結菜と茉莉 3
No.4
じゃーんけーんぽんっ!
あいこでしょ!
あいこでしょ!
あいこでしょ!
っしょ!
っしょ!
「あ」
「やっと決まった。サカナが鬼な!」
なかなか勝負がつかなかったジャンケンがやっと終わりサカナが鬼になった。
六人でジャンケンはちょっと時間がかかるがそれも遊びのうちで皆楽しそうにしている。かくれんぼに混ぜてもらった双子はお互いに名前だけの簡単な自己紹介だけをすませて、以前からの友達みたいに仲良くなった。
「俺はタヌキな、こっちはサカナ。あとは・・・あ、来た。」
辺りをみまわすタヌキは木々の間からやってくる友達を見つけて手を振る。
二人増えて四人。女の子でチョウチョとキンギョと名乗った。
「かわった名前ね。わたしはまつりでこっちはゆうなよ。」
「おい、ほんとの名前言ったらダメだろ。お面を名前に、ってお前らお面は?」
何のことか分からずきょとんとした顔をしたら、タヌキは双子がお面を持っていない事に気付いた。
「お面はどうした?」
「お面?ないよ。どうして?」
両手でかぶっている帽子をもって首を傾げる。こういうときの双子は息がぴったりあっていて帽子を持つ両手の位置や、首の傾げ具合までそろっている。
「ここじゃお面を名前にするんだよ。だから俺はタヌキだ」
言われて四人を見れば確かにお面を持っていた。
タヌキのお面は首にぶら下げていて、顔の上半分だけしかなく狸の目だけだが双子も知っている狸だった。
「「ぽん〇。知ってる!ぽいんとがたまるってママがいってた。」」
「ぽん〇?お面にそんな名前はないぞ?」
チョウチョは顔の上半分だけで、蝶の後翅こうしが耳のあたりまで広がっていて、横から見ると羽で包まれている様に見える。黒のワンピースで、紫に黄色~橙色のラインが入った透けるふわふわしたワンピースを重ね着している。綺麗なおねえちゃんだ。お洒落でかくれんぼするのに着る服じゃない。
キンギョは前頭から顔全部。だけど、尾ひれをイメージしたヒラヒラのレースが付いていて後頭部を隠してしまっている。まるで派手なフルフェイスのヘルメットに見える。しかも黒い出目金。服がピンクの横縞シャツに青スカート。だから余計にマスクが浮く。
サカナはお面を顔からずらして被っているそれはフグだった。顔を完全に隠してしまうフグのお面。〇かなクン帽子と同じ種類のフグ。そのまんまだ。
みんな双子より年上で五歳から七歳くらい。
「お面が無いとここには入れないのに?なんで入れたんだろ??」
タヌキが首を傾げる。
「はいれない?でも木の根っこのトンネルあったよ。とおったらここにこれたの」
「ねー。川んことにあったよね。」
キンギョがもしかしてと、
「隠れた道でも目印があったりして?」
思い付きで言ったけど、みんなの目がキラキラと輝く。特に双子が食いついた。
「それってひきょうのとおりみち!見つけたらざいほうが手にはいるヤツだ」
「ざいほっう!」
「ざっいっほっう!」
「ひきょうのざいほっほう!」
ピョンピョンはねながら、その場でくるくると回りながら即興で歌を歌いだす。四人も隠し通路にわくわくして、双子のデタラメ歌と奇妙な踊りに突っ込む子はいなかった。
「僕たちが通れそうな道を探しながらかくれんぼしよう!」
サカナが提案するとすぐさまかくれんぼが始まった。十数えて、
もーいいーかーい?
まーだだよ~
まーだだよ~
もーいーかーい?
もういいよ~
まぁだだよー
森は木々の間隔が広く、太く大きな木から、ひょろひょろと今にも折れそうな木まであり、しかし低木がそれなりに生えていて隠れるのに困ることは無い。
双子は一緒に行動して茂みに隠れてもーいいよーと繰り返す。これじゃ見つかってしまう・・・・見つかって欲しいのか?
誰かがキャーっと楽し気な悲鳴を上げ、乱暴に枯れ木を踏む音が聞こえる。近くで誰かが鬼に見つかったみたいだ。ドキドキしながらじっとしていると、
「鬼さん交代ー。次はキンギョ!」
サカナの大声が聞こえる。
鬼が交代になると隠れていた場所を移動しなければならない。同じ場所にはいられないルールなのだ。おばあちゃんに教えてもらった時は、鬼が交代するときは一度みんなが最初の場所と決めたところに集まるのに。
ルールがちょっと違う。
かくれんぼは奥が深い。
双子はいつも一緒に隠れるから他の子たちにはどっちが茉莉で結菜のか分からず、鬼交代の掛け声は「鬼さん交代、双子の子~!」だった。一緒に行動しているからどちらかを捕まえるが、どちらを捕まえても二人は交代で鬼になった。
この時は双子も別行動になるけど、隠れようとして、双子の片割れがいたら鬼かと思って皆びっくりしていた。
あまりにも見分けがつかないから茉莉は帽子を脱ぐことになったほど。
再び鬼は変わって双子は鬼がいないか辺りを伺い、いないのを確認して別の場所へ移動する。
こそこそと。くすくす忍び笑いをしながら大きな木をぐるりと回り、一面、黄色の花で埋め尽くされた場所に出た。
「「へ?」」
間抜けな声がハモった。
木を半周するとき、森の中に黄色の花など見えなかった。背後を見ると大きな木はあるが、澄み渡る青空に、黄色の花畑が広がっており森がない。
「お花ばたけ?」
首を傾げつつも結菜は木を逆戻りしてみる。振り返ると森で黄色の花はなく、茉莉も姿も見えない。
試しに、木を逆方向から半周してみると何も変わらず森の中で茉莉はいない。
「まつり!まつり!ひきょうの道!」
パタパタともう一度木を半周して、黄色の花畑へ行く。
すごいすごいと騒ぎ、かくれんぼの最中なのも忘れて再び歌いだす。
「みーっつけった」
「みーつけた~」
「かっくっし!」
「つっうっろ!」
「ひーきょーうーのつうろ~」
「ひーきょーうーのつうろ~」
再び歌い出す。双子が即興で歌うのはシンプルなものばかりだがよくもこんなに歌えるものだと感心する。
黄色の花は背が低く、四歳児の膝程度しかなく、見渡す限り黄色の花畑でかくれる場所がない。
「あぁ~、ここじゃダメ。かくれられない」
「せっかくだし、お花もってもどろっか」
せっかく見つけた通路なのに残念そうに黄色い花を摘みリュックにいれる。
見つけたことを伝える事など思いつかないくらいガッカリしていた。
皆で探そうって言ったのに双子はすっかり忘れていた。
森に戻ると薄暗さを感じた。空を見上げているとオレンジ色に染まりつつある空が見えた。お花畑は青空が広がってとても明るかったのに。こっちでは夕方だった。
けれど遊びに夢中で二人が気づかなった。