封印されし黒鋼の山ネクロファンタジア・マウンテン④/銀の球体
「なんだ、こいつは……!!」
「ま、まるい……?」
サーシャ、クレアは剣を構え、奇妙な物体と対峙していた。
山道を進み、綺麗に整地された白い空間に踏み込んだ。
山道を抜けたと思ったら、急に白い地面に変わり、天井も白くなった……そして、目の前にいきなり『銀色の球体』が現れたのだ。
奇妙だった。
直径二十メートルほど。完全な球体であり、クルクル回転している。そして、銀の球体の周りに、小さな球体が七つ回転していた。
小さな球体はそれほど大きくはない。二メートルもない大きさだが……それでも、人間よりは大きい。
タイクーンは眼鏡をクイッと上げて言う。
「どうやらここは山道の途中に形成された遺跡のような空間だろう。あの球体は生物なのか不明だが……少なくとも、友好的ではなさそうだ」
「んなモン、見ればわかるだろ。つーか、なんなんだここ……」
白い空間。
明らかに自然ではない。人工的に作られたものに違いはない。
それこそ、遺跡のような。
サーシャは言う。
「……敵かどうか不明だ。どう対処すればいい?」
「うーん、向こうも動きませんよ?」
「待て、それ以上近づくな」
動き出そうとしたクレアをタイクーンが止める。
そして、球体を観察し……「ふむ」と頷いた。
「恐らく、一定距離に近づくと動き出すのだろう。まだこの距離は安全……かもしれん。情報が足りないな。だが、動かない以上、刺激はしない方がいい」
「わ、わかりましたー」
クレアはレイノルド、ピアソラのところまで下がる。
「タイクーンさん、すっごい冷静ですね」
「ウチの頭脳だからな。体力は子供レベルだが、頭脳はハイベルグ王国でもトップレベル。戦術家としても、『賢者』としても、あいつに並ぶ冒険者はいねーよ」
「わー……師匠よりすごいんですね」
「かもな。ネクロファンタジア・マウンテンを攻略したらS級認定されるだろうぜ。だてに『黎明の英知』なんて呼ばれてないぜ」
「ほえー……」
「こら、レディが大口開けて放心しないの」
ピアソラに注意され、クレアは慌てて口を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
タイクーンは、人差し指で側頭部をトントン叩き、地面に触れる。
サーシャは並んでしゃがみ、首を傾げた。
「どうした?」
「……触れてみてくれ。この床、ザラつきから見てオリハルコニウムで間違いない。壁の形状からも見て、山道からドーム状のオリハルコニウムで作られた室内に入ったとみて間違いない。そしてあの球体……恐らく、この『ロディーヌ』の門番といったところか」
「つまり、敵だな?」
「全ては可能性だ。これ以上は接触せねばわからない」
球体は静かに佇んでおり、周囲に浮かぶ七つの球体はクルクル回っている。
タイクーンは、七つの球体を見る。
「赤、青、黄、紫、白、黒、緑……ふーむ、属性に当てはめることができるな。それぞれが地水火風光闇雷とするなら」
「タイクーン、もういい。これまでの話をまとめると……」
サーシャは闘気を纏い、『国崩』の柄に触れて一気に抜き去った。
「『空牙一閃』!!」
闘気の刃が飛び、銀の球体を両断した。
だが、両断された球体は液状になって一つになり、さらに元の球体に戻った。
ノーダメージ。だが、サーシャは驚かなかった。
「ここまで来た以上、常識が通用しないことは理解している。さて……敵もやる気になったようだ」
球体が激しく回転し、七つの球体も動き出す。
火、水、風、土、雷、光、闇を纏い、銀の球体が脈動する。
そして、盾を構えたレイノルド、双剣を構えたクレアが近くに立つ。
「まあ、わかりやすくていいな」
「よーっし、やっと出番です!!」
ピアソラはタイクーンの隣へ。
「怪我をしたら、わたくしが治しますのでご安心を」
「検証はもういいようだ。さてサーシャ、やるのだろう?」
サーシャは、四人より一歩前に出て、愛剣のナナツキラボシを抜いて突きつけた。
「さて、戦おう。ネクロファンタジア・マウンテン……面白くなってきた!!」
◇◇◇◇◇◇
エクリプスチーム
◇◇◇◇◇◇
「……え、行き止まり?」
偵察に出ていたロビンは、巨大な『沼』の前で止まった。
毒霧の森。エクリプスの魔法で毒を防御し、新鮮な空気を取り込みつつ進んでいたのだが……斥候として先に進んでいたロビンは、エクリプスから距離を取るため念のため防毒マスクをしていた。
奇妙な森だった。
まず、魔獣がいない。毒のせいなのは間違いない。
そして、行き止まり……沼。
「……道、間違えた? ううん、自分で言うのもだけど……間違いなくこっちでいいはず。この森、一本道だし、脇道横道とかもないし、あるのは……え、待って」
ロビンは『ある可能性』に気付き、顔を思い切りしかめて沼を見た。
「……まさか、この中?」
黒々と、毒々しい『沼』が「こっちだよ」と言わんばかりにそこにあった。
そして、エクリプスたちが合流。ロビンは嫌そうに沼を指さして言う。
「……たぶん、この中に道あるよ」
「……冗談よね」
シズカが思い切り不審そうにロビンに言う。その気持ちが理解できるのでロビンも文句を言わない。
さすがのヒジリも、落ちていた棒で沼をかき混ぜて言う。
「ドロドロ……水っていうか粘液みたいな沼ね。エクリプス、行ける?」
「……まあ、行けるわね。正直、使いたくないけど」
エクリプスは『黄金禁忌の書』を手にし、ページの一枚を破る。
黄金のページには文字が書かれ、ロウェルギアが目を剥く。
「ホッホホ~……凄まじい魔力ですネェ。これほどの魔力、ワタクシ感じたことがありません」
「禁止項目の一枚、『黄金卿へ誘う帆船』よ。これに乗れば、濁流だろうと汚泥だろうと進めるわ。でも……こんなところに行きたくなわね」
「でもでも、道はこっちだしさ~」
「冗談よ」
エクリプスはページを放ると、一瞬で光に包まれ、巨大な黄金の船となった。
「すっご!! ねえねえ、乗っていいの!?」
「いいわよ」
ヒジリが乗り込み、ロビンたちも後に続く。
そして、エクリプスが指を鳴らすと、船の大きさが変わる。
手のひらサイズにまで小さくなり、ヒジリが叫ぶ。
「ええええええ!? なになに、どーなってんのこれ!?」
「大きさを変えただけ。さ、行くわよ」
黄金の《膜》に包まれた船は、そのまま黒い沼へダイブ。
エクリプスの魔力で汚泥の中を進んでいく。
「見えませんネェ」
「光が届かないのも当然……道、わかるの?」
ロウェルギア、シズカがエクリプスに言う。
「無理ね。ロビン……わかる?」
「さすがに、地に足付いてないと斥候はできないよ~」
「……ねえ、待って」
と、ヒジリが一点を見つめていた。
全員がその先……頭上を見上げる。
そこに、赤い光点がチカチカと瞬いているのが見えた。
「え、なに……? エクリプスの魔法?」
「……違うわ。あれは、魔法じゃない」
何かが、近づいて来る。
誰も声を出せない中、ヒジリは笑っていた。
「いるじゃん、強そうなの」
それは……『クラゲ』だった。
巨大な、千本以上ある触手。傘のような半透明の頭、汚泥を吸い込んで吐き出しているのか、クラゲの周囲だけ水がやや濁りを消している。
傘の部分には赤い光点がいくつも瞬いており、まるで目のように見える。
エクリプスは今気づいた。沼の広さは、一つの町村がまるごとすっぽり入る広さだ。じゃないと、このクラゲの巨大さは理解できない。
ロウェルギアは歯茎を剥き出しにして言う。
「かつて、ノブナガ様が倒した『七大災厄』の一体に、海を漂う巨大な魔海月……『クジャ・ラスラパンネ』という大魔獣が存在しましたが、コレも同類でしょうかネェ……?」
誰も返事はしない。そもそも、わからない。
だが、わかっていることは一つ。
この巨大な海月は沼の主であり、この『オルウェン』ルートの最大の敵。
「『オルウェン・ラスラパンネ』とでも命名しましょう。さて……どうします?」
「決まってんじゃん。倒す!! く~、退屈だったけど滾ってきた!!」
「いやいや、無理でしょ!! エクリプス、どうすんの!?」
ロビンが騒ぐが、エクリプスは落ち着いて言う。
「気付かれたわ。戦うかどうかはともかくとして……接触は避けられないわね」
「ええええええ!?」
「───来るぞ!!」
シズカが叫ぶと同時に、無数の触手が伸びてくるのだった。
◇◇◇◇◇◇
こうして、三ルートによる、鍵を手に入れる戦いが始まった。
幻想迷宮型魔獣『イズールド』、錬金生物型魔獣『エリクシル・ロディーヌ』、災厄残滓型魔獣『オルウェン・ラスラパンネ』。
ネクロファンタジア・マウンテンでの戦いは、苛烈さを増していく。





