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第二章 【14】 新生活①

〈ヒビキ視点〉


「うっ……ううん……っ」


 まだ夜の残り香が漂う、薄暗い部屋の中に。


 夢見にうなされる、豚鬼オークの苦悶が響いていた。


 脂汗を滲ませたヒビキの脳裏に浮かぶのは。


 遡ること、一週間前の記憶。


 女蛮鬼アマゾネスの森里にある訓練場で実施された、自らの腕試しの結末である。

 

『――やっぱりアタイの目に、狂いはなかったよ!』

 

『――どうだいボウズ、繚乱祭まで待たずとも、今すぐアタイの種婿にならないかい!?』


『――こう見えてもアタイは旦那には尽くす女だから、きっと後悔はさせないさね……って、痛ってえなあ! 無言で石投げんな、野次馬ども! 文句があるならかかって…………って、族長様あ!? あ、いやその、これはデスネ……っ!』


 思わぬ体調異常に見舞われたものの。


 対戦形式をとった腕試しにおいて。


 なんとか、力を示すことで。


 無事に己の立場と、男の尊厳を守り抜いたヒビキであったが。


 問題はそのあと……


 怒りによって痙攣させた笑みを浮かべた女族長と、彼女にしこたま絞られた女蛮鬼の大戦士が、豚鬼の前から去った後の出来事である。


『――ねえねえ貴方、名前、なんて言うの!?』


『――ヒビキくん!? 素敵な名前ね!』


『――せっかくだからもっと、私たちとお話ししない!? ヒビキくんのこと、色々と聞かせてほしいな〜っ♡』


 彼が夢に見て魘されるのは。

 

 ワラワラと、砂糖に群がる蟻の如く。


 一戦を終えたばかりで身体から熱気を放つヒビキのもとに、殺到した。


 それを軽く上回る熱量を有する、大量の女蛮鬼たちの姿であった。


「……うう……ちがう、ごかいなんですよ……かんべんしてください……っ」


 気が付けば。

 

 遠慮のない女たちの手によって、もみくちゃにされながら。


 それでも断片的な彼女たちの言葉を、聴き拾って繋げてみると。


 どうやら先ほどの腕試しを観戦していたらしい女蛮鬼たちは、その内容を、ヒビキに対して非常に好意的なものに解釈してくれているらしく。


 やれ『男らしい』だの『格好良かった』だの『濡れちゃった』だのと。


 歯の浮くような美麗賛辞を並べて。


 前評判を見事に覆した豚鬼に、熱い視線を注いでくるのであった。


 そうした女性たちに囲まれて。


 正直、悪気がしなかったと言えば嘘になる。


 ヒビキとて男性だ。


 見目麗しい、十代や二十代の歳若き女性陣にきゃあきゃあと持て囃されて、自尊心がくすぐられないはずがない。


 とはいえ、だ。


『――うわっ、すっごい筋肉! カッチカチだね♡ やっぱりあっちのほうもガチガチなのかなっ♡』


『――ねえねえヒビキくんは、後ろのほうにも興味ある人? ウチ、攻めるのも責められるのも得意だよっ♡』


『――いいから犯らせろって! 大丈夫、きっと満足させてあげるから! なんならみんなと一緒でもいいしっ♡』


 そうして童貞豚鬼に群がる女たちは。


 生粋の肉食女子である、女蛮鬼アマゾネスたちであり。


 ギラギラと輝く彼女たちの視線は、完全に狩人のものだった。


 すぐに豚鬼は、自分が狩られる側なのだと理解した。


「……ちょっ……ちょまっ……ふくを、ひっぱらないで……かってに下着を、ぬがそうとしないでえ……っ」


 これが自分に襲いかかってきた悪漢どもなら。


 ヒビキは容赦なく、叩きのめしたことだろう。


 たとえ相手が飢えた魔獣であっても、問題なく撃退できる自信がある。


 しかし相手は、言動はともかくとして。


 外見的には多種多様な美人、美少女たちであり。


 悲しいかな、女性耐性が著しく低い豚鬼にとって。


 それらを跳ね除けることは、物理的にも精神的にも、非常に困難なものであったのだ。


『――貴様ら、そこをどけえ! 仮にもそいつは、腕試しによって力を示した、族長様の客人であるぞ! 身を慎むのだ!』


 そうした豚鬼の窮地を、救ってくれのは。


 意外なことに。


 この森里においてもっとも自分を嫌悪しているであろう、赤髪の少女であった。


『――ちょっとオビイ、邪魔すんなし!』


『――関係ないヤツはすっこんでろよ!』


『――関係なくはない! オレはそいつの、み、身内のようなものだし、族長様からも面倒を見てくれと言付かっているのだ! いいからどけどけ、ヒビキから離れるのだっ!』


 たしかにテッシンから、家名を授けれた身としては。


 実子にあたる少女からすると、身内と言えないことはないだろうし。


 顔見知りなどほとんどいないこの森里において、数少ないヒビキの事情を知る彼女を世話役に命じたのであろう女族長の判断も、理解できなくはない。


 とはいえ、ヒビキとしては。


 オビイに助けられたことに、感謝を覚える一方で。


 ただでさえ散々と迷惑をかけてきた少女に、更なる負担をか背負わせてしまったことによる、罪悪感で一杯だった。


「……うう……ありがとう……ありがとうございます……神さま、仏さま、オビイさま……」


「……あ、あの、ヒビキさま? 大丈夫ですか?」


 そうして今日も自己嫌悪に苛まれる豚鬼を。


 ゆさゆさと、揺さぶったのは。


「というか一体、どんな夢をみているんですか? また悪夢ですか? よろしければボクが、添い寝いたしましょうか?」


 心配そうに、笹のような長い耳を垂らした、紅顔の美少年である。

 

 黒糖じみた茶褐色の肌を晒すのは、袖無し(ノースリーブ)の上着と丈短下着(ホットパンツ)といった、露出の多い衣装であり。


 細首にはこの森里においては隷夫れいふ隷妹いもうとであることを示す、首飾りが巻かれていた。


 身長百六十センチに届かない体は全体的に華奢でちんまりとしており、一見すると十代前半の子どものようにも見えるが、これでもしっかり成人しているらしい、大人の小森人(ポックル)である。


「……いや、いい。大丈夫です……もう起きるので……」


 そうした精人(アルヴ)の申し出を、片手で制して。


 寝台から身を起こした豚鬼(オーク)は。


 なおも不安の表情を浮かべる幼い容姿の青年に、気の抜けた笑みを向けた。


「……おはようございます、ルルチさん」


「はい、おはようございます、ヒビキさま!」


 そうしてヒビキの、新天地における一日が。


 今日も幕を開けたのであった。


【作者の呟き】


 本日と明日の『新生活』は、一日3話更新します。


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