最愛のラーエフ②
「なんのために会いに来た」と問われて、ラーエフへの思いが爆発しそうになるインベント。
だが、ぐっとこらえた。
(ラーエフさんからしたら、俺は突然現れた不審者だ。ちゃんとわかってもらえるように説明しなければ。ラーエフさんへの敬意を。このモンスターへの愛を!)
インベントは深呼吸。
「えっと、僕……私はですね。インベント・リアルトと申しますです。はい」
ラーエフは特に反応もせず、ただただ聞いていた。
「実はラーエフさんがですね、モンスターを創っていると聞きました。おたくのルベリオさんから」
「ん? きみはルベリオの知り合いなのかい?」
「あ、はい。え~っと……二度ほど戦ってですね。あ、戦ったと言っても今は仲良しですよ。今度ラーエフさんのところに案内してもらう約束をしたぐらいですし」
ラーエフは表情を変えず天を仰ぐ。
「ルベリオの知り合い? 彼が何を考えているのかは知らないし、興味も無いが、きみはルベリオに連れられてここに来たわけだ」
「あ、違います」
「ん、ん」
「ルベリオは残念なことに死んだそうです」
ラーエフの口は半開きになった。続いてゆっくりと視線をインベントに落としていく。
「ん、死んだ? あれが?」
「そうみたいです」
ラーエフは左右の手で何度も前髪をかき上げた。
「それはないだろう。あれを殺すのは不可能だよ。どこで誰があれを殺した? それとも急病か?」
インベントは首を振る。
「『青猿』から聞きました。あ、体毛の青い人型のモンスターです。えっと……名前はなんだったけな。カン? キン? コン? あれ?」
以前カイルーンの町に現れた『青猿』。青い体毛の人型モンスターだったが、その正体はカイルーン森林警備隊の隊員だったジン・ハルゲート。またモンスターとしての名前もあり、それは――
「まさか――オクトゥのことか?」
とりとめもないインベントの話を繋ぎ合わせ、ラーエフは『青猿』に辿り着いた。
「オクトゥ……あ~そんな名前だった気もしますね」
「ん、ん? 確かにルベリオはオクトゥを連れていたが……」
「ルベリオは『青猿』――オクトゥに殺されたみたいです」
これまでゆったりした動きしかしてこなかったラーエフが、首をすばやく二回振った。
「そんなことはどうでもいい」
インベントは、ラーエフが何に対して「そんなこと」と発言したのかわからず首を傾げた。
「きみは先刻『聞いた』と言った。オクトゥから『聞いた』で間違いないのかな?」
「はあ。まあ、そうですね」
「嗚呼、なんてことだ!」
ラーエフは両手で自分を抱えるような体勢になり、声を荒げた。
「ん、なぜオクトゥは喋った? ん、ん、言語機能はどうやっても残せなかったのに? きっかけはなんだ? どこだ? ルベリオを殺したことか?」
ラーエフは独り言にしては大きな声で話し続ける。そしてインベントを見た。
「きみ。ん、インベント君と言ったね」
「はい」
「オクトゥはどのようにして喋ったのかね? 明瞭だったのかね? それとも赤子のようなたどたどしいものだったのかね?」
インベントは『青猿』との記憶を思い返してみる。
「カイルーンの町中――というか家に訪ねてきましたね」
「家? ん、待つんだ。オクトゥが町中に入ったということか? それは夜に忍び込んだということか? それとも……インベント君の家が人里離れているのか?」
インベントはより一層思い返してみる。
家の中、アイナと一緒にいる『青猿』。というよりも人間――ジン・ハルゲートの姿でモンスターの匂いをぷんぷんと巻き散らす理外の存在。
「昼間でしたけど、オクトゥは人間の姿でしたよ」
ラーエフは「でした? でした?」と連呼した。インベントは続け、
「家の中でアイナと……知り合いと話しをしていましたね。知り合いだったんだっけな」
「ちょっと待っ。ん、服は着ていたのか?」
「え? はい」
「服を着ていた。んほお、それはそれは。それで? それで?」
インベントは更に思い返す。
「なんだっけな……ああ、精神的に不安定でしたね」
「不安定か。それはそうだろうな。んふ、これは長丁場になりそうだ。ちょっと待ちたまえ」
ラーエフは振り返り、横たわっているモンスターに対して「誰か呼んで来い」と伝えた。
するとモンスターは立ち上がり、なんと二足歩行で歩いていく。
「うえっ!? あ、歩いた」
「ん、クアットは歩ける。ん、まあ、そんなことはどうでもいい」
「い、いや……うひょお」
従順であり、二足歩行まで可能な狼のモンスター。
インベントのときめきは止まらない。
「ん、まあ座りなさい。話を続けよう」
ラーエフはインベントに椅子をすすめた。インベントは頷いて椅子に腰かける。
少しは信頼を得られたようで安堵するインベント。
直後、ひとりの男が息を切らしてやってきた。クアットに呼ばれたのであろう。
ラーエフは男に対し「茶をもってこい。二杯」と伝え、男は頷き、ちらとインベントを見るが、目が合うと怯えるようにすぐ視線を外した。
インベントは『星堕』の仲間だと思われたんだろうなと思ったが、どうでもいいので気にしなかった。
「ん、どこまで話したかな。そうだ服を着ていたんだったな」
「そうですね。普通の人間に見えましたけど――」
「普通、んの人間に見えた? 体毛は? 顔つきだって変化しているはずだ」
「いや、見た目は普通でしたよ。体毛は後から生え出して――」
ラーエフは身体を前に乗り出し、表情が好奇に満ちていく。
「ん、それは、つまり、変身したということか? ん、変身したのか?」
「まあ、そうですね」
「んおお、なんということだ。変身する個体が現れたのか、んはは、んはっは」
「なんか俺がお兄さんを殺したと勘違いしたみたいで、怒りだしたんですよね」
ラーエフは満足そうに頷いた。
「兄か。セプテムのことだな。ん、あれには兄弟という設定をつけたからね。なるほど、勘違いしたのか」
「へえ、そうなんだ」
インベントはとぼけているがセプテムと呼ばれるモンスターは『白猿』のことであり、インベントが半殺しにしている。オクトゥがインベントを恨んでも仕方ないのだ。
「ん、インベント君。悪いがもう少し詳しく聞きたい」
「ああ、構いませんよ」
「ん、では――――」
**
そこから根掘り葉掘り『青猿』のことを聞かれ、インベントは懇切丁寧に答えた。
憧れのラーエフが喜んでくれて、インベントとしても嬉しかった。
一時間近く話し、『青猿』は最後、南へ去っていったことを伝えた。
ラーエフは悔しそうな表情に。
「んふう、なるほど生きているかもしれないのか。ん~、どうにか捕まえられないか。ルベリオが死んでしまったとなると、イスクーサに頼むか。いや、それも、んむぅ~」
インベントは話し終えて、ほっとした。だが、ひとつ懸念事項が頭に浮かんだ。
それは『青猿』に関してだ。
『青猿』はインベントと戦闘後、南へ去っていった。
『青猿』――ではなくジン・ハルゲートは、インベントに自身を殺して欲しいと、人間のうちに殺して欲しいとお願いしたのだが、インベントは拒否した。
そしてジンを殺す役目をある人物に押し付けた。それが――ロメロなのだ。
(ロメロさんなら『青猿』なんて簡単に殺せる。けど……ロメロさん死んじゃってるんだよな。『青猿』は生きているのかも。生きているなら今どこにいるんだろう?)
すっかり忘れていた『青猿』だが、もしも生きているのだとしたら厄介だなと思った。またカイルーンの町にやってきたら面倒極まりない。そんなことを考えていると、
「ん、オクトゥのことが知れて良かった。言葉を取り戻し、変身能力を得た原因はわからないが、ん、そうだな、成功事例が在るということが重要だ。ん。さて――」
ラーエフが茶を飲むと、インベントも飲んだ。
インベントとしてはかなり距離感が縮まったように思えた。膝と膝を突き合わせて。だが――
「ん~、で、結局、インベント君はなんのために私に会いに来たんだっけ?」
ラーエフの好感度:★☆☆☆☆




