第31話 神様のお告げ
――ストレイダーズと愉快な仲間達が地口教と闘争を繰り広げていた同時刻、ロードブルク城では不審な動きがあった。
ロードブルク城、南棟、二階。
そこに設けられた会議室にコウドウの騎士が卓を囲んでいた。
「ご報告します。リブラ班よりネヴキュベート大陸への上陸及び活動報告を通達させていただきます。」
桃色の髪の彼女は、片手に資料を持っていた。
会議室のドア前で目を瞑り、真面目に伝達する。
そしてコウドウの騎士はというと――。
「うっそぉ!? もう着いたの!? 早くない?」
ヴィルゴは困惑する。
それもその筈、リブラはロードブルクを発ってから一日も経っていない。
他のコウドウの騎士もそのことで困惑する。
だが、それとは対照的に、リブラの行動が当然かのように振る舞うコルヌスがいた。
「アイツは昔から仕事ができるからな」
コルヌスは長い刀身を纏う愛刀を床に突き立てた。
そして、椅子に大人しく腕を組んで座る。
コウドウの騎士の中では常識人である彼だが、こんなにも冷静でいることは彼の性格によるものではない。
コルヌスとリブラは幼馴染である。
この二人と、もう一人で故郷では中々にブイブイ言わせていた。
コルヌスは、リブラへの信頼は最高潮に達していたのだ。
“大陸を渡るのに一日”。
他のコウドウ騎士ですら、この事実には驚きを隠せなかった。
「その前に――王様は?」
「マリア王女と戯れてるって」
「いつも通りだねぇ」
ヴィルゴの問いかけに、ゲミニは卓に肘を立てながら退屈そうに答えた。
アルスフォードには2つの噂が城下町を飛び交う。
1つは別人説。
この頃の王はおかしい。
それは誰もが知っている。
昔は喜怒哀楽が顕著に現れる人だった。
そして、2つ目がロリコン説。
これは言うまでもない、妹のことが好きすぎるだけだ。
風の噂に過ぎないが、それはコウドウの騎士の中でも流行っていた。
「……続けても?」
「あ、すみませんねぇ、メアちゃん」
メア(桃色髪の女性)は気を取り直して話す。
「リブラ班はストレイダーズの接触を図るも失敗。その代わりにストレイダーズが居たと思われる古風な道場を確認いたしました。リブラからは“多分いるわぁ!”とのことです。」
いつも真面目なメアが披露した、意外と似ているリブラのモノマネは――この場の空気を和ごした。
それでもエリートが集まったコウドウの騎士は笑うのに堪え、メアは恥ずかしさに顔を真っ赤にする。
「それにしてもw……何でそこまでアガツマガツのことをそんなに追いかけるの?」
ヴィルゴは笑いながらそう問いかけた。
アガツマガツとは白のことだ。
白は寿屋にて女湯の覗きを行った。
この国と寿屋は協定を結んでいる。
そして、両国は覗きが大罪として取り締まれているのだ。
「いえ、アガツに関しては、今回はあまり敵視すべき対象ではありません。勿論覗きは重罪ですか……」
「ですか……?」
メアは言葉がつっかえた。
それをヴィルゴが気にかけた。
メアも薄々疑問に思っているのだ。
覗きを大罪とする法律は王アルスフォードが決めたものだ。
だが、即刻死刑となる程の大罪であるのだろうか、と。
「あ、いえ。何でもありません。今回はニアスとコリウスが対象です。特にコリウス、彼女の預言をする能力は直ちに排除すべき対象です。もしかするとモルロス並みの事案を引き起こすかもしれません。そこで、誰か一人に応援へ行って頂きたいのですが……」
――その問いに手を挙げる者が現れた。
「他にいませんか?」
誰も口を出さない。
「それではお願いします。コルヌス」
――――――――――――――――――――――――
二人は自由落下に入った。
リュスにガラス片が刺さったのはバリアがガラスでできていたからだ。
メトはそれを踏まえてバリアを張っていた。
お陰で不意を作る事ができた。
だが、今不利なのはメトの方だった。
メトがリュスと距離を離すためには、また水蒸気爆発を利用しなければならないが、こんな至近距離で使えばダメージがお互いに入る事が想像できるだろう。
対して、リュスは自由に距離を変える事ができる。
落下中だろうと関係ない。
というか、落下中だからこそ、今状況を支配できるのだ。
リュスはガラス片を太ももから抜き出し、メトへと投げる。
しかし当たらない。
ガラス片はメトの背後まで通り過ぎた。
何故、距離を変える事ができるのに遠距離攻撃を試みたのだろうか。
――答えは次の瞬間明白になる。
リュスは鉤爪で虚空を裂く。
するとメトには向かうのはリュスとガラス片。
二方向から攻撃されることとなる。
メトは自傷覚悟で横方向に水蒸気爆発を起こさせ飛んだ。
ガラス片はリュスが切り裂いた虚空に飛んでいく。
そして、その一直線上にリュスはいる。
だが、勿論リュスはそれを想定していた。
その為、鉤爪でガラス片を裂いた。
すると、粉々になったガラス片は一箇所に固まる。
そして、気にせずメトを追う。
地面はもう近い。
だが、メト達は既に森を抜けていた。
今頃はシロが大雲入道に“大雲入道は使えない”と言っている頃だろう。
「俺は空間を切り裂けば落下ダメージは防げるがお前はどうかな!」
メトは落下によるダメージを抑えられるようなアビリティは持っていない。
――だが、それはアビリティに限った話だ。
「俺がアビリティしか持っていないとでも?」
「――何!?」
メトは地面に着地した。
高所から落下したはずだが、損傷はない。
「俺だって魂を持っているんだ。並大抵のことでは死にやしないさ」
メトグラフィックには“周りにある元素を結合、分解するアビリティ”の他に“敵意のない攻撃は一切通らない魂”を有している。
但し、敵意があるかどうかの判別は結構にシビアだ。
リュスによる、ガラス片の二方向からの攻撃は“敵意がある”と見なされるのだ。
そして――好意がある攻撃も避けられることはない。
「だからって――」
リュスはメトへと走り出した。
「――硬直がなくなるわけじゃないんだろ!!」
そう言いながら鉤爪を振り虚空を裂く。
そして再び現れる空間の歪み。
だが、今までとは違う。
ガラス片がそこに飛んでいかないのだ。
すると、彼女の額についている切り傷を見た。
そして、メトは考えついた。
それを今実践しようと。
攻撃が飛んでくる。
今までなら下がって避けていた。
だが――今回は逆に突っ込んだ。
「へぇ? 自殺行為も甚だしいぞッ!」
リュスはメトの顔面から股間あたりまで鉤爪を振り終えた。
だが、当たっていない。
「え!? ちょ、ちょま――」
その隙にメトはリュスの髪の毛を掴んだ次の瞬間――それを地面に叩きつけた。
そして、リュスは気絶した。
メトの腕を持っていったのはリュスのアビリティだ。
装石具による物ではない。
(どうもおかしかったんだ。敵に情報を教えるのが)
メトは勘違いをしていた。
リュスの口ぶりと戦闘面から見て、鉤爪によるアビリティは“空間を削り取りブラックホールのような引力も作り出す事ができる”と。
――だが、実際は違ったのだ。
――――――――――――――――――――――――
――リュスが気絶してから10分後、彼女は目を覚ました。
近くにはメトがおり、彼女は拘束されていた。
「知っているか? 3Aって」
メトがそう聞くと、リュスの顔は曇った。
その表情を見てメトは確信した。
「お前はにいたんだな」
リュスは黙り込んだ。
動きもせず――否定もしなかった。
「あぁ。俺はアビリティを今2つ持っていることになる。俺のアビリティは“空間を裂き、裂かれた空間の周りはくっつく”というアビリティと“何か対象に引力をつけたり、何か対象をその引力に、引き寄せられるようにする”事ができる」
リュスのアビリティは距離を変えることは出来ない。
ただそう見せることは可能だ。
メトが見たのはその錯覚だ。
さっきメトが突っ込んでもリュスの攻撃を受けなかったのは、リュスがメトとの距離感を間違えたからだ。
そして、メトが感じ取った違和感。
それは、ガラス片はリュスのアビリティにより引き寄せられたが、砂埃などは微動だにしなかったことだ。
それは、リュスのアビリティが空間を裂く能力と引力に関する能力の2つを有している事を物語っている。
「辛かっただろ。お前」
3A。
正式名称、Add another ability。
アビリティを有するものに別のアビリティを追加するための団体。
施設は最新どころか、誰も知らないような技術を使われている。
そして、どこにその施設があるのかさえ知られていない。
毎夜毎夜と、どこかの村からこっそり子供を一人二人連れ去っているのだ。
警備が理不尽なくらい厳しいロードブルクじゃなくとも、全世界でクレイデンで指名手配されている犯罪組織だ。
連れ去った子供達にはアビリティが無ければ殺し、有れば拷問同然の手術を施す。
この世界には麻酔なんて物はないはずなのに、数個は所持しているらしい。
されど数個、大切な麻酔を変えが効く子供に与えるはずがない。
場所がわからないので親も探す事ができない――。
「そんな場所でよく帰れたな」
「覚えていないんだ。おそらくフォーゲット達の仕業だろう」
フォーゲット。
シロとネルがモーレン宿場で会った相手だ。
奴の能力は世間にも知られている。
名の通り“記憶の抹消”だ。
フォーゲットのアビリティは代々受け継がれている。
アビリティを有しているものが死ねばニブラ鉱となって周りに現れる。
記憶の抹消なんて都合のいいアビリティはこの世に幾つも存在していない。
存在してはいけないのだ。
そこで、疑問が浮かぶ。
人は記憶の抹消を願ったことはないのだろうか。
“恥ずかしい記憶を消したい”、“記憶を消してあんなことやこんなことをしたい、又はさせたい”。
一度は願った事があるだろう。
だが、それだとそのアビリティが大量生産されてしまう。
他の強力なアビリティも然りだ。
国はある日突然、そのアビリティを有した術者の居処を知るらしい。
それは国にとって脅威となる。そして、処分するのだ。
だが、誰かに聞いたわけではない。
では何故知っているのか。
知る者は言う――。
“夢で神様がお告げになられた”と。
――――――――――――――――――――――――
――ニアス達は今からミーティングを始める。
ミーティングと言っても多分エールを送り合うだけだと思う。
「ここはセンジュ神殿によく似ている。この先も、だだっ広い空間が続くだろう。センジュ神殿の通りなら、この先に罠がある。だが、何の罠があるかわからない。心して行こう」
パリカノティタ選手、ダイチョウキンがそう言うと、他の仲間はそれに大きく呼応した。
(一応、会議ではあったな……)
――俺らは先を急いだ。何か不吉な悪寒もして、みんなよりも少し早く走った。
先に進むと、これまた沢山の信徒が待ち構えていた。
「こりゃきついなぁ……」
これだけの人数を相手にして副司教と戦うとなると、流石に戦いに支障をきたすかもしれない。
すると、横にいたダイチョウキンが声をかけてきた。
「――ここは俺らに任せろ」
「え……? いいのか?」
「心配なんだろ? お仲間さんが」
(キンさん……!!)
「それに俺の腸が限界を迎えそうダァ! 敵に汚物をぶつけてやるぜ!」
(キンさん……)
キンさんの今の言葉を聞いて絵も言えない感情になったところで、別方向からも声が聞こえる。
グローブの組員だ。
確か名前はロスタスト。
「俺らも残りますよ! その代わりに――」
ロスタストとは近くにいたマダグとエザスターテス、ジュナーラの背中を叩いた。
「こいつらを連れて行ってくれ!」
「えぇ!?」
エザスターテスは驚き、それ以外は微笑む。
(エザスターテスは戦えるのか? 戦えないから驚いてんじゃないのか?)
すると、前から敵が次々と信徒が襲ってくる。
今度は武器を持った信徒が大半だ。
「――早くいけ!」
組員の人は俺の背中を押して急ぐことを催促する。
致したかなく俺、マダグ、ネル、エザスターテス、ギスターナで、道を切り開き、奥の部屋へ飛び込んだ。
――――――――――――――――――――――――
――もう既に息は絶え絶えで、さらにここから進むのだろうか、と思えば思うほど行く気を失う。
その度に脳裏を過ぎるのがクハパリの顔だった。
思い出すと同時に足が勝手に動く。
俺らは再び歩もうとすると――。
「やぁ、皆さん! 私の名前はベルノート」
ベルノートと名乗る、おそらく副司教のハットを被り杖を持ったおじさん。
そしてそ、の両隣に存在する、容姿の似ている二人がこちらを凝視してくる。
「おやおや? あれは確か元信徒の……」」
双子は同時に同じ言葉を発した。キャラが強いなと思っていると、双子はその元信徒とやらに視線を向けた。
「えーと、名前は――――――――忘れました」」
「エザスターテスですよ!?」
〜 第三十一話 完 〜




