第19話 守りたい理由
(は……?)
腕が折れていた。
あまりの衝撃に事実としか受け止めきれない。
尋常な人のパンチじゃない。
普通殴っただけで折れるか……?
面積の広い頭蓋骨とかならありうるかも。
だが、腕の骨だった。
序盤からこれかよ……
アビリティだよな。
これは即死級のパンチとかも来るのか……
(こんなことを考えている暇は――!!)
「ぐっ、ううっ、うぐっ、あがっ!」
腹に四発喰らった。
(とりあえず引かないと!)
うちは人混みに紛れた。
対カンケル戦で覚えたことが効いている。
うちも成長したってことか。
幸い、ノサンドスはうちのことを見失ったようだ。
(でも……別に痛くないぞ? 本当に喰らったのか……)
だが、これは表裏一体だろう。
ダメージをあまり喰らわなかったのは大きい。
まぁ、アビリティがアビリティで恩恵は薄いが――
「乱数調整」。
要は「ガチャでSR引きまくったからSSRもうすぐ来るんじゃね?」みたいなことだ。
弱打の殴りを連続で喰らったんだ。
強打の一撃が排出される確率はグンと上がっただろう。
「出てこいヨォ! お前の頭蓋骨ごと粉砕してやるヨォ!」
刹那の瞬間、脳裏に誰かの言葉が過った。
「一日に一回は拷問をしないと気が済まない」
とかいうヤバめのグローブ組員。
(実在したんだ……!)
――じゃなくて、あいつ、こっちを見ていた。
あいつのアビリティはわかっている。
ってことはアビリティによる視認ではない。
単なる洞察力の問題か……?
「んじゃ、今度はこっちからッ!!」
うちは人混みを避けながらノサンドスに向かう。
見えてきた!
ここは決める!
(――いや! まずい!)
ノサンドスは素早い速さで裏拳が飛んでくる。
反射的に後ろに逸れた。
うちは間一髪のところで避けることはできた。
危なかった。
今攻撃を喰らうのは一番やばい。
でも、これじゃあ埒があかない!
(どうすれば――)
人混みの中に一人、うちに背中を見せながらじっと見てくる奴がいた。
うちは人混みを掻き分けながらそいつに近づいた。
すると奴は気がついたのか逃げようとする。
(アイツだッ!!)
うちは一対一だと思わせられていた!
けど本当は二対一だったんだ!
「《スニーキック》!」
「がぁっ!」
足に力が溜まったところで一気に解放しながら蹴りを放った。
蹴りは逃げ惑う奴を追うように後頭部に直撃する。
今度は――
「お前の番だ――よっ!」
後ろから追ってくるノサンドスに向かって左足を重心に回り、再び蹴りの体勢に入る。
手を捌くために前に置き、右足を抱え込んで――側頭蹴り。
うちの蹴りはノサンドスの顔面に入った。
これはちゃんと入った!
――そう確信していた。
(まっじかよッ……!)
それでもノサンドスは猪突猛進。
蹴りをものともしないかのように、うちの左足に殴ってくる。
左足をより上げ、奴の頭上に踵落としをしながら前に出て、奴の殴りを避ける。
サマーソルトをしながら後ろに下がり、二人と三角形ができる位置まで遠ざかる。
(――っぶねぇ! 焦ったぁ!)
あいつどんだけタフなんだよ!?
いや、タフなんじゃない。
攻撃を喰らってでもやり返したほうが、リターンが大きいんだ。
リターンを取るためなら何でもする意思だ。
イカれてる……
それにしても、何だこいつ。
ノサンドスがうちの位置を把握できてるのは、こいつのアビリティのせいか?
「ちなみに、こいつのアビリティは教えてくれたりは――?」
「名前だけならナァ!」
彼の顔色を伺い、ノサンドスがそう言うと、隣の男はウチのことを睨みながら呟く。
「ヘルザック……」
変な名前だと思ってしまった。
恐らくヘルザックのアビリティは位置を掴む能力。
その手の能力は、本人を潰せばアビリティが解除され、攻撃性はないことが多い。
アニメや漫画でよくいる、ありきたりな能力だろう。
それに付け加えて、アビリティを共有している感じだ。
でなきゃ、ノサンドスがウチを直視できたことに説明がつかない。
先にどっちから潰す……?
序盤から面倒になりそうなサポーターのヘルザックか? それとも先に潰したほうが後が安全なノサンドスか?
こういう時、ゲームにもよるが、うちが先に潰したいのはノサンドスだ。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
さっき彼自身が身を投じて教えてくれたことだ。
うちはノサンドスに飛び掛かる。
足を大きく振りかぶり、続けてもう一足で攻撃。
だが、どちらの蹴りも空振った。
前からフック――顔面に喰らう。
咄嗟に低姿勢でカウンター――ガードされる。
すると、腕を掴まれて投げられた。
うちは華麗に着地。
まただ。
痛くない。
どんどん強い攻撃が出る確率が蓄積されていっている。
いくら何でもおかしい。
こんな確率で弱い攻撃が排出されるもんなのか?
基準がわからない。
――そうだ……おかしいんだ。
ずっとずっと気になっていた。
こんな確率――おかしい。
そして、ついにわかった。
フォーゲットの攻撃を喰らった時も、ロードブルクの兵士に牢屋へ送られた時も、ライグと戦闘した時も、今も。
――痛くなかった。
そう、うちの能力は《触覚遮断》だ。
むしろ、今まで何で気が付かなかったんだ。
いや、分かる。
痛みがないことに、うちは慣れを感じていたんだ。
現世では死ぬほど痛めつけられて、その後は痛みを感じることがなかった。
だから、痛みという存在を忘れていた。
でも、もしそうなら今までの攻撃の排出率に説得力が出る。
つまり、「めちゃくちゃ高いダメージ喰らってたけど痛くない!」ってことだ。
……満身創痍と言うべきか?
まぁいい!
ここで勝てるなら、それでいい!
なら、今がチャンスだ。
うちは再び立ちはだかるノサンドスに飛び掛かる。
前から攻撃が飛んでくる。
その攻撃は顔面に飛んでくる。だが、案の定痛くない。
今までのうちなら、ここで引き下がっていただろう。
「どっちの体力が持つかなぁぁ!!」
ウチとノサンドスの腕が交差する。
「――ぐふぉ!」
拳はウチの腹にめり込み、奴は頬に喰らう。
攻撃の振動が腹に伝わってきた。
そして場の緊張は高まる。
そんな中勝利したのは――ウチのアビリティだった。
ノサンドスはそのまま床に倒れ込んだ。
すると、ヘルザックはウチを見て驚愕していた。
「お前……イカれてるだろ……」
彼はノサンドスのアビリティの強さを嫌ってほど知っているのだろう。
「痛くないんなら、怖いものは何もないからな……」
激闘の末、眠気が悉く襲ってくる。
(やっべ眠い。でも……ヘルザックはやらないと)
眠気に抗いながらヘルザックに目を向ける。
後は一人。
この体力差で勝てるだろうか……
すると後ろから肩を二回、ポンポンと叩かれた。
「あとは俺に任せとけ――シロ」
誰だかわからない。
だが、任せろって言われた。
言われたからには任せよう。
前に出る誰かを半目に、うちは安堵し気絶した。
――――――――――――――――――――――――
さてと。
敵を薙ぎ払ってたら、いつの間にかシロ見つけた。
と思ったら、やられた直後だ。
情けねぇな。
「あとは俺に任せとけ――シロ」
そう言いながらシロの肩を叩き、守るように前へ出る。
「お前はこいつより、やり手か?」
「さぁ? やり合ったことは無いな」
確かに、どっちなんだろう。
アビリティはわからないけど、俺はシロの実力を多少なりとも認めている。
まぁ、でも――
「今はあいつのほうが強い――かもな」
「強がりが」
目の前の奴はそう言いながらも近づいてこない。
威勢だけか、近づかないほうが有利なのか。
どちらにしても、俺は近接でしか闘えない。
まずは様子を見てから前に出よう。
中距離なら見境もなくアビリティを使ってくるはずだ。
――奴に無防備に歩み寄った。
当然、奴の拳が顔面まで直撃する。
(――! 何でだ!?)
俺は血が出る鼻を手で押さえながら思考する。
まず、攻撃に属性はなかった。
つまり相性不利の状況は防げた。
そして俺は今、自分で奴に近づかないと誓ったはずだ。
でも、何も考えないで前に出た。
これは圧倒的にアビリティによる精神攻撃だ。
でも、穴はあるはず。
現に今、アビリティを連発してこないし、そこまで強い催眠効果ではなかった。
案の定、中距離でアビリティを使ってきやがった。
しかも、攻撃力も高い方ではない。
だが、近づきにくいのも事実。
連発もしてこない。
なら――ゴリ押す!
奴に一気に近づいた。
予想通りアビリティは打ってこなかった。
攻撃をするなら今だ!
そう思い奴に攻撃を仕掛けようとするが、シロが倒れている方向から鉄が擦れる音が聞こえる。
まさかと思いその方向を見ると、シロにトドメを刺そうとする玄人組が見える。
俺は咄嗟に飛び出した。
そいつの顔面に殴り、顔が腫れるまで殴った。
気がつくとそいつは倒れた。
だが、俺はヘルザックに背後を見せていた。
すると、奴は俺を押し倒し、マウントをしながら殴ってくる。
乗っかる奴の腕を掴み、体を吹っ飛ばした。
アビリティの発動動作がわからない。
だが、今が好機だった。
倒れている奴は起き上がろうとする。
そこを蹴りで顔面に喰らわせる。
奴の頭は床に叩きつけられる。
だが、奴は気を失わず俺の足を掴んで殴ってくる。
俺は殴り返そうとした。
――しかし俺は奴から距離を取った。
(――! また支配!?)
おそらく奴のアビリティは、対象を自分で移動させる能力。
そして今、属性による相性はなかったことが分かった。
そこで、俺のやるべきことは一撃で倒せるための攻撃だ。
幸い、奴の防御は薄い。
必要なのは奴に近づく方法だ。
そのためにはアビリティを使いこなさないといけないが……ここには水がない!
いや、あるはずだ!
属性は……水だった。
けど、再抽選された。
どこかないか!
――俺はあることを思い出す。
書庫で目的の本を探しているとき、偶然見つけた本がある。
その内容とは、体の七割が水分で出来ているということだ。
俺のアビリティは水を固めることだ。
だが今、水分を利用しようとしている。
これが成功するのかわからない。
だが、成功させなければならない。
今はこれに頼ろう!
そして必ず成功させるのだ。
そのためには水分を最も多く含む部位だ。
それは確か――臓器。
刹那、俺の脳裏には過去の記憶が過ぎる。
双子の弟に何もかも上を行かれた記憶だ。
そして奴は何も出来ないと俺を見下し、蔑み、馬鹿にした。
知っているさ、そんなこと。
自分が一番よくわかっている。
俺だって自虐的に罵ってきた。
だが、シロやシラゾノさんはそんな俺を肯定してくれた。
特に村で腫れ物扱いされていた俺を、シロは友達だと言ってくれた。
――嬉しかった。
それがどれだけ救いになったか。
だからここまでついてきたんだ。
俺がみんなの行動を決めたのも、叱るのも、全てシロを守るためだ。
俺の後ろではシロが倒れている。
ここで負ければ俺もシロも拷問攻めだろう。
今度は俺が救う番だ。
俺はシロの想いに応えたい。
――俺は奴に歩み寄る。
だが、これは俺の意思によるものだ!
「《水の凝固》!」
俺は奴の頭に手を置きながらそう祈った。
感覚でわかる。
それでも血液や細胞に流れる水分は固めることが出来ない。
俺は奴の神経活動に必要な水分だけを固め、詰まらせた。
「あ? 何してんだテメェ……?」
そう言われながら腹を膝で蹴られ、腹を抱えながら蹲る。
そして俺は床に頭を叩きつけられる。
さっき叩きつけられたばかりだ。
俺は気を失いそうになる。
が、詰まらせたことと、俺はここで負けないと誓ったことで堪えることが出来た。
「……おかげで、近づけた」
「――!」
奴の顎に目掛け、拳と体を振り上げた。
奴は体が無気力な状態で上に吹っ飛び、受け身を取れずに着地した。
そしてそのまま――動かなくなった。
偶然この攻撃をできた。
奴が油断し、俺に近づかせることを許さなければ、この結果には至らなかった。
そんな中言うのは癪かもだが――
「俺は成長型なんだ。言ったろ? 今はって……」
そう言いながら俺も気絶した。
――――――――――――――――――――――――
俺と親父は見つめ合う。
見つめ合うなんて愛情的な感じではない。
言い直そう。
ガンを飛ばし合っていた。
飛び交う親父への憎しみ。
それと共に、親父が抱いているこれに対する感情を考察してみたりする。
親父は俺のことをどう思っているのだろう。
敵視か?
それともただ殺すとしか考えていないか? 後者の方が有力だな。
「俺はお前に悪いと思っている。俺は父としての責務を投げ出し、母をも奪った」
「じゃあ悪いだなんて思うなよ! お前は殺人鬼。それは俺の中で揺るがない捉え方だ!」
思っていた感情と違った。
「悪い」……?
冗談じゃない。
俺にとって親父は妻を殺した殺人鬼。
これじゃまるで俺が悪者みたいじゃないか。
「償いたい。その想いは本当だ」
「償いはいらねぇ! ただ俺はお前を殺……倒すだけだ!」
「――でも! 俺はこいつらとまた冒険したい」
俺は親父を俺と比較してきた。
俺は親父のようにはならない。
俺は親父とは違う。
毎日のようにそう思ってきた。
だが、親父は俺と似すぎていた。
友達と、仲間と冒険したいと言う意思は、俺も親父も確固たるものであること。
――どこまで行っても、俺はこいつの息子だった。
「さぁ! 始めようぜ! これが最後の、親子喧嘩だぁ!」
〜 第十九話 完 〜




