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10.叔父

「老子、今なんとおっしゃいましたか」


 私の実家であるホーンナイト家からそこそこ離れた場所にある叔父の屋敷。お父様をちょっと強面にした感じの長身の男(まぁ、私の叔父のことなんですけどね)が老子に対してついにボケたのか? と言う疑惑の視線を向けた。


「やれやれ。ここ数日で儂は十年ばっかし多く歳をとった気分だわい」


 下着泥棒の分際で不満気にこちらを見るのはやめて欲しいですわ。嫌味の一言でも言ってやりたい気分ですけど、老子が叔父様を説得することを期待して余計な口は挟まないことにしますわ。


 老子がこれ見よがしのため息を一つ付いた。


「お望みどおりもう一度言うてもいいが、若く優秀なお前がボケたわけではないだろからその必要はないな? オジルド」

「ではやはり冗談の類では無いわけですな」


 そこで叔父の視線がこちらに向く。寡黙なお父様と違ってズバズバ物を言うこの叔父のことを私は老子同様尊敬してますが、今日ばかりは叔父様がもう少し扱い易い人物だったらよかったのにと考えずにはいられませんわ。


「それで返答は?」

「考えるまでもないでしょう。お断りいたします」


 叔父様の体がソファーの背もたれに深く沈んだ。


「ほう、何故じゃ?」

「何故も何もですね、老子。まだ十歳のアクアリアをハンターにするなど正気の沙汰とは思えません」


 ハンターそれは幻獣を狩ることを生業とする職業で、今の時代、需要がひたすら右肩上がりの狩猟業兼防衛業ですわ。


「この子にはすでにそれだけの実力がある。こんなご時世だ。早くから実戦を経験しておくにこしたことはないじゃろう」

「いくらなんでも早すぎます。ただの動物を狩るのとはわけが違うんですよ? 優れた才能があると言うのならば尚のこと、無駄死にを防ぐためにも最低でもあと三年、いや五年は待つべきだ。第一アクアリアの父である兄上を飛び越して、私にこんなことを頼むこと自体が筋違いも良いところだ」


 ドン! と叔父様の手がテーブルを強く叩いた。


「老子、あなたのことを尊敬しておりますが、はっきり言って今回のお話については失望しました。このことは後で兄上にも報告させて貰いますぞ」

「……ふむ。ぐうの音も出ん正論だな。どうするアクアリア? お主のせいで私は職を失うかもしれんのだが」


 あっ、このエロ爺。説得を諦めてこっちに丸投げしてきましたわね。いや、まぁ、横で話を聞いてて確かにこれは正攻法では無理かなと私も思いましたけど。


「……老子」


 己の無茶苦茶な提案の責任を十歳に押し付ける(ようにみえる)老子に叔父様が失望と怒りを込めた視線を向ける。


 はぁ、仕方ありませんわね。叔父様にこのスキルを使用したくはなかったのですが背に腹は変えられませんわ。


 私はスキル『屈服の魔眼』を行使した。


 途端、私の視界に映し出される文字列。


 オジルド•ホーンナイト


 弱見ーーブリジット•ホーンナイトと半年に一回程度の間隔で肉体関係がある。


 単独服従率35%


弱見ーー月に一回、仕事と称して愛人と相引きをしている。相手はオルガ王国で二番目に大きな娼館の高級娼婦ダラ・オオルド。オジルドは熱を上げている彼女を王国一の娼婦にすべく、私財からかなりの金額を貢いでいる。


 単独服従率20%


 弱見ーー妻に隠れてジルド邸にいるメイドの半数近くに手をつけている。ちなみに雇っているメイドの多くがもと娼婦だがその経歴はホーンナイト家の権力を行使して改竄してある。


 単独服従率 15%


「ぐっは!?」


 知りたくなかった事実に私は思わず胸を押さえるとテーブルに突っ伏した。その際に額が盛大にぶつかってかなり大きな音をたてましたけど、もはや痛みって何? って感じですわ。


「どうした? アクアリア?」


 突然呻いて上半身を折った私を見て、叔父様が心配そうに席から立ち上がりましたわ。……ってか、お母様ぁあああアアアア!! 何二回連続で脅迫材料に出演なさってますの? い、いえ、エロ爺の時は被害者なのでまだ良いですけど、今回のこれは……これは……ああ、今日から一体どんな顔してお母様と目の前の間男な叔父様、略して間叔父と会えば良いんですの? 


 気のせいか、このスキル。使用者への負担が半端ありませんわね。


「呼吸が荒いな。意識は? 指は何本に見える?」


 意識確認の為に叔父様が二本の指を立てていますけど、お母様とヤッてることを知った今、そんなはずはありませんのにピースサインに見えてかなりムカつきますわ。


「い、いえ……ハァハァ……ちょっと十歳の子供には刺激が強すぎる事実を知っただけですわ」

「何を訳のわからんことを。胸か? 胸が痛むのか? どれ、見せてみろ」


 私は立ちがると背筋をピンと伸ばします。そりゃもう、天高く伸ばしますわ。


「いえ、全然平気ですわ。ちょっと神のお告げを聞いただけですの。全然平気、全然平気ですわ!!」


 だから私に触れるんじゃありませんわ、この間叔父が!!


「ほう、お前の神が語りかけたか」

「……神? 最近アクアリアの言動がおかしいと報告を受けていましたが、まさか老子、貴方が何か関わっているのですか?」


 あの顔、間叔父の中で老子がどんどん危険人物化していきますわね。エロ爺がお手並拝見とばかりにこちらに視線を向けてきましたわ。


「……叔父様、私の行動に老子は関係ありませんわ。先程老子が仰った提案も私が老子にそう言ってもらえるように頼んだものですの」

「何? どういうことだ?」

「実は私、神様からの声を聞いたのです」

「…………は?」

「神様はおっしゃいましたわ。お前は特別だと。その力を持って王国を守れと。だから私は神様の期待に応えるため強くならなければならないのですわ」


 突飛な行動を自然なことと受け入れさせる方法、それはズバリ、幼少期から周囲に変人そういう奴だと思わせておくことですわ。……多少話を変えてるとはいえ、嘘を言ってないのに変人そうなるのは業腹ですけどね。ですがやはり反共存派のスパイの目を掻い潜るには多少頭がイッちゃってるくらいのキャラの方がやり易いと思うのですわ。


「……それが最近学校をサボっている言い訳か? 神様が言ったから? お前の神は学び場の大切さを説きはしなかったのか?」


 伯父様のこめかみに浮かぶ青筋。発せられる怒りのオーラは普段の私であればタジタジになってしまったかもしれませんけど、青筋浮かべてるのが自分だけだと思ったら大間違いですわよ、この間叔父が!!


 何の因果か、私はエロ爺に続いてまたもや指を三本上げましたわ。そしてーー

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