第40話 代償
「防ぎきれた……か」
少し服が焼き焦げてしまったが、魔力を盾にして耐えることはできた。
「体力を予想以上に使ってしまったがな。」
そしてイザナはアガネの方へと歩いていく。
ふたりは険悪モードだ。タドナギが止めに入る。
「ちょいちょいお二方。喧嘩しては非合理的ですよ。」
イザナがタドナギを無視し、アガネに質問をした。
「なぜ、わざわざ炎を撃たせた。」
アガネはピクリとも表情が動かない。
その態度にイザナは増々怒りが増した。
「アガネ教主はあの時、予想は当たったと言いました。その時わかってたんじゃないんですか?敵が莫大な火薬を持っていたことを。」
アガネは少し上を向いたあと、その赤い目をイザナに向けた。
「推測していた。その予想が真かを確かめたかっただけだ。」
それにしてはリスキーすぎる判断をした。
「分からないですよ、俺が死ぬことでこの同盟関係にヒビが入ると思わないんですか?」
そうするとアガネは首を傾げた。
「私は人の死ぬ生きるに興味は無い。」
「そういやそうだったな!」
イザナは横転した。
そして納得した。
アガネには実行しない理由がなかったのだ。
いくら赤子に泣くなと言っても、泣くことでしかコミュニケーションを持たない。泣くことを迷惑と捉えていない。
「気の抜けた教主ですね。」
すこし目を閉じ冗談交じり言う。
目を開けると、アガネはいなかった。
後ろを見ると、先程爆発に巻き込まれたはずの人間が居た。
アガネがその人間のでこに人差し指を当てている。
「消滅。」
1本の線を通されたかのような衝撃が男に走る。
すると、ドクンっと大きく一打ち。
「ぐぁっ」
悲痛な叫びが一瞬聞こえたが、すぐに黒く体が染まり陰となって消えてしまった。
「教主様がわざわざお相手にならなくても……。」
アガネが自分の身体の調子を見ている。
「うん、まぁ先へ行こうか。」
アガネは先頭を歩いた。
◇◇◇
「はいお終いね」
ザクッと何かが切れる音と、コロコロとなにか軽くて細長いものが転がっていった。
男は、だんだんと男に近づく。
「や、やめてくれ!」
男はただ震えることしかできなかった。
それは目の前に不気味に笑う男によるものなのか、それとも足を動かすための「腱」がないからなのか。
「これからの将来、ずっと足を使って動けないとしたら、君は一体どんな顔をするんだろぅ……?」
バルーンパンツと袖の形が丸くなるように袖口をきつく閉めたような半袖。青白い髪を垂らしながらその場を後にする。
上の空のようにニタニタしながら明日の方向へと顔をやっている。
すると前を歩く人間が見えた。彼の顔は酷く歪む。
「次、はっけ〜ん……ぐふ」
◇◇◇
セレナの猛攻をリオネは防ぐ。
「先程の様子とはまるで違うなぁ!」
1度倒れて体力も精神も底まで削り切ったはずなのに、なぜリオネはここまで戦えているのかセレナには分からない。
だとすれば
「潜在輝石……!、てめぇの潜在輝石が力を底上げしてるんだな!」
リオネは顔の血を拭く。
「わたくしに恐らく潜在輝石はないです。色々試しましたがね。」
それじゃあ本当に文字通り命を無くす覚悟でここまで戦えているのか。
「いいだろう!まだ私はやれる!」
セレナはまたリオネとぶつかった。
セレナの体ごと動かす右腕がリオネの右腕とぶつかる。
みごとにリオネに打ち勝ち、追撃として蹴りをぶち入れた。リオネは踏ん張り、頭突きを決めた。
「いった!」
「わたくしも痛いですよ!」
リオネは集中した。
手をセレナの体の前に出し、一瞬身体を揺らした。
「寸勁!」
セレナははるか向こうまで飛んでいった。しかしすぐにこっちに飛んできてリオネに攻撃しようとした。
しかし動きが止まった。
「あ"ぁ……かっ!」
喉を抑え、肺を触っている。
「息ができなくなりじきに意識が飛ぶ。それがお前の死だ。」
セレナがガタッとぐらつく。
短い呼吸でしか呼吸ができない。
「くっそぉぉぉ!!」
薄い息でそう叫んだ。目の前が暗転し、目に映ったのは過去の光景。
***
「みんな行くぞ!レツのために先が行きやすいよう掃除するんだ!」
ルナの言葉だった。
そうだ逃げる訳には行かない。
「俺を信じてくれ!」
烈の言葉が頭をよぎった。
そしてこれは烈と初めて平等を目指そうとした誓い
「教会を追い出されたことに怒りが湧いている。そんな私にとって平等は良い世界か?」
私にとっての平等は、
「あぁ、君にとって平等はきっと良い世界なはずだ。一緒に目指そうぜ。」
ここでレツさんを勝たせることで実現する!
***
「私が道をつくるんだァァ!」
目に光が差し込み、現実の光景が戻る。
そうなったやいなや、セレナは今までで1番の速度でリオネに殴り掛かる。
その右腕から放たれる殴りをもろに顔に食らってしまった。
リオネの頭が後方に引っ張られ身体がそれに着いていった。何回も地面に擦られ。身体が回転する。
しかしなぜか起き上がる。
リオネは力が抜けたのか一瞬膝が地面に着いた。
早くトドメを刺さなくてはならない。そんな気がセレナは感じた。
「次で終わりすんぜ。」
セレナは息を吸った。
リオネは力が全く出ずに四つん這いで息をしているだけだった。汗が滝のように流れ、傷に触れ血と混ぜ合い浸透圧によりリオネはピリッとしみた。
(きっつすぎますよ…この戦いは!)
もはや弱音を吐くことしかできない窮地。まともに言葉も話せない。
(今わたくしがすべきなのは、この場を凌ぐこと。逆に言えば凌げば上々です。)
小さな針の穴に糸を通すように息を吸った。長く吸われた空気の酸素を身体に適応させ乱れた身体のリズムを取り戻した。
(最後でいい、この最後の一撃でまともに立てなくてもいい、それでいいので)
「俺っちに力を!!!」
ドクンッ、この空虚な空間に轟いたかのように感じた。ただ両者には圧倒的違和感を覚えた。
セレナは異様な雰囲気に思わず後ろに右足を引いてしまった。
リオネは立ち上がった。よろよろになりながらも何度も右往左往しながらも。覚悟を決めた顔をした。
右足と踏み出し、左足を踏み出し、ゆっくりだが着実にセレナの方へと歩み出している。
「うおおぉぉああああ!!!」
右腕に全身の力を込めた。漏れだした魔力が異質さを醸し出している。
(もうどこにもそんな力はないはずなのに!なぜだ!)
セレナは大変に驚く。しかし同時にセレナには喜びがたぎっていた。
強くたくましく、こんなにも粘り続け勝利に飢えているその根性。
強い弱い関係なく、みじめったらしく栄光にしがみつくその態度。セレナがこの1ヶ月で好きになれたもの。
「お前が全てを出すと言うなら、私も全力と全精神を削ぎ落として喰らわせてやろう!」
セレナは少し横と大きく前後に脚を開き左手を前に構えた。右手は低く構えそれを引くような姿勢になった。
リオネは精一杯に走る。少しでもこのスピードを緩めたら確実に敗北の墓碑銘を刻んでしまう。そう思った。
セレナが構えを解いた瞬間、前傾し走る。床を破壊しながらリオネに近づき、両者は肉薄した。ついにセレナは右腕に貯めた力をふるった。
リオネは反発し、念願の右腕を交わした。
「これが俺っちの最終技だァァァァ!!」
「これが私の全力だァァァァ!!」
眩い魔力の摩擦は、光をも生んだ。
飛び散る光の衝撃は辺りを抉りとる。
両者はどちらも百の力を出した。そして光柱が現れ、やがて収束していく。天と地を破壊しながら。
両者は地面に伏せていた。ただ一時も動くことなく。
すると何やら小石が転がり落ちる音がした。
何かが動いたのだ。
「やっぱ、回復しねーか。」
バキバキに砕けた右腕を抑えながらセレナは立ち上がった。しかし満身創痍だった。
セレナは動かないリオネを見た。
(生きてはいるな……)
セレナは何もせずミリア達と合流するためおもむろに歩き出した。




