封印されし黒鋼の山ネクロファンタジア・マウンテン⑦/不安
「お」
「む」
「あら」
ネクロファンタジア・マウンテン山頂付近にて。
三つの異なる道からそれぞれ同時に、ハイセ、サーシャ、エクリプスを先頭としたチームが現れた。
偶然だが、全く同時に山頂へ到着。ハイセはその『偶然』を疑い、銃のホルスターに手を当てる。サーシャも剣の柄に手を触れ、エクリプスも右手を胸の前へ。
すると。
「あー!! 師匠!!」
「お!! 合流ね!!」
クレアが警戒心ゼロで飛び出しハイセの腕に抱きつき、ヒジリがぐぐーっと前に出て背伸びをした。
ハイセはクレアの頭を押して引き剥がそうとするが、思いのほか力が強く離れない。
プレセアが前に出て、それぞれを見て言う。
「……全員、仲間よ。私の付けた精霊が再開を喜んでるわ」
「……そうか。おい、離れろっての」
「もう師匠。かわいい弟子にまた会えたのが嬉しくないんですか?」
「うるせ。とにかく……」
ハイセはクレアをようやく引き剝がし、ポケットから透明な板を出す。
「そうだな」
サーシャも頷き、ポケットから同じ板を。
「ふふ、こちらも」
エクリプスも同じものを出し、それぞれ頷き合う。
「鍵は全て揃ったな。これで、最後の扉が開く」
ハイセが振り返った先にあったのは……真っ白な『門』だった。
あまりにも巨大だった。色はただ白く、山頂を囲うように、ただ高い壁がある。
ハイセたちのいる広場は綺麗に整備されている。真っ白い鉄のような大地、木々も生えておらず、汚れもない。
タイクーンがしゃがみ、床に触れる。
「未知の大地、いや……金属か。違う……うむ、わからない。未知の素材というべきか。ロウェルギア、魔界にこのような材質の床素材はあるのか」
「ふむ」
ロウェルギアはしゃがみ、床を指でなぞり……そのまま指をぺろりと舐めた。
「……不明ですネェ。知らない味です」
「そ、そうか」
正直、気持ち悪い。タイクーンは我慢してスルーした。
すると、ヒジリが腕をグルグル回し、拳にオリハルコンを纏わせる。
「金剛拳、『破槌』!!」
ズドン!! と、振り下ろした拳が床と激突する。
すると、ヒジリが顔をしかめ、オリハルコンが砕け散り、さらにヒジリの手から血が噴き出した。
「いったぁ!? この……アタシのオリハルコンより硬い。くっそ……!!」
「やめろ馬鹿。あーもう、ピアソラ」
「はいはい。まったく、短気なおサルさんですこと」
レイノルドに止められ、ピアソラに手を治療してもらうヒジリ。
ムスッとしているが、大人しく治療を受けるヒジリ。サーシャも剣を抜きかけていたが、コホンと咳払いをして誤魔化す。
「こほん。あ~……とにかく、全員無事で何よりだ。この辺りは……うむ、魔獣の気配もない。時間は夕方前といったところか。このまま、ここで野営をし、調査は明日にしよう」
その提案に反対の者は、誰もいなかった。
◇◇◇◇◇◇
それぞれが、野営の支度を始めた。
ヒデヨシはテントを出そうとしたが、サーシャが「大丈夫だ」というので見ていると、アイテムボックスから巨大な馬車が出てきた。
話を聞くと、野営用の馬車らしい。女性陣は交代で馬車を使い、あとはアイテムボックスで休憩するようだ。
ヒデヨシとしては、アイテムボックスもいいが外での野営をもっとしてみたいと思い、サーシャにおずおずと確認する。
「構わない。敵の気配もないし、ヒデヨシも気分転換が必要だろう」
「やった。ありがとうございます!!」
ぺこりと頭を下げ、ヒデヨシはシドラの元へ。
そんなヒデヨシの背中を見ながら、サーシャは近くにいたハイセに言う。
「遠慮がちなところがあったが、打ち解けたようだ」
「だな。まあ……いいことだな」
「…………」
「んだよ、ジロジロ見て」
「いや、別に。ふふ」
サーシャが微笑むのが、なんとなく面白くないハイセ。
少し周囲を見回ってくると言うと、クレアが付いて来た。
「師匠、お供します!!」
「一人でいい」
「そんなあ!! 一緒に行きますー!!」
「あーもう、いちいちひっつくな!! ったく……好きにしろ」
「えへへー」
クレアがニコニコしながらハイセの隣へ。
二人は周囲を歩く。見回りと言っても、視界に全員が見える範囲での見回りだ。
クレアは言う。
「師匠。もうすぐ踏破ですね」
「わからない。この先に未知の迷宮が広がってる可能性もあるし、それに最後の七大災厄もいる」
「ふふふ。師匠、大事なこと忘れてますよ」
「カーリープーランとの約束だろ」
「あう……覚えてた。最後の最後で忘れると思って指摘しようと思ってたのにぃ」
ムスッとするクレア。
カーリープーランとの約束。それは、リネットを引き取るための条件……『人間界にも魔界にもないお宝』だ。
ハイセは言う。
「ある程度、算段はついてる」
「え」
「まず、この鍵」
ハイセは、『イズールド』で手に入れた透明な板を見せる。
「ネクロファンタジア・マウンテンの扉、『アーサー』を開くカギの一つ。これを使うと消滅する……なんて可能性もあるが、手元に残ればこれでいい。ネクロファンタジア・マウンテンでしか使えない鍵なんて、まさに人間界にも魔界にもないお宝だ」
「おおお……そう言われると確かに」
「他にも、ネクロファンタジア・マウンテンで拾った石、土とか植物とかもある。それに」
ハイセは、白い床を軽く蹴る。
「この白い素材……これはこれで、持ち帰れば宝になる。未知の素材なんてまさにお宝だ」
「おおおお……師匠、ちゃんと考えてたんですね。あいたっ!?」
ハイセはクレアをデコピンする。クレアは額を押さえ涙目になる。
「うう、師匠ってば最近、デコピン多いですよー」
「うるせ。とにかく、お前も最後まで気を抜くな。ここを踏破して人間界に戻ったら、今の実力を見てやる」
「あ、はい!! よーし!!」
二人は、白い壁の近くまで来た。
正面にはタイクーン、ロウェルギア、シズカ、エクリプス、プレセアがいた。
「興味深い。実に興味深い……」
「同感ですネェ」
「……飛んで先に行くわけにはいかないわね。また死にかけるのはごめんよ」
「そうね。それに、ここまで来たら正攻法で進みたいわ」
「……精霊が感じられない。というか、この白い素材……精霊を拒絶しているみたい」
どうやら、ゲートを調べているようだ。
ハイセは少し離れた位置で確認。会話をするつもりはないのか、すぐに離れた。
そして、ゲートから少し離れた場所では、ヒジリが構えを取り、拳を突き出した。
「ッシ!! ふう……あれ、ハイセにクレアじゃん」
「……お前、何してんだ?」
「稽古。感じるのよ……この先に、すっごいのがいる。だから、ゾクゾクを止めたくないのよね」
ヒジリは、白い壁の先を見ている。
クレアは「すっごいの?」と首を傾げていた。ヒジリは「邪魔しないで」と言い、再び拳法の型を繰り返し始めたので邪魔せず距離を取る。
拠点に戻ると、いい香りがした。
「わぁ~、ロビンさん、すごいですね」
「いい香りがします!!」
「ふふん。あたし、まだ勉強中だけど料理好きなのよね。ピアソラ、コショウ取って」
「はいはい。さて、わたくしも腕を振るいましょうか」
ヒデヨシ、シドラ、ロビン、ピアソラが料理をしていた。
そして、少し離れたテーブルでは。
「っか~うめえ!! へへ、戦いの前に少しくらいならいいよな」
「うひひ、あたいも飲むぞー!!」
レイノルド、エアリアが晩酌をしていた。
緊張感がない……といえば嘘になる。最悪、ピアソラに酔い冷ましの癒しをかけてもらえばいいと思っているのかもしれない。
ハイセはため息を吐き、クレアと二人でサーシャの元へ。
サーシャは、テーブルに座ってノートに何かを書いていた。
「あれれ、サーシャさん、何を書いてるんですか?」
「ああ。日誌みたいなものだ。魔界での出来事など、残しておこうと思ってな」
「おおー、なんかいいですね」
「ふふ、ノートの予備はまだまだある。一冊やろうか」
「ありがとうございます!! よーし、今日から私も書こうっと。あーでも、最初の一ページがネクロファンタジア・マウンテンの終盤から始まるってのも変な感じしますねぇ」
二人が楽しそうに話し始めたので、ハイセは少し距離を取る。
そして、ずっと気になっていたことを考え、白い床に触れた。
「…………やっぱり、気のせいじゃない」
ハイセは、この『白い床』に違和感を感じていた。
触れてわかる。
これは、恐らく。
「…………ノブナガ、お前なのか」
ハイセは、ずっと大事にしているノブナガの日記を手に持つ。
すると、日記が熱を持ったような感覚を久しぶりに感じた。
「──!!」
ハイセはページをめくる。
いつもなら、ノブナガのくだらない内容の日記が書かれているはず。
だが、違った。
「…………なんだ、これ」
日記に描かれていたのは、子供の落書きみたいな絵だった。
そして、僅かな文章。
『オレはこの世界を守る。そのために……創造する』
「…………」
最後の言葉の意味が、理解できなかった。
「師匠!! ご飯ですよー!!」
「……頼んだ覚えないぞ」
ハイセは日記を閉じ、仲間たちの元へ。
どうも、ハイセは嫌な予感が拭えなかった。
『アザ=トート=カノン』
ノブナガの日記に記された、謎の言葉。
そして、この白い素材が恐らく……『武器』マスター』が関係していると、ハイセは何となく思っていた。
妙な胸騒ぎが消えないまま、ハイセは胸を抑えるのだった。





