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間話 惚れ、憧れ、恋焦がれ



 ――あるところに少年がいた。

 父親と手を繋がないと不安を紛らわすことができないほど幼い少年だ。


「貴方、名前は?」


「……ヴァレトラ」


「こら! 失礼だぞ!」


 少年の目の前には女の子がいる。

 少年は指を咥える。

 唯一信用できるお父さんでさえ自分に強く叱責するのだ。

 当然不安感が増す一方だ。

 手を握る強さが増した。


 そして、何が起こっているのかを考える。

 お父さんが言うには自分の何かが失礼だったらしい。

 でも、何かがわからない。


 そうして黙っていると、余計にお父さんに怒られる。

 ヴァレトラはお父さんの手を握る事を止めた。


 そして思想を変える。

 ここはどこだ。

 自分が知っている土地ではない。

 ここは建物内。

 何だか高そうな物ばかりが置いてある。

 自分でも高いことがわかるようなあからさまに高い物だ。


 そもそも、この子は誰なのだろう。

 高そうな服を着こなしている。

 歳は下ぐらいだろうか。

 そう思い、名前を聴く。


「君の名前は?」


「こら! 何度言えば――!」


 お父さんはまた怒鳴る。

 だが、それを止めてくれたのが目の前にいる女の子だった。

 口に人差し指を立てて止めてくれた。

 ヴァレトラの中の彼女の評価はお父さんよりいい人、になった。


「コクバロッテスです」


 ヴァレトラは思う。

 自分よりもこの子は年上なのだろうか、と。

 ヴァレトラが見るコクバロッテスは自分よりも背が低い。

 だが、自分よりも断然大人びていた。


「よろ、しく……お願いします」


 そしてコクバロッテスを真似をすることで初めて敬語を喋ることができた。


「はい、よろしくお願いします」


 コクバロッテスは笑顔で応える。

 その姿にヴァレトラは惚れ、憧れ、恋焦がれ、名状しがたい感情になった。


 ――――――――――――――――――――――――


 ――そしてコクバロッテス様の執事になった。

 それが齢七歳頃。料理、洗濯、掃除、ありとあらゆる家事を別の執事に叩き込まれ、そこら辺の家政婦よりは家事をできるくらいには成長できた。


 それまで家事全般ができなかったのだ。

 自分にしてはよくやった方だと褒めてやりたい。

 というか、誰か褒めてくれ。


「コクバロッテス様ぁぁぁ!!」


 廊下を駆け回る音と大声が廊下中に響きわたる。

 他の使用人にうるさいと毎度怒鳴られる。

 だが、その度にお嬢様はおいでになる。


 だが、今日は来なかった。

 使用人の全員に聞いても知らないの一点。

 使用人とお嬢様のご関係は可もなく不可もない。

 主従関係の何者でもない。

 嘘をついている様子ではない。


 何か不穏だ。

 そう思いながら廊下を走り回っていると、微かに音が聞こえる。


 ――ぐすん、ぐすん。


 そんな音が聞こえる。

 これは鼻水を啜る音だ。

 それも鼻炎である可能性が高いだろう。

 何故なら水分量が多いことがわかる。

 そして、ここはお嬢様の部屋。

 鼻を啜っているのは、おそらくお嬢様だ。


 自分がハンカチを持っているかどうか確かめるため、ポケットに手を突っ込んだ。

 手袋のせいでよくわからなかったが、若干の膨らみを感じ、ドアノブを捻り、ドアを開けた。


(自分が役に立てるぞぉ!)


 そう思い、部屋に突き進むと、お嬢様の鼻から液体が垂れているのがわかる。

 だが、それと同時に目から液体が流れているのがわかる。


 涙だ。泣いておられるのだ。

 お嬢様は泣くのか。

 完璧超人だと思っていた節もあり、戸惑ったが、すぐさまお嬢様のお側へ寄ろうとした。


「――来ないでっ!」


 自分は何と愚かなのだろう。

 自分が役に立てる、そう思い、何の遠慮もなく人様のプライベート空間に土足で足を踏み入れた。


 それだけでなく、泣いているところを自分に見られ、お嬢様は余計に惨めな想いをされた。

 役に立つどころか、邪魔でしかないのだ。


「――どうされたのですか?」


 自分はそれでも足を突っ込んだ。


 分かっているさ。

 今はそっとして差し上げた方がいいことぐらい。

 そして、今からすることは、お嬢様の弱みに漬け込むということに。


「――放っといて!」


「――いいえ! できません!」


 お嬢様は元々持っていたハンカチで顔を隠しながら涙を拭う。

 だが、涙を流すことは恥じていない。

 それよりも――。


(人に話したくないのか……? 何故?)


 自分は人に話すことがどれだけ救いになるかがよくわかる。

 根っこからそういう性格だったため、泣くとお母さんによく泣きついていた。

 その度に救われた。


 お嬢様はそれをしないのだろうか。

 自分にはそれがよくわからない。


「人に話したくないのですか? なら、尚更教えてください! 人に話す、それだけで救われます!」


 お嬢様は淡々と沈黙した後、涙を拭って話してくださった。

 

 ――お嬢様は貴族であり、貴族や王族には苗字が与えられる。

 それ以外の所謂下民は苗字がないというのは自分が物心つく前から知っていた。


 下民は苗字がなく、また名前には四文字以上であることが推奨されている。

 稀に名前に被りが生じる場合もある。

 そういう時には愛称で親しまれる。

 愛称もまた、四文字以内であることが推奨されている。


 話が逸れたが、お嬢様の本名はステラ・コクバロッテスだ。

 ステラ家は皆男であることを望まれる、女性蔑視が激しい家系なのだ。


 そのため、コクバロッテス様は家では嫌われている。

 それは元々知っていた。


 ――お嬢様には兄が三人おられる。

 上から13、12、10歳だ。その兄弟から腫れ物にされている。

 その理由が前述の女性蔑視だ。

 子は親を見て育つのだ。


 お嬢様の母はすでに他界しており、父は暴行までとはいかずとも、無関心だった。


 今回は兄弟たちから暴行を受け、泣いておられるようだ。

 今までは腫れ物扱いや無視、悪口程度で済んでいたのだが、今回は暴行。

 このままいけば徐々にエスカレートしていくだろう。


 勿論、前述は「程度」で済ましていいものではないが、この家では立場が薄いので、あのままで済んでいたのは幸いな方だった。


 だが、自分が驚いたのはそこではない。驚いたのはお嬢様の口調だった。

 兄のことをあの野郎だとか、喋り方まで強い口調だったのだ。


 今までそんなお嬢様を見たことがなく、自分は胸が高鳴った。

 こんな魅力的な女性だったなんてと、齢七歳にして思ってしまったのだ。


「――なら、仕返しでやりましょうよ!」


「……え?」


 お嬢様の拭っていた手と涙が止まった。

 そしてそのまま流れ続ける一粒の涙を自分が手袋で拭う。


「二度と暴力を振るわないように、自分が上であることを知らしめれば良いのです!」


 そんなことをして良いのだろうか。

 そう思っておられるのだろう。

 お嬢様の目は横を向いており、遂には目を閉じる。


 だが、何かを決心したのか、最後には首を縦に振った。


 ――それからは毎日兄の中でターゲットを決め、ある日はケツに着火剤を撒き、ある日は水をかけ、ある日は料理に下剤のようなものを盛った。


 そうして、悪戯をしていく内に、兄たちが挙ってやってきた。


 ――――――――――――――――――――――――


「お前――いや、お前達だろう?」


 一番上の兄を筆頭に詰め寄ってくる。

 腕を組み、見下すような目つきで見てくる。


「そんなことないですけどぉ! ねぇ! お嬢様!」


「う、うん。何のことかなぁ……」


 目を泳がせながら、わかりやすく白ばっくれる。

 そうすることで、煽りつつ、自分たちがやったということを確信させるためだ。

 お嬢様は最初、乗り気ではなかったが、今は楽しんでいるかもしれない。


「とぼけんじゃねぇ! 兄さん! もうやってしまいましょうよ!」


「まぁ待て。コクバロッテス。お前が最近拾ってきた薄汚いフィードルいるだろ?」


 そう。

 最近、お嬢様はフィードルを拾ってきた。

 フィードルというのはキツネに似た動物だ。

 貴族の間では大変親しまれているペットだ。


「あれ、俺が殺して埋めてやった。感謝しろ」


「さすがお兄様! 綺麗にするために殺したのですね!」


「女のくせにペットなんて飼ってんじゃねぇよ!」


 恨みは廻る。

 その為因果応報と言われても仕方がない。

 だが、やっていなくとも殺していただろう。

 

 自分は感情に任せて、兄弟に突っ込む。

 執事なんて関係ない。

 自分はコクバ様の執事なのだから。


 すると、お嬢様も参戦する。

 こうして、場はカオスと化した。

 

「どうして……! 何でこんなに強いのだ……!?」


 殴り合いで、しかも二対三で勝てたのは執事である自分のおかげではない――お嬢様のおかげだ。

 お嬢様はフォームにこそ強者感はなかったが、素の力は半端じゃなかった。


 こうして、気づいた時にはもう兄弟達は尻尾を巻いて逃げて行ったのだった。

 そして、その日から兄弟達はいじめをしなくなった。


「ね!? 楽しかったでしょう? お嬢様!」


「……コクバでいいわよ」


 お嬢様はその日から口調が変わった。

 いや、矯正していた口調を止めた。


 ――――――――――――――――――――――――


 ――そして、現在から一日前。


 ご主人様、つまりお嬢様のお父様、ウェイシアの国王は、外交で他の国へ出張している。

 

 そのお父様がもう直ぐ帰ってくるらしい。

 そんな時期にお嬢様がパリカノティタの大会を見に行きたいだとか抜かしやがった。


 だが、まぁ。

 休息は必要だし、自分も、パリカノティタの大会は気になる。

 そもそも自分は見たことがない。

 どんなものか楽しみである。


 ネヴキュベートに着き、馬車を停め、門の受付に馬車を一時的に停めることの申請書を書いてもらっている最中に、ある一通の手紙がお嬢様宛に届いていた。


 ――――――――――――――――――――――――


 ステラ・コクバロッテス様へ


 風神の風が吹く頃に、巷では流行病が蔓延しているらしいですが、いかがお過ごしでしょうか。

 私が一輪の花を愛でていると、どこの馬の骨とも知らぬ者に風のように引きちぎられ、この頃眠れない日々が続いております。

 さて、本題に入りますが、魂噐である貴方を拉致させていただきたいのです。大変煩わしいとお想いになるでしょうが、ご理解を頂けますようお願いします。

 勿論、融合する前までは貴族の貴方でも生活に支障をきたさないようなお部屋をご用意させていただいております。因みに、決定権はありません。

 では、また会う日までお元気で在られますように。


 追伸:一輪の花を奪って行った奴がネヴキュベートへ向かっているらしいので、それも序でに取ります。そうすると、お部屋に一人増えますが、貴方は気にしないでしょう! ( ͡° ͜ʖ ͡°) それでは!

 

           地口教副司教 ヌベツミより


 ――――――――――――――――――――――――


 私はすぐさまお嬢様に伝えると――。


「最後の顔文字かわいいね!」


 全くもって緊張感がなかった。


 前半は何を言っているのか、わからなかったが、魂噐だけは分かる。

 たしか、魂というアビリティのような能力を持つ人達を装石具の材料として加工する時の材料のことだ。

 

 加工方法とかは知らないが、そういう技術があることは知っていた。


 魂噐からその能力を抜くと、その人は死ぬ。

 あまり使われない方法だが、地口教ならやりかねない。


 お嬢様の凄まじいパワーは、アビリティによるものではないが筋力を増強させる能力によるものだ。


「もう引き返しましょう! 地口教がどんな強さか世間も知らないんですよ!?」


「やだ! 引き帰らない! ヴァレトラだって見たいでしょう!?」


 勿論、見たい気持ちで溢れている。

 だが、お嬢様の命の方が重要だ。このままパリカノティタに行けば流石に対処できないだろう。


「いいえ! 駄目です!」


 お嬢様は深く考え込んだ後、ゆっくり言った。


「なら、護衛をつけましょう」

 

 ――――――――――――――――――――――――


 ――大会は明日だというのに、そうも簡単に見つかるかと思っていたが、あっさりと見つかった。


 どうやら、お父様にも手紙の件は伝達されていた。一日しか時間がなかったのに手際が良すぎた。


 そのことをお嬢様へ伝えに行こうとすると、何やら誰かと話していた。


 この世界では珍しい黒髪で、背はお嬢様よりも少し高いぐらいか?

 柵に掴まってはいるが、ハルヴァリアの電撃に感電しそうだ。


 そう思っていると、お嬢様は話し終えたのか、隙を作って声をかけた。

 伝達をすると、彼との話を終え、馬車に乗られた。


 御者が馬の手綱を撓らせ、馬が嘶くと、馬車が発車する。

 すると、凹みに肘を乗せて何かを考え込むお嬢様がいた。お嬢様に声をかけると――。


「あの子、初対面で貴方よりも礼儀正しかったわよ」


「歳が違うでしょ!?」


 だが、お嬢様は何かを考え込む。

 自分は馬車が揺れる度に、何を考えているのだろうと思ってしまうのだ。



        〜 間話 完 〜

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