28. 思い出した言葉。
どうやら足を滑らせたらしい。
落ちたんだと気付いた時にはもう遅く、俺は意識を失った。
♢♢♢♢♢♢
「なぁ、せっかくの夏休みなのに、なんでそんな顔してんの?」
また夢だ、あの夢の続きだ。
今度こそ女の子が何て言ったのか聞いてやる。
女の子を見ると、日傘で隠れて顔がよく見えない。
…───夏休みなんて…、一人きりじゃつまらないもん。
そう言った女の子に、ガキの俺はあっけらかんと答えた。
…───何だよ、お前友達いないのか?
…───じゃあ俺がなってやるよ。
そう言ったクソガキ(俺)に、女の子は嬉しそうに微笑んだ。
♢♢♢♢♢♢
ふと目が覚めると、俺は木に寄りかかって寝てた。
「…??」
俺…、落ちた…よな?
身体を確認しても怪我はない。
それに上を見上げると、あと少しで届くはずだった麦わら帽子がない。
(俺が気を失ってるうちに、また…風で飛ばされたのか?)
それに、あの高さから落ちて無傷?
俺ってそんなに頑丈だった?
(…って、…いやいや。ンな訳あるか、サイボーグじゃあるまいし…。…白昼夢でも見てたのか?)
それにまたあの夢だ。
今度はしっかり聞いたぞ、友達になってやるって。
それに名前に覚えがなかったのは、そもそもお互いに名乗ってねぇんだ。
俺はあの子の名前を聞かなかったし、名乗らなかった。
愛莉の話にピンとこなかったのは、それが理由だ。
(そうだ…。帰り際、口癖みてぇに「また会おうね」って、絶対に言う子だった)
あの頃、カブトムシ獲りにハマってた俺は、夏休みには必ずカブトムシを獲りに山へ行ってた。
しばらくは毎年、夏休みの度、カブトムシを獲りに行った山で、彼女と会うのが日課だったんだ。
(…つっても、俺はカブトムシを捕まえてただけで、あの子はそれを眺めてただけだったけどな)
そのうち、カブトムシより楽しい遊びを見つけて、少しずつ子供の俺は山に行かなくなったな…。
そもそもガキの頃の事だ。
ガキの興味なんぞ、次々に変わる。
(最後にあの子と会ったのは、いつの夏休みだ?中学に上がる前…だよな)
中学に上がる頃には、テレビゲームに夢中だったし、山には行かなくなって…。
(…ん?)
もしかして…、それが約束か?
(最後に会った時…、次の年にはカブトムシに興味がなくなって、山に来なくなるとは思ってなかった俺は、いつも通りに、また会おうねって約束して帰った…)
約束してるつもりなんか、微塵もなかった。
帰り際の…、ただの挨拶みてぇなモンだ。
当然、それからずっと来てなくて…。
それで…昨日だ、数年ぶりに山に来たのは。
(約束を果たしに来たと思ったのか?)
鈴みたいに澄んだ声で、「約束、守ってくれたんだ」…と聞こえて来た声に、ぶっちゃけ聞き覚えはない。
だけど…。
(絢音…って名前だったんだな)
さっき麦わら帽子が引っ掛かってた場所を見上げる。
「…あれからずっと来てなくてごめんな、毎年夏休みに田舎来るたび、俺が来るのを山で待っててくれてたのか?」
もちろん返事はない。
だけど強く吹いた風が揺らした木々が、返事をしてるみたいだった。
♢♢♢♢♢♢
夕方、暗くなる前に家族で飯を食った後、俺は縁側で夕涼みしながら、愛莉が来るのを待っていた。
うるさいくらいの虫の声と、俺のスマホゲーの音がアンバランスにマッチする。
「…ッあー!クソ!50連しても当たらねぇ!!」
確率操作してんじゃねーのか!
今回のために貯めた石は、全部砕けた。
…俺の夢も砕けた。
「…はぁ…、また貯め直しだな」
金に物を言わせるのは好きじゃない。
だからネトゲに課金は一切しない。
欲しい物が当たるまで、課金しながらガチャを回すのは二流だ。
いつか当たるに決まってんだからな。
コツコツ貯めた石を使って、その限りある中でガチャるのが真のギャンブラーである。
(…って、どうでもいいわ)
とにかく今回は当たらなかった、それだけだ。
「…ふー」
深く息を吐きながら、縁側にゴロンと横になると、真上から女の悲鳴が聞こえる。
「…愛莉?」
どうやら寝っ転がった真後ろに、愛莉が立ってたらしい。
見上げると、短いスカートの中が見える。
「…白」
そう言った直後、愛莉の足が容赦なく俺の顔面を踏み付けた。
「…ッいってぇー!」
「馬鹿なの!?変態なの!?おばさんに言うわよ!!」
「たまたま視界に入っただけで、見たかった訳じゃねーよ」
そもそも興味なんかねぇ。
何が楽しくて、わざわざ女の下着なんか見なきゃならんのだ。




