバタバタと倒れていく。
同時に周囲には、ヒュンッ! ヒュンッ! という風切り音が充満したのであった。
「制圧射撃〈ドミ・ファイア〉だ!」
誰かの叫び声が木霊し、戦場にいた者達は一斉に地面へ伏せた。
制圧射撃とは何か。
それはシルカ平原に集中的に生息し占拠している魔物が行ってくる攻撃である。
魔物の名はトーチカ。
植物の魔物である。
その攻撃方法は、椎の実弾[しいのみだん]、と呼ばれている自身の種を魔法で硬化し、それを魔法で高初速にて撃ち出してくるのである。
そして制圧射撃とは、その椎の実弾を毎分1500発にも及ぶ発射速度でばら撒き、圧倒的火力で対象を薙ぎ倒すだけでなく、その場から動けなくしてしまう攻撃法なのであった。
「まだ目標まで何キロも距離があるってのに、ここまで弾が届くとは。予測はしていたけど、ここのトーチカ、相当育ってやがるな。しかも、この弾幕の厚さからして、そういうのがかなりの数いるぞ」
私の隣で腹這いになっているイェンが苦々し気に呟いている。
トーチカは年を経るだけ成長して巨大化し、その有効射程距離を延伸してくるのである。
「……」
イェンの言葉に私は何の反応もできなかった。
ポーターなので実戦経験の無い私は、頭上を死の弾が無数に飛び交う危機的状況へいきなり陥った事で完全にビビってしまい、頭を抱えて伏せた状態のままフリーズしてしまっていたのである。
「メイスン、大丈夫ですよ」
オウタがコロコロと地を寝転がって近づいてきて、私を落ち着かせようと声をかけてくる。
「僕の地元の本で読んだことがあります。こういうのは弾が頭の上をヒュンヒュンと通過している間は当たる事は無いので安心していいそうです。ただ、弾が地面にチュンチュンと突き刺さり出したら、そろそろ当たる頃なのでヤバいそうです。まだ、頭上をヒュンヒュンしてますから大丈―」
オウタがセリフを言い終わる前に椎の実弾が、チュゥン! チュゥン! と音を立てて地面に刺さり始める。
「あ、こりゃ、駄目だ」
前言撤回するオウタ。
全然大丈夫な状況ではなかったが、彼によるコント的展開は私をリラックスさせ、そのフリーズ状態を解く事に貢献してくれた。
「メイスン! 避難するための出来るだけ大きな穴を掘る! 俺だけの魔力量じゃ出力不足だ! 魔力を回してくれ!」
イェンからの魔力供給要請を受け、私はそれに従った。
彼は剣に爆裂の魔法をかけ、それを鍔まで地表に突き刺した。
「ぶっ飛ぶぞッ!」
爆発が起こり、地面に複数人が隠れられる大穴が開く。
「早く穴に入れ! 制圧射撃の次は全力射撃〈フル・ファイア〉が来るぞ!」
トーチカの攻撃には段階がある。
まず制圧射撃で対象の動きを封じた後、更に放物線を描く弾道の曲射で爆弾を送り込んできて、対象のいる辺り一帯を吹き飛ばしてしまうのである。
これが全力射撃であった。
ちなみに、トーチカの爆弾は、単に爆裂魔法がかかった物体ではない。
爆発反応を起こす物質、すなわち、爆薬、が充填された物体なのである。
つまりトーチカは、世にも珍しい生成魔法を使用する魔物なのであった。
雨あられと降り注ぐ椎の実弾から逃れるため、私とオウタは大穴の中へ飛び込んだ。
しかし、イェンがなかなか入ってこない。
私は少しだけ頭を穴から出し、外の様子を窺ってみた。
すると匍匐前進しているイェンの姿を見つけた。
彼の向かう先に何者かが倒れている。
それは有尾種のコトゥーゲであった。
彼は両足を撃ち抜かれて、動けなくなっていた。
このまま全力射撃が始まり爆弾が落ちてくれば、コトゥーゲは木っ端微塵になってしまうだろう。
そうした状態にある彼を、イェンは助けに向かっているのである。
タイマン張ったらダチ公理論、と、友達の友達は皆友達理論、の組み合わせによって、イェンはコトゥーゲを仲間と認識している。
誰よりも仲間の大切さを知り、何よりも仲間を大事にする男であるイェンは、命懸けで仲間を救出しようとしたのである。
「コトゥーゲーーー!!!!!」
イェンは叫んだ。
彼はコトゥーゲに向かって手を伸ばす。
だがコトゥーゲは尻尾でイェンの手を乱暴に払い除けてしまう。
「この私に気安く触れるな虫ケラがっ! 下等なモブ風情に助けられるくらいなら死んだ方がマシだ!」
心底忌々しいといった表情で、そう吐き捨てるコトゥーゲ。
レイシストの鏡といった発言である。
それに対してイェンは、
「お前も仲間だ」
と一言だけ口にし、コトゥーゲの顔面にフレンドリーパンチ[略称:フレパン]をお見舞いして昏倒させてしまったのである。
彼の[来る者は拒まず、来ない者は拒ませず]のスタンスが発揮されたのであった。
こうしてイェンは失神したコトゥーゲを穴の中へ引きずり込み、救助したのである。
以上が地獄の幕開けの光景であった。
ここから戦場は酸鼻を極めていく事になるのである。




