結菜と茉莉 4
No.5
「鬼さん交代。次はタヌキだよ!」
タヌキを捕まえキンギョが大声で隠れている皆に声を掛ける。
続けてタヌキも隠れている皆に声を掛ける。
「なあ、あと一回したら帰ろう。暗くなってきた」
いいよー
わかったー
はーい
はーい
最後のかくれんぼは気合が入る。隠れつつ、鬼がどこにいるのか確認しつつ、移動を繰り返す。
かくれんぼは同じ場所にいたらダメなのだ。それはつまらない、最後にふさわしくないかくれんぼになってしまう。
探す鬼も気合をいれて隠れてそうな場所にどんどん突っ込んで行く。キョロキョロと隠れている誰かを見落とさないようにしている。
ふふふ、
くすくすくす。
隠れている子同士でばったり会って声がでそうになるのをグッと堪えて、お互いにしゃがみ込んで笑い声を我慢して、そうしてお互いに別の方向へ隠れにいく。
双子も茂みの中に強引に体をねじ込み、隠れるのにここがいいと最後の隠れ場所に決めた。
ドキドキしながら息を潜めていると足が見えた。
誰かか近くを歩いている。
鬼か分からないけど、双子は互いに目配せして、し~っと人差し指を口元にあてて、ハッキリと聞こえる「し」を言い合っている。
静かにしているつもりなのだけどまる聞こえになってしまっている。
見えている足が、隠れている双子の前でピタリと止まり、双子は両手で口をおさせ、見つかりませんようにと呟く。見つかるのに何故ここでつぶやくのか?四歳児。
誰か分からないが、その子が四つん這いになり茂みの下を覗きこまれた。
????
狐のお面をかぶった子だった。青い甚兵衛を着た、顔全部が隠れるお面をきちんと被っていて顔が見えない。
一緒に鬼ごっこをしている子じゃなかった。
びっくりして固まっている双子に、知らない狐面の子は話しかけてくる。
双子と同い年くらいだ。
「そこじゃ見つかっちゃうよ。こっちおいで」
手招きして指さす方向に行こうと誘う。
「キツネも鬼ごっこしてるの?」
おずおずと結菜が尋ねると、たぶん笑ったと思う。
「うん、さっき混ぜてもらったんだ。」
「もう終わっちゃうよ?」
「いいんだ、これで最後だって言ってたけど楽しそうだったからさ。ほらそこじゃ見つかるよ、とっておきの場所があるんだ。特別に教えてあげる。」
双子に手をさしだしてキツネの子は誘う。
疑うことなく嬉々としてその手を取って、鬼に見つからないように木から木へ、茂みから茂みに伝って進むと、細く高い木が二本並んで立っていて、その隙間─────双子が背負うリュックが引っかかって通れないから仕方なくその場に置いて─────子供が無理矢理ぐにぐにと体を押し込みながらやっと通れる細い隙間を通るととても広い空間に出た。
「ふおう!?またひきょうの道だ!」
「ひろーい。すごーい。ごちゃごちゃしてる」
広い、広い、すり鉢状の町が現れた。道は白い石で舗装され、木造の家や倉庫、店らしき建物が立体迷路のように並ぶ。
すり鉢状になった中心、その空間には幾重にも橋が架けられ、向こう側とこちら側、右側と左側。上と下。まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされ、その交差する中央に大きな柱があり橋を支えている。
「「ふおおおおう」」
巨大な柱とすり鉢状に広がる空間、見上げれば雲一つない・・・・青い空。下を見れば深すぎて光が届かず暗くて地面が見えない。
いきなり現れた、森からは想像もつかない場所にでて、その雰囲気に圧倒されて双子はおかしな奇声をあげている。
目と口をまん丸にしている双子の口をパフっと塞ぐ。
「静かにね。みつかってしまうから」
片手でそれぞれの口をふさぎ小声でいう。コクコクと頷く双子にそっと手を離すとぷはっと揃って息を大きく吸っている。
呼吸を遮ったわけでもないのに。どうやら口を塞いだ時、自分で息を止めてしまっていたらしい。
「さあ、こっちだよ。見つからないようにね」
手招きして歩き出すキツネの後についていく。双子たちが木の隙間から出た場所は、はすり鉢状の町の半分も少し上で、家と家の隙間だった。屋根が傾いてて今にも倒壊しそうな家だった。
今までの秘境と違う雰囲気に少し怖さを感じてキョロキョロと辺りを見回し、誰もいないことに気が付いた。
「ねー、ここってだれもいないの?」
「ほんとだ。みんなひっこししちゃったのかな?」
巨大な町なのに、まるで岩に密集するフジツボのように、みっちりと家が立ち並んでいるのに、人が住んでいそうな家がひとつもない。無人。
「ここは廃墟なんだ。廃墟ってわかる?」
「しってる。すいぞくかんでみたよ。」
「まつり、ハイギョじゃなくてハイキョだよ。きょうだいかな?」
結菜にツッコミを入れつつ、結菜が自前の予想をたてて、あってる?と目を輝かせてキツネを見上げる。
きらきらと無邪気な笑顔に、キツネはうっと小さく呻いて申し訳なさそうに否定する。
「ちがうよ、廃墟って人がいなくなった場所だよ。ほら、建物も壊れかけが多いでしょ」
キツネが見ているほうに顔を向ければ、一階下に見える家の、玄関の真上の屋根が両端より下がっていて、じきに逆三角形が出来上がりそうだった。
すごいなーとじっと見つめていたら、その家の角から動くものがでてきた。
「なにあれ?お祭りにでてくるヤツ?」
茉莉の声に、二人がそちらを見ると確かに祭りで見る山車に似ている。高さはあまり無く、大人の身長の二倍弱ほどで、正面は大きな鬼の顔がある。ゴロリゴロリとゆっくり移動しているが、それを牽く人はいない。
見るなりキツネはハっと息をのみ、双子の手をひっぱって近くにあるドアをあけて中に入った。
「俺は鬼山車って呼んでる。アイツに見つかったらダメだ。ここにいる奴で見つかったら突進してくるんだ。僕らなんて簡単に吹き飛ばされるよ」
「ひとりでにうごいてたね」
「あれも鬼ごっこしてるの?」
人差し指を唇にあててしーっと声を落とすようにとキツネは示す。こてんと首を傾げた双子の頭をよしよしと撫でる。
「もう少しでとっておきの隠れ場所につくから。そうだこれあげるよ、お守りにと思って作ったんだ」
ポケットから出したものを双子に一つずつ渡す。それは石の形を動物に見立てて色を塗ったものだった。
結菜がもらったのは三毛猫の顔を正面から描いたもので、茉莉がもらったのは小鳥の姿を横から見た形をしている。色は黄色一色でひよこのつもりらしい。
「ありがとう、たんけんにきけんはつきものだもんね」
「失くさないように、たんけんセットにいれておこう」
にぱーっと笑顔で受け取り、早速リュックの横に付いているポケットにいれる。
こそこそと歩いているとすり鉢状の町が、実は奥行きがあるのだと分かる。細い道へ入ると屋根付きの道にはいり、しかし天井は穴だらけで暗くない。細く迷路のような道を歩いていると、後ろからミシリと木がしなる音がした。三人が振り返るとさっきの鬼山車が曲がり角からこちらへ姿を現すところだった。
「走れ!次の角で曲がるよ」
キツネの大声に双子はキャーキャーと楽し気な声で叫びながら走り出す。
全力で走るが四歳児の足は遅い。右手に結菜、左手に茉莉の手を握ってキツネの走る速度に無理やり合わせさせて角を目指す。現れた鬼山車がゴロリゴロリとゆっくりと方向転換し、三人を正面に捉えるとそれまでが嘘のように速く走り出し轟轟と音を周囲に響かせて突進してきた。
後ろを振りかえった双子は小さくヒッと悲鳴を上げ繋いでいる手に力を籠める。楽しげだった表情は引っ込み必死に足を動かす。
木を掘りだした鬼の顔が轟音とともにグングンと迫って来る。迫りくる音に双子をほとんど引きずるように曲がり角に体を滑り込ませる─────瞬間、鬼山車はゴウッ!っとひと際大きな音が通り過ぎて遠くなっていく。
「危なかった・・・・あいつは曲がるのが苦手なんだ。二人とも大丈夫?」
きつく握っていた手を離し双子に目線を合わせて尋ねると、青い顔をして黙り込んでる。さっきまでの楽し気な表情は無くなっている。
「コワかったね、でもあと二回角を曲がればとっておきの隠れ場所に着くから。」
双子の頭を撫でて優しく先へ促す。
「ここコワい。森がいい。」
「うん。」
「ここからだと戻る方が遠いよ。」
「「・・・・・」」
不安な表情をしてキツネを見上げる双子に言葉を補足する。
「ああ、アイツは通れないよ。通れるのは子供だけなんだ。」
カーブする細い道、建物と建物の隙間を手を繋いで歩きながら、双子を落ち着かせるように話しかけ続ける。
「大丈夫だよ、秘密の通り道は他にもあるんだ。あの森は特に道が多いからかくれんぼしてる他の子も通ってしまった子がいるかもね。」
「「キツネはここに住んでるの?」」
「ええ!?違うよ。でも僕んちの近くに秘密の通り道があってね、よく遊びに出かけるんだ。今日もそうだよ。」
「「コワくないの?」」
「ここにいるアイツはコワいけど滅多に見かけないんだ。今日は運がわるかったなぁ。でもこうして細い道を通れば入ってこれないから平気だよ。」
そっくり同じタイミングで同じ事をいう双子が可愛らしくて、ついつい楽しげな喋り方になってしまう。襲われた時の緊張は何処へ行ったのか・・・
「ウンがわるいなら、はやくいこうよ」
「はやくいこう?」
キツネの手をグイグイ引っ張る。不安で仕方がない様子に、じゃあ早く歩くけど頑張ってついてきてね。と速度を上げる。
双子は小走りになっているが双子は何も言わない。途中、幽かにゴトゴトと鬼山車の移動する音が聞こえた気が無視した。一つ角を曲がると少し広い道になりその分、さっきまで薄暗かった道が明るくなった。両側の建物に家は無く店のようだった。屋根が大きく張り出していたり、看板らしき板が立て掛けたあった。
曲がるのが苦手だと言っていた鬼山車は追いかけてきていない。双子は、回り道してくるんじゃないかと不安でドキドキしていたが、鬼山車は止まれずに真っ直ぐ走り去ってしまったらしい。走り出すと壁にぶつからないと止まらないくらいブレーキが下手で、方向転換も下手なのだとキツネが教えてくれた。
音が聞こえたけど別の道のようで細い道に入っては来ないだろうと無視しているのだ。
しかし、だからといってゆっくりするつもりはしたくない。双子は小走りを続けている。
「この角を曲がったから、もう見えるよ。」
キツネの言葉にホッとして、タタッと前にでてになってはやくいこうと、キツネと繋いでいた手を引っ張る。双子の息ピッタリの行動にふふっと小さな笑いが狐面から漏れる。
が、キツネの背後を見た双子がビクッと顔を体を強張らせた。
こんな反応をみせるのは一つしかない。振り返ると大通りからこちらを向いて停車している鬼山車がいた。
追いかけてきた鬼山車は角が一つだったが、これは角が三本。
こちらの道幅は鬼山車の幅より少し狭い。
だが、鬼山車はまったく気にせずに前進しガツン、ガツンと道の両側にある店の壁にぶつかっている。
「・・・・ギリギリで入ってこれないか。」
呟きが終わらないうちにメキメキと嫌な音が両側の店から鳴る。
鬼山車が無理矢理に体をねじ込ませて、ガリガリと車が回転して舗装された石畳を削って入ってきた。




