5鬼 足の確保
さて、田舎で活動するにあたって足が必要なわけなんだが、そこに関してはあまり心配する必要がない。
意外と、探してみれば移動に便利な能力を持った妖怪もいたりするんだ。有名どころだと、一反木綿とかは何かしらで聞いたことがあるんじゃないだろうか。
予定していなかったものの勧誘してもいいのではないかという気がする。
「でも、背中に乗れるタイプのモンスターも捨てがたいよな」
妖怪でなくても、モンスターにだって移動に使える存在はいる。ただ、そっちに関しては公道で走らせたりすることが難しかったりするから最初のうちは妖怪に頼った方が良いだろうな。
もちろん、私道とかダンジョン内だと話は変わってくるからモンスターの方もいつかは配下に入れたいが。
「兎にも角にも、一反木綿をまずは探してみるか」
一反木綿ならば空も飛べるし、ある程度人に気づかれないようにしながら移動することができる。かなり便利な存在だろう。
ではその一反木綿がどこにいるのかと言う話なんだが、
「古くなった布の妖怪だし、古着屋とか行けば見つかるか?最終手段にゴミ捨て場とか」
ということで、さっそく古着屋へと俺は繰り出した。
そんな中で、
「おっ、この服いいな。買っておくか」
俺の服も少し見てしまったり、
「そういえば、モベヤってあんまり服を持ってなさそうだったよな。一応買っておいてやるか」
一応モベヤ用の服も見たり。
かなり古着屋を満喫して、朝から探し始めたはずだというのにいつの間にか少し日が傾き始めてしまった。
「…………マズい。全然見つけられてない」
そこまで時間をかけたにもかかわらず、いまだに一反木綿の発見には成功していない。俺は頭を抱えることとなってしまった。
古着屋に置いてある服では、一反木綿になれるほど古い物はなかったみたいだな。
仕方がないので最終手段として考えていたゴミ捨て場に行くかと考え始めて、
「タクシー呼ばないといけないよな…………ん?あの車、もしかして?」
俺の視界に入るのは、1台の車。
有料駐車場に止まっている車で一見よくある軽自動車なんだが、俺には分かる。
その車が、妖怪であることが。
「…………なあ。少し良いか?お前、妖怪だよな?」
「っ!?あ、あっしに何か用でございやすか?」
近づいて話しかけてみたところ、予想通り反応が返ってくる。
一人称が「あっし」な辺り、かなり古い妖怪みたいだな。
期待できるかもしれないと考えつつその妖怪に俺の事情を説明してみると、
「おお!それは願ったりかなったり!あっしもぜひ仲間に入れてくだせぇ!最近はどこに駐車するにしても違反切符をきられそうになったり高い料金払わされたりして困ってたんでさぁ」
「あぁ~。人に変化できなかったりするとそういう弱点はあるよな」
向こうもかなり乗り気な様子。
不法投棄とかされているところに紛れ込むならまだしも、人間社会の周辺でこういう妖怪が暮らしていくことは今の時代大変なんだろうな。
では、そうして快く仲間となることは承諾してくれた妖怪が何かといえば、
「あっし、火車の圧椎と申しやす。どうぞこれからお願いいたしやす」
火車。
古い車輪とか荷車が妖怪となった存在だ。厳密にいうと違うんだが、一反木綿のような付喪神に近い存在だと思ってくれればいい。
今は変化の術を使って、特段珍しくもない車になっているが、
「お望みとあれば、リムジンからキャンピングカーまで何でも化けてみせまさぁ。ただ、飛行機は勘弁で」
「さすがに俺もそこまでやれとは言わねぇよ」
いまいち幅が広いのかどうかは分からないけど、車なら大抵何にでもなれるらしい。
これで、ある程度までなら人数が増えても対応できるようになったな。バスとかになってくれれば50人以上1体で対応できるだろう。
空を飛んだりはできないみたいだが、もしかしたら一反木綿よりありがたい存在かもしれない。
「それじゃあ、せっかくだし俺たちの拠点に行ってみるとするか。1回ちゃんと見ておきたかったからな…………とはいっても、俺も場所を正確に把握できているわけでhないんだが」
「安心してくだせぇ。あっしには住所検索機能も入ってますし、GPSも使えまさぁ」
「火車ってそんなに高性能なのか?明らかに車に変化するだけで使えるようになる物じゃないと思うんだけどな」
本格的に他の妖怪を候補に入れた俺がバカみたいじゃないか。
あまりにも圧推が優秀すぎる。
俺はそのまま圧推に乗って、自動運転機能はこんな感じなんだろうかと考えながらクランハウスを目指す。
性能が恐ろしいほど良いらしくそこまで時間もかからずに到着して、
「…………あれ?やけに綺麗な家があるんだけど」
「あっしの教えてもらった住所だとここで間違えないみたいですが。綺麗すぎやすね」
俺たちの前にあるのは、周囲の田舎で手入れもあまりされていない物とは明らかに違う似つかわしくないと言ってもいいほどきれいにされた家だった。
そこまで大きくはないが、住みやすそうに見える。
俺が視た資料だとここまで綺麗ではなかったため本当に住所を間違えていないかと資料を再確認したところで、丁度その家の扉があき、
「あら。もう来たの?早いわね」
「モベヤ?…………ってことは、ここが本当に俺たちのクランハウスなのか?」
「ええ。そうよ。軽く掃除とかしてみたんだけど、どうかしら?」
「軽く?これが、軽く?」
俺はモベヤの掃除能力の高さに戦慄することとなった。
なお、その後普通に他の家事スキルも高くて座敷童とは一体何だったかと頭を抱えるのだった。
座敷童って、手伝いとかあまりせずにただ遊んでるだけのイメージだったんだけどなぁ。
俺の配下たち、優秀過ぎないか?




