第44話 隠者
「お前は誰だ?」
警戒に満ちた声を虚空に発し牽制している。
ミリアは、貧民街育ちであり貧民として生活していたため彼女の感覚は研ぎ澄まされていた。
ミリアはすっと言葉を吐いた。
「塵旋風」
ミリアのツインテールの髪と、黒コートが吹き上がる。して、ミリアの周りには風が舞い上がっていた。
「お前が、密かに私たちを狙っていたのはわかっている。出てこないと言うなら……」
ミリアは、手を前に翳す。
「私から━━━━━━━━」
ザビィン!
高い音が響いた。
するとミリアの風が切り裂かれていた。
「!」
ミリアは驚き、塵旋風を再び展開した。
ミリアに合わない技名をしている塵旋風はゲレソナ村のリヤ考えた技だ。それ故、ミリアにはその感覚が未だ掴めない。
ミリアは攻撃回避の糸口が見えないままその場にたたずむ。
このままだと魔力切れを起こしミリアの身体を引き裂くだろう。ミリアはそう危惧し、より深く気配を探る。
「──────それは神代」
そうすると、声が響いた。しかしその姿、微かにも見えない。
「それが時、戦はあった。」
冷徹な声は語りを始めていた。ミリアには人気を感じなかった。
「皆が理想を目指し、貪欲に求め続けた。時に自然を汚し、人を潰し、儚くも生々しい脆悪。」
見えない斬撃がまたしてもミリアの塵旋風を破る。いや、肌を斬った。
「その創世の契機としたものは、ここ神願の試練。」
ミリアは死の予感を感じた。反射的に横に避けると鋭い風が通るのを感じた。それは禍々しく、思わず息が止まるほどだった。
「かつての厄災は再び起ころうとしている。人々はまた」
気づくとコツコツと誰かが来ている。ミリアはそれが見えるまで何も感じなかった。
「誤ちを孕み犯そうとしている。」
漆黒のマントを羽織り、赤黒いを基調とした衣服。それは完全に光を遮るような夜の帳を所有していた。そしてその佇まいと色白で何者かも魅了し威圧する碧眼と紅眼は、「脅威」そのものだった。
「お前は、誰だ?」
ミリアがそう問いかけると、彼は所持していた黒鎖が絡まる半月をモチーフにしたかのような赤紫の鎌を静かに消した。
「我が名は、エルシオン・ドラゴニック。この帝國の陰に潜み、貴様のような瘴気を狩る陰徳者だ。」
吹き通る風はこの男のために吹いていた。マントは高らかになびいている。
「瘴気…?、なんのこと!?」
エルシオンの主張にミリアはピンと来ていなかった。
「最早、貴様と対話するに値せぬ。ここで消失してもらおう。」
すると、先程消えた闇が滲む赤紫の鎌を取り出した。
「我が恩恵の神機、デウス・エクス・マキナによって。」
そしてエルシオンは鎌を横になぞった。すると黒く光る残像が、ミリアの塵旋風は消滅した。
「一体何なの…!」
ミリアは風で上空へ飛び、エルシオンに急接近した。
そして右腕に高気圧を置き、エルシオンに低気圧を置いた。
流れを切らずにそのまま右腕の風を押し出すように吹くと、そのままエルシオン━━━━ではなく、空を切っていた。
ミリアは呆然とした。すると、後ろに気配を感じた。
「我が神機の能力は、あらゆるものを解釈し能力を把握する。」
ありえないほどに強い能力。ミリアは戦慄した。
ミリアの能力は既に開示されている。そしてミリアの知らない弱点さえも。
この男に勝てるイメージが無い。ならばどうするか?
ミリアはレツと一緒にしたことを思い出した。
それは━━━━━━
逃走。
ミリアは全速力で目的地へと向かった。
予想外の行動にエルシオンも暫し固まったが、走りだし、すぐにミリアを追いかけた。
ミリアは死ぬ気で逃げる。
(まともにあいつと戦ったら、一瞬にして死んでしまう!とにかく逃げなきゃ、今のままじゃ埒が明かないけどまともに戦うよりマシ!)
しかしなかなかに距離があかない。攻撃されていて避けるのに労力を割いてしまう!どうすればより早く飛べるだろうか……。
「!」
ミリアは閃いた。
ミリアは飛びながらエルシオンに身体を向けた。
エルシオンは警戒する。
「どうした、観念してこのエルシオンに挑むのか?」
ミリアは風を感じた。
(今の感じている風力はこのぐらい…かな、)
ミリアはそっと低気圧を作った。
この飛行の自風のおかげで気づかれる心配は無い。
「貴様が行かぬのなら、このエルシオンが初発しよう。」
エルシオンはデウスマキナを後ろに振りかぶる。
ミリアは高気圧を素早く自分に設置した。
エルシオンはそのデウスマキナを薙ぎ払う。
その瞬間、ミリアの低気圧はさらに低くなる。
強力な気圧差にエルシオンの攻撃は鈍ると共に風による空気抵抗が強まり、一瞬動きが止まった。
「引っかかったね!!」
ミリアは後転しながら目的地へとエルシオンより強い低気圧を置き、神速に飛んで行った。
「くっ、このままでは皆が……。仕方の無い。」
エルシオンは目を閉じた。そしてデウスマキナは姿を消す。
「全能」
エルシオンの碧眼は白藍色へと変幻する。
「あまり使いたくなかったのだが、仕方あるまい。すぐゆくぞ。汚れをこの手で根絶するまでな!」
エルシオンはミリアの風を追いかけた。




