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不可思議事件録2 ~鋼鉄の支配を琥珀の絆で描き直せ。少年と巫女が綴る、街と家族の再設計~  作者: たくみふじ
第四章 鳴弦の塔、絶望を貫く朱の旋律

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階層の守護者、アーカイブに眠る父の残響㈡

冷たい数式を温かな余白へ。少年と巫女が綴る、世界再設計のファンタジー

『……だが、私は気づいた。……完璧な設計図には、住む人の「体温」が入り込む隙間がないのだということに。……良亮。パパはこの塔の……地上二十階、メインコントロール・コアの背後に、たった一箇所だけ、物理的なスイッチを隠した』


 良亮は、自身の痣に意識を集中させた。レコーダーの声に同期するように、脳内の地図の「空白」だった部分に、黄金の光が灯った。


『……それは、工藤の論理演算では決して辿り着けない、「非合理な余白」だ。……そこを起動させれば、この塔は「支配の楽器」から、街の人々にそれぞれの「個」を取り戻させるための「目覚ましの鐘」へと変わる。……だが、それにはリスクがある』


 伸介の声が、急激に重みを増した。


『……そのスイッチを押した者は、塔に流れる全人類の意識の奔流を、その身一つで受け止めなければならない。……良亮、お前がその道を選ぶなら、お前の心は……一時的に、バラバラに砕け散るかもしれない。……それでも……それでも、私は……。……いや、これは親としての、エゴだな。……許してくれ、良亮』


 プツッ。テープはそこで切れ、レコーダーは沈黙した。部屋を包んでいた懐かしい香りが、急速にオゾンの匂いに塗り替えられていく。


「……パパ。……分かったよ。……パパが、どうしてあんな事故で……死ななきゃいけなかったのか」


 良亮は、紫紺の痣が這う自らの右腕を、血が滲むほど強く握りしめた。伸介は、工藤の支配理論を完成させることができた。しかし、彼は最後に「人間」であることを選び、自らの設計に意図的な致命的欠陥を埋め込んだ。その報いとして、彼は工藤ハルによって物理的に排除されたのだ。


「良亮さん。……赤い龍が、わたくしに告げておりますわ。……あなたのパパは、あなたを愛していたからこそ、その重荷を託したのですわね。……おーほっほっほっ! 何とも不器用で、そして誇り高い親子ではありませんか!」


 竜子が、そっと良亮の背中を押した。


「……わたくしがお守りいたしますわ。……あなたの心がバラバラになろうとも、わたくしの舞いが、一欠片(ひとかけら)残らず拾い集めて差し上げますわよ」


 その時、部屋の天井が凄まじい衝撃と共に崩落し、青いプラズマの雨が降り注いだ。


「……感動的な親子の再会は、そこまでにしておきましょうか」


 降りてきたのは、執事・銀だった。彼の銀髪は青い磁気によって逆立ち、その全身からは、以前の戦いを遥かに凌ぐ「殺意の計算式」が溢れ出していた。


「……弓様は、すでに最上階の祭壇にて、ハル様と一体化し、鳴弦(めいげん)の最終調整に入っておられます。……伸介様の遺した『ゴミ』など、今の工藤には通用しませんよ」


 銀が手をかざすと、部屋に飾られていた設計図の額縁が一斉に砕け、その破片が鋭利な刃物となって良亮たちを襲った。


「……良亮さん、伏せて!」


 竜子が扇子で破片を弾き飛ばすが、銀の放つ「磁気的な空間圧縮」の前に、竜子の結界に亀裂が走った。


「……銀。……君たちの設計は、もう古いんだよ」


 良亮が、ゆっくりと立ち上がった。彼の右腕の痣が、純白の輝きを放ち、周囲のワイヤーフレームを琥珀(こはく)色のグリッドへと強制的に変換し始める。良亮の視界の中で、銀が操る「磁気エネルギーのベクトル」が、数式として完全に解体されていた。


「……構造統合(アーキテクチャ・シンクロ)! ……ターゲット、第十五階層全域! ……概念定義:『父の書斎』!」良亮が指を弾くと、砕け散った設計図の破片が、空中で静止した。良亮の意志が、工藤の支配する物理法則を一時的にオーバーライド(上書き)し、この部屋の属性を、銀の攻撃を受け付けない「良亮自身の記憶の空間」へと書き換えたのだ。


「……な、何だ……!? 空間の慣性モーメントが、書き換えられたというのか……!?」


 銀の攻撃が無力化され、彼自身が、空間の「論理的な歪み」に囚われて動けなくなる。


「……竜子さん、今だ! 階段を!」


「おーほっほっほっ! 承知いたしましたわ、設計士さん!」


 竜子が、動けなくなった銀の横を華麗に通り過ぎ、最上階へと続く光のエレベーターのシャフトへと飛び込んだ。

 良亮は、最後にレコーダーを一瞥した。


「……パパ。……行ってくるよ。……僕が、パパの設計を、本当の形に完成させるから」


 良亮の右腕の痣が、心臓を掴むように左胸へと這い上がった。侵食は、臨界点まであと数センチ。天を衝く絶望の尖塔にて、父の残響を胸に抱いた少年と少女は、ついに、工藤ハルが待ち構える最終祭壇へと足を踏み入れた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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