表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/181

第二章 【52】 決着①

〈ヒビキ視点〉


「……これで、満足か? では次は、貴様らが契約を遵守する番だ」


「……は? 何言ってんだ、お前?」


 負傷者を連れた、女蛮鬼たちの転移を見届けたのちに。


 改めて声をかけてきた、紅蓮蓬髪の魔人に。


 ヒビキが挑発の笑みを向けると。


「……ッ、貴様、謀ったのか!? これだから、人間という下等生物はッ!」


「おいおい勘違いすんなよ。ちゃんと『契約』は『守った』じゃねえか」


「そうだぜエ、約束通り『俺サマたち』は『この場に残った』ア。けどなア、そのあとテメエらについて行くかどうかはまたア、別問題だろうがよオ?」


「……ッ! 詭弁を……ッ!」


「あははははー。もおーっ、ラースはあー、そういうところだよおー? 昔から、詰めが甘いんだってえー。こんな未成熟体にまで手玉に取られてえー、これから先いー、ちゃんとやっていけるのおー?」


「……ぐー……ぐー……」


 遠目には、穏やかに眠っているようにさえ見える。


 異形を収束させて人型へと戻った、中性的な魔人に膝枕をしながら。


 周囲に魔獣たちを従えた、妖艶なる女型の魔人に、ケタケタと笑いながら指摘をされて。


「クッ……ならば、改めて契約だ! 我らとともに、来い! 人間ども!」


「いやそれ、契約じゃなくて、単なる命令だろ?」


「ヒャハハハ! どうやら魔人サマってエのは、力任せが過ぎてエ、交渉ごとには不慣れみてエだなア!」


「ええー、そんなことないよおー。ラースがとびきり不器用なだけでえー、僕ちゃんたちはそこまで――」


「――スロウ、喋りすぎだ」


「……あ、ごめんねえー、ラースう」


 生物として不自然なまでに膨らんだ胸部を。


 膝上に乗せた魔人の、瞳を覆うように乗せながら。


 首を傾げたスロウと呼ばれる魔人が、改めて、ヒビキたちに視線を向ける。


「んんー? っていうかキミたちいー、この状況でえー、さらに僕ちゃんたちから情報を引き出そうとしているのおー? やっるうーっ!」


「……いえいえ、買い被りすぎですよ」


「オネーサンよオ、あんま疑り深い女はア、嫌われっぜエー?」


「あははははーっ! 僕ちゃん、嫌われちゃったかあー。ざんねんざんねんっ!」


 言葉の上では、陽気に笑いつつも。


 温和そうな表情を刻んだ、仮面のもとで。


 じっと観察者の視線を、ヒビキたちに向けていたスロウは……


「……ひびきい……あぶらひ、むう……ずずず……」


「……うんうん、エンヴィーちゃんがあー、お気に入りになる気持ちがあー、僕ちゃんもわかってきちゃっかもー」


 膝上の魔人が寝言のように漏らす言葉に、頷いて。

 

 怒りによって額に血管を刻んだラースに。


 間延びした声音で語りかける。


「ねえねえラースう、僕ちゃんも『あれ』欲しいーっ! ちょーだあーいーっ!」


「っ!? スロウ、貴様までそんなことをっ!?」


「だってだってえ、これから先はあー、もっともっと、人間たちの生態を知らなくちゃでしょー? だったら僕ちゃんたちとまともに会話を成立させている時点でえー、確保するだけの価値はあー、あると思うんだけどなあー?」


「……ッ! いや、しかし――」


「――それともラースの『想い』って、その程度なの?」


 それまでの。


 どこか演技のように感じられた陽気さを、取り払って。


 鋭く突きつけられた、スロウの問いに。


「……そんなわけ、あるか。我らの目的は、何者にも優先される」


 こちらは混じり気のない憤怒を鎮めてまで。


 ラースは淡々と、答えたのだった。


「……ん、だったらいいよおー。ごめんねごめんね、変なこと言っちゃってえー」


「……謝罪は不要だ。いいから貴様は、これ以上口を滑らす前に、先にそいつらを引き連れて戻っていろ」


「ええー? ラースう、ひとりで大丈夫うー? ぜったいにいー、壊しちゃダメだよおー。人間ちゃんは、僕ちゃんたちと違ってえー、とっても脆いんだからさあー?」


「わかっている」


 半信半疑といった、スロウの瞳に。


 不快そうな表情を浮かべつつも。


「……とはいえ、だ」


 魔人同士の不穏な会話を、切り上げて。


 振り向いたラースがヒビキたち向ける視線には、驕りや油断など、一欠片も存在しない。


 紅蓮蓬髪の魔人が、交渉人としては二流でも、戦士としては超一流であることに、今さら疑いの余地はない。


 それでも、だ。


「「 ……ッ! 」」


 彼我の実力差を理解して、なお。


 気後れなど、微塵もしていない。


 噛み付くような視線を向ける、人間たちを前にして。


「……アレらをあのまま、我らの拠点に持ち帰るのは少しばかり不安だ。この場で少々、躾けておく」


 ゴキゴキと、面倒くさそうに。


 身体の関節を鳴らしながら。


 凶悪なまでの魔力を噴き出す魔人が、一歩、また一歩と、距離を詰めてくる。


「上ッ等! やれるもんならやってみやがれエッ!」


「思春期のクソガキを相手にする面倒臭さ、たっぷり教えてやるよッ!」


「……貴様らは本当に、気でも狂っているのか? 命が惜しくないのか?」


 そりゃ誰だって、命は惜しい。


 けれどもヒビキが取るべき対応は、変わらない。


 何故なら挑みもせずに屈するような生き様を、ヒビキは今世において、許されていないからだ。


 今この瞬間でも、鮮明に思い出せる。


 脳裏に焼きついた光景を思い浮かべて。

 

 最後まで己の信念を貫いた、あの偉大なる母親のように……


(……たとえ最期の瞬間になろうと、徹底的に、抗ってやるッ!)


 たとえ力及ばずとも、暴力などには決して屈しない。


 愚かでも誇らしい、矜持だけは示してやる。


 そう、生き様を定めているのだ。


「戦場で命を惜しむ馬鹿は、二流だア! 超グレートスペシャルな俺サマを、そんなザコども一緒にすんなア!」


「師匠から散々と、命の使い方は叩き込まれてきたんでね。使うべきときに惜しむなんて愚かな真似したら、それこそ師匠にぶっ殺されちまうんだよ!」


「……理解不能だな。有限なる命を、どうしてそうも無意味に消費する? ……いや、お前たちはそのように、思わないのだったな。……そうだ、あのときもたしか……」


「……ラースう?」


「……いや、いい。それよりもお前は早く、エンヴィーを連れて引き上げろ。ついでにそこの魔獣どもも連れて行け」


「はいはい。じゃあラースう、お土産よろしくねえ〜。そこの人間ちゃんたち……ひびきちゃんと、あぶらひむちゃん? も、またあとでねえ〜」


 そうして、この場に現れた時と同様に。


 空間に手をかざすだけで、複雑な魔法陣を展開して。


 転移魔法を発動させたスロウが、未だに目を覚さない魔人と、それに付き従う魔獣たちを率いて、歪んだ空間の向こう側へと姿を消していって。


 それから。


「……では、躾の時間だ。人間ども、あまり容易く壊れてくれるなよ?」


「ハッハア! アブラヒム・ヴァン・ヘルシングだア! 相手にとって不足なし! テメエも一端の戦士を気取るなら、名を名乗りやがれエ!」


「……ヒビキ・ライヅだ。さっきは偽名で済まなかったな。こっちが本名だ。で、お前の名は?」


「……」


 どうやら、怒りに染まりやすい性質ではあるものの。


 知性そのものは、おそらく並の人間よりも優れている魔人であるからして。


 そうして名乗りをあげるヒビキたちの意図も。


 見え据えてはいただろう。


 それでも。


「……ラースだ。『翠』の魔王が臣、『憤怒』のラースだ」


 心から不快そうに、眉根に皺を刻みながらも。


 魔人の戦士は、己の名を、口にしたのだった。


        ⚫︎


〈ラース視点〉


 そうした、人間たちの名乗りに。


 ラースが応えてから、五分ほどが経過した。


(……まあ、人間にしてはよく保ったと、評価すべきなのだろうな)


 ゴゴッ……ズゴゴッ……と。


 飢餓に対する供給が、一向に満たされないために。


 悲鳴を上げ続けていた地下空洞の、中心において。


 ボロボロと崩壊していく魔界樹を眺めながら。


 対照的にこちらは、息ひとつ乱すことなく。


 周囲を睥睨する紅蓮蓬髪の魔人……ラースが。


 地面に横たわる人間たちを視界に捉えて、そのような評価を下した。


(それにけっきょく最後まで、こいつらは敗北を認めなかった。我々《デモルド》を相手にして、屈することをしなかったな……)


 全身の骨を折られ、肉を潰され、手足を歪な方向に曲げられても。


 悲鳴ひとつ漏らさなかった、豚鬼オークや。


 武器である魔剣を全て粉砕され、黒鎧を砕かれたあとは、最後は己の鬼牙きばを用いてまで。


 不屈の意思を示した、半血鬼ダンピールも。


 今は二人とも意識を手放して、地に伏している。


 か細い呼吸こそ漏らしているものの。


 しばらくは、意識を取り戻すことはないだろう。


 たとえどれほど気持ちで抗ったところで、覆しようのない圧倒的な実力差による、無慈悲な光景がそこにあった。


 それでも。


(……)


 そうした挑戦者たちの、気概は。


 絶対強者の心に、小石ひとつぶん程度の波紋は起こしたようであり。


(……ふん。まあだからといって、どうということもないが)


 すぐにそれを、強引に。


 水底へと沈めることで。


(かつての愚行を、二度は繰り返さぬ。人間どもは、魔族《我ら》の敵だ。踏み潰すべき害虫なのだ。それは変わらない、創造神様の定めた摂理だ)


 再び心を、業火の如き怒りで満たしていく。


(思い出せ。決して忘れるな。あのときの恥辱を、憤怒を、悔恨を、殺意を………………我らの王の、哀しみをッ!)


 そうして、すでに五百年以上にも渡る積年の憎悪に身を浸しながら。


 主人より『憤怒』の冠を与えられた魔人が。


 ひとまず戦利品を、回収しようとして……


「……久しぶりだね、ラースくん」


 まずは身近にいたために、手を伸ばそうとした。


 気絶させたはずの豚鬼の口から。


 そんな言葉が、漏れてきたのだった。


【作者の呟き】


 ざっくりとした現時点での力関係。


 魔人、聖人、テッシン、マリアン 》》》 (超えられない壁) 》》》 聖浄騎士、ヒビキ、アブラヒム、レイア 》》》 高位階梯冒険者、半魔人、女蛮鬼の大戦士たち 》》》 中位階梯冒険者、番魔獣 》》》 低位階梯冒険者、魔獣 といった感じですかね。


 今の主人公は一般人から見たら十分に上澄みだけど。


 逸般人いっぱんじんから見たらまだまだ物足りないよね。


 といった立ち位置ですね。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
作者様がママ殿をなんとか抑えている…! ママ殿によってラースくんがムゴいほどボコられている未来が見えたんだが…(-_-;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ