第3話
翌日、朝日がさんさんと窓から差し込んできた頃。
「よしっ準備完了!」
大きなカバンを肩から下げて、エリシアは言いました。カバンには「種」を入れる小瓶に、ランプ、数日分の着替えと身支度の道具、それからエリシアお手製のお守りが入っています。
「じゃあ、行ってくるね!」
エリシアはお店の戸の札を『CLOSE』にして言いました。お店を離れる時はいつも少し寂しそうです。
けれど、エリシアはニコッと笑って振り返りました。
「さぁ、行こう!グレース!」
「ええ!」
◇
「うーん…どこから行こう…」
「とりあえず、必要なものを整理しましょう。」
「そうね!」
エリシアはイアンくんの情報の書かれた紙とこの町の地図を広げて、じっと見つめます。
「というか…これ、お店を出る前にするべきだったよね…?」
「…まぁ、外で考えるのも気分転換になっていいんじゃない?」
「かなり暑いけど…」
「ま、まぁ…そうね」
「もうっ…私たちふたりともおっちょこちょいね」
「ふふ」
そう、笑いながら歩いていると、大きな切り株がありました。
「あ!あそこで一旦整理しましょ!」
「そうね!」
エリシアは先程の紙と地図を切り株の上に広げました。
「えーと、ここからいちばん近いのはリュネの渓谷ね!それから、シャロンの森、ヴィオレットの花畑……」
エリシアは順調に訪れる順番と、「種」の手に入る場所を整理していきます。
「……最後に、ミロワールの洞窟ね!」
「かなり多いわね…」
「ええ、でも必ずぬいぐるみを完成させるわ!」
◇
歩き始めてから、エリシアの懐中時計の針がちょうど半周しました。
「リュネの渓谷にはあと20分くらいで着きそうよ!」
リュネの渓谷には、1つ目の「種」、ネフィリムがあります。ネフィリムは私たちの基本属性のひとつである、岩魔法の種です。
この国には無魔法と、有魔法の大きくふたつに分けられる魔法が存在します。無魔法は訓練をすれば誰でも習得できる魔法です。
対して、有魔法は水、火、風、岩、土、光、闇の合計7つの基本魔法、そこから派生された様々な魔法、そして特異として現れた魔法が存在します。これらの魔法はそれぞれの生まれ持った属性のもののみ、使うことができるのです。
ぬいぐるみを作るためには、まずその子どもの基本属性の種を必要とし、それに加えて必要な種はそれぞれの子供によって数も種類も異なっていきます。
「この道かしら?」
「ええ!ここを通り抜けたらあるはずよ。」
そうして小道をどんどん進んでいくと、リュネの渓谷が目の前に広がりました。
「着いたわね!」
「いつ見ても綺麗ね。」
リュネの渓谷は、大きな崖に空を覆い隠すほどの木々が押し合って伸び、渓流は木漏れ日によってきらきらと輝いています。そして、苔むした巨岩がいくつも連なり、岩肌には小さなお花も咲いています。
「水に落ちないでよ、グレース」
「エリシアこそ!それに浅瀬だから大丈夫よ!」
いつものように他愛もない話をし、岩の上を歩きながら、渓谷の奥へ進んでいきました。
「ネフィリムはどこにあるのかしら」
「確か、渓谷の岩の隙間にあるはずよ。でも、もっと大きな岩ではないと…!」
魔力の種のある岩にはいくつか特徴があります。ひとつは人の背よりも大きく、苔があまり生えていないこと。もうひとつは、魔法をかけると、青く光るということです。
すると、次第にとても大きな岩が現れ始めました。
「この辺りからそれらしきものがあるわね」
「ええ、ひとつひとつ確認していきましょう。」
そう言うとエリシアは、傍にある大きな岩に向かって手を伸ばしました。
ぱぁぁぁ
「………違うみたい」
「簡単には見つからないわね」
そうしていくつかの岩に同じように魔法をかけて確かめていきました。
「……あ!」
「光ったわね!」
岩は青く光り、水面はきらきらと反射しています。その岩の根元、水の流れこむあたりをよく探すと、きらきらと欠片のようなものがありました。
「「見つけた!」」
岩魔法の「種」、ネフィリムは深い青の小さな小さな欠片です。けれど、岩魔法の種らしく、力強く光っています。
「深い青ね。海よりも夜空よりも深いわ。」
「ええ。」
エリシアは静かにネフィリムを見つめて、そっと小瓶にいれました。
こうしてリュネの渓谷をあとにし、次の目的地へと進むべく、村の方へと歩いていきました。




