第30話 それぞれ
――ミミックの中に入り込んだ。
中はだだっ広い室内の空間に繋がっており、俺はマダグを見つけた。
マダグは状況確認や人数確認を怠らない。
そこに俺が顔を合わせる。
「無事だったか……よかった」
「あぁ。でも、シロがどっか行っちゃった」
「は!?」
「それより、マダグも大丈夫なのか?」
「それよりで済ませていい事なのか……?」
――そう言うと、マダグは肩を落とし淡々と語ってくれた。
そして俺は胡座をかきながら話を聞いた。
マダグも副司教に会ったらしい。
だが、俺とは違うやつだ。
副司教っていっぱいいるもんなのか?
「俺が会ったのはハマイヤって奴だ。副司教になるにはアビリティを有している必要があるらしい」
「アビリティは何だった?」
「あいつはこう言っていた。《不気味な武器がぶっきらぼう》!」
(ダサい……)
――俺は心の中でそう呟いてしまった。
やっぱり。
副司教はアビリティを持っていないと成れないらしい。
ならば副司教は全員アビリティを持っているのか。
だが、逆に言えばそれ以外の一般信徒はアビリティを持っていないのだろう。
いや、もしかすると副司教になった奴のアビリティは地口やダジャレと言った言葉遊びのアビリティ以外は司教に成れないのかもしれない。
“アビリティ=夢”。
イスベルトブリューがこの説を提唱した本を見て以来、俺が考えてきた提説だ。
そして、それが事実なのならば言葉遊びを愛している地口教の信徒だからこそ発現させられた能力なのかもしれない。
それなら、ヌベツミもそうだ。
恐らくヌベツミのアビリティは“人に言葉遊びをさせる”だ。
これも“アビリティ=夢”説を裏付ける根拠となるだろう。
だとするなら、一般信徒だってアビリティを持っている可能性は充分にあり得るのだろうか。
色々自分なりに憶測をしていると、マダグがその時の状態や敵の情報を教えてくれた。
「霧は俺のアドバンテージだと思っていた。俺の手元が見えないから、相手に俺のアビリティを悟られないと思っていたからだ。だからメトさんに“霧はあった方がいい”って伝えていた」
“だと思っていた”と言うことは違ったのか?
マダグのアビリティは“武器を透明化させストックする”だったはず。
そして、俺だってマダグがメッちゃんに伝えていたのは見た。
ハマイヤって奴のアビリティが関係してくるのか?
「あいつの能力は名……の通りぶっきらぼうな武器を精製する。例えば大鎌とかな。そこで厄介なのが、霧があると近くに来るまで何の武器を持っているのかが分からなくなるんだ。それどころか自分の透明化が仇と出た。霧があると歪んで見えんだよ」
「不利な状態で勝てたのか!? お前……すごいな」
この不利な点にも他に要因はあったはずだ。
例えばマダグは武器をストックするのに対してソイツは精製。
あとは、武器屋とかにないような武器の精製も向こうにとってはお茶の子祭々だろう。
そんな中で勝てたのは正直すごい。
素直に認めざるを得ない。
――そう感心していると、予想外の一言が飛んできた。
「ん? 逃げられたんだよ。不意打ちしたからな」
「へ?」
「そりゃそうだろ。不利な相手に喧嘩を仕掛けるほど俺も馬鹿じゃねぇよ。不意打ちした相手がたまたま相性が悪かっただけだ。向こうから逃げてくれてよかったぜ」
マダグはどこか満足げにそう語った。
だが、本当に逃げたのだろうか。
信徒であるからして信仰心は厚いはず。
そんな奴が逃げる?
もしかしたら俺らが来たミミックの中から飛び出してくるかもしれない。
気をつけないと。
すると、向かい側から声が聞こえる。
そっちを見るとグローブの群衆の中でギスターナが大きく手を振っていた。
俺らが振り返すとこちらに向かってきた。
「あぁ……よかった……」
ギスターナは胸を撫でながらそう言った。
マダグは信頼されていないのだろうか。
俺は、マダグが信用されているから素人組のリーダー的ポジにいたと思っていたのだが、そう言うわけでもなさそうだ。
それとも、ギスターナはマダグを息子のような存在とでも思っているのだろうか。
マダグはギスターナを友達みたいなもんって言ってたけど……いいねぇ(適当)。
「なぁギス、シロ見なかったか?」
「シロ? 見てないなぁ。――そう言えば戦闘する前からいなかったような……」
ここで俺は自分の失態に気がついた。
シロがいない、俺は見えないだけでいると思っていた。
だが、実際はそんなことなく居なくなった、迷子になったんだ。
(迷子になったからストレイダーズってか? 笑えねぇぞ)
まぁ、死ぬことはないだろう。
すると、ミーティングをするとの掛け声が入った。
ミーティングとは、今からこの建物の先を進むための会議だ。
掛け声に釣られてネルやパリカノティタ選手が集まる。
俺はその群れの中入っていった。
――――――――――――――――――――――――
「えーっと? ここどこ?」
ウチは大雲入道と共にこの迷路のような森を彷徨う。
トライウィザードトーナメントみたいで楽しいという気持ちがある反面、マジで道に迷っている。
「そう焦らんな。どれ、どこにいきたいんじゃ?」
あれからと言うもの、大雲入道はやけに親しげに接してくれる。
でも、仙人口調だから抵抗感がある。
どうして何だ? ウチのこの国宝級な顔面に惚れ込んだわけじゃないよな? やっぱりウチには秘められた力が眠っているとか。
「なぁなぁ! ウチってそんなに強い!?」
「いや、強くはないぞ?」
「は?」
「確かに防御面に関しては、ずば抜けている。じゃが、その“霊気”は攻撃もできんじゃろうて」
「そこはフィジカルでカバーしてるし(なんでこんな動けるようになったのかわからないけど)……ってかその“霊気”って何だよ!」
「霊気は霊気じゃ」
「答えになっていないんだよ……」
さっきから、ずっとこれだ。
“霊気って何?”って聞いているのに答えになっていない。
しかも悪気があるわけじゃなさそうなのが余計腹立つ。
「それで――どこへ行きたいんじゃ?」
「なんか人がいる所ならどこでもいいけど、まぁ欲を言えばネル達のところがいいな」
「無理じゃな。じゃが、わしの霧の中に入っている奴がいたらソイツの居場所ぐらいはわかる。霧はわしの体の一部じゃからな」
(やっぱり無理か……)
「えーじゃ、やっぱり人がいる場所で」
「無理じゃな」
「お前ッ、使えねぇなぁ!!」
「いないんじゃよ、何処にも。この森の外に出たんじゃなのか?」
「え?」
そんな話聞いていないぞ?
地口教だけじゃなく仲間達も外に出たのかな?
それとも、そう言うアビリティ?
もしかすると、ウチがミミックでワープしたように、ミミックを使ったのかもしれない。
見た感じミミックはどこでも常設可能っぽい見た目しているし。
まぁ大丈夫でしょ!
――ウチはニアス達の後を急いだ。
――――――――――――――――――――――――
――ニアス達がミミックの中に入ってから10分後、メトは漸くここにいる信徒を全員戦闘不能にさせることができた。
メトはため息を吐いてニアス達の後を追いかける。
メトは完全に油断し切っていた。
次の瞬間、突如としてグォンという音と共に放たれる攻撃がメトの背後を襲う。
「ふっ――!!」
メトは咄嗟にその攻撃を受け止めようと手を前に出す。
攻撃を受けた感触はあった。
ただ、痛くはなかった。
その代わりに手首が冷たくなっていることが分かる。
だがどうして?
そんな事を考える前に、視界の端で、何かが回転しているのを見たメトは、今自分が置かれている状況を理解することとなる。
(――手が飛んでいる!?)
メトは即座にもう片方の腕に鎧のような物を纏う。
そして、突っ込んで来た敵の頬を殴って吹き飛ばした。
メトグラフィックは戦闘において負けたことはない。
メトをよく知っている幼馴染ですら、メトには勝ったことはない。
そんな彼の手を一撃で持っていった相手は相当のやり手。
メトは分析を始める。
女性で動きが俊敏である。
だが、近距離アタッカー。
手には鉤爪のような物を装着している。
それ以外には攻撃手段はなさそうだ。
相手を凝視しているとソイツは髪を掻き上げながら言う。
「あんた凄いねぇ。この量相手にして無傷とはッ! いやはや、副司教冥利に尽きるよ」
「部下を思いやるのが副司教ってもんじゃないのか?」
メトは余裕を見せつつ時間稼ぎをする。
だが、時間を稼いだって意味がない。
メトは手の負傷を痛がっている。
あまり動きたくないのだ。
だが、そんな事をしていたら血が全部出切ってしまう。
そして、余計に痛覚を感じてしまう。
メトは周囲に毒ガスを撒き、自分の口元には十分に呼吸ができる酸素を撒く。
「その鉤爪、装石具だろう? 装石具頼りで成る副司教なんて、居て居ないような物――」
「――黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!」
相手はメトの話を遮り、取り憑かれたかのように激昂した。
図星だったからってそこまで激しく暴れ回るか、と若干引いてしまったメトは案の定それ以外の攻撃は持ち合わせていないと言う事を理解する。
だが、相手は急に再び冷静になり始め、自分語りをし始めた。
「――おっと! ごめんごめん! 俺の名はリュスポルティー。アビリティは持っていないけど装石に言葉遊びをして入らせてもらったんだ。どうだ? 俺の能力聞きたいか? 聞きたいだろう。と言うか聞いていけ。聞かせてやる」
こんなことは初めてだった。
アビリティ使い同士(装石具も使った)による戦闘は、まず相手のアビリティを知ることが重要だ。
だが、相手は教えると言う。
アビリティ使い同士の戦闘でアビリティを教えると言うことは実質相手を煽っているのと同義。
しかも、自分に一撃を入れたであろうアビリティのタネを明かすと。
されど地口の信者。
地口に嘘をつくとは思えず、メトはそのまま話半分で聴くことにした。
「俺のアビリティ(装石具の)は《空間を食う漢》。空間を削り取る事ができる代わりに一人称を“俺”にしなきゃいけないんだ。ま、元々一人称は俺だけどな!」
何がダジャレなのかわからないけれども、一応アビリティの術式はわかった。
だが、相手は近接でしか戦えないはず。
――メトはそう思っていたが、実際にそうではなかった。
「俺のアビリティがわかったところで――どぉん!」
リュスがそういうと、地面が少し削れる程の脚力で突進してくる。
メトは臨戦態勢に入る。
が、リュスが鉤爪で虚空を裂くと、不自然にリュスとメトの間が狭まった。
これが、リュスの言っていた“空間を削る”だろう。
「――くっ!」
その拍子にメトの目を狙う。
だが、メトは残った腕で鉤爪を弾いた。
宙に舞ったリュスの腹を下に殴り地面へ叩きつける。
もう一撃を入れようとすると、リュスは鉤爪でまたも虚空を裂く。
メトは警戒して後ろに下がろうとす。
だが、切り裂かれた虚空に吸い寄せられるかのように体は元の位置へと戻った。
メトは頬を鉤爪で擦り切られていた。
メトは退がった。
これでは毒ガスの意味がない。
もっと広範囲に充満させることはできるが、それと同時に口元に酸素を撒くのには、今のメトの技量では困難だ。
そして、水蒸気による爆破攻撃。
相手はもちろん、自分にもダメージが入ってしまう。
自傷覚悟で攻撃することは可能だが、果たしてそれが有効かどうか。
今の状況で有利に立ち回るには遠方攻撃。
ならば下がり続けよう。
メトはそう考え、目の前にバリアのような物を張る。
その上に乗り、バリアの下に水蒸気爆発を起こさせ飛んだ。
その甲斐あって距離を取る事ができた。
メトは拳を前に突き出し、開こうとする。
拳をリュスに向けると、段々と近づいてきているのが分かる。
空間を切り裂く事で登れているのだ。
(――そんなことも出来んのかよ!?)
咄嗟に拳を開くが当たらない。
いつも同じ高さの相手に対して使っていた攻撃であったためか、高さの狙いが定まらなかったのだ。
ならば、メトは毒ガスを自分がいた位置に充満させる。
そこにリュスが行くからだ。
だが、それも当たらなかった。
毒ガスが裂かれた空間に引き寄せられるのだ。
「これでおしまいだねぇ!」
リュスが鉤爪を前より高く上げ、振ろうとした瞬間――リュスの後ろ太腿にガラス片が刺さった。
「痛ったぁぁ!?」
その瞬間を狙い、リュスの横顔を殴りつける。
だが、それを受け止められてしまう。
これで攻撃手段は無くなった。
(――いいや、まだある!)
メトは手を失った方の腕で彼女の腹を殴りつけた。
彼女の服に血がベッタリつき、腕らへんが痛い。
それでも腕をねじ込んだ。
二人は自由落下に入った。
〜 第三十話 完 〜




