↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/181

第一章 【14】 選択①

〈ヒビキ視点〉


「……して、ヒビキよ。答えは、出たのか?」


 虚偽や偽装などを、許さない。

 

 透徹した瞳から、放たれる。


 鬼人《オーガン》の大男……テッシンからの、問いかけに。


「ウッス」


 躊躇うことなく。


 頷いてみせた、豚鬼《オーク》……ヒビキは。

 

「師匠。俺はやっぱり……皆さんに、ついていきますよ」


 図らずしも、この勇聖国《エリクシス》において。


 縁《えにし》を結ぶこととなった、テッシンたちに。


 以前から、誘われていた。


 祖国である、大和国《ヒノクニ》への帰還に。


 同行する意向を、口にした。


 ただし……


「……ほう。それはこの国に、マリアン殿をひとり、置いてか?」


 鬼人《オーガン》である、テッシンやヒビキを、始めとして。


 獣人《ライカン》や、精人《アルヴ》といった。


 多様な人種で構成された、一行の中で。


 ただひとりの只人《ヒューム》……マリアンは。


 それを望んでは、いなかった。


 理由は単純。


 この勇聖国《エリクシス》においては、只人《ヒューム》こそが。


 至上の人族として、他人族を奴隷扱いしている。


 反面で。


 その他の国々では、只人こそが。


 人類の、裏切り者として。


 不遇な扱いを、受けているのが。


 現在の、世界情勢だからだ。


 そんななかで。


『ママが……これ以上、ヒビキくんの足を引っ張るわけには、いきませんので!』


 たとえ、聖人として。


 類稀な力を、持っているとはいえ。


 いや、そんなマリアン、だからこそ。


 これまでとは違う、多くの人目に晒される、環境下で。


 自分のような、存在が。


 ヒビキに付きまとう、悪影響《デメリット》を。


 理解できない、はずがない。


(それでも……たぶん、アイツは、俺が必要だって言ったら、他人からどう見られるかなんて気にもせず、ホイホイついてくるんだろうけど……)


 すでに、ヒビキは知っている。


 マリアンは有能だ。


 この世界に、必要な人物だ。


 なんなら、とある物語の主役であるとさえ、表現していいのかもしれない。


 それほどまでに、優れた容姿。


 秀でた能力。


 突出した、才能である。


 そんな彼女の、足枷となっているのは。


 彼女の物語を、妨げているのは。


 むしろ……


(……この、俺だ)


 きっと、自分などという。


 想定外《イレギュラー》さえ、存在しなければ。


 おそらく、マリアンは。


 元鞘である、勇聖教会において。


 今でも聖人として、崇められていたのだろう。


 あるいは、今からでも。


 自分という、重荷さえなくなれば。


 その大きな翼で、何処にでも。


 羽ばたいて、行けるのだ。


 それほどの、実力を。


 可能性を。

 

 今日の一件で、改めて。


 確信した、ヒビキである。

 

 だからこそ。

 

「……はい。それがアイツの、ためです」


 テッシンの、念押しにも。


 ヒビキの答えは、揺るがない。


 これこそが。


 この選択こそが。


 正しい答えである、と。


 信じて、いるからだ。


「……で、あるか」


 そんな弟子の、胸中を。


 どこまで、汲み取ったのか。


「……」


 それきり、テッシンは。


 ぼんやりと、夜空を眺めながら。


 酒盃を傾けて、口を閉ざしてしまう。


「……」


 ヒビキもまた、モグモグと。


 やや、冷めてしまったとはいえ。


 せっかくの、心尽くしを。


 残しては、なるまいと。


 無言で、食事を続けた。


(……もしも)


 そしてふと、頭上に広がる。


 前世のそれとは、比べものにならないほどに、眩い星空を見上げて……


 というか、物理的に。


 地上から、距離が『近い』ために。


 一層に大きく見える、星々を。


 視界に収めながら。


(……この国が、こんな『ややこしい』場所じゃなきゃ、ここまで重苦しい話には、なんなかったのかねえ……)

 

 想いを馳せる、勇聖国とは。


 他国から物理的に、切り離された。

 

 ボトルニア大陸の空を、移動する。


 巨大な『浮遊大陸』の、名称であった。


(そもそも成り立ちは、何百年も前の転生者……勇者たちの、率いる仲間《パーティー》が、中途半端な形とはいえ、神代魔樹迷宮《エンシェントダンジョン》のひとつを踏破した、その対価だっつーハナシだけど……)


 創造神によって、生み出された。


 世界に七つ存在する、神代魔樹迷宮《エンシェントダンジョン》。


 その深奥に座す、世界樹《ユグドラシル》の。


 分体である、魔生樹が。


 優れた魔法触媒《マジックアイテム》であるのなら。


 本体である、世界樹そのものが。


 まさしく、世界の理すら捻じ曲げる。


 神話級の、魔法触媒であることも。


 道理である。


 不完全な、形とはいえ。


 迷宮攻略に成功した、かつての勇者たちが。


 世界樹の番魔獣である、『魔王《デスモス》』との交渉を。


 この世界で、初めて。


 成功、させたことで。


 世界樹の権能を、部分的に利用できるようになった、只人《ヒューム》たちが。


 その支配領域であった大地を、国土ごと。


 他国からの干渉を拒む、空中へと。


 移動させたことが。


 この浮遊大陸の、始まりであると、されており。


 そして只人が、人類の裏切り者とされる。


 決定打にも、なったのだという。


(……まあ、こんだけすげえ『力』なんだ。手に入れりゃ、それを独占したくもなるか)


 事実として。


 世界樹から抽出された、魔法技術によって。


 生み出された、人造生命体《ホムンクルス》などを、用いることで。


 条件付きとはいえ。


 ヒビキのような、転生者を。


 補充できるようになった、勇聖国は。


 それから定期的に。


 異世界の知識を、獲得することで。


 現在では、その魔法文明を。


 地上の国々から、数世代ほども先に。


 発展させて、いるのだという。


(その結果、勇聖国《エリクシス》の只人《ヒューム》たちは、自分たちこそ『真なる人類』……真人《エリス》だなんて、驕るようになっちまって、その他の人族を、見下して、奴隷扱いするようになっちまった)


 勇者を生み出せない、他人族どもは。


 すべからく、劣等人種の亜人《デミ》である、と。


 勇聖教会の語る、教義を。


 染み込まされた、国民は。


 他人族を、奴隷として。


 玩具として。


 商品として。


 消耗品として。


 扱うことに、疑問を抱かない。

 

 そうした国民性が、ヒビキも目にした『亜人牧場』などの。


 歪な形で、顕在化している。


 宗教国家、だからこそ。


(たとえ本質が、人造生命体《ホムンクルス》とはいえ、外見《ガワ》が豚鬼《オーク》の転生者《オレ》なんて、絶対にあっちゃならねえ、失敗作だ)


 そのような。


 教義に反する、不浄の存在を。


 産み落としたのだと、知られれば。


 いかに聖人とはいえ。


 国家から。


 教会から。


 信徒たちから。


 石を、投げられることなど。


 分かりきっている。


 だからやはり、自分という存在は。


 マリアンにとっての、不純物なのだ。


 なんとしても、彼女の人生から。


 切り離されなければ、ならないのだ。


 それなのに。


(あの分からず屋め……いつまでも、俺なんかに、固執しやがって……っ!)


 この、二年間あまり。


 ヒビキがどれだけ、一方的に。


 突き放しても。

 

 一向に、自分の元から離れようとしない。


 頑迷極まる、少女には。


(だったらもう、俺のほうから、離れてやるしかねえじゃねえかっ……っ!)


 たとえ、それが。


 今生の、別れになるとしても。


(……師匠たちがこの国を経つまで、あと、一年ちょい)


 ヒビキたちがいる、森の広場において。


 焚き火を囲う、テッシン一行は。


 その頭数を、ヒビキが覚醒した直後の。


 半数以下にまで、減らしていた。


 なにせ、当たり前のように情報網《インフラ》が完備された、前世とは異なって。


 情報の伝達手段と、信頼性が。


 限られている、今世において。


 もっとも確実な、手段とは。


 信頼のおける、人間による。


 直接の、報告であった。


 そのため、テッシンの従者たちは。


 収集した情報を、定期的に。


 大量の魔道触媒を使用した、超長距離の、転移魔法によって。


 祖国へと、持ち帰っている。


 とはいえ、他国から物理的に隔離されている、勇聖国においては。


 魔法技能に関して。


 祖国においては、指折りと謳われている。


 卓越した精人《アルヴ》の翁《おきな》の腕前を、以てしても。


 勇聖国の、監視体制を掻い潜って。


 転移魔法を、使用するのは。


 内側から外側へと、送り出すのが。


 精一杯、なのだという。


 仮に、外側から内側へと。


 無理やりに、人員を補充しようとすれば。


 立ち所に、魔力干渉を検知されて。


 国力を投入した、捕縛作戦が。


 展開されて、窮地に陥る。


 見立てであった。


 事実、こうしてテッシン一行が。


 無事に、潜入を果たせたのも。


 五年ほど前に。


 他国が執り行った、大規模な侵攻作戦を。


 囮として、利用できた機運が。


 あってこその、ものだという。


 また、その際には。


 他国からも、選りすぐりの潜入部隊が。


 何組か、勇聖国に入り込んだようだが……


 一網打尽を、避けるために。


 情報共有などをしてない、それらが。


 今でも無事に、活動を続けられているのか。


 テッシンたちに、知る術はない。


 ともあれ。

 

 つまりは一度、この土地を離れた人間が。


 同じ方法で、この地に戻ることは難しく。


 人員が減り続けていく、任務の特性上。


 この潜伏活動は、有限であった。


 順調に、任務が消化されていけば。


 最大戦力として、殿《しんがり》を務める予定の、テッシンなどは。


 あと一年ほどで。


 浮遊大陸を去る、予定である。


(……一年……あとたった、一年……それくらいの、あいだなら……っ!)


 自分は、彼女のことを。


 拒み続ける、ことができる。


 これまでのように。


 これからも。


 マリアンから、距離をとって。


 彼女という『傷口』を。


 これ以上、自分の心に。


 刻み込まなくて、済む。


 そして……やがて来たる、離別の日を。


 迎えてしまえば。


 そのままいずれ、彼女のことを。


 忘れる日が、来るはずだ。


 マリアンとしても、遠く離れた異国で生きる、自分のことなど。


 きっと、忘れてしまう、はずなのだ。


 ヒビキの、前世の母親が。


 そうであったように。


(……)


 グルグルと、取り留めもなく。


 考え事を、している間に。


 あれだけ大量にあった、食事は。


 全て、空になっていた。


 中身を失った、器たちが。


 ただ虚しく、並んでいる。

 

「……まあ、いい」


 やがて。


 久方ぶりに、テッシンが呟いて。


「それは、おぬしたちの問題だ。外野が口を出すのは、野暮というもの。少々酔いが回った。許せ」


「……いえ」


「だが、もののついでだ。酔いどれの戯言だと思って、聴き流すが良い」


「……ウッス」


 酒精によって溢れ出した、師の言葉に。


 不肖の弟子は、しっかりと。


 耳を傾けた。

 

「ひとまずの、答えは定まったようで御座るが……さりとて、人の気持ちは、移ろうもの。それに時間はまだ、残されておる。視野狭窄で決めつけずに、よく悩み、よく迷い、よくよく最後まで、考え抜け。それが最低限、おぬしが背負うべき、責任というもので御座る」


「……」


「そして答えを、導き出したのなら……たとえ誰に、何を言われようとも、おぬしだけは、それを最後まで貫き通す、覚悟を決めよ。その結果として某《それがし》を、仲間を、国元を、たとえ世界すら、敵に回したとしても……決して揺るがず、折れぬ、信念の刃を、心の中心に置け」


「……」

 

「少なくともあの御仁は、そうした生き方を、しておられる」


「……はい」


 そこで師匠の。


 言葉が、途切れて。


 入れ替わるように。


「……ヒビキく〜んっ」


 聴こえてきた、弾む声音に。


 視線を向けてみれば。


「お待たせ、いたしました〜っ!」


 どうやら、途中まで。


 料理を仕込んでいたクノイチの、手柄を。


 半ば奪い取った様子である、マリアンが。


 出来立ての馳走を、木皿に乗せて。


 トテトテと、駆け寄ってきた。


「はい、どうぞ! カエデさんとの合作ですが、ママの、自信作ですよ! 出来立てを、お召し上がりください!」


 そして、当たり前のように。


 ヒビキの横に、座り込んで。


 満面の笑みを、向けながら。


「あ、でも、ちょっと、熱いですよね?」


 ほかほか、と。


 湯気の漂う、木皿を見せつけて。

 

「……な、なので! 仕方ありません、ふーふーを、いたしましょう!」


 相変わらずの、自分本位《マイペース》で。


 こちらの気持ちなど、お構いなく。


 ゴリゴリと、距離を詰めてくる。


「……いや、いいよ」


 そんなマリアンを。


 ヒビキはやはり、直視できなくて。


 逃げるように、視線を逸らすものの。


「そんなあっ! お願いですよ、ふーふーさせてくださいっ! できればあーんまで、お願いいたしますっ!」


「……」


 たとえどれだけ、背を向けて。


 逃げ続けても。


 どこまでも、執拗に。


 追いかけてきて。


 けっきょくは、振りきれずに。


 差し伸ばされてしまう。


 小さな手を。


「……まあ、せっかくカエデさんが、作ってくれた料理だからな。いいから、寄越せよ」


「はいっ!」


 ヒビキは、もはや。


 拒むことが、できなかった。



【作者の呟き】


 おやおや、子豚の様子が……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。