封印されし黒鋼の山ネクロファンタジア・マウンテン③/『オルウェン』
エクリプス、ヒジリ、ロビン、シズカ、ロウェルギア。
戦力的にはSSSレートの魔獣が現れても対処できるであろうメンバーであり、五人は現在山道を歩き続け、大きな広場に出て立ち止まった。
周囲を警戒するが、魔獣の気配が全くない。ロビンが弓を降ろして言う。
「魔獣、いないみたい」
「デスねぇ……フム」
ロウェルギアも、ここから先は未知の領域を感じているのか、軽口を叩かない。
それはシズカも同様。上空を見るが、舌打ちをする……恐らく、『空神』の力で上空から偵察をしようとしたが、先程ひどい目にあったので自重したようだ。
エクリプスは言う。
「何もないのは好都合……ここから先が真の『ネクロファンタジア・マウンテン』なのは間違いないと思うわ。恐らく……」
視線を向けた先にあったのは、『森の入口』だった。
だが、木々は濃い紫色、得体のしれない瘴気を放っており、どう見ても魔境だった。
ヒジリは言う。
「ふふん、退屈してたところよ。あの先からやっばそうな魔獣が山ほどいるんでしょ? 滾る!!」
「うう、こんなこと言いたくないけどさあ……この中で一番弱いのあたしだからね? 偵察とかなら誰にも負けない自信あるけど、直接戦闘とかあんまり得意じゃないよ」
ロビンは、自分の実力をしっかり把握している。
隠密、偵察としての腕前はS級冒険者……というか、魔界攻略メンバーで最高だ。だが、直接戦闘での実力は大きく劣る。
弓を使った戦闘を得意とする以上、前衛必須、守りは必須である。
明らかに、この先は常識が通じない森……そもそも、こんな毒のような瘴気を放つ森に踏み込みたいとは思わない。
ロビンは、アイテムボックスから防毒マスクを出す。
「人間界の防毒マスクだけど……効果あるかな。みんなの分もあるけど」
「私は平気。自身の気流を操って、瘴気を寄せ付けないようにするわ。フフ……よければ、あなたたちもどう?」
「……できるなら最初から言ってよね」
ロビンはムスッとして、防毒マスクをアイテムボックスに入れた。
エクリプスが指を鳴らすと、五人の周囲を風が包み込む。
「オホゥ、これはいいですネェ」
「……大した力だな」
ロウェルギア、シズカは感心していた。
オーバースキル保持者であるが、エクリプスのような繊細さ、多彩さは真似できない。
ヒジリは拳をパシッと打ち付け、先頭に立って言う。
「よっしゃ!! みんな、気合い入れていくわよ!! 目指すは一番!!」
「……なに、一番って?」
「当然!! ハイセやサーシャたちより早く山頂を目指すってこと!!」
ヒジリは当たり前のようにロビンに言うと、瘴気塗れの森に踏み込んだ。
そのあとにシズカが、ロウェルギアが続く。
「……ねえエクリプス。エクリプスはさ、戦闘しながら行きたいなんて思わないよね」
「当然。と言いたいけど……下手に逃げて進むより、さっさと倒した方が楽、という考えもあるわ。フフ……安心なさい。あなたのことはちゃんと守るから」
「うー……ありがと」
ロビンは、エクリプスと並んで森に踏み込むのだった。
◇◇◇◇◇◇
ハイセチーム
◇◇◇◇◇◇
遺跡。
天井が高く、横幅も広い。壁には複雑な装飾が施されており、壁が淡く発光しているせいか明るい。
不思議なことに、魔獣の気配が全くない。
全くない。だが……それを差し引いても。
「どこだ、ここー!!」
エアリアが叫ぶ。
そう、遺跡はまさに『迷宮』と呼ぶに相応しい広さだった。
ハイセも、マップを作製しながら進んでいるが、その広さに舌打ちする。
「広すぎる……参ったな、ここまで広いのは『デルマドロームの大迷宮』以来かもしれない」
ふと、一緒に大迷宮を攻略した冒険者、チョコラテのことを思いだす。
今あいつは何をしてるのか……と思ったが、今考えることではない。
プレセアも、周囲を精霊に探らせているようだった。
「……広すぎる。少なくとも……ハイベルグ王国の区画一つ、二つ、三つ以上……それ以上の広さがあるわ。それに、通路の入り組みも尋常じゃない。魔獣の気配は……ある。会わないだけ」
「……魔獣、どのくらい強い」
「間違いなく、SSSレート。正直、出会いたくないわ」
「俺もだ。負担をかけるが……できるか?」
ハイセは、書きかけのマップをプレセアに渡す。
プレセアは頷き、マップに書き込み始める。
精霊で周囲を探索しながら、マップを書き、魔獣を避けながら進む。
この中で、一番負担があるのはプレセアだ。
「……こっちのルートにお前がいなかったら、攻略に数日……いや、下手したら一月以上かかってるかもしれないな」
「感謝は言葉と行動で。人間界に戻ったら、返してもらうから」
「……常識の範囲で頼むぞ」
「私は常識人よ」
ハイセは、アイテムボックスから飴玉の入った缶を出しプレセアへ。
「舐めておけ。疲労にも効く薬飴だ」
「へえ、気が利くわね」
プレセアは飴を口に入れ、コロコロ舐める。
すると、シドラとヒデヨシがハイセを見ていた。
「……お前らはこっちだ。この薬飴は少し苦みがある」
「わあ、嬉しいです」
「飴……あまり舐めたことないです」
ヒデヨシ、シドラは嬉しそうに飴を舐める。
当然、エアリアも飛びついてきた。
しばらく、プレセアの案内で進んでいたが……半日も歩くと、プレセアが止まった。
「……わからない」
「どうした?」
「広すぎる」
プレセアは、見たことがないような表情をしていた。
地図はびっしりと書き込まれ、すでに十枚以上描いている。あまりにも道が細かく、プレセアは必要のない道は省略して描いていた。それでも、膨大な道が遺跡には敷かれている。
「ハイセ。私たち……恐ろしいところにいる」
「それは理解してる。ちゃんと説明しろ」
「広いのよ、ここ……はっきり言うわ。ここ、ハイベルグ王国よりも広い。間違いない」
「……何?」
プレセアは、人差し指に淡い光を灯して言う。
「私の精霊は、命じればハイベルグ王国の端から端くらいまで探索できる。今、全力で全方向に精霊を向けて探査しているけど……終わる気配がない。あり得ないわ」
「……つまり?」
「ここはただの遺跡じゃない。狂乱時空大森林みたいに『生きている遺跡』とも考えたけど……迷宮の構造は固定されている。生物じゃない。でも……ここはあり得ない。まるで……」
「……まるで、なんだ」
プレセアは、あり得ないような……それでも、言うべきかどうか迷って言う。
「……エルフ族に、死者の国は無限に続く迷宮があるっておとぎ話があるけど……まるで、永遠に続く『死』の『幻想』みたいな……ごめんなさい、意味が分からないわよね」
「…………」
ハイセは、チラッとヒデヨシたちを見た。
今は、ハイセの出したクッキーを食べながら、エアリアの馬鹿話を聞いて笑っている。だが……すでに半日以上歩いている。
シドラ、ヒデヨシはこれ以上無理をさせない方がいいだろう。
「……よし。シドラ、ヒデヨシはアイテムボックスに戻って休憩しろ。エアリアは二人に付いてやれ」
「えー? あたい、全然やれるぞ」
「いいから頼む」
「むう、わかったぞ」
ハイセは、アイテムボックスにヒデヨシ、シドラ、エアリアを収納。
プレセアに言う。
「お前は、俺と二人で迷宮の調査だ。ここがただの迷宮じゃないっていうなら……きっと攻略の方法があるはずだ」
ハイセは銃を抜き、近くの壁に向かって発砲する。
すると、銃弾は壁を貫通し消えた。
貫通したはいいが、全く音がしなかった。
「……ここは、何かある。プレセア……警戒しろ」
「え、ええ……」
プレセアは弓を手にし、ハイセと背中合わせで警戒する。
ハイセの銃弾がきっかけになったのか、周囲の様子がおかしかった。
空気が重々しくなり、重圧が増していく。
「……来るぞ」
「……どう、なってるの?」
精霊が、一瞬で消えた。
周囲に散らばっていたプレセアの精霊が、全て消滅した……まるで食われたように。
ハイセは両手に拳銃を持つ。
「どうやら……気付いちまったせいか、敵も方法を変えたようだな」
ハイセは気付いた。
この迷宮は『擬態』しているようだった。
魔獣の腹の中。
討伐レート測定不能。
禁忌六迷宮『ネクロファンタジア・マウンテン』に存在する最強の魔獣が四体、そのうちの一体。
幻想迷宮型魔獣『イズールド』が、ハイセとプレセアに牙を剥く。





