就寝
「今日はもう寝ましょうか」
彼女はそう言うと、一人ベットから降りてしまった。そして部屋に申し訳程度にひかれた粗末なカーペットの上に丸くなる
「ご主人様、おやすみなさい。明日もお願いします」
「ちょっと待て!!なんで床に寝ようとしてるの??」
「私は物ですので、貴方様に...その...可愛がっていただく以外でベットに入ってはいけないかなと思いまして」
「そこでは寒いだろう。おいで」
「ですが」
「おいで」
恐る恐る彼女は、再びベットへと上がってきた。さっきまで普通にいたのに。
一緒の布団に入った彼女からは、小さい子特有のミルクの様な甘い匂いと、おひさまの良い香りがした。
この状況だと私がドキドキして安眠できないから、明日はベットを一つ増やしてもらわないといけない。
「あの、私、煙臭くないですか?今日はまだクリーニングしてなくて。もし臭かったら離れますので」
彼女が身を引こうとする。そんなに離れたら布団から背中が出ちゃうだろう。彼女の腰に手をまわして引き寄せる。
「とても良い匂いがするよ。それとも私とは一緒に寝たくない?」
「...嬉しいです」
(ご主人様の顔があんなに近くに!!!!!!私ったらどうしちゃったんだろう。凄くドキドキする!!私は化け物だって言われたのに、この人は本当に気にしてないんだ。嬉しい)
「好いております。ご主人様」
「...ん?何か言った?」
彼女の声はとても小さくて何を言ったのか分からなかった。
「何でもないです」
彼女は頭を布団の中に引っ込めてしまった。
私は小さい子の少し高い体温を感じながら私はゆっくりと目を閉じた。
ご主人様を起こさないように、ゆっくりと布団を抜け出す。闇夜に紛れて必要な物を取ってくるためだ。
ご主人様から離れた今、部屋の温度は今までよりずっと低く感じる。
「行ってきます」
私が目指すのは、武器庫。理由は私が長く生きるため。ここに来る前、製造段階で多くの姉さんや妹が試験に落ちて処理された。それは掃除をせずに作動を繰り返したために壊れたから。当然私はその試験をクリアしている。でも発砲を繰り返せば、いつかは壊れる。普通の人じゃ治せない。だからクリーニングキットが必要だ。
そして勿論、銃弾。だって私たちは弾が無かったら文鎮と変わらないから。
いつも私が預けられていた武器庫は分厚い金属の扉によって遮断されている。だけど今の私には関係ない。もし開かなかったら、撃って壊そうと思っていたけれど杞憂に終わった。
「ねえ、私のことも連れて行ってくれない?」
「だめ」
「悪いようにはしないからさ」
「だめ」
ここには私を含めて146丁の銃器が保管されている。中にはこうして体を手に入れていなくとも、長い時間の中で意識が宿った物もいる。その物たちが私にしつこく話しかけてくる。
「あんたからする、その良い匂いはなあに?私に教えて」
この物たちには運がなかった。私はあの時、たまたまご主人の物となれた。これは私の持っていた運のおかげ。他の物には譲らない。寒い夜はもうたくさん。
”そんな風に人に接してはいけないよ。相手を思いやらなきゃいけないんだ”
ご主人様の声が聞こえた気がした。ご主人様は『思いやり』ができる子が好きだって言っていた。だから本当は嫌だけれど教えてあげることにした
「これは、私のご主人様の匂いだよ」




