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継ぐ者 剥ぐ者  作者: しおこんぶ
20/26

サカナとネコとタヌキ 5

No.20








 薄暗い街は空を見上げると天井があった。家の外に天井?こんな変な造りの建物は見たことがない。どれも二階建ての家で道にはゴミ一つ落ちていない。




「静かだね。人がいないみたいだ」




「実際に居ないみたいだよ。どこかに行ってるか、本当にいないか。とにかく気配がないし生き物の匂いがしないし不気味だよな」




 気配?匂い?




「そんなことまで分かるの!?タヌキって野生よりな人だね。嗅覚が凄すぎ」




「そういうサカナは大自然に放置したら一日で食われそうだよな」




 ニヒヒと変な笑い方をして、ちょっと失礼かなと思ういい方をした僕は反論できなかった。むしろ、




「僕もそう思う。だからはぐれないでね」




「逆だろ、お前がはぐれるなよ」




 薄暗いなりに、うっすらと明るい方角に進んでいると壁にぶち当たった。まさに当たった。角を曲がった途端に壁にぶつかった。タヌキが。




「ぶ!」




「ぶ!」




 続いて曲がろうとした僕はタヌキにぶつかりよろける。壁と僕に挟まれたタヌキはちょっとダメージが大きかったようで鼻を押さえながら蹲まっている。




「~~~~っ」




「曲がって二歩で壁ってどんな街の造り方だよ。壁を建てたやつはバカでしょ」




 僕も鼻を打って悪態をつく。T字路になっていて僕たちが曲がろうとした方が行き止まりになっていた。


 曲がるときは慎重に行こう。


 薄っすら明るい方向へは曲がりくねった道のおかげでなかなか進まない。誰もいないのをいいことに外付けの螺旋階段を昇って行くと屋上同士で道が繋がってるのを発見した。




「屋上の方が道が分かりやすかったんだね。変な街」




「屋上に道があるなんて誰も思わないよなー。まるで迷路だ」




 ハッとして互いに顔を見合わせてた。同じことを考えてるのは確認するまでもなく、僕が聞いていた噂だ。遊園地に無いハズの迷路があるっていう。ここの事だったのか。




「迷路っていうより街だよ。無計画に家を建てまくった街って感じだし、道は蛇行に行き止まりおまけに道が家の上にあるって」




「間違いなく迷路だな。で、どうやって帰るんだ?」




「知らないよ。迷路そのものは普通の迷路だと思ってたし出口もすぐに見つかるもんだと。街だなんて聞いてないよ」




「探すしかないかー。木でも探すか?」




 そう言えばずっと歩いているのに植物が見当たらない。ゴミが落ちていないのは気付いてたけど雑草も生えていない。人がいなくなれば荒れるのにそれが無いなんて気味が悪い。


 僕たちは行く当てがないから明るい方向へ進むしかない。暗い方へは行きたくない。暗すぎたら何も見えないし。タヌキは夜でも見えてそうな気がするけどね。






















 一番明るい場所へたどり着いて唖然とした。僕たちがいる場所はすり鉢状の大きな建物だった。すり鉢状の中央に上から下まで大きな柱があって、その柱へ続く橋が所々に架かっている。頭上はるか遠くに青い空が見える。ミルフィーユのように階層があってどれくらいの層があるのか分らない。




 家が大きな建物の中にあるみたいだと思ってたけどその通りだったんだ。




 上を見上げると空が橋と橋の隙間から見える。かなり下の層にいるらしく中心の柱に架かる橋が放射線状に周囲に延びているため影が濃い。葉が生い茂る木を見上げているようだ。明かりが木の葉の隙間から漏れるように、橋の隙間から光が降り注いでいる。






















 巨大なすり鉢を地面にめり込ませたような形をした街だった。家屋が木造ばかりだったけど中央に架かる橋まで木造。よく見ると橋の造りが統一していない。一本の丸太をそのまま架けたような橋からどっしり重厚感あふれる橋まで、ここから見える限りでもピンキリで、僕たちから一番近い橋は吊り橋だった。何階層あるのか分からないこの建物はとても静かで人が見当たらない。生き物が見当たらない。植物もなくて、塵や埃もない。




「あの橋んとこにあるヤツは、俺達がくぐったのと似てないか?」




「ああ、僕もそう思ってたとこだよ。でも、あの吊り橋は嫌だ。ちょっと朽ちてるぽい」




「大丈夫だろ。張られたロープは大丈夫だ。板が所々朽ちてるぽいけど」




「・・・・・タヌキの目はよく見えるんだね。僕にはロープの具合までは見えないよ。そして板はやばいんだね?」




 見ているのは同じ階層の対面にある、渡ろうとすれば落ちる予感満載の橋。階層ごとに一つの橋が架かっている。蜘蛛の巣状になっていて巨大な柱を支えているのだろう。


 それに橋は性格には柱に埋められた大きな宝石に繋がっている。ここへ来た時の同じ大きな宝石。 






「柱ん中に階段があるみたいだし。とくかく行ってみようぜ」




 タヌキの言葉にやっぱりと確信する。僕には宝石にしか見えないけど彼にはあそこに階段が見えるんだ。


じゃあ、タヌキからはぐれたらここから出られなくなるかもしれない。




「柱の中に入るときは僕の手をしっかり握っていてよね。あれ、僕には宝石にしか見えないから。絶対僕ととはぐれたらダメだよ」




「だから言い方がおかしいだろ。お前がはぐれるなよ」
















 向かい側まで簡単に行けると思っていた。柱を見ながらぐるっと回って行けるようにすり鉢状のフチは幅の広い道になっていたから。


 しかし、木造の建物が倒壊していて道が塞がっていた。




「瓦礫を登っていけば向こう側へ行けるだろ」




「崩れれうかもしれないだろ。もし、この手摺の外に落ちたら助からない」




「気をつけるよ、待っててくれ」




 足を崩れた屋根部分にかけて瓦礫を越えていく。思ったよりもしっかり?としているようで崩れる気配は無かった。変な言い方だけど隙間なくみっちりと崩れた感じ?


 タヌキが瓦礫の上から登ってこいと手招きしてくる。正直いって登りたくないけど、橋へ行くにはここを越えるのが最短距離。・・・・・行くか。




 足場を確認してゆっくりと登って行くと待っていたタヌキが反対側の床を見ろという。倒壊した建物瓦礫の少し先におおきな穴があいていた。手摺も無くなっていて、穴というより煎餅を齧った後のような形で床が無くなっていた。大きな人が齧ったみたいに見えてちょっと可笑しかった。でも下の層が見えてしまって可笑しだも吹っ飛んだ。高い!深い!当然か。




「これ、ジャンプで向こうまで行けるか?」




「無理に決まってるでしょ!まさかタヌキは行けるの?」




「これくらいの幅ならいけるな。でもサカナを担いでは無理だと思うんだ。瓦礫の中に梯子でもあれば架けて渡れるんだけどなぁ」




「無理無理無理。タヌキの基準で考えないで。バランス崩して下に落ちて死ぬ。迂回しよう」




 下から吹き上がってくる風に額を全開にして、下層までの高さに竦むのだった。




















──────────────






 ギッギー。


蝶番が錆びて嫌な音をさせながらドアが開いた。




「ねぇ、誰もいないからって勝手に人んちに入っちゃだめだよ。お母さんに教えられてないの?」




「どこの坊ちゃんだよ。もしかしてサカナって良いトコの坊ちゃんなの?」




「普通の家庭の普通の子供だよ。躾けも普通だと思うよ」




「用事があれば誰もいなくても鍵が開いてたら入っていいんだよ」




「用事が泥棒とかいわないよね?」




「おかずのお裾分けを近所に配り歩く、親の手伝いができるイイ子だよ」




「ちょっと棒読み気味だね」




「・・・・おい、会話しながら普通に入ってきてるじゃないか」




「お邪魔します?」




 コテンと首を傾げて言ってみる。




「ふ、良いトコの性悪な坊ちゃんって感じだよな。なんか雰囲気が変わってないか?」




「変わってないよ、僕はいつでも僕だよ」




「こっちが素ってこと?猫被ってたのか」




「失礼な、僕は幼児じゃないよ」




「そっちのネコじゃねぇ」




 バカな会話をしながら家の中を見てまわる。引っ越したにしては物が多く置かれたままだ。テーブルにはテーブルクロスがあるし、キッチンには食器もある。寝室にはベッドが置かれて、ちゃんと枕まである。どれも使い古したものばかり。




「なんか変な感じだな。必要最低限の荷物だけ持って出ていったみたいな」




「他の家も入れるかな」




「おーい、サカナ君さっき言ったのと矛盾してないかー?」




「タヌキを見倣っているだけだよ」




 家の奥に扉を見つけて首を傾げる。外から見た感じだとこれ以上奥行きは無いと思うんだけどなぁ。まだ部屋があるのか。


 そっとドアノブを回すと玄関の扉と違って、音もなく滑るように扉がこちら側に開いた。


 ガッッ




「イっっっッだ!・・・・・ッッ!!」




 扉を開けたらいきなり段差だった。登り階段の一段目の角に強かに脛をぶつけて蹲り悶絶。うううう、鼻を打った時に気を付けようって思ったばかりなのにっ。




「壁の次は階段かよ。」




 タヌキが頬を引き攣らせながら階段を覗き込むと扉が見える。暗いが扉自体が朽ちているようで幽かな光が漏れている。




「階段を上ったところに扉がある」




「扉を開けたら何があると思う?ちょっと開けに行ってくれるかな?」




「一緒に行こうぜ」




 にかっと笑ってみせるタヌキの顔は、お前も巻き込まれろと言っている。何かが起こるの前提になってるよ。どっちが先頭になるかはジャンケンで決めることになった。




「僕ってジャンケンが弱かったのかなー」




 負けた。幽かに差し込む光だけだと僕の体が光を遮って、後ろに続いて登って来るタヌキの足元は真っ暗だ。階段の段数が多くなくてよかった。階段を上りきり扉を触ると随分と薄っぺらい板で作られていた。ガタついてできた隙間の部分に蹴りをいれたら壊れそうだ。やらないけどね。




「あ、鍵がかかってる」




ドアノブを回そうとしても動かない。ガチャガチャと音が鳴りつられて扉のガタガタと揺れる。




「鍵を探すのは面倒だ、扉を外してしまおう」




 僕を押しのけてタヌキが扉の前に立つ。いくらボロくても簡単に外れるもん?声に出した言葉は扉が倒れる音にかき消された。タヌキが回し蹴りで扉を壊したのだ。それ、外すんじゃなくて壊すっていうんだよ。




「豪快に蹴ったなぁ。住人はいないみたいだけど一応他人の家だよ、遠慮なし?」




「非常事態だし」




「あー、まぁそうだね」




 知らない世界も二回目だしね。非常事態なんだけど一人じゃないから結構落ち着いてる自分がいるな。でもわざわざ大きな音を立てる必要なかったよね?




「屋根付きの道?」




「囲いがある通路?トンネルみたいだね」




「「雨が降るわけじゃないのに」」




 数軒にわたって木材で囲った通路が伸びていた。歩いてきた方角を振り返ると屋上同士が繋がっている橋や階段が見えるがそれらに屋根がついたものは無い。再び正面を向くと屋上同士を繋げる橋は四角いトンネルのように囲いがされて、一定の距離で壁を丸くくり抜いた明かりとりがある。


 階段同様また暗い。足元が見えない上に床板は反り返っていて躓きそうになる。そしてタヌキは歩く速度を落とさず先へ進んで行く。


 夜目がきくんだなぁ。なんて思っている場合じゃないよ!現在進行で置いて行かれてる。ちょっと恥ずかしいけど手を繋いでもらおうか・・・・・うーん。子供っぽくてやだけどそうも言ってられないよなぁ。うーん、うーん。悩んでいる間に二人の距離が徐々に開いていく。













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