第四幕 絶望の十絶陣 其の十二
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※本作は『封神演義』の世界を舞台にしつつ、現代的な言葉遣いや独自の歴史解釈を多分に含んだ「IFファンタジー」です。神仙たちのシリアスな戦いと、メタ的なコメディ要素のギャップを笑って楽しんでいただければ幸いです!
其の十二 十二仙の鳴動、嚆矢を放つ
■荘厳華麗たる大羅天にて
**時は殷周革命中。静寂閑雅な八景宮**
光遁での直行は流石に無作法と、大羅天の境界で瑞雲に乗り換えた赤精子。たちまち八景宮へと到着する。そこはまさに仙境。遠く聞こえるは、霊鳥の囀りか、はたまた瑞鳥の羽ばたきか。清水のせせらぎを渡り、赤精子は太上老君の住まう一角へと辿り着く。
そこには太上老君の筆頭弟子である玄都大法師が待っていた。
「やあ、よく来たね赤精子殿。君一人でこんなところに来るとは珍しい。何かあったのかね?」
「うむ。儂らの末弟である子牙が天命に従い軍を指揮していたのだが、大難にあってな。どうやら魂と魄の一部が奪われてしまったようなのだ。儂らでは取り戻す術もなく、大老爺(太上老君)の慈悲に縋りにきたのだよ。すまないが取り次いでもらえまいか」
事の次第を説明する赤精子。一通り話を聞き終えると玄都大法師は大きく頷いた。
「どうやら師父はすべてご存知だったようだよ。だから貧道にここで待つようにおっしゃられたのだね。君が訪ねてきたことをお伝えしてくるよ」
そう言って宮中に入った玄都大法師は、しばらくすると何やら折り畳まれた白い布を持って戻ってきた。
「赤精子殿。師父が君に、これを貸し与えるとの仰せだよ」
そう言って広げた布は一丈四方の矩形で、布いっぱいにただひとつの真円が描かれている。
「おお、これが音に聞く『太極図』!」
「おや? 君はこれを見たことがないのに、『太極図』が貸し出されると知っていたかのようだね?」
「い、いや、大老爺の至宝と言えば太極図だと思ってな……」
玄都大法師はじっと赤精子を見つめていたが、やがてふっと息を吐いて苦笑した。
「まあ、そういうことにしておこう。貧道も聞かない方が良いこともあるという理は知っているのでな。では使い方を説明したいのだが、良いかな」
「かたじけない。お頼み申す」
一通りの使い方を聞いた赤精子。太極図を一振りすると、布はふわりと縮んで袖の奥へと吸い込まれた。
「子牙のことが心配でな。そろそろ参るとする。大老爺によしなに伝えて欲しい」
「相分かった。師父にはよろしく伝えておくよ。子牙殿の魂魄を無事取り戻せたら、今度は二人で来てくれたまえ」
「承知!」
そう言って瑞雲を呼ぶと、赤精子は慌ただしく西岐へと引き返していった。その後ろ姿を見送りながら玄都大法師は苦笑混じりに呟いた。
「相も変わらず、そそっかしいやつめ……広成子殿も苦労するな」
■ 暗澹冥濛たる丞相府にて
**時は殷周革命中。慄然とする丞相府と泰然自若の蘆蓬席**
免戦期間の三日目。丞相府では怒号と悲鳴が飛び交っていた。
「抜かったわ! 魄、魄と続いて、三日目は魂を抜きにきおったか!」
「霊宝大法師様! このままでは、先刻の伏矢が! 伏矢が!」
「ええい、儂が戻るまで瓢の口に指でも突っ込んで抑えておかんか!」
姚天君の邪術により、初日に尸狗、二日目に伏矢と一縷ずつ魄を抜かれていたため、三日目の今日は七魄の三番目・雀陰だろうとあたりをつけた霊宝大法師。魄であれば大地に還るがゆえに足元から抜けると踏み、姜子牙の足元で待ち構えていたのだ。果たして抜かれたのは三魂の一角――幽精。天へと昇る魂の方であった。頭頂からするすると立ち昇る希薄な魂の光条。霊宝大法師は身を翻して姜子牙の枕元へと駆けつけ、腰から引き抜いた新しい瓢で何とかこれを吸い取り封じる。一方、足元に置き去りにされた瓢からは、先に封じていた伏矢が危うく外に漏れ出そうとしていた。側に控えていた医官たちが慌てて身を挺し、瓢の口に指を突っ込んで必死に押しとどめる。それによって稼がれたわずかな時間が功を奏し、間一髪、霊宝大法師の処置が間に合った。
「おのれえ、姚天君の小童め。味な真似をしおるわい……!」
さながら戦場と化した丞相府を尻目に、泰然として赤精子の帰還を待つ蘆蓬席。待望の蘇芳色の光が一条差し込んできた。
「広成子殿! 大老爺から太極図を借りてきたぞ」
「大儀でしたね。ああ、ここで展開せずともよいです。そのまま袖にしまっておいて下さい」
帰還した赤精子。広成子の姿を認めるや、袖から太極図を広げようとするも押しとどめられる。
仙界の至宝とも言われる宝貝を、一目拝もうと身を乗り出していた六仙たちも(丞相府で奮闘中の霊宝大法師を除く)、悄然と肩を落とした。
「その宝貝は、写し取った『世界の歪み』を糺し、太極の理に基づいて正した像を『世界』に還元する強力な至宝です。無闇に行使してはなりません」
何処に非があるのか分からない様子の赤精子と六仙は顔を見合わす。
「……揃いも揃って……」
広成子は嘆息して、幼子に説いて聞かせるように話し出す。
「今、丞相府には魂魄を抜かれた子牙君が寝かされていますね」
赤精子を含む七仙は頷いた。
「世界の理では、『人が死ぬと魂魄が抜ける』です。言い換えると、『魂魄が抜けている人は、死者である』です」
顔色が変わる七仙。赤精子が広成子に確かめるように問いかける。
「つまり……太極図に魂魄が抜かれた子牙が写し取られると、『魂魄がないから死んでいるのが正しい』ということになり、子牙は本当に死んでしまうのか?」
厳かに頷く広成子。
「では、落魂陣にて太極図に写すものが分かりましたね? 『魂魄は人の中にあるもの』です。『人でないもの(草の人形など)の中にある魂魄』は、世界の歪みです。ですから、太極の理によって捕らえられた魂魄は解放されるでしょう」
「分かった。じゃが、子牙の魂魄は何に封ぜられているのじゃ?」
赤精子の問いに、広成子は蘆蓬席の床下に向かって呼びかける。
「いつまで惰眠を貪っているのです。黄竜君。落魂陣の仔細を」
呼びかけとともに、床の隙間から朽葉色の煙が立ち込める。
「はぁ、第一席は人使いが荒いねぇ」
「落魂陣に立ち込める霧に紛れるなんて所業は、黄竜君にしかできないでしょう」
丁度、そこに丞相府での一騒動を収めた霊宝大法師も合流を果たす。図らずも、元始天尊の高弟十二仙中、十仙がそろい踏みとなった。
「ふむ。まずは霊宝君に子牙君の容態、取り分け魂魄の様相を話してもらいましょう。お願いできますか?」
広成子が軍議を進める。
「おうさ。先刻は姚天君の小童めに一杯喰わされそうになったが、辛うじて子牙の魂魄は守り切ったぞ。今日はこれ以上の襲撃はないじゃろう。さて、まず最初に抜かれていたのは第一の魄である『尸狗』、こいつを抜かれると、眠りから覚めなくなるんじゃ。子牙がいつまでも眠りについているのはこのためじゃて」
他の九仙はさもありなんと頷く。
「で、昨日は第二の魄である『伏矢』が狙われた。丁度、儂が子牙の容態をこの『天干連玉』を使って診ているときに術を発動させたようじゃ。ぬるっと魄が抜けての。咄嗟にこの瓢に封じた。この状態が続くと、水も飲めなくなるんで危ういのう」
そう言って瓢を皆に見せる霊宝大法師。
「そして先刻の事じゃ。儂は第三の魄である『雀陰』が狙われると踏んで待ち構えておったのじゃが、あの小童は魄ではなく魂を狙ってきよったのじゃ。『幽精』をな。間一髪でこちらの瓢に封じられたが、一手間違えれば一魂持っていかれるところじゃったわい」
今度は別の瓢を皆に見せる霊宝大法師。
「そうですか。『尸狗』、『伏矢』、『幽精』の順に狙われたということですね。黄竜君、君が見てきた落魂陣に当てはまりそうかい?」
今度は黄竜真人に話を促す広成子。
「ああ、霧に紛れて宙から見たが、ほぼ間違いない。七元解厄星君(北斗七星)とそれを支える三台星の理を用いた術だろう。第一星の貪狼と第二星の巨門、下台星の司禄にあたる燈篭の灯りが消えていた」
「おおう、貪狼が尸狗、巨門が伏矢……そして司禄は幽精を司る星じゃ! まさに奴が狙ってきた魂魄と符合しておるわい!」
黄竜真人の見立てに太鼓判を押す霊宝大法師。
二仙の話を聞き頷いた広成子は赤精子と霊宝大法師に命を下す。
「赤精君、分かりましたか? 七元解厄星君に見立てた七つの燈篭のうち、第一星・貪狼の位置にある燈篭を太極図で写しとるのですよ」
「承知!」
「後詰は霊宝君、お願いできますか? 解き放たれた子牙君の魄を頼みます」
「おうさ。解き放たれた尸狗、この儂が逃すとでも思うてか」
■ 鬼哭啾々たる十絶陣にて
**時は殷周革命中。冥風蕭々たる落魂陣**
時は少し遡る。姚天君が秘奥である『九皇三台縛魂散魄咒』を展開すること三日。初日の貪狼、二日目の巨門に続いて、今日、三日目は下台星の司禄に位置する催魂灯の灯りを散じた。しかし一刻ほど待ってはみたものの、一向に姜子牙の三魂の一角たる幽精が寄ってくる気配がない。素直にやって来たのは初日の尸狗のみ。
誰ぞ、魂魄の扱いに長けたものが捕まえているのか、それとも封神台に直接行ってしまったものか。
二日目の伏矢も来ていないが、姚天君としてはどちらでもよかった。秦天君には、初日の出来事を話しており、この後も、すべての魂魄をこちらに集めることができないかもしれないとは伝えている。万が一、術式により剝ぎ取った魂魄が姜子牙の躯に戻ろうものなら、散じた燈篭に灯りが灯るが、どの燈篭も散じたまま。つまり、姜子牙の躯から魂魄が剝がされたままであることには間違いない。もとより身体より剥がされた魂魄は封じておかなければ、散じてしまう。一方で、その躯に戻すときには欠けた魂魄をすべて一斉に戻さなければならないという厄介なものなのだ。よって、尸狗がこちらの手の中にある限り、剥がされた魂魄を戻す術はなく、姜子牙が目覚めることもない。
ともあれ、このまま十日目に三魂の一角たる胎光を抜いてしまえば姜子牙は絶命する。そんなことを考えていた姚天君は、ふとこの場にはそぐわない陽の気を感じ、空を見上げた。
「ほれ見たことか赤精子。主にはいつも言っておろうが。隠形を疎かにするなと。小童に見つかってしもうたわい」
「霊宝殿、それはないではないか。むしろ貴殿の山の如き体躯が、雲からはみ出たのではないか!」
姚天君の視線の先では、蘇芳色の道服を纏った武人のような道士と、丹色の道服に首から拳大はある玉の連なりをぶら下げた、一丈半はあろうかという巨漢が言い争っていた。
姚天君にしてみれば、どっちもどっちではあるが、今の状況が極めて不利であることは確かだ。
秘奥である『九皇三台縛魂散魄咒』を展開しているため、落魂陣本来の術式は止めてある。免戦中に敵襲があるとしても、この中央に位置する落魂陣に到達する前に、周囲の誰かの陣が相手取るはずだったのだ。直にこの陣へ来るなど……まさか裏切者が? 否、そんなはずはない。直近に白鹿島に訪れた、白額虎に跨った道士が脳裏に過るも、今はそんな場合ではなく、この窮地をどう乗り切るかに集中しなくてはならない。姚天君は、何でもないように話しかける。
「これはこれは。ようこそ落魂陣に。貧道は姚天君と申すもの。どちらも高名な道士とお見受けいたす。どこの高山の洞府の御方々でしょう」
丁寧に拱手しながらも、その視線は外さず、陰府(冥界)と陽明(現世)を繋ぐ煙の結界を密かに解除する。十日を待たず立ち込める煙が霧散すれば、誰ぞ異常事態と察知して駆けつけてくれる――その一縷の望みに掛けたのだ。
果たして姚天君の悪あがきは功を奏する。
「ふむ。そう尋ねられれば応えるのが礼儀。儂は、大華山は雲霄洞の赤精子と申すもの」
「そうじゃのう。儂は崆峒山は元陽洞の霊宝大法師じゃ」
想像以上の大物二人に色を失う姚天君。孤軍奮闘など望むべくもない。会話の引き延ばしを図る。
「そ、それはそれは。かの高名な崑崙十二仙がお二方の降臨を賜るとは……落魂陣の誉としましょうぞ。そ、それで本日はどのようなご用件でこちらに? 今は免戦中であったと思うのですが……」
「用も何も!」
袖から太極図を引き抜き、姚天君を責め立てようとした赤精子を、「まて、儂からじゃ」と霊宝大法師が制した。
「ふむ。儂も弟弟子の姜子牙に呼ばれて来たのはよかったのじゃが、十日の免戦と聞いてのう。そうかと思っていたのじゃが……」
と言いつつ、姚天君の背後に立ち並ぶ燈篭たちをゆっくりと見渡しながら告げる。
「いくら戦地とはいえ、相当な陰府の気を察してな……陰府と陽明の界門があっては一大事と調べに参った次第じゃ。姚天君とか申したの。お主、何か心当たりはあらんかの?」
己の背後に立てられた燈篭の配置は上空から見れば一目瞭然。下手な言い訳は窮地を招くと素直に応じる。
「こ、これはこれは申し訳ない。高名な霊宝大法師殿であればご存知であろう。あれに見える燈篭は、我が落魂陣の術でしてな。ご察しの通り、七元解厄星君の御力を体現するものである。なれど、我が未熟故、陰府の気を封じきれなんだようですな。ほれこの通り、術は解除した故、霧も晴れもうした。数刻もすれば陰府の気も霧散するというもの。ご安心してお戻りくだされ」
飽くまでも偶然を装い、退去を促す姚天君。
「十日後の免戦明けには、完成した落魂陣をお目に掛けてみせましょう」
しかし、姚天君の言葉を聞いた霊宝大法師はからからと笑う。
「そうであったか、己の未熟を知ることは、新たな道への階を上がる良き導となろう。善哉、善哉。では、先達として一臂の力を貸そうぞ」
そう言って、勝手に話を進められることに顔を顰める姚天君を無視して、赤精子の肩を叩く霊宝大法師。
「この赤精子はな、玄都の至宝『太極図』を偶さか所持しておってな。これを使って主の陣の澱みをきれいにして進ぜよう」
「なっ!」
突然の霊宝大法師の宣言に言葉を失う姚天君。流石の姚天君も玄都の至宝については聞き及んでいる。催魂灯、促魄灯を消し去られては敵わない。
しかれど止める間もなく、待ってましたとばかりに赤精子が勢いよく袖から『太極図』を取り出して一振りするや、その白地に黒で縁取られた真円の中に、七元解厄星君を模った七つの燈篭が再現された。
「何!」
「なんと!」
「えっ?」
三者三様の驚愕の声が上がる。
『太極図』に写しとられた七つの燈篭は、何事もなかったようにそのまま消え失せる。姚天君の背後にある七つの燈篭も、第一星の貪狼 、第二星の巨門に位置する燈篭の灯りは散じているものの、残りの燈篭の灯りは揺らめいている。
「ははっ、どうやら貧道の術に歪みはなかったようで……」
他はともかく、姜子牙の尸狗を封じた燈篭は破壊され、魄が解き放たれると覚悟していた姚天君。しかして何も起こらなかったことに安堵するも、すぐさま、もとより懸念などなかった風を装い話を進める。
「ぬっ! あれはただの燈篭にあらず! 促魄灯ではないか!」
姚天君の言葉を無視し、燈篭を見つめていた霊宝大法師はその正体を看破する。
「またしても一杯喰わされたわい。赤精子! あの祭壇を写せ!」
指で示すは、七元解厄星君と三台星に挟まれた、小さな祭壇。こちらも予想と違うことに首を傾げていた赤精子だったが、すぐに言われたとおり、祭壇を『太極図』に写し取る。
「あっ!」
声を上げたのは姚天君か。『太極図』に写し取られた祭壇の中央から火柱が上がったかと思うとすぐに消えた。時同じくして、姚天君の背後にあった祭壇からも火柱が立ち昇り、草の人形が燃え尽きる。
立ち昇る火柱と、燃える草の人形を目を細めて見ていた霊宝大法師は、今度は首に掛けた連珠を七元解厄星君を模った七つの促魄灯に投げつける。果たして、第一星の貪狼の位置にある促魄灯の上で止まった拳大の珠が明滅する。
「やはりそこにあったのだな!」
その巨躯からは想像もできない速さで貪狼の位置にある促魄灯に肉薄するや、その籠を開ける。果たして、一縷の魄がするすると出てくるや、腰にぶら下げた瓢を構え、その中に吸い取った。
「よし、子牙の尸狗を取り返した……ぞ」
喜色も顕わに振り返り、赤精子に声をかけたところで、表情が凍りつく。
赤精子は、両手に水火鋒を構え、他の陣から駆けつけてきた秦天君、孫天君と対峙していた。両者の間には、あろうことか、展開されたままの太極図が落ちていた。
「哪吒殿にお伝えしたと思うのですがね。免戦中といえど、十絶陣に近づかば容赦しないと」
そう言って特に構えを取ることもなく淡々と話す秦天君。横の孫天君は両手を袖に隠している。
「免戦と言いつつ、仕掛けてきたのはそちらではないかっ! 子牙の魂魄を剥がしやがって!」
油断なく水火鋒を構えたまま吼える赤精子。
「そうでした。まずは、姜道友の魄を返していただけませんか? お願いされたのですよ。免戦中の暇つぶしに丁度良かったので、願いを叶えていたのですよ」
あまりの秦天君の言い草に鼻白む赤精子と霊宝大法師。
「なんだと!誰の願いだというのだ!けしからん。そんな慮外千万な痴れ者は、見つけ次第首を引き抜いてくれるわ!」
怒髪天の赤精子に対して、どこ吹く風の秦天君。
「どうぞどうぞ。申公豹殿ですよ」
「虚言を弄するな。申公豹は、我が闡教の弟子。姜子牙の兄弟弟子でもあるのだぞ!」
今度は霊宝大法師が吼える。
「さあ、由までは分かりかねますが、確かに申公豹殿の願いですよ」
あっけらかんと応える秦天君に驚愕の眼を向ける孫天君と姚天君。仲間からの視線に気づいた秦天君は二仙に説明する。
「ああ、お二人には話をしていませんでしたね。すみません。申道友は、聞道兄のことなんてどうでも良かったのですよ。私たちを焚き付けに来ただけですね。何を企てているかは存じませんが。しかし、聞道兄が大難にあわれていたことは事実でしたので、申道友の盤を使わせていただいたのですよ」
ますます驚愕に目を見開く孫天君と姚天君。そんな二仙を尻目に、今度は赤精子と霊宝大法師に話しかける秦天君。
「そうそう。時はこちらの味方です。この異変を察知した、他の十天君もおっつけ駆けつけるでしょう」
赤精子と霊宝大法師は、秦天君の指摘に窮地を悟るが、このまま大人しく帰還させてくれるとは思えない。と、そこに見覚えのある朽葉色の煙が立ち込め、飄々とした声がかけられる。
「さて、面白い話も聞かせてもらったので、今日はこの辺で帰りましょうや」
突如煙と共に現れた黄竜真人は、煙遁を使って両仙を連れて帰ろうとする。
「まて、黄竜殿! まだ『太極図』を回収しておらん」
「あ、すみません。無理です。後で取り返しましょう」
立ち込めた煙が風とともに霧散すると、そこには誰の姿もなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回で第四幕は幕を下ろし、幕間を挟んで第五幕の幕が上がる予定です。
よろしくお願いします。
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次回は来週の水曜日23時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!




