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異聞!封神演義 哪吒の妹  作者: 古書堂 箕風


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第一幕 邂逅の乾元山 其の一

初投稿となります。よろしくお願いします。

本作は『封神演義』の世界を舞台にしつつ、現代的な言葉遣いや独自の歴史解釈を多分に含んだ「IFファンタジー」です。神仙たちのシリアスな戦いと、メタ的なコメディ要素のギャップを笑って楽しんでいただければ幸いです!

其の一:三奇仙(さんきせん)の騒動、三千年を駆ける


■ 序

**時は現代、都内某所**


「商(いん)の三十代目にあたる天子、紂王(ちゅうおう)。即位当初は英明なる君主として、天下をつつがなく治め、八百の諸侯も、ことごとくがその徳に帰順した。民百姓は安寧を謳歌し、国には平和な日々が続き、誰しもがこのまま平穏が続くと信じていた。しかし、いつしか天子の心に宿った慢心が、大いなる女神・女媧(じょか)の不興を買う。これをきっかけに、商の天命は傾国の美女・妲己(だっき)に導かれ、天界と仙界の思惑を絡め、血塗られた易姓革命(えきせいかくめい)、後の世に言う『殷周革命(いんしゅうかくめい)』へと突き進むことになる……か」


 スマホ画面に映る、新作ゲーム紹介のいかにもなプロローグを読み上げた女性は、小さく鼻を鳴らした。

「まぁ。キャラデザは推しの絵師が多数採用されてるし、キャラユニット型の戦略ゲーム。魔法の代わりに仙術かぁ。武術はないんやろか? 入試終わったら、当面の暇つぶしには悪くないんとちゃうかな?」


すっかり空になったカップをトレイに載せて返却棚へと向かう。

シアトル系コーヒーショップを出た女性は、雪がちらつく街の中を、宿泊予定のホテルへと歩いていった。


■ 崑崙(こんろん)の洞府(どうふ)にて

**時は遡りて古代、崑崙の神嶺(しんれい)に連なる某山**


 崑崙の神嶺に連なる山々には、十二仙と称えられる元始天尊(げんしてんそん)の高弟が、それぞれの山に洞府を開き、道(タオ)を極めんとしている。そんな神聖な洞府の一角を舞台に物語は幕を開ける。


今、この洞府の主(あるじ)に合力を願わんと、一人の男が訪れていた。しかし、当の主は机にむかっている。その背中に語りつつも、男が吐き出した、魂魄(こんぱく)が封神台まで飛んで行きかねない重苦しい溜息に支配されていた。

「……いや、ほんとうに勘弁してほしいでござるよ。魔家四将。あんなの、まともに相手をしていたら西岐(せいき)の兵が何人いても足りないでござる。貧道、久々に三花が削られ、五気が消されるかと思ったでござるよ」


床にどっかりと座り込み、愛用の背負い籠や笠を放置し、羽扇で力なく顔を仰いでいるのは雲中子(うんちゅうし)である。その風貌は平凡を切り取ったかのようでいて、身の丈もまた、大きくはなく、かといって小さくもない。一見、どこにでもいそうな道士にしか見えず、人込みに紛れれば見失うほど中庸であった。だが、清冽な空気を纏いながらも、そこにいないかのような希薄な気配が、彼を徒人(ただびと)ではないと静かに告げている。そして常に条理を尽くした術理の構築を至上命題とする彼が、客観的な分析を放棄し、これほどまでに湿り気を帯びた後ろ向きな愚痴をこぼすのは、極めて珍しいことであった。それほどまでに、人間界での「四兄弟」の猛攻は苛烈を極めていた。


「四種の宝貝(パオペイ)による多彩な攻撃、四人の息の合った連携と四方向からの同時攻撃…… あやつら『四』という陰の数秘に魂を捧げすぎでござらんか。一人欠ければ隙もできようが、四人揃った時のあの盤面の完成度といったら……」

雲中子の泣き言を、机に向かったままの男が「ふむ」と鼻で笑った。

「『四』、か。良い数字だな」


ようやく振り返ったのは、この洞府の主その人だ。

まるで光を吸い込む夜の裂け目のような蒼黒の髪が、手入れされず野放図に伸び、これまた伸び放題の髭と同じくその顔を覆い表情がうかがいしれない。垣間見える眼(まなこ)は、蒼い浄眼(じょうがん)。本来ならば清浄な理(ことわり)を映すはずのそれには、知性よりもむしろ、底知れぬ狂気が宿っていた。

その正体は太乙真人(たいいつしんじん)、乾元山(けんげんざん)は金光洞(きんこうどう)の主である。

――仙界でも「創造の奇才」と謳われながら、その実態は飽くなき知的好奇心の忠実なる僕(しもべ)であった。「道(タオ)とは閃きの中に垣間見える真実であり、好奇心こそが真理である」と嘯(うそぶ)き、古(いにしえ)よりの「伝統」や「礼節」を、昇仙(しょうせん)の過(あやま)ちか、あるいは修行の道すがらにでも置き忘れてきたような男。後世の言葉を借りるならば、まさに「狂える学究(マッドサイエンティスト)」と呼ぶに相応しい。


「玉柱洞(ぎょくちゅうどう)、お前は大切なことを見落としている。敵が四人で強いなら、こちらが三人なのが間違いなのだ」


「……は?  何を言っているでござるか?」

洞府の名で呼ばれた雲中子は、間の抜けた声を漏らす。

「我が愛弟子、哪吒(なた)。その兄である金吒(きんた)、木吒(もくた)。現在(いま)、李家の兄弟は三人だ。これでは魔家四将の『四』に数で負けるのは自明の理。ならば答えは一つだ。哪吒の次、四番目を作れば良い。もとよりそのつもりであったしな。」

「ど、どういうことでござるか?」

「ふむ。玉柱洞は哪吒が敖家(ごうけ)の東海青龍王(とうかいせいりゅうおう)ともめた一件を覚えておるか?」


「……あの混天綾(こんてんりょう)の事件でござるね。覚えておるでござるよ」

「あの時、敖家の四海竜王を見て思ったのだよ。やっぱり強者は四兄弟であるべきだ……と」

「全然、反省の色がないでござる?? あの事件の後始末、天軍は怒るわ、宮中は震え上がるわ。誰が駆けずり回って収めたと思っているのでござる? 苦労のあげく、貧道の髪が抜けるわと思ったでござるよ? もう忘れてたでござるか??」


太乙真人は、雲中子の抗議もどこ吹く風と、机の上に置かれた淡い光を放つ物体を愛おしそうに撫でた。

「こいつの見た目はただの乾いた鱗片だが、『翡翠蘭(ひすいらん)』といってな、西域の霊峰を越えるときに見つけた希少な植物の核だ。なぜか瑞雲(ずいうん)が立ち昇っていたのでな、近づくとその袂(たもと)で見つけた。何かしらの縁があると思いとっておいたのだ……ふっ、こんなに早く使い途が見つかるとはな」

「まったく人の話を聞いてないでござるよ。別に今更でござるが……ふむ。貧道も覚えがあるでござるよ。険しき高嶺にのみ咲く、美しい蘭のことでござったな……」

過去に見た美しい花を思い出した雲中子。少し陶然とするも、ふとある考えに思いが至り、眉を顰(しか)める。

「太乙殿!? まさかこれを核にまた、人の形を成そうというのではあるまいな??」

「そのまさかだよ。玉柱洞。名付けて、『李家四兄弟化の計』。ちょうど良い、前の天界交流で、『ティル・ナ・ノーグ』から持ち帰った「西方の未知の術式」も試したかったところだ。この螺旋状の術式……三千年の未来をさえ手繰り寄せそうな予感がするぞ」

「待つでござる! 太乙殿。その術式はまだ未検証のはず! せめて術式は使い慣れたもので試すでござるよ!」

雲中子の制止など、興味最優先に走る狂える学究の耳には届かない。太乙真人の指先が、翡翠の核に未知の、鋭角的な記号を刻み込もうとした――その時である。


洞府の空気が、別の意味で震えた。

「――太乙の! そなた、西域の果てより帰ってきたのであろう? 新しい酒を隠し持っておらんか?」


空間を強引にこじ開けるようにして、一人の男が、その「新種の酒の気配」を頼り、常の五行遁法(ごぎょうとんほう)とは違う何かを借りて突っ込んできた。

その鍛え上げられた岩のような巨躯の持ち主は、玉泉山(ぎょくせんざん)が主、玉鼎真人(ぎょくていしんじん)その人である。


「玉鼎殿!  今はまずいでござる、術式展開中でござるよ!」

 

雲中子の制止は届かない。太乙真人の指先が描く、西方の楔のような文字と組み上げられた術式。円を基調とした魔法陣。そして五行遁法にはない何かの力で龍脈(りゅうみゃく)を割り裂いた玉鼎真人の仙気が、翡翠の核の上で最高最悪の拍子で交差した。


「ぬおぉっ 儂の酒!」


直後、制御を失った術理が狂瀾(きょうらん)の如く吹き荒れ、金光洞を白濁させる閃光が包み込んだ。


■ 横浜のとある学び舎にて

**時は流れて現代、某大学敷地内**


 横浜にある国立大学のキャンパスは、冬を控えた柔らかな夕刻の光に包まれていた。

 

 理工学部の校舎から出てきたポニーテールの女性は、リュックの脇に差し込んでいたミニセグウェイを地面に置いた。最近購入したマシンに足をかけ、バランスを確かめながら電源を入れようとした、その時だ。


「ちょっと翠(みどり)! 待ちぃや。今日のアプデ後のガチャ廻した?」

背後から駆け寄ってきた友人の声に、彼女は片足を地面に残したまま、ゆっくりと振り返った。

「あ、京子……何? まだ今日は開いてもいないよ。ギガもったいないからバイトの時に、お店でアプデする予定よ」


声をかけてきたのは友人の南(みなみ) 京子(きょうこ)。大学入学からの縁だ。もっとも、女子の少ない理工学部では女子全員が友人関係にあるといえば理系女子あるあるだろうか。神戸生まれ、薄い本育ちである彼女の影響で、翠もファンタジー系戦略シミュレーションゲーム『封神・クロニクル』を始めた。いわゆるサブカルの師匠にあたる。

「まったくこの子ったら。節約できるいい奥さんになるよ」

「バイト代=課金代 の人に節約と言われてもピンとこないわ」

そのまま次の講義に行こうとする翠。

「相変わらずドライやなぁ……違うよ! アプデの話もだけど、大会連覇おめでとうって言いたかったんよ。決勝の動画見たけど、どこの課金キャラやねんって思ったわ。週末は『酔八仙(すいはっせん)』で祝勝会するんで絶対空けといてよ。梁(リャン)さんも張り切って点心準備するってさ」


「祝勝会ね……まあ、師匠の点心なら、摂取カロリーを消費するだけのトレーニングを増やす価値はあるかな。検討しとく」


翠――そう呼ばれた女性はスマホのスケジュールアプリを片手で操作しながら、素っ気なく答えてミニセグウェイに両足を乗せた。友人の呆れたような笑い声を背に、音もなく滑走を始める。


スワイプされた画面には、ファンタジー系戦術シミュレーションゲーム『封神・クロニクル』の期間限定イベント「魔家四将の猛攻」の攻略画面が開かれていた。

(言えない……プレゼントガチャでピックアップキャラをゲットしていたなんて絶対言えない……私の推しは天化(てんか)様だし)

とうにアプデを完了し、しっかりガチャまで廻していた翠。なんだかんだと染まっている。

(にしても、新シナリオの「四兄弟」の陣形……兵法的にはありえないけど、初見殺しのギミックとしては面白い。私なら、ここに崑崙道士ユニットを円軌道上に設置して、回避ルートを構築…… いや、四兄弟か……属性の相克的(そうこくてき)な意味があるのかも。帰ったら詳しく調べるかな)


その時だった。眼前に、鮮やかな光を放つ幾何学的な紋様が浮かび上がった。


「なんで八卦図(はっけず)が? ……いたずら? プロジェクションマッピング……でもない?それよりなんで八卦図に楔型文字が……? 何?」


現象を分析しようとした瞬間、周囲の風景がぐにゃりと歪んだ。

キャンパスの喧騒がふっと消え、音のない世界に取り残されたこと、なぜか芳醇なアルコール臭を確認したのを最後に、彼女の意識は遠のいていく。


直後、激しい閃光が瞬いた。


だが、光が収まったあとの路面には、何事もなかったかのような静寂が訪れていた。風に舞う枯葉の音だけが響き、そこに翠の姿は、もうなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下部にある【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】の評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


次回は明日23時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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