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魔法武闘会 4

 そしてマホが舞台に上がった。マントの下は体にひもを巻き付けたような際どい水着だ。


「ついに最終試合です。楽園創業者チームの大将は、魔法部門責任者のマホ選手。武器は槍です。うちのオリジナルですさかいな、あないな大胆な衣装やとこっちが恥ずかしい気分になってきます」


「こうしてあなたと戦うのは前の世界以来ですわね。あのときは不意を突かれましたけれど、今度はあのときのようにはまいりませんことよ」


「あんな手ごたえの無いやられ方はごめんだ。俺を楽しませてくれよ」


「そう、マホ選手にとっては雪辱の一戦です」


 試合開始と同時に二人の姿が消えた。一瞬別の場所にいるのが見えたけどすぐに消えて別の場所に移った。お互いに相手の隙を突こうと目まぐるしい速さで移動している。お互いに武器で攻撃をしているが、かわされたり障壁で弾かれたりしてダメージにならない。


「速い速い! まさに目にも止まらん攻防です!」


 パトリックの一撃がマホの脚に決まった。マホのゲージが2割ほど減った。マホは一旦相手から距離をとった。


「なかなかやりますわね」


「目に見えないほど高速な攻撃なら俺に通用すると思ったか? 残念だったな」


「なら、目に見える速度でしたらいかがかしら」


 マホは駆け足でパトリックに正面からゆっくり近づいた。パトリックは動かない。マホが槍で突くと、それでもパトリックは動かずにダメージが入った。ゲージは残り6割。


「しまった――!! くそっ、見とれてしまった!」


「パトリック選手、マホ選手の揺れる胸に見とれて防御を忘れてもうてました! あの大きな胸に大胆な衣装やと破壊力抜群です!」


 いつかリンが言っていた、巨乳で油断を誘う戦法だ! まさか本当に効くなんて!


「敵の攻撃は恐ろしいナリ。あれでは太刀打(たちう)ちできないナリ」


 ジャスティス仮面がパトリックに呼び掛けた。マホが胸を揺らすだけでそこまで脅威になるの?


「だが打つ手はあるナリ。これを使うナリ」


 ジャスティス仮面は魔導石を差し出した。


「それは! 俺が転生したときに持っていた魔導石!」


「これなら魔法で直接攻撃できるナリ」


 今この世界に流通している魔導石は、人間を直接攻撃できないようにマホが改良したものだ。マホがこの世界に転生してきたときと同じようにパトリックも魔導石を持って転生してきたのなら、その魔導石なら人間を攻撃できる。


「人を攻撃できる魔導石は、この世界にあってはならないものですわ。そんなものは人々に恐怖を与え、戦争の火種になってしまいましてよ。私が転生したときに持っていた魔導石は破壊しましたわ」


「これを使えば勝てるナリ」


 その魔導石を使ってマホを倒したとしても、大会主催側としては勝ったと認めるわけにはいかないよね。だから使う意味が無い。


「この魔導石を使って勝つことが正義なのか……?」


 パトリックは苦渋(くじゅう)の顔で悩んでいる。ちょっと、それって悩むところ? 使うわけないでしょ?


「私の言う事は全て正義ナリ」


 ジャスティス仮面の言動に正義のかけらも無いことは今に始まったことじゃないけど、今回はどう見ても悪だよ?


「うーん……」


 だから何を迷う必要があるってのよ! マホも待ってないでさっさと攻撃しなよ!


「断る! 俺はその魔導石は使わない! 俺は正々堂々対等の勝負をする!」


 客席から拍手が起きた。いや感動するような場面じゃないよ? すごく当たり前の答えだよ?


「正義である私に逆らうのなら、パトリック、お前は悪ナリ!」


 この人の考える世界には正義と悪しか無くて、自分は揺るがない正義と決まっているようだ。


「だったら俺は悪で構わない! その魔導石は不要だ!」


 パトリックもあまり常識が無いようだ。ジャスティス仮面の言う正義をどうしてそんなに疑わないんだろう。


「ならわたくしが壊して差し上げましてよ」


 マホが呪文を唱えると、ジャスティス仮面が持っていた魔導石はあっさりと壊れた。


「「「あ――――っ!!」」」


 何やってんのマホ! そういうのは本人が自分で壊さないと!


「使わないとは言ったが壊せとは言ってない! お前、許さんぞ!」


「あんなもの戦争のもとでしてよ」


 マホに突っかかろうとするパトリックにジャスティス仮面が呼びかけた。


「奴の色仕掛けにはどう対抗するナリか?」


「こっちも同じことをするまでだ!」


 パトリックは服を脱ぎ捨てて上半身裸になった。かなり筋肉質で鍛えられている感じがする。


「さあどうだ!」


「そ、そんなもの、なんでもありませんことよ!」


 マホは顔をそむけながら言った。かなり動揺している。何だろう、この最終決戦にふさわしくない低レベルな戦いは。


「いきますわよ!」


 舞台の真ん中で爆発が起きて石が弾け飛んだ! 爆発は次々と起きて床を貫通する穴が開き、やがて無数の石が竜巻のように渦を描いて飛びながらパトリックを取り囲んだ。


「マホ選手、念動魔法で石を操りパトリック選手の動きを封じました。念動魔法で相手を直接狙うことは出来ませんが、相手の念動魔法で飛んでいる石に自分からぶつかるのは有効なダメージになります。こうなると下手に動いたらあきません」


 石の竜巻の外からマホが槍で突いた。パトリックは障壁で弾いたが、すぐにマホが背後から槍で攻撃。何度も攻撃するうちにパトリックはかわしきれずにダメージが入り、残り半分ほどになった。


 するとマホの周囲でいくつもの爆発が起きた! パトリックの火炎魔法だ。これもマホを直接狙ったものではなく、マホが動くと爆発に巻き込まれてしまうというものだ。


 パトリックは障壁で石を弾きながら竜巻を突破してマホに斬りかかった。マホは槍を構えて迎え撃つように見せかけて、自分の周囲に雷を落とした! パトリックがマホの背後に回ると予想しての攻撃だけど、パトリックはそれを予想して障壁で弾いて剣で攻撃! マホのゲージも残り半分ほどになった。


「両者激しく魔法の応酬! 一歩間違うたら大けがになりそうな攻撃をギリギリのところで回避してます!」


 マホは錬成魔法でマントの形を変えてロープにし、両端に石を結び付けて振り回した。これなら魔法で操っているわけじゃないから当たればダメージになるはず。念動魔法で飛ばしている無数の石の竜巻に、振り回している石をまぎれ込ませた。パトリックは障壁で石を弾こうとしたが、振り回している石が背後から命中した!


 その後も一進一退の攻防が続き、二人ともゲージが残りわずかの状態になった。


「両者とももう魔導石の魔力が尽きとるようです。こないなってしもうては、もう体の強化も素早い移動もできず、武器でやりあうしかありません」


 マホの槍とパトリックの剣がぶつかり合った。槍のほうが間合いが広いので、斬り合いをしながらマホは後退し続け、パトリックは前進し続けている。


 舞台の中央にはマホが爆発させてできた大穴がある。マホは大穴のすぐそばまで追い込まれた。剣の攻撃をマホが槍で払った瞬間、マホの足元で石が崩れた! バランスを崩したマホをパトリックがつかもうとし、その手をマホが払いのけた。


「わたくしの負けですわ」


 マホは微笑(ほほえ)みながら背中から穴に落ちていった。悪の親玉は最後にそうするものだって鈴木が言ってたけど、それは落ちたら死ぬような高い所からやるものであって、下の階まで4メートル落ちるものじゃないよ!


「マホ選手転落――! ついにゲージが0になってまいました! パトリック選手の勝利です!」


 大歓声が起きた。終わった。色々予定外だったけど、私たちが負けるのは予定通りだ。


 大穴を(のぞ)いてみると、マホは無事だった。私はマホの手を引いて浮遊魔法で大穴の上まで上がった。するとパトリックが声をかけてきた。


「いい勝負だった。お前、強いな」


「勝てなかったのは悔しいですけど、楽しかったですわ」


 他のみんなも舞台の上に集まってきた。


「いやー皆さんほんま素晴らしい試合でした。絶対正義党チームが勝ちましたけど、最後までどっちが勝つかわからんええ勝負やったと思います」


「約束通りねー、楽園の役員選挙をするのー。投票は2か月後なのー。今度は選挙で勝負なのー!」


「やはり正義は勝つナリ! この試合を見てくれた諸君は正義の素晴らしさに気づいたナリ。皆で我々に投票して圧勝するナリ!」


 観客のみんなはジャスティス仮面の外道さが身に染みてわかったんじゃないかな。


「わたくしはこの魔法武闘会を定期的に開催したいと思っていましてよ。そこでですわ、魔法闘士を目指す方々を募集いたしますわ。わたくしと一緒に修行なさいませんこと?」


 野太い歓声が上がった。マホと一緒に、という所だけに反応してない?


 後日、世間の話題は魔法武闘会の内容よりも私の変身魔法についてで盛り上がった。私のところには「変身魔法を教えてほしい」という依頼がたくさんの女性から殺到した。私が変身魔法の使い方の動画をアップロードすると、あっという間に何十万ものアクセスがあった。

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