役員選挙 1
「今度の役員選挙はねー、ピコとマホは当然立候補するのー」
楽園本社の会議室でナノがそう言いだした。
「私たちの意向は聞かないの? 強制参加?」
「役員やめたいのー?」
「そんなことないよ。私は立候補するつもり」
「わたくしも、……もう少し役員を続けてみてもよろしくてよ」
マホは歯切れの悪い言い方をした。
「どうしたの? あまりやりたくないの?」
「そういうわけではありませんことよ。ただ……わたくしが役員として必要とされているのか、最近気になってましてよ」
楽園はこの街の暮らしすべてに関わるようになっているから、楽園の創業当初と比べて魔法部門の重要度は大幅に下がっている。
「それなら選挙に出るのー! 役員として必要とされているかどうかを選挙ではっきりさせるのー!」
「そうですわね……。わたくしも選挙に立候補しますわ」
「じゃー立候補締め切りなのー。立候補3人、定数3人で無投票当選なのー」
「いきなり締め切るなー! そんなの選挙じゃない!」
「冗談なのー。あとでちゃんと立候補を受け付けるのー」
「定数は3人じゃなくて、もっと増やしていいと思うよ」
「増やしすぎてジャスティス仮面が当選したら嫌なのー」
「役員候補は何人くらいいまして?」
「そういえば『楽園の先導者』って称号があったよね。楽園役員にふさわしいスキルを獲得すると付く称号」
「この称号があると選挙で有利そうなのー」
「これを持っているのが私たちのほかにフィオさんと筧さんだったよね」
「その2人にも立候補するか聞いてみるのー。立候補するなら定数を5人にするのー」
問題なく当選しそうな人数から定数を決めるってのは問題ないのかな。
「絶対正義党の方々は、またでたらめばかりおっしゃってきますかしら」
「それなんだけどさ、今システム開発のほうで『信憑性チェッカー』って機能が試験運用段階になってるんだよね。発言が本当っぽいか嘘っぽいかをリアルタイムで数字で示してくれるから、この選挙に導入してみたらどうかな」
「それ、いいのー! 嘘が一目でわかると投票しやすいのー!」
「デマで他の候補の評判を下げることも無くなるし、出来もしないことを無責任に約束することも無くなるよ」
その後フィオさんと筧さんに聞いてみたところ「立候補する」ということだったので、役員の定数は5人ということに決めた。立候補は誰でもできるけど、投票する権利があるのは楽園の社員と楽園のサービスの会員で、契約の種類によって一人の票数が違ってくる、ということになった。ソーラーキャッスルの住人のほとんどは社員かサービスの会員だ。選挙の運営は市役所の人たちが進めた。
選挙の告示をすると立候補者は9人になった。そして各候補のプロフィールやスキルが掲載された。
ナノ
楽園社長 友情努力勝利党
能力レベル345 貢献レベル511
ピコ
楽園技術部門役員 自由平等博愛党党首
能力レベル362 貢献レベル504
マホ
楽園魔法部門役員
能力レベル251 貢献レベル289
フィオ
楽園建設会長
能力レベル275 貢献レベル322
筧雅行
楽園ロボティクス開発部門役員
能力レベル244 貢献レベル293
ミラ
楽園フーズ企画部門役員
能力レベル393 貢献レベル320
ジャスティス仮面
絶対正義党党首
能力レベル85 貢献レベルマイナス9
インクレディブルプランナー加藤
楽園社員
能力レベル33 貢献レベル12
マリア
動画配信者
能力レベル140 貢献レベル148
それぞれのスキルや称号も細かく記載されていて、私の「まちカド裸族」なんて恥ずかしい称号も載っている。
「あれ、ミラさんも立候補したんだ。……って、能力レベルこんなに高いの!? 私より高いじゃん!」
ミラさんは私より年下の黒人女性で、よく会議で顔を合わせる。ミラという名前は本名ではないらしい。
「いつもアイデアをたくさん出してくれる優秀な人なのー」
「あら、ミラさんにも『楽園の先導者』の称号がありましてよ」
「あ、ほんとだ。つい最近この称号がついたんだろうけど、入社してからそんなに経ってないのに『楽園の先導者』に必要なスキルを全部集めたってのはすごいね」
「楽園の先導者が6人になっちゃったのー! 誰か1人落ちちゃうのー!」
「これは真剣勝負になるね。ナノたちとはライバルだよ」
「他のお三方は落選なさる前提なのでして?」
「加藤とマリアって知らない人だけどねー、まったく当選しそうに見えないのー」
「それは同意」
翌日、サフィーヤさんが私の部屋を訪ねて来た。
「市長選挙のときはピコさんが一緒に政策を考えてくれたデスので、今度は私がピコさんに協力するデス」
「ありがとう、一緒に政策を考えてくれると助かる。でも選挙を管理する市役所のトップが私に協力していいのかな」
「選挙管理委員会のトップが別にいるデス。いわば選挙の審判長デス。なので私がピコさん陣営でも問題ないデス」
「なるほど」
「選挙ではこれから取り組む仕事をアピールするデスヨ。ピコさんは今どんな仕事に取り組んでいるデスカ?」
「これから造る工場とかの施設の設計が、私の考えた大まかな設計方針とずれていないかチェックする仕事だね」
「すごく地味デスヨ! アピールできないデス!」
「ソーラーキャッスル全体の設計を考えるなんて派手な仕事はもう終わっちゃったからね」
「じゃあこれからどんな仕事をしたいデスカ?」
「このままが理想だよ。私が暇ってことは、何事もなく計画通りに進んでて、街のみんなが平和に暮らしていけてるってことだから」
「まあそれは私もそう思うデスし、無理に仕事を増やすのは自由平等博愛党の理想に反するデスけど、何もしないことをアピールするとネガティブな印象になるデス。じゃあ何か不満とか無いデスカ?」
「セクハラをどうにかしてほしいと思う。私が恥ずかしい目に遭うことが多いんだよね」
「いつもピコさんが自分でさらけ出してるデス」
「全部不幸な事故だよ」
「ということはピコさんがアンラッキーということデスネ」
「私がアンラッキーなことで、世の中の人たちにラッキースケベをばらまいてるって事なのかな」
「さすがピコさん、世の中に幸せをばらまいてるデス。みんなの模範デス」
「だからそんなに私を持ち上げないでって……ん? なんか話の論理がおかしくない?」
なんで肌や下着を見せることが模範になってんの? そう言う前に次の話に話題が移った。
「絶対正義党はピアロイドを人間らしく扱わないことを要求しているデス。これには対抗するデスカ?」
「そうだね、ピアロイドの立場をどうするかについてはこの選挙の争点にしたいね」
ロボットはみんな誰かの所有物になっているということが、アキコさんの一件以来ずっと気になっている。
「現状維持を主張するデスカ?」
「いや、今よりももっとピアロイドの権利を認めてあげたい」
サフィーヤさんが私の手を握って顔を寄せてきた。
「ピアロイドが結婚する権利を認めるデスカ!? そうデスヨ、ピアロイドが叶わぬ恋をしてしまうのを悲しく思っていたデス。せめて法制度だけでも恋の後押しをしてあげたかったデス。ピコさんもわかってくれていて嬉しいデス!」
「ごめん、結婚の権利なんて考えてもみなかった」
サフィーヤさんは顔を赤くして横を向いた。
「ごめんなさいデス、私の早とちりだったデス。じゃあ何の権利デスカ?」
「何の権利かってことだと『人権』かな。ロボットは楽園にお金を払って買うものだから、買った人はそのロボットの所有権を持つことになるでしょ。ということは奴隷と同じで、自分の意志で自由に行動しちゃいけないってことになるわけ。ピアロイドには人間と同じ心があるんだから、自由が無いのは問題だよね」
「それは私も気になってきたデス。でもロボットを作るのにはたくさんのお金が必要デス。そのお金を出してくれた人にロボットは頭が上がらない、ってことで皆さん納得しているデス」
「それなんだけどさ、ピアロイドを作るのにかかったお金はそのピアロイド自身が借金として背負って返済していくってのはどうかな」
「確かに自由になるデスけど、生まれながらに借金を背負うのもなんだかかわいそうデスネ。今誰かが所有しているピアロイドはどうするデスカ?」
「それはピアロイド本人が借金で所有権を買い取ることにするの」
「もう人間と家族のように暮らしているピアロイドもいるデス」
「その場合は元の持ち主が所有権を譲ることになるかな。その場合、所有権じゃなくて親権を認めてもいいかもね」
「ロボットの親デスカ」
「そうすればピアロイドが自分の子供を持つこともできるでしょ」
「なんだかほほえましいデス!」
そんな調子で私たちは議論を重ね、ピアロイドの権利を私の政策の柱にすることにした。結婚の権利も認めるし、参政権も認めることにした。楽園の仕事というよりは市役所の仕事に近いので、サフィーヤさんと協力して推進するということにした。




