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プロローグ

 



 ある日、日本という国は分裂した。


 全国47都道府県が独自に国家体制を築き上げ47の国と化した。






 そして現在、毎日どこかで戦いが起きている。食糧、土地、人。様々なものを求めて人々は争っている。


 いつ誰がこんなことを始めたのかはわからない。かつてはこの国はひとつであったと言うのに今は醜い争いばかり生まれる。


 昔と変わらず銃や戦車、戦闘機などの武器がある中で最も恐れられており、各国の首脳が食糧や土地よりも欲しているものがある。

その正体は、、、



 『アトムス』



 そう呼ばれるのもいつからかわからない。しかし、この武器のなにが恐れられていて各国の首脳が欲しているかというと、その性能だ。


 『アトムス』は大気にある分子を凝縮し弾として装填、発射する。その威力は絶大でひとつの家屋を一発で吹き飛ばせるくらいだ。

 この『アトムス』はチッソ、サンソなどの種類があるものの数は限られている。この『アトムス』は作ることが出来ないため奪い合いしかなくなる。だからこそ、首脳達はこれらを求めて戦いが勃発する。


 『アトムス』同士の戦いは周りに多大な被害を与える。『アトムス』同士がぶつかりあうと必ずどちらかが死ぬとも言われている。しかし、『アトムス』を持っていない国だってある。

 

 では、『アトムス』を持っていない国はどうしているのか。


 各国の軍隊の中にエリートだけで組まれた対アトムス部隊が編成されている。その対アトムス部隊は『アトムス』との戦いを想定して常に訓練を行い、『アトムス』の情報を集め、『アトムス』に精通してあるであろう敵国との戦いの時は首脳の判断の元、戦場へと送り出される。


 しかし、『アトムス』所有国だって『アトムス』同士が戦ったら被害は免れられない。だからこそ、所有国も対アトムス部隊を組んでいる。

 この対アトムス部隊はその国すべての人からの憧れの的でもあるとともにすべての人の希望である。しかし、裏を返せばいつ死ぬかわからないという絶壁に立たされ明日ともしれぬ命なのだ。そんな不安を払拭するために日々訓練を行い、いざとなったら出動するのである。


 ここ、神奈川国は2つ『アトムス』を所有している。対アトムス部隊は5人でそのうち隊長と副隊長のみが所有できる。関東と呼ばれていたこの地域では上位に位置し、戦いも他の国に比べれば少ないほう。それでも戦いが無くなるわけではない。相手国に『アトムス』があれば対アトムス部隊は出動する。


 そんな対アトムス部隊を使った戦いは今日も耐えない。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ここはかつて神奈川県と呼ばれていた場所。今は全ての都道府県が独立して、ここは神奈川国と呼ばれている。


 その神奈川国の西側。ちょうど小田原の先あたり。今日も戦いが続いている。相手は静岡国。『アトムス』所有国のうちのひとつ。


「首尾はどうだ?」


 この声は第50代対アトムス部隊隊長で19歳にして初の隊長を努める神野真である。


「はっ!現在北側陣営にて交戦中!『アトムス』使いは未だ敵本陣の中です!」


 軍人と見られる一人が敬礼をして現状をありのままに伝えてから、わかった、と一言だけ神野は伝えて部下を下げたあと、ふーーっと、大きく息を吐いた。


 現状は静岡国との国境に位置する街で交戦中であり、互いに戦車やミサイルなどの兵器を使って攻撃している。まだ現状だと対アトムス部隊は出動できない。『アトムス』使いである相手の動きが見られない限りは本陣であるここ小田原で待機している。

 上司の命令の下、こうして戦場に出てくるのはいいものの最前線に立つことなんてほぼない。基本的には殿を務めて『アトムス』が出てきた時だけ動く形となる。

 だから、今みたいな現状報告だけを受けて戦場を後にするなんてことも少なくない。


(やけに向こうの国が静かだな。嫌な予感がする。)


 神野が次の動きを考えていると声が聞こえてくる。


「じんくん。まだ出動しなさそう?」


 じんくん、と呼ぶのは同じく対アトムス部隊の一員である清水奈津である。清水は『アトムス』所持者ではないが何十万人といる中から選ばれたエリートである。


「仕事中にその名前で呼ぶなよ。奈津」


 ちなみに、清水奈津と神野真は幼なじみであり、小さな時からよく対アトムス部隊を夢みて過ごしていたという。

 そんな彼らは今回初めて同じ隊を組んだ。先に前回の第49代対アトムス部隊にて神野は副隊長として部隊に入っている。そして、隊長が退任しそのまま繰り上がりで隊長となった今回。

 清水は前回も応募し入隊テストを受けるが惜しくも落選したのしてしまった。そして、今年こそはと競い合う仲間と共に受けたもう一人の仲間は落ちて清水は受かることができた。その仲間のためにも今回の戦いは負けられない。


 会話が弾むことなくまた静寂が場を包んだ時、吉報が訪れた。

 それは相手国が『アトムス』を出すことなく撤退していくと。この地に攻めてくる相手国を追い返すことができたことにまた大きく息を吐き、神野は撤退命令を下し本部のある横浜へ帰還していくこととなった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ガシャッ!ガシャッ!


 ここは神奈川国横浜本部の地下にあるトレーニングルーム。

 今日もたった一人で筋肉トレーニングをしているやつがいる。半袖に短パンを履いていて全身に汗を書きながらベンチプレスをしている。その重さは100キロ。並の人じゃ上げられないような重さをほぼ毎日こうしてトレーニングルームに来てやっている。


 コツコツと階段から音がする。

 ここは階段を降りたらすぐに部屋となっているから誰かが来るとすぐにわかる。しかし、ベンチプレスをしているためか彼は気づかない。

 足音が近づいてくるにつれ音が大きくなっていく。

 キイィ、とドアを開けて入ってきたのはさっき戦場から帰ってきた清水だ。


「ま〜た筋トレしてるの?よく飽きないわねぇ」


 ガシャッ!という音をたててバーベルをおいたそいつは起き上がって入り口に寄りかかっている清水を見る。


 清水は戦場に行った時と変わらない服で帰ってきてすぐにこの部屋に来たのがわかる。



「うるせぇ。筋トレが好きなんだよ」


 そんなことを言っているそいつは筋トレを毎日行っているおかげか筋肉がきちんとついている。しかし、ゴリゴリと言うふうには見えない。


 そいつは立ち上がって近くにおいてあるプロテインの粉が入った容器を掴み、その横においてあった水を容器の中に入れてシャカシャカと振り始めた。



「まったく、巧はいつになっても変わらないんだから。そんなんじゃいつになっても隊員になれないよ?」

「…そんなこと言ったってお前だって今回が初めてじゃねえか」


 そう言われて清水は肩をすくめる。


 巧と呼ばれる男は清水奈津と神野真のもう一人の幼馴染であり今回の対アトムス部隊の入隊テストに挑戦するも落ちてしまった。

 


 そいつの名前は『相良巧』

 

 

 幼い頃から神野真、清水奈津と一緒に遊んでいるのと同時に三人とも対アトムス部隊に憧れを持っていた。

 しかし、相良は二人に比べて能力が劣っていた。いや、劣っていたわけではないのかもしれない。相良は並の能力だったが神野の能力が突出しすぎていたのだ。



 神野は15歳で対アトムス部隊養成所に入り18歳という若さで副隊長も務めるほどの能力の持ち主。到底敵うわけもない。



 清水は神野に憧れ猛特訓をして17歳に養成所へそして19歳の時にようやく入隊した。


 相良巧は清水と一緒に17歳の時に養成所へしかし18歳の時の試験に落ちて入隊はできなかった。だからこそ、こうして特訓しているのである。


 

「ところで、次の戦いはいつになるんだ?」

「んー、まだわからないわ。宣戦布告はされてるみたいだけどね。でもどうして?」

「いや、久しぶりに三人で飯でもって思ってさ……」




 相良は少しうつむいてから残っているプロテインを飲み干した。



「………もう無理かもね」



 ボソッと清水はそう口から零した。



「?それはどういう…」



 相良にとって神野は憧れの存在でありライバルでもあった。そんなやつにマイナスな表現を使うなんてありえない。



「あぁ、いや。なんでもないの。それよりもう時間だから行かなきゃ。またね。」

「あ、おい!奈津!」



 呼び止められて清水は足を止める。



「俺はいつでもここにいるからな」



 清水はそれを聞くと相良の方を向いて少し微笑んだ。そして、すぐにまた歩いて行ってしまった。






 それからしばらくしてまた階段から音が聞こえてきた。今度は音がにぶい。



「よお、巧」



 そこにいたのはさきほど話題に出ていた神野だった。



「真……。これから戦いじゃないのか?その会議もあるだろうに」

「あぁ、もうブリーフィングは終わったよ。もうすぐ出発さ」

「ならどうしてここに?」



 相良は疑問の顔を浮かべるが神野は入ってきてからずっとすまし顔のままだ。


 神野は少しうつむいて目を半開きにしている。なにか考えてるようにも見えるが…



「巧。おまえになら話してもいい気がする…。でも、今じゃない」

「???」



 なにやら的を射てないことを神野は口にする。その言葉に相良はやはり疑問の顔を浮かべるしかない。

 その後も歯切れの悪い言葉ばかり頭に浮かぶ神野だったがその考えを忘れるかのように首を横に振った。



「わかった。この戦いから帰ってきたらすべて話そう」



 神野はそれだけ言って扉から出ていってしまった。


 それはまるで最後の別れみたいな話し方だった。


 相良はこの先の神野の身に起きることなんて予想できないから、首を傾げることしか出来なかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 相良はトレーニングを終えて四角いマットを引いてクールダウンのストレッチを行う。

 まずは腿を伸ばして前屈をして……



 …る時に扉がバンッ!!と開いて相良に向かってなにか物体が飛んでくる。



「たーくーみー!!!」

「ウワッ!!」



 ガバァ!と背中から覆いかぶさって来たのは同じ養成所で同期の古河真奈美だ。



「たくみ、なにしてたんだよー!」

「お前はいつもいつも元気だな…」



 相良は少し嘆息する。なんでいつもこんなに元気なんだろうかと。でも、その元気に助けられたことも多々ある。


 例えばこの前の入隊テストの時に清水は受かったのに相良は落ちた時この元気がどれだけ頼りになっただろう。このトレーニングルームに来るのも嫌だった時に古河の声を聞くと自然とやる気が出てきたのは忘れられない。


 その時に古河は次の入隊テストを一緒に受けようと相良に言った。もちろん神野の隣に立つのは俺だと言っている。



「で、古河はなにしにここに来たんだ?」

「いや、なにしてるのかなー?って思ってさ!」



 相良は息を鼻から吐き出し、それから答える。



「見ての通り筋トレをやったあとのストレッチだよ」

「そっか!あと、私のことは真奈美って呼んでっていつも言ってるよね!ね!」



 古河はそう言って顔を近づけてくる。相良は顔を少し赤くしてそっぽを向く。



「近いんだよ…!あと、まだそんな間柄じゃねえだろ」


 相良は古河の顔に手をつき遠ざける。ぐぬぬー!と古河と抗っているがまんざら嫌そうでもない。



「私はいつだって準備OKだっていつも言ってるじゃない!むしろ巧が遠ざけてるのよ!」

「準備って……。なんの準備だよ…」



 相良はそう言ってツッコむしかなかった。


 

 古河との出会いは養成所に入って少ししてからだ。神野が上の人たちの目にとまりスカウトされている時に相良が必死に練習をしていたところを見られた。

 いつも一緒にいる人と、まるで神野の付属品として扱われた相良は最初は気分の悪いやつだと思っていたがそこからは相手の猛烈なしゃべりについていけなくていつの間にか話し相手となっていた。

 そして入隊テストの時に古河の存在感を初めて知ることができた。





「あ、たくみ!そういえばなんでここに来たのか思い出したよ!」

「そ、そうか。それはわかったけどとりあえず離れてくれないか」

「あ、ごめんごめん」



 この回想の間もずっと古河は相良に引っ付いていた。だからなのか少し顔を染めていたのは。



「そういえばね、三浦大喜さんが呼んでたよ!」

「え?ほんと?」

「うん!ほんと!」

「それを早く言えよ!」



 相良は古河を引っペ返し急いで立ち上がって扉から出て行った。






「もう少し素直になってほしいんだけどな…」


 そう呟いた古河の声は階段にも届かずトレーニングルームの中だけに響いた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ちなみに三浦大喜さんとは相良の直属の先輩であり養成所に入った当初から寮の同じ部屋で暮らしている。いわゆる隊員である相良巧を育てたと言っても過言ではないかもしれない。


 そんな先輩に呼び出しをくらったとなると飛んでいかないわけがない。





 相良は廊下を走る。三浦が相良を呼ぶときは決まって自分たちの部屋を選ぶ。誰かに聞かれるのが嫌なのか、それとも普通に二人の待ち合わせとして楽なのか。



 相良はドアの前に着くと一度立ち止まり呼吸を整える。そして、ノックを三回行う。中からはハイと言う声が聞こえた。その返事が聞こえたのを確認してから相良はドアを開ける。



「よお、巧。早かったな」


 なにやら紙を見ていた三浦は少し顔をこちらに向けて気軽に挨拶をした。



「そう思うなら急に呼び出すのはやめてください。それで、なんですか?」

「あぁ、それなんだがな…」



 三浦は神妙な面持ちで相良を見つめる。それにつられて相良も顔の表情を固める。



「実はこれなんだが…」



 三浦が持ちだしたものは今回の対アトムス部隊の出撃要項だ。そこには出発の日時から状況ごとの隊列など一から十まで全てのことが書いてある。

 相良は初めて見るのか少し驚いた表情をしてそれを見ている。



「三浦さん、これがどうかしたんですか?」



 相良は声を震わせながら尋ねる。でもその顔と表情はかくしきれないのか微妙に歪んでいる。

 三浦は目を閉じて瞑想している。何から話せばいいのか。どのように話せばいいのか、考えがまとまってから口だけを開いた。



「巧。落ち着いて聞けよ」


 三浦は声のボリュームを落とし、ひとつひとつ言葉を確かめながら話しはじめた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「え……。三浦さん、それは本当ですか…?」



 相良はさっきよりも声を震わせ焦った口調で三浦を見る。

 三浦はまた目を閉じて、


 今度は頷いた。


 相良の目が明後日のほうを向いて焦点が合っていない。




「い、いや…でも、あいつのことだからこれに気づいてるはず……」




 相良はなんとか声を振り絞って頭の中で別の可能性を探る。

 

 それでも、三浦は首を横に振る。



「いいや、もし気づいていたとしてもあいつなら行くだろう」



「そんな………………」



 相良は必死に目の前のことを否定しようとするが三浦の言うとおりだと自分を納得させようとしている。



 だって、それ以外どうしようもないんだから。



 もう過ぎたことは取り戻せないのだから。




 (あいつなら大丈夫だ…。どんなことがあっても守ってくれるし、なにがあっても元気な顔で帰ってくるだろう)



 そう思うしか。



 そうやって考えるしかなかった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それからというもの、やることなすこと手につかない相良は周りの人に心配されてばかりだ。



「たくみ!どうしたの?顔色悪いよ?大丈夫?」



 そうやって古河が話しかけてきても、「あぁ。」と空返事ばかりで目の焦点もあってないように見える。



 あれからトレーニングルームには行っていないみたいだ。それくらいあのことが信じられないんだろう。


 あの時、話を持ちかけた三浦は相良のことを少し気にかけてはいるものの見るも無惨な姿に声をかけることも出来ていない。


 誰もが相良を見て気の抜けたやつだったり、魂のこもっていない人形のように見えていたであろう。




 この時までは。




 ◯




 古河は相良のことを見ていられないと思ったのか、ある日訓練場の裏にある倉庫の前に呼んだ。

 いや、呼んだというより手を引っ張って連れてきたが正しいだろう。なにしろ相良はよくわからないと思いつつも連れて行かれるしかなかった。



「ねぇ、巧。なにかあったの?」



 さっきまですごい剣幕で連れて行ったのに着いた途端に心配そうな顔をして聞いてくる古河に相良はイラ立ちを感じている。



「別になんにもない」



 相良はぶっきらぼうにまるで突き放すかのように答える。



「なんにもないわけないじゃない!こんなに辛そうな顔して!」



 そう言って古河は相良の頬に手を添える。



「こんなに顔もやつれて…なんにもないわけないじゃない…」




「ッ、うるせぇ!」



 相良は手を叩き払った。



「別に俺がどうしてようが俺の勝手だろ!?ほっといてくれよ!」



「ほっとけるわけないじゃない!あの時だって…入隊試験の時だって!今みたいな顔してたじゃない!何もできないくせになにがほっといてなのよ!」



「……」




 人間は自分よりも怒っている人を見ると自然とその怒りは冷めていくと言う。

 相良は古河のすごい剣幕に驚き少し冷静になることができた。



 思えばあの時も同じように古河に助けられたような気がする。同じように怒られた気がする。

 そう考えると俺は幸せモノだなと相良は思った。



 ただ…怒ってくれたのは古河だった。落ち込んだ時にそばにいてくれたのはいつだって古河だった。







 それから近くにあったベンチに座り、お互いかける言葉を無くし、十数分経った。耐えられなくなったのは相良のほうだった。


「ごめんな、迷惑かけて」


「ほん…っと、迷惑よ」



 今は返ってくる言葉のすべてが相良の心に矢のように刺さる。でも、次の言葉は違った。



「そんなに私って頼りないかなぁ…」


「私ね、心配なの。巧が苦しそうな顔してるの見て何か出来ないかなって。でも、話しかけてももらえない」


「もっと私のことを頼ってほしいの。私だって力になれるかもしれない」


「それで少しは楽になるかもしれないじゃない」


「あと、私はあなたのことが好きなのよ巧」



 古河はきちんと目を見てそう言った。相良は気づいていなかったわけじゃない。相良だってなんとも思ってなかったわけじゃない。


「古河、俺は…」


「あぁ、いいの。知ってるから。」


 そう相良は実は清水に好意を寄せていた。それは幼少期のころからなのかもしれない。それに気づいている古河は相良の言葉を遮って少しはにかんだ。



「まだ片思いでいいよ。でも、相談はちゃんとしてよね!」


「あぁ、それはもちろんわかってるよ」



 相良も釣られて頬を緩めた。この二人には言葉では言い尽くせないような何か大きなものがあるのかもしれない。



「ところで、何に悩んでいたの?」



 相良はその言葉を聞いて顔を俯かせた。それを見た古河は首を傾げる。


「巧。ゆっくりでいいの、悩んでほしく無いだけで全部話せなんて言わないから‥‥」



「いや、お前になら話してもいい気がする」




 相良が話すかどうか迷って言葉を失っている間に遠くから大きな足音が近づいてきていた。



「おい巧!!」



「あれ?三浦さん?今日はもう練習終わったんじゃ?」



「そんなことより早く来い!」



 なにやら三浦が走ってきて急かすように相良巧を連れて行こうとする。


「ど、どうしたんですかそんなに急いで」



 三浦は荒い息を少しも整えることなく枯れた声で言った。



「神野真が瀕死状態で運ばれてきた!清水奈津の姿は見えないんだよ!」




 それを聞いた相良は何も言わずに走った。三浦も置いて古河に話すことも忘れてただ走った。

 場所も聞いてないのに。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 相良はとある小屋に来ていた。


 この小屋は神奈川国の本部がある横浜から少し離れた伊勢原と呼ばれている山の中にある。

 


 なぜこの小屋に来ているのだろうか。



 それはあの時……

 神野が運ばれてきてベッドの上で今にも死にそうな状態で二人だけで会話をした。


 それは奈津を救えなくてすまなかったということ。

 そして、この手紙を俺が死んだあと誰にも見られないように見ること。


 神野真はそれだけを言って息を引き取った。相良は数日呆然としていた。暗い部屋で一人何を見ているのかわからないがずっと開いている目。

 古河が声をかけてもダメだったが、忘れていたように置いてあった手紙をふと読んでみた。

 


 そして、今に至る。

 

 心は回復しないままだが一人だけでバイクを走らせてここに来ている。



「ここか…」



 着いたのは神奈川国にある山小屋。そこは緑に囲まれて鳥の声が聞こえる非常に穏やかな場所だった。


 つい最近まで戦いをしていてアトムス部隊が壊滅し、神野真、清水奈津が亡くなったことなど知らぬかのような静けさだった。



 相良はドアノブに手をかけて引いてみる。

 

 キイィィという音をたててドアを開き一歩入ると、木張りの床が軋む。

 この小屋はおそらく神奈川国になる前の県であったときからのものだろうと推測できる。

 風化のせいなのかこげ茶色になっている壁からは初めて香る匂いがする。



「にしても狭いなここ。頭があたりそうだぞ」



 当時の人達でいう1DKであるこの小屋は相良巧達からすればひとり暮らしにも満たないような狭さなのだ。背も高く体格も良くなっているはずだから当然なのだが。



「でも、真はここになにを…ん?」


 

 新しくドアを見つけた相良はつい最近誰かが入ったような後があることを発見した。おそらく神野であろう。


 相良はドアを開けて中に入るとそこにあったのは木の机の上に一枚の紙。

 その紙を手に取ると神野が書いたであろう文字があった。



『たくみ、お前がこれを見ているということは俺が直接案内したか俺がこの世にいない時だ。


 話したいことは二つある。


 一つは机の引き出しの中に入ってある『スイソアトムス』だ。この『スイソアトムス』の威力は絶大だ。一発で街の半分が無くなるだろう。


 俺がこの『スイソアトムス』をどこで手に入れたのかは言わないがこれの扱いが難しくてずっとここに置いていた。使わなくてもいい。というか出来れば使わないでもらいたい。


 この『スイソアトムス』一つでこの日本は戦いどころではなくなるからな。だから、いざという時以外は置いておいてお守り代わりにでも使ってくれ。


 そして、この『アトムス』を使ってでも使わなくてでもいいが清水奈津を守ってくれ。お前があいつのことを好きなのはわかっている。奈津もお前のことが好きみたいだぞ。だから、お前から告白して、そして守ってやってくれ。


 それが二つめの話だ。

 

 もしこれを俺が死んだ時に読んでいたならこの紙はすぐに処分してくれ。そしてこの小屋は誰にも知られないようにしてくれ。最後にこのことはお前が本当に信頼しているやつにだけなら教えても構わない。それが奈津であることを信じているがな。じゃあ、またな。』



 

 

 紙の上に涙がポタポタと流れ落ちる。





 相良は声にならない声で泣いていた。



「まことぉ、も゛う奈津はい゛ないんだよ…」



 涙を流せるだけ流し声を出せるだけ出した。









 それから少しして泣きやんだ相良はスイソアトムスを手に取る。



「一見普通のアトムスと変わらないんだな。でも、これは今はここに置いておこう」



「とりあえず今は次の対アトムス部隊の入隊だ!」



 そうして相良は横浜本部に帰り、古河と一緒に訓練を行い(その間も古河のアプローチは続く)、次の第51代対アトムス部隊に向けて動き出すのであった。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「えー、それではこれから第51代対アトムス部隊の入隊式を行う」



 前で話しているのは今回の隊長である金村悟だ。金村悟は前回の第50代の副隊長を務めていた。

 あの戦いを無事とは言えないほどの怪我で帰ってきて回復しきっているのかわからないがまた前線に立っている。


 メンバーには相良巧と古河真奈美と三浦大喜と副隊長の5人。



「たくみ、頑張ったんだね」



 古河が目を細めて優しい眼で相良を見て言った。



「まぁな、頑張らなきゃいけない理由が出来たってところかな」



 その理由は今はまだ言うことはないけど徐々に言葉にしていければと思っている。

 相良は少し顔を伏せる。



「そこ二人!お前らの番だぞ」



 隊長がこっちを見て少し怒った表情で大きな声を出した。

 そりゃ自己紹介の間に話していたら機嫌も悪くなる。




「はい!私は古河真奈美です!」



 『真奈美』の自己紹介が終わり、相良の番だ。






「俺の名前は相良巧。神野真のライバルだ」



「「!?」」



 この場の人達が反応をする。

 それもそのはず神野は100年に一度の天才と言われていた。それとライバルだって言うからどんなやつだろうと気になるのも当然である。




「どんな命令だろうが応えていこうと思うのでよろしくお願いします!」




 相良は堂々と宣言してやった。


 この後何が起こるのかも知らずに、この後自分がどんなことをするのかも知らずに。






 相良の自己紹介の時、金村が苦い表情を浮かべていることに気がつく人は一人もいなかった。





こんにちは。約半年ぶりです。今回も銃に関する物語を書いてみました。まだプロットの段階で本文があまり進んでいませんが全12話(プロ、エピ+本編10話)を目安に頑張って書いています。更新が遅れる場合もありますが、どうか首を長くしてお待ちください。

※誤字脱字は見つけ次第指摘してください

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