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最弱テイマーは癒されたい ~頼れる仲間とコンカフェを作ったらイケメンが集まりました~  作者: 愛庵苦労


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第1話 最弱テイマーの始まり①☆

水瀬雫は、いつものように満員電車の中でスマホを握りしめていた。


34歳、独身、IT企業のキャリアウーマン。

年相応に管理職も任されているけど昨今のコンプライアンスから部下には強く言えず、止む無く急ぎの仕事を抱えることもあった。残業続きで目はしょぼしょぼ。昨夜も持ち帰った仕事で徹夜明け、本日の朝食はコンビニのコーヒーだけ。


疲れた身体に鞭を打って出勤する彼女の頭に浮かぶのは、ただ一つ——「落ち着いた空間で、ゆっくりしたい」つまり。癒しを求めていた。


スマホの画面にはいつものように異世界転生もののWeb小説が表示されていた。


「はぁ……私もこんな風にトラックに轢かれてチート能力もらえたらなぁ~……」


そうこぼした直後だった。


ガシャン、という金属の軋む音。世界が横に滑った。

次の瞬間、激痛も恐怖もなかった。ただ、ふっと身体が軽くなり、視界が真っ白に染まる。スマホが手から零れ落ち、ゆっくりと回転しながら落ちていくのが妙に鮮明に見えた。


(あ、これ死ぬやつだ)


それが雫の、最後の思考だった。



ふと気づくと真綿に包まれたような浮遊感に包まれていた。

しかし、その心地よさを意識した瞬間、胃袋が急に持ち上がるような感覚が襲ってきた。


「え……? お、落ちてるーーー!?」


頰を切り裂く風が、瞬く間に鋭さを増していく。背中にのしかかる風圧に押されるも、落下速度は緩まない。後ろから吹き荒れる強風が髪を激しく乱し、視界を白く染めた。


雫は再び死を覚悟した。


だが、仰ぎ見た空はどこまでも澄み渡る青だった。柔らかな陽光が、まるで祝福するように彼女の体を包み込む。恐怖のなかにも、不思議な美しさがあった。


手足をばたつかせても掴むものは何もない。せめて落下の衝撃を和らげようと、雫はとっさに身体を丸めた。すると体はくるくると回転し、前後不覚に陥る。


――ボヨ~~~ン。


もうどうにもならないと諦めかけたその瞬間、冗談のように柔らかい衝撃が全身を包んだ。それは痛みなどではなく、むしろ全身を優しく受け止める、甘い浮遊感だった。


「え、ええっ!? 私の下に……何かあったの?」


恐怖から我に返った雫は、慌てて起き上がろうと手をついた。すると指先がふにゅりと沈み込み、猫の肉球のような心地よい反発が返ってくる。


「えっ? なに、これ……?」


ゆっくりと身体を起こすと、彼女は巨大な白い物体の上に座り込んでいた。表面はつるりとして滑らかで、適度な弾力がある。まるで最新の座り心地を追求したバランスボールのような──いや、それよりもずっと不思議で、生きているような感触だった。


雫が恐る恐るその白い物体から降りると、潰れていた部分がゆっくりと元の形に戻っていく。大福のような、または巨大なマシュマロのような、愛らしい丸みを帯びて。


「こんなの、ネットでも見たことない……。あなたが、私を助けてくれたの?」


独り言のように呟いた瞬間。


ぷるるんっ。


白い物体が、まるで言葉を理解したかのように全身を小さく震わせた。


「ええーーー!? あなた、生き物なの!?」


雫は思わず飛び退り、心臓が口から飛び出るかと思った。

直近の出来事のなかで、これが一番死に近かったかもしれない


――そんな馬鹿げた考えが頭をよぎる。


白い生き物は再びぷるぷると体を波打たせ、まるで「大丈夫?」とでも言っているかのように、優しく彼女の方へ少し近づいてきた。


雫の知る限り、こんな生き物はこれまで見たことも聞いたこともない。巨大なマシュマロか、極めて高級なクッションかと思いきや、明らかに意思を持って動いている。


「まさか……ね。本当に異世界なんてこと、あるわけ……ないわよね?」


声が上ずる。自分に言い聞かせるように呟きながら、雫は震える指で虚空を軽く叩いた。


「試してみれば分かる……ステータス!」


瞬間、視界の中央に淡い青白い光のウィンドウが浮かび上がった。


【名前:】

【年齢:15】

【職業:なし】

【固有スキル:テイマー(スライム系)・絆魂約】


「……」


雫は数秒、固まった。


現実がゆっくりと、しかし容赦なく脳に染み込んでいく。15歳。明らかに若返っている。しかも、見たこともないスキル名まで表示されている。


「あ~……あるよね~、そういうの。なぜだか若返るやつ……アハ、ハハ……」


乾いた笑いが、喉の奥から零れ落ちた。笑いながらも、目だけが泳いでいる。


可能性は感じていた。電車に轢かれる直前、ふと頭をよぎった馬鹿げた妄想。でも、本音では「まさか本当に」なんて思いたくなかった。普通に死んで、普通に終わるはずだったのに。


白いスライムは、そんな彼女の様子を心配するように、ぷよん、と小さく跳ねてさらに近づいてきた。触れると優しく、ほんのり温かい。


雫はしゃがみ込み、そろそろとその白い体に手を伸ばした。ふにゅりとした感触が指先に伝わる。怖いはずなのに、不思議と安心する柔らかさだった。


「……あなたが、私の初めての『テイム』対象ってこと?」


スライムが、嬉しそうに全身を小さく震わせた。

雫はため息を一つ吐き、苦笑しながら呟いた。


「はぁ……まあ、トラックじゃなくて空から落ちて、スライムに助けられるなんて……悪くないスタートかもしれないけどさ」


青い空の下、15歳になった体で、雫の異世界生活は、予想外の相棒と共に幕を開けようとしていた。


主人公※生成AI画像

挿絵(By みてみん)

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