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第一章 【28】 凶刃②

〈ロメオ視点〉


「……っ、あっちです!」


 由緒正しき、貴族の血筋に当たるため。


 教養として、乗馬技術を持ち合わせている。


 勇聖教会の青年神官……ロメオは。


 幌馬車から外された、軍馬に跨って。


 時折、手元の魔力磁石を確認しつつ。


 単騎で先行した聖浄騎士……ダリアの、後を追って。


 深い森の中を、駆けていた。


「し、神官様! 少しペースを、上げすぎでは!?」


「足場が悪いのです! 転倒してしまいますよ!?」


 その背後には。


 同じく、軍馬を駆りながら。


 追従する兵士たちの姿が、あるのだが……


「……今はそのようなこと、気にしている場合ではありません! 私たちは、勇者様に神の庭を託された、栄えある信徒なのですよ!? 不届にもそれを穢した亜人デミどもを、絶対に、逃してはならないのですっ!」


「で、ですが……」


「それは本隊の合流を、待ってからでも……」


 返ってきた声は、弱々しく。


 返答は、煮え切らない。


(……っ! 結局それが、本音でしょうに……っ!)

 

 眉根に、皺を寄せて。


 ロメオはそれ以上の会話を、切り捨てた。


 軍人としての、果たすべき職務よりも。


 我が身可愛さを優先する、臆病者の戯言など。


 取り合ってやる必要が、ないからだ。


(そもそも、神官わたしと違って兵士あなたたちは、いざという時に命を張ることが、仕事でしょうに! それを……土壇場で、あのように怖気づくなどとは! 情けないっ!)


 ロメオとて。


 今から、小一時間ほど前に。


 強制停止させた、聖浄騎士を。


 幌馬車の荷台へと、積み込んで。


 回復処置を、施している間に。


 幌の外で発生した、異常事態には。


 気づいていた。

 

 しかし幌の外から聴こえてきた渦中に。


 非戦闘員である、ロメオはともかく。


 同乗していた兵士たちが、ついぞ。


 飛び込んでいくことは。


 なかったのである。


 それなのに。


(せめて……無能なら、無能らしく、私の指示だけに従っていれば、いいものを!)


 聖浄騎士の、治療を終えて。


 ロミオに命じられた、兵士たちが。


 ようやく、外の様子を伺えば……


 そこにあったのは。


 半身を露出したまま、絶命した。


 情けない真人エリスたちの死体と。


 姿を眩ませた、狐人フォルクスの亜人という。


 散々たる、有様であった。


 すぐさまに、通信用の魔道具で。


 森に潜っていった兵士と、連絡を取れば。


 彼らは狐人を攫った豚人オークを、追いかけているとのことであった。


 そこまでは、いい。


 問題は、そのあとで……


(臆病風に吹かれて、本隊と連絡をとるなどとは……これだから、考え無しの無能どもときたらっ!)


 それらの情報を。


 敵襲に恐れをなした、兵士たちが。


 ロメオが、止める間もなく。


 大森林の外周部で待機している『本隊』へと。


 報告してしまったことだ。

 

(もしもそのせいで、『あの御方』が自ら、動き始めでもしたら……)


 此度の捜索任務に。


 特例の『保険』として、同伴している。


 やんごとなき人物の性格を、鑑みれば。


 十分にそれは、有り得る可能性だった。


 確かに『あの御方』が、手を下すなら。


 この大森林に隠れ潜む、黒兎どもが。


 一網打尽となることに、疑いはない。


 しかしそれは、此度の任務における成果が。


 全て、奪われてしまうことを。


 意味している。


(それは……不味いのですっ!)


 なにせ、現時点においては。


 ロメオは、勇聖教会から預けられた。


 聖浄騎士を、御しきれなかったうえに。


 一度捕らえた黒兎を、逃してしまうという。


 大失態にまで、巻き込まれているのだ。


 このまま手ぶらで、本隊に合流すれば。


 責任を問われることは。


 明白である。


 立身出世が生き甲斐である、青年にとって。


 絶対に、看過できない事態だ。


(……頼みますよ、ダリアさん! 不本意ですが、今は貴方だけが、頼りですっ!)


 ゆえに、ロメオは。


 機能停止から復活したばかりの、聖浄騎士を。


 猟犬として、大森林に解き放っていた。


 此度の失態を、挽回するためには。


 逃してしまった黒兎を、捕獲すること。

 

 あるいは乱入してきた、もう一匹の黒兎を捕獲することが。


 最低条件である。


(それさえ果たしていただければ、最悪、ぶっ壊れても構いませんから! ええ、神官として祈りひとつでも、捧げてあげますとも!)


 実のところ。


 聖浄騎士の強制停止と、復旧処置に。


 大量の魔力を消費した、ロメオは。


 魔力の残量的が、心許ない。


 そして大幅に魔力を削る、回復魔法を。


 このような状況下で、他者の為に使うつもりなど、毛頭ない。


 もし、万が一。


 更なる不足の事態が、起きたとして。

 

 あの聖浄騎士が、窮地に陥ったとしても。


 手を差し伸べるのかは、怪しいところだった。


 それよりも……


(……お願いですよ、ダリアさん! 短気を起こして、黒兎を『始末』することだけは、避けてくださいよね……っ!)


 心配しているのは。


 ダリアよりも、むしろ黒兎のほう。


 暴走癖がある聖浄騎士が、感情に呑まれて。


 貴重な情報源を、台無しにしてしまう可能性こそ。


 ロメオは、危惧していた。


「……っ、こっちです!」


 手にする小型の、魔力磁石で。


 露出軽鎧ビキニアーマーに仕込まれた、探知魔道具マーカーを追跡しながら。


 鬱蒼とした、木々の合間を。


 落馬すら、厭わぬ速度で。


 必死に駆けていると……


(……っ! 見つけました!)


 じきに、現場へと到着した。


 ロメオが目にした、光景とは。


「ひっ、いひひひっ! 理解わかった! 理解し(わかっ)たよね!? しっかりと理解した(わかった)よなあ、ボクの呪詛いかりがっ! もうオマエは、終わりだからな! 絶対に、逃さないからな!? くひひひひひひっ!」


「……く……かはあっ!」


 暴力性が滲み出た、凶悪な強面こわもてに。


 真新しい切傷を、刻まれて。


 血を垂らし、身悶えながら。


 地面に伏せる、一匹の豚鬼オークと。


「痛いか!? 痛いだろ!? 痛いよねえっ!? 苦しめ苦しめ、もがいてもっと、苦しめえっ! その何倍もっ! 何十倍もっ! 何百倍もおっ! ボクは、苦しんできたんだっ! オマエも少しは、ボクの苦しみを味わえええええっ!」


 肉厚な巨体を、踏みつけて。


 理不尽な罵倒を、繰り返す。


 歪んだ左腕から、骨を覗かせた。


 聖浄騎士である。


(豚の亜人デミ……ということは、あれが黒兎の仲間ですか!? では、狐の亜人は!?)

 

 見渡す範囲には。


 先ほど鹵獲していた、亜人の姿が。


 見当たらない。


「「「 …… 」」」


 代わりに。


 無惨な姿で絶命した、使役者マスターや。


 頭部を潰された、魔術士キャスターの死体。


 それの傍らで、呆然と立ち尽くす。


 負傷した兵士たちを、発見したので。

 

「ちょ、ちょっと! そこの貴方たち、これは一体どういう状況ですか!? 説明してください!」


 軍馬の足を止めたロメオは。


 下馬しつつ、兵士たちに詰め寄っていく。


「ああ、神官様!」


「そ、それが……俺たちにも、何が何だか……」


「あの豚野郎が、次々と、仲間たちを酷い目に……っ!」


「そんなことは、どうでもいいのです! それより、逃げた黒兎は!? あの狐の亜人デミを、貴方たちは追っていたのでしょう!?」


「い、いや、それは……」


「た、たぶんあの豚野郎が、どこかに、隠しているんだと……」


「まだ、発見できていないです……」


「……っ! だったら、尚更に! あの豚を見殺しにしては、不味いでしょうが!」


 無能な兵士たちを、叱りつけて。


 保身に気を逸らせた、ロメオは。


「ほら! ほら! ほら! 謝れ! 謝れ! ボクに! 謝れよおっ!」


「……かはっ! ぐっ……ぎいっ!」


「ブタ! ブタ! 無能な、家畜が! ボクに! 酷いことを、言うからだ! しっかりと、反省しろ! 懺悔しろっ!」


 すでに、呪詛魔法の影響下なのか。


 抵抗もせずに、苦悶を漏らす豚鬼へと。


 一方的な暴行を加え続ける、ダリアに。


 慌てて、駆け寄って行く。


「だ、ダリアさん! 待ってください、ストップですストップ! 落ち着いてください!」


「うるさいっ、邪魔しないでよ! コイツは、ボクが! お仕置き、するんだから! 手足を削いで! 生きたまま! 杭で身体を、貫いて! 丸焼きに、してやるんだから!」


「そんなことをしたら、貴重な情報源が死んでしまいますよ!?」


「構うもんか! ボクとソラさまを! 侮辱した! コイツを! 罰するほうが、大事だッ!」


「……っ!」


 ダメだ。


 完全に、怒りに呑まれている。


(この豚……一体、何をしでかしたのです!?)


 鬼気迫る、荒ぶりようときたら。


 もしやこの亜人は、愚かにも。


 ダリアの禁忌に、触れてしまったのだろうか。


 だとしたら。


「そ、そうです! ソラさま……勇者であらせられる、ソラ・シン・アマツカ様に、褒められたくは、ないのですか!?」


 彼女の逆鱗が。


 かつて自身を寵愛していた、勇者だと言うのなら。


 それを鎮めるのもまた、彼以外には有り合えない。


 果たして。


「……ソラ、さま……?」


 青年神官が、投じた言葉は。


 ほとんど壊れてしまっている、聖浄騎士の。


 最後の一欠片に、なんとか。


 届いたようだった。


「え……ほんとう、に……? ボク、ソラさまに、褒めて、いただけるの……?」


 血走った目で。


 ふうふうと、息を荒げるダリアが。


 地面に血溜まりを広げていく、豚鬼から。


 ようやく、目を逸らしてくれた。


 この機を逃してはならない。

 

「え、ええ! 本当ですとも! その亜人を、生きたまま献上すれば、きっとソラさまだって、褒めてくださいますとも!」


「本当にい……? また、ソラさまに、頭を撫でて、もらえるの……?」


「ええ! ええ! 勿論ですとも!」


「ボク……こんなに、おっきくなっちゃったけど……前みたいに、いっぱい……可愛がって、もらえるかなあ……?」


「……っ、そ、それは……きっと、おそらくは! はい!」


「……えへへへ」


 心の底から。


 嬉しそうに、微笑んで。


 表情を蕩けさせた、女の瞳には。


「そうだよねえ……やっぱりボクが、一番だよねえ……そうだ……そうだよ……そうに、決まっている……ボクが一番、ソラさまの、お役に立てるんだ……ボクが世界で一番、ソラさまを、愛しているんだから……ボクこそが、ソラさまの愛を、ぜんぶ、受けとめるべきなんだっ……うひひひっ♡♡♡」


 蜜のように、甘く。


 溶岩のように、爛れた。


 粘着質な激情が、渦巻いている。


(あの少女趣味ロリコンな勇者様が……そんなこと、あるはずないでしょうけど……)


 とはいえ、そんな本心を。


 ここで表に出す、理由がない。


「え、ええ、その通りです……ですからその亜人を、こちらに、引き渡していただけませんか……?」


「うん……わかったよお……」


 だらりと、身体を弛緩させて。


 痛々しい左手を、庇う様子もなく。


 ダリアは、踏みつけていた豚鬼から。


 靴裏を、退かそうとして……


「……あっ」


 ふと、何かを思い出したように。


「ごめん……えっと、ハメオくん?」


「……っ、私は、ロメオですけど、いかがされました?」


「ああ、うん。とにかく、これを、引き渡す前にさあ……」


「……?」


 腰元から……チキリ、と。


 冷たい輝きを宿した刺突剣レイピアを、抜刀して。


「……手足、壊しちゃっても良いかなあ?」


 昏く、深く、澱んだ瞳で。


 豚鬼を見下ろしながら。


 冷ややかに、呟いた。


「コイツはソラさまを、侮辱したんだ。せめてそれくらいはしないと……ダメ、だよね?」


 そうしたダリアの、凶行を。


「う〜ん。まあ、ちゃんと頭さえ、残していただけるなら……」


 特に、止める理由もないので。


 ロメオはあっさりと、容認する。


「えへへっ、勿論だよおっ! このブタには、ちゃんと、アイツを誘き出すための生き餌になってもらうんだから、命『だけ』は、とらないよおっ!」


「ん、ならば問題ありません」


「わ〜いっ♡」


 すると子どものように、はしゃぎながら。


 振りかぶられた、刺突剣を切先が……ズンッ!


 踏みつけた豚鬼の、右腕に。


 勢いよく、振り下ろされた。


「……ッ!」


 しかし、生意気にも。


 豚鬼が、悲鳴を噛み殺そうとしたので。


「……あれえ? あれあれえ?」


 ダリアは、わざとらしく。


 頭を傾けながら……グチュグジュグヂグジュッ!

 

「ブタなのに、ブーブー鳴かないのお? かわいくないなあ……ほらほらほらほらあっ!」


「……ッッッ!」


 刺突剣で、傷口を抉りながら。


 呪詛魔法の源となる、自らの魔力を。


 ドクドクと、流し込んでいく。


(……あの豚)


 血生臭い光景を、前にして。


 勇聖教会の神官は。


(この後に及んで、悲鳴を、押し殺すとは……さては女狐の他にも、この場に駆けつけてくるような仲間が、いるのですね! これは僥倖です!)


 期待に胸を、膨らませていた。


 一方で。


「あー、ダリアさん? わかってますよね? 絶対に、殺してはなりませんよー?」


 暴走しがちな、暴れ馬に。


 小さくない懸念も、抱いている。


「わかって、るって! ちゃんと加減は、するからさあ! この、醜い手足をぶっ壊して、惨めなブタ芋虫に、してやるんだあっ! きゃははははっ!」


 返事だけは、威勢の良い。


 上機嫌な、ダリアであるが。


(……本当に、大丈夫ですか? 亜人デミもそうですが、『貴方自身』も、この任務が終わるまではちゃんと『保って』くださいよ……?)


 成功率が、およそ二割を切るとされる。


 魔力改造リスクを、乗り越えることで。


 生み出される、聖浄騎士クルセイダーとは。


 たとえ、手術が成功したとしても。


 想像を絶する負荷によって。


 改造後の平均寿命は。


 およそ十年に、満たないのだという。


(あの髪色を見る限り、ここまで随分と、大盤振る舞いをしているようですが……)


 そのうえ。


 ダリアの開花させた、固有魔法は。


 凶悪な魔力干渉を、有する反面で。


 使用に、相応以上の対価を要求する。


 諸刃の剣でもあるのだ。


(……己の魂を削って、他者を蝕む、呪詛魔法ですか……伝説の勇者様が宿されていたという『魂の魔法』を、このような形で覚醒させるとは……いやはや、なんとも皮肉な話ですねえ)


 時間経過とともに、回復する。


 体内魔力オドとは、異なり。


 一度消費してしまえば、不可逆である『己の魂』を。


 触媒として、消費する。


 禁忌の呪詛魔法は。


 ただでさえ短いとされる、聖浄騎士の稼働時間タイムリミットを、さらに縮めていた。


(……)


 こうしている間にも。


 ダリアの頭髪を染める、薄紫バイオレット灰色グレーまだら模様……


 その後者が。


 前者を、じわじわと。


 すでに八割以上も、侵食していることから。


 ダリアという蝋燭が、じきに燃え尽きることは。


 一目瞭然である。


「ほらあっ! ほらほらほらあっ! 鳴けよ! 喚けよ! 惨めに、命乞いでもしてみろよおっ! きゃはははっ!」


「……グッ、……ギイイッ」


 とはいえ。


 ギリギリと、歯を食いしばる豚鬼を。


 嬉々として甚振る、聖浄騎士の姿に。


 我が身を案じている様子は、見受けられない。


 本人はすでに、割り切っているのか。


 はたまた、それを理解するだけの知性が。


 最早、残されていないのか……


(……まあいいです。あれとは所詮、この場限りの付き合いですからね)


 考えたところで、栓のないことから。


 とくに、未練もなく。


 思考を切り替えて。


(さてさて。このエサを使って、どうやって残りの黒兎どもを、炙り出せば良いものか……)


 更なる追加報酬ボーナスを、手中にせんと。


 ロメオが脳内で、手立てを検討していると……


「……ん? んんー?」


「……? どうかしましたか、ダリアさん?」


 不意に、ダリアが。


 怪訝そうな表情を浮かべて。


「……いや、べつに……うん、まあ、どうでもいっか……」


「……???」


 ひとりで勝手に、得心して。


 すぐに興味を、無くしたのか。


「……はい、じゃあこれで、右手は終わり〜っ♪」


 ドス黒く変色した、右腕から。


 刺突剣を引き抜いて……


「……ん〜、今度はど・こ・に、しよっかな〜っ?」


 焦らすように。


 地面に這いつくばる、豚鬼の周囲を。


 ゆっくりと、移動していく。


「ここだあっ!」


 ズブリッ、と。

 

 今度は左足が、毒刃の餌食となった。


「〜〜〜ッッッ!」


 ギリギギギッ、と。


 歯を、噛み割らんばかりの。

 

 押し殺した悲鳴が。


 鬼牙きばの生えた口元から、溢れ出る。

 

「きひひっ。もう、わかっていると思うけどさあ……ボクの呪詛って、特別だからね〜? 普通の解呪や治癒魔法で、治せるだなんて、思わない方がいいよ〜? このまま一生、手足をダメにしたくなかったら、さっさと仲間の居場所をゲロちゃってね〜? きゃははははっ!」


「……ッ! ンギ……ッ!」


 頭上から、嘲笑を浴びせられて。


 新たな激痛に、晒されようとも。


 必死に悲鳴を飲み込む、豚鬼が。


 口を割る様子はない。


 瞳にはまだ、反骨心が燃えている。


 これを折るのは、少々手間取りそうだ。


(そもそも、こういった手合いに有効なのは、本人よりも、目の前で仲間を、拷問することなのですがねえ……しかしその仲間を誘い出すために、このブタの口を割らせなければならないのは、いやはや、もどかしいものです)


 とはいえ。


 手段が、ないわけではない。


 ロメオは勇聖教会の、神官として。


 真人エリスの民に、教義を布教する一方で。


 何度となく、反抗的な亜人デミの調教に。


 加担してきた、実績がある。


(ま、ひとまずは手足を壊して、無効化したあとで、目玉と舌を抉り取る前に、精々叫んでもらいましょうか。どんなに強がっても、人体には、本人の意思を無視する方法がいくらでもあることを、身をもって教えて差し上げましょう……って、そうか。拷問器具は、幌馬車に積んだままでしたね。となるとあれらを、取りに向かわせてから……)


 効率的に。


 目的を、消化すべく。


 今後の段取りを、思案していると……


「……っ!? し、神官様!」


「お下がりください!」


 突如として。


 ロメオと並んで、聖浄騎士による拷問を。


 遠巻きに眺めていた、浄火軍の兵士たちが。


 声を荒げた。


「はあ? 貴方たち、いったい何を……っ!?」


 遅れてロメオも、異変に気付く。


(あっ! あの、豚の右腕――)


 肉体の自由を、奪われて。

 

 無様に地に伏す豚鬼の、右腕……


 その、手首に嵌められた。


 血塗れの刺繍腕輪ミサンガが。


 眩く『光り輝いて』いるのだ。


(――しまった! あれは、魔道具でしたか!? 所有者の血が、起動条件!?)


 詳細までは、わからないが。


 瞬時に、様々な可能性を考慮して。


 ロメオが護身用の戦棍メイスを、構えて。


 後方に飛び退き、距離を取った……


 直後である。


 みょんみょんと、空間が波打って。

 

 ぐにゃりと、水面が歪んで。


 ピシリと、砕けた。


 境界の、向こう側から……


「……」


 パアアアアッ、と。


 純白の長髪を、翼のように広げて。


 頭上に天輪ハイロウの如き、環状力場を形成しながら。

 

 後光の如き、膨大な魔力を纏って。


 顕現してみせたのは。


「……て、天使様……?」


「天使様が、降臨、なされたのか……っ!?」


 兵士たちが、呆然と呟いてしまうのも無理はない。


 常識外れなほどに、神々しき。


 類稀なる、美少女であった。


「いいえ、違います!」


 だが、事前情報を得ていたロミオは違う。


 青年神官は、彼女の正体を知っている。


 なにせ、あの人物こそが――


「――マリアン、リ、ハネカワあああああっ!」


 絶叫するダリアが、聖浄騎士になってまで。


 長年に渡り、行方を追い続けてきた。


 洗礼名『聖翼』こと。


 聖人、マリアン・リ・ハネカワ。


 その人であった。

 


【作者の呟き】


 ヒーローとヒロイン(ママ)は、遅れてやってくる……っ!


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