ミランダは生きることにした
(ん……? ここは……?)
ミランダがぼんやりと真紅の目を開けると、見慣れた天井が目に入って来た。
エードラム伯爵邸の、ミランダの私室である。
(えっと、私、どうしていたのかしら……?)
ぼんやりとする中、視界には可憐な女神のような女性の姿が飛び込んで来た。
「ミランダ、良かった……!目が覚めたのね!」
オリヴィアである。
ふわりと上品な花のような香りが鼻を掠めた。
「オリヴィアお義姉様……」
ぼんやりとする中、幸せに包まれるミランダである。
「ミランダ、本当に良かった。闇のドラゴンの体内に自ら飛び込んで行ったと聞いた時は、肝を冷やしたわ」
オリヴィアのアメジストのように神秘的な紫の目からは、水晶のように透明な涙がポロポロと溢れ出す。
ミランダはそれすらも美しいと感じていた。
「オリヴィアお義姉様、闇のドラゴンは……倒せましたのよね?」
ダメージにより記憶が少し曖昧なミランダはオリヴィアに確認する。
「ええ、ミランダ。貴女のお陰で倒すことが出来たわ。もうタフマ王国が闇のドラゴンの被害を受けることはないでしょう」
「そうですか。良かった……」
改めて確認が取れ、ミランダはホッと肩を撫で下ろした。
これでオリヴィアの幸せを妨げる存在はいなくなったのだ。
ミランダの役目は終わったも同然である。
「でも、まさか私が生きているなんて……」
ミランダはポツリと漏らした。
ミランダはオリヴィアの為に死ぬつもりだったのだ。
「ミランダ、貴女が死ぬなんて、そんなことあってはいけないわ」
オリヴィアはミランダを強く抱きしめた。
「大好きなミランダには、生きていて欲しいのよ」
オリヴィアの優しい声が、ミランダの耳にダイレクトに届く。
大好きなオリヴィアに、「大好き」と言ってもらえてミランダは泣きそうになる。
「オリヴィアお義姉様、私もお義姉様が大好きです。今……嬉しすぎて死にそう」
「死んだら駄目よ。生きてちょうだい」
しばらくミランダとオリヴィアは、涙を流しながら微笑み合っていた。
「ミランダ、貴女十日間も寝込んでいたのよ」
「十日間も!?」
自身が寝込んでいた期間に驚くミランダ。
歴代最長である。
「その間にウルスラ様からたくさんお見舞いが届いたわ」
「ウルスラ様から……」
以前にも彼女から大量のお見舞いに品が届いたことがあったなと思い出すミランダである。
その時、ミランダの部屋の扉がノックされた。
ブライアンとルシアンである。
「ミランダ……!」
「目が覚めて何よりだ」
二人共、ミランダの意識が戻ったことにホッと肩を撫で下ろしていた。
(そうだわ、オリヴィアお義姉様とブライアンとルシアン様には多大なるご迷惑をおかけしたのだわ)
ハッと気を失う前のことを思い出し、ミランダは肩を落とす。
「皆様、この度は多大なるご心配とご迷惑をおかけして大変申し訳」
「謝るな!」
申し訳ございませんと言おうとしたミランダだが、ブライアンに遮られてしまう。
彼の黄色の目からは涙が零れ落ちそうだった。
「ミランダ、お前は毎回毎回何で謝るんだよ!? 言う言葉が違うだろう!」
鼻水を啜り自身の涙を拭うブライアン。
「でも……全員私なんかのせいで」
ミランダは俯く。
自分に価値があるとは思わない。
だからこそ、オリヴィア達に心配や迷惑をかけることが申し訳なかった。
「ミランダ、『私なんか』って言わないでちょうだい。みんな貴女が大切なの」
「そうだぞ、ミランダ嬢。君は自己評価が低過ぎる面があるな」
オリヴィアとルシアンは困ったように苦笑していた。
「ミランダ、お前を否定することは、お前を認めているオリヴィア嬢とルシアン様のことも否定することになって失礼だぞ」
ブライアンははあっとため息をつく。
「それに、俺だってお前のことを認めてる。前にも言ったけれど……俺はお前が好きだ、大切なんだ」
ブライアンはベッドの横で屈み、ミランダに視線を合わせた。
黄色の目は真っ直ぐミランダに向けられる。
その真っ直ぐさに、ミランダは思わず視線をそらしてしまう。
こういう時、ミランダはどうしたら良いのか分からない。
しかし、ある言葉が脳裏に浮かぶ。
「……ありがとう」
すると、ブライアンは満足そうな表情になる。
「ああ、その言葉だよ。ごめんなさいじゃなくて、ありがとうだ」
ブライアンだけでなく、オリヴィアとルシアンも嬉しそうである。
「オリヴィアお義姉様、ルシアン様、ブライアン……ありがとう。ありがとうございます」
少しだけ、照れ臭くなるミランダだった。
その時、ミランダはハッと気付く。
(そういえば……ブライアンに好きだって言われたけど、私返事してないわ……)
自分の気持ちとブライアンからの言葉に、ミランダは頬が赤くなってしまう。
でも、今なら素直に気持ちを伝えられる気がした。
「ブライアン、あのね、私もあんたが好き。だから……嬉しかった」
ブライアンから目をそらし、俯くミランダ。ブライアンの顔を直視出来ない。
オリヴィアとルシアンは、温かい目で二人を見守っている。
「ああ。……ミランダ、お前は……目を離したらすぐに死にに行きかねない。でも……俺が、お前を絶対に助けるから」
ブライアンの黄色の目は真っ直ぐ力強く、まるでシトリンのようだった。
「ありがとう、ブライアン。でも、私、もう死にに行く選択はしないわ」
ミランダは顔を上げて真っ直ぐブライアンを見る。
「そうか……」
ブライアンは嬉しそうに表情を綻ばせていた。
オリヴィアとルシアンも、嬉しそうである。
(大好きなオリヴィアお義姉様が幸せで、オリヴィアお義姉様の隣にルシアン様がいる。そして、ブライアンが私の側にいてくれる。私……生きていたい。やっぱり、大切な人達の側にいたい)
ミランダはそう思い、微笑むのであった。
死にたがりだったミランダは今、生きる選択をしたのである。
読んでくださりありがとうございます!
これで完結です!
ミランダがようやく前を向き生きる選択をするまでの物語なので、こういう終わらせ方にしました。
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