11鬼 ねだり
増華に勉強を教えてもらえることになった。これで、実家から追い出されたことで行けなくなってしまった高校の分を取り戻すことができるかもしれない!
やったぜ。
探索者としてうまくいかなかったときとかのことを考えると、できれば大学とかは行けるようにしておきたいからな。就職で不利になるかもしれないし。
「そんなキャリアとか考えなきゃいけないなんて、妖怪も大変なんだね。もっと楽に生きていけるのかと思ってた」
「そうなんだよなぁ。俺も最初はそう思ってたけど、人型で衣食住が必要なタイプだとどうしても困ることが多いんだ」
「私は必要なかったわよ」
「モベヤはかなり前から家に住み着いてたんだろ?昔と今じゃ違うんだよ」
現在はモベヤや増華と共にギルドへ向かっている最中。
もちろん、乗せてくれているのは圧推だ。
滅魔士を載せているということで非常におっかなびっくり運転しているが、今日中に必要な作業は終わらせられるだろう。
ちなみに、わざわざモベヤまでついてきているのは増華の探索者登録に保護者として署名などをしてもらうからだ。つまり現在、俺の百鬼夜行の全員で移動中というわけだな。
人間が百鬼夜行に入る部分は未だに納得できてはいないけど。
「また後で詳しい説明はするが、今のところ報酬の取り分は増華の取り分が4。俺の取り分も4。クラン用の貯蓄が2だ」
「了解。意外とちゃんとそんなこと考えてるんだね、ボス」
「さすがに考えてないと問題が起こるだろ…………というか、ボスってもしかして俺の事か?」
「そうだよ。よろしくねボス」
「あら。良いじゃない。呼び方に迷ってたけど、私もボスって呼ぶことにするわ」
「へぇ。ならば、あっしもボスと呼ばせてもらうとしやしょうか」
「お前らもかよ。ボスって言うと、百鬼夜行って雰囲気じゃないんだが」
マフィアとかそんなタイプの組織の印象を受けるし、あんまりふさわしくないだろ。
もちろん、だから解いて親父とか呼ばれるのも嫌だけどな?
ただ俺が難色を示しても変更する気はないようで、俺の呼び方はボスで決まってしまう………一瞬、こいつらは俺の名前を覚えてないんじゃないかと思ったんだがさすがにそんなことはないよな?俺の名前は江良畏醸。偽名は矢場畏醸だぞ。
なんてちょっと不安になる会話をしながら移動していき、モベヤがいたので俺のようにはもめずに増華も登録完了。
せっかく来たのだからとモベヤは買い物をするらしく、その間に俺と増華でダンジョンに行くことにして、
「この辺のモンスターはあまり強くはないから、最低限気をつけてさえいれば問題なく勝てるぞ。俺とかダストならこんな風にすぐに終わる」
「へぇ。強いじゃん」
俺とスライムのダストがまずは戦っているところを見せてダンジョンというものを理解してもらう。
その後俺が持っていた少し強めの剣(もちろん俺の毒の付与できる短剣よりは断然弱い)を持たせて増華にもやらせてみる。
「俺が強いのはレベルが少し上がってるものあるけど、何よりこの短剣の力が大きいな。部相応過ぎる攻撃力と能力を持ってるから」
「そうなの?じゃあ私にそれちょうだいよ」
「なんでだよ!?俺が言えたことじゃないかもしれないけど、初心者のうちに楽をしようとするんじゃねぇ!」
「えぇ~。いいじゃん。せっかく強いのがあるんだから使わせてよ」
「せめてもうちょっと慣れてきてからにしろよ!その剣だって初心者が使う物にしては強い奴なんだからな?もうちょっと自分の実力に合うものを考えろよ」
途中で俺の短剣を強奪してこようとしたがさすがに断固拒否した。
色々と言ったが、滅魔士に俺の短剣とか渡したら怖いからな。この短剣で攻撃されたら俺も普通に一撃死しかねないんだからな?怖くて渡せるわけがない。
「ちぇ~。ケチ~」
「欲しいなら自分でとれるようになってくれ。このくらいの武器なら、少しレベルを上げて強くなったら取りに行けるはずだから」
不満を言う増華だが、その動きはさすがに滅魔士だけあって才能がある。
確かに俺の渡した武器では不相応かもしれないと思うくらいには、きれいにゴブリン共を相手取ってうまく戦えていた。人型で血とかを出す相手でも容赦なく行ける辺りが初心者感のない素晴らしいポイントだな。
こいつがいれば、予定していたよりもっと早く先の段階へ進めるだろうと思えるくらいだ。
「滅魔士って妖怪相手じゃなくてもある程度戦えるのか。すさまじいな」
「アハハッ。そりゃ、鍛えてるから~…………って言いたいところなんだけど、これはたぶん私個人の実力だけではないと思うよ?ボスの下についたことによる強化と、お姉ちゃんの強化があると思うんだよね」
「モベヤの?」
「うん。お姉ちゃんは座敷童だから、家にいてくれてるだけでいろいろ強化されるんだよ。私もお姉ちゃんがいなくなってから始めてその効果がなくなったんだけど、結構能力が下がった気がしたんだよね」
「へぇ?座敷童ってそんな力あったか?運が良くなる程度だと思ってたんだけど」
「そこはほら…………モベヤお姉ちゃんだから」
「困ったら特別だからで終わらせようとするのやめろ」
俺はジト目を向けるが、増華は素知らぬ顔。
ただ、確かにモベヤがクランハスに来て俺が一緒に生活するようになってから身体能力が上がった気もする。もしかして、間違って難易度のダンジョンに入っても何とか生き残れただけでなく短剣まで獲得できたのって、モベヤのお陰だったりするんだろうか?
…………モベヤには定期的に貢物でもするとしよう。
 




