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継ぐ者 剥ぐ者  作者: しおこんぶ
18/26

サカナとネコとタヌキ 3

No.18






「ここ!このあたりでネコちゃんの背中が歪んでふっと消えたの」


 消えたあたりで両手をバタバタさせて説明するが、ネコだけが行けて、すぐ後ろを走っていたキンギョは『向こう側』へ行く事なく素通りした。


 消えたあたりを四人してうろうろと歩いてみても誰も消えたりしなかったし、おかしな何かを見つけることもできなかった。


 一番小さいネコ。

 ネコ、ネコ、ネコが消えた。ネコがここで・・・・・むむぅ、・・・・何かを見つけたとか?でもネコは純粋に遊びを楽しんでたしなぁ。

周囲を歩きながら考えこんでいると、同じく難しい顔して唸っていたタヌキが、ネコが消えたあたりを凝視。


「うーん・・・・もしかしてさ」


 同じく考え込んでいたタヌキが、屈んで何個か石を拾い、ネコが消えた空間に投げ、茂みにあたりポソポソ軽い音をたてる。が、最後の一つは茂みに届かずに掻き消えた。


「「「「ここ!?」」」」


 もう一度、石を拾い投げたらやっぱり消えた。何度も歩いて確かめた場所だ。しかし、タヌキは屈んで低い位置へ投げている。 


 四人共が顔を見合わせて、タヌキが頷くと、恐る恐る手を伸ばす。指先が、続いて手首、肘と消えていく。腕をひくと、肘から指先まで欠けることなく現れた。再び腕を突っ込み、さらに肩まで入れようとゆっくり体を傾けたらふわりと指先までが現れた。


「うお!?なんか押し出されたような感じがした。」


「身長?体の大きさ? 小さくて背の低いネコだけが行けたってことね。」


「私達じゃ行けないのネ。ネコちゃん戻れたのかなぁ。」


「来た時と同じなら帰れたんじゃんないかしら?」


「僕たちが通れるくらいの大きさがないと無理だよね。宝石を探すしかないか」


 ネコが行ったこの場所は使えない。とりあえずまた探しながら進むことに決まった。だが、みんなが一歩二歩と足を前に出すのに僕だけが動かない。


「サカナ、行くよ?」


 返事が無く動く気配がない。

三人共が顔を見合わせ頭上に?をたくさん飛ばして様子をみていると。 


 ネコが消えた空間を見つめて首を傾げたり、腕を組んで俯き口を富士山を連想させるような形にしたり。両手の指を頭の後ろで組んで上を向き口を尖らせる。

 ネコは公園でハトを追いかけていたらこっちに来ていて、消えた時は反対に追いかけられていたけど・・・・どっちも走ってたんだよな。キャーって言いながらハトを追いかけてたなら、その、キャーも一緒かもしれない。


「どうしたんだ?」


 ウンウンと唸るサカナの目の前で右手を振ってタヌキが聞くと、パッと前を向き考えていたことを思い切って口にした。


「あのさ、こっちに来るときって、それぞれの決まった方法で来ただろう?」


 その通り。


 タヌキは洞窟で、三本しかないのに、実は四本目の道があると。


 サカナは最近噂になっている、閉園した遊園地に無いはずの迷路が現れる。


 チョウチョとキンギョは昔からある話で、一年で一番夜が長い日と、一番夜が短い日の、月が出ている夜に不思議な場所へ続く道が開く。


「子供なのと、顔を隠くすっていう共通があるでしょ?帰るのにも決まった方法があるんじゃないかなと思ってさ」


「「「それ!!!!」」


 タイミングぴったりに全員が人差し指をサカナに向ける。人に指さししてはいけません。


「すごいわ、よく気がついたわね」


「そうか、行きと同じようにルールか」


 今のところチョウチョとキンギョが言う宝石しか、自力で見つけれそうなのが無いし。見えない通り道を探すなんて無理。

四人はかくれんぼしつつ宝石探しを続ける事にした。ネコのように遊んでいるうちに帰れるかもしれないから。子供らしい考え方だけど本人たちは至って真面目に考えている。


 森を走り回るのにマスクが邪魔で、いつの間にか『顔を隠す』というのを忘れて、被らずに首に下げたり、ずらして被ったりして顔を晒していた。

 途中で気が付いたけど、すでに遅く互いに顔を知ってしまっていたが、ネコが消えた時もネコ面は頭の上に乗せていたから問題ないだろう。


「何も起こってないし、こっちに来るときに隠すだけだったんじゃないかしら?」


じゃあ、いいか。












 自分で言っておきながら、すでにヤル気が失せている。もうやめたい。次に鬼が変わったら終わりにしよう。皆がやりたいって言ったとしても僕は抜るぞ。

 ネコの事もあるから、それはもう気合の入ったかくれんぼをしていた。

でも、サカナは飽きてきていた。飽きたと思ったらもうダメで、それまでとても好きだったものすら嫌になってしまう。


 結果。繰り返した鬼ごっこはサカナが言ったことで次で終わる事になった。

実は皆も飽きていたのかも知れない。

 いつの間にか青空だったのが夕焼けに染まり始めていた。タヌキが鬼になり誰かが捕まったら終了。

で、最後に掴まったのは言い出したサカナだった。










「はーっはーっはー、最後に、鬼、に、なっちゃったよ。タヌキ、走るの、速すぎ、だ。」


 鬼から逃げるのにかなり走り続けてい。最後に捕まっても鬼になる訳でもないのに、気分的に鬼になった気がしてちょっとだけイヤな気持ちになってしまう。

息があがりすぎて汚れるのも構わずに寝ころび、呼吸の合間に話す。鬼だったタヌキは、息は切らしているがまだまだ余裕がある。


「へへー。俺、走るの得意なんだ」


 かくれんぼはこれで終わり、さて、宝石を探すぞ。というところで双子がいないのに気が付いた。


「双子ちゃーん、かくれんぼは終わりよ。おいでー」


 チョウチョが呼びかけたが反応がない。 


「まだ隠れてんのか?おーい、ユーナ、マツリー?」


 タヌキの腹から出した声はそばにいると耳がいたくなるほどで、思わず耳をふさぐ。双子の反応がなくしんと静まり、風に揺れる葉が擦れあう音しかしない。


まさか。


 「・・・・・もしかして見つけた?」


ぽつりと呟く僕の声はやたらと大きく聞こえた。


「双子ちゃんが隠れたのってどのあたりかしら、誰か見た人は?」


「あっちの方へ行ったのは見た。サカナはどう?隠れた場所をみた?」


「ううん、見てない。キンギョが見たっていう辺りを探せば・・・」


「じゃあ、見つけたら絶対声を掛け合うこと。いいな!」


 気合の入ったタヌキの指示に『うん!』とこちらも気合の入った返事をする。

声を掛けるのはいいが、果たしてそれに気付いて立ち止まる事ができるだろうか?


 ただ歩いていると知らずに通ってしまうかも知れないから、適当な長さの棒や、枝を折って、それらを自分の前につき出すようにしてゆっくりと歩いて探した。

 見つけたら皆に知らせられるように、工夫として思いついたのがこの方法だった。


 折った枝は先で枝分かれして葉をつけたままで、サカナはそれで地面を掃くようにして歩いていく。

少し離れたところを歩くタヌキも、同じように下を向きながら棒で自身を中心にして地面に曲線を引くようにしながら歩いている。


『何か』は身長より下にあるとは限らないよな。


 視線を上に向ければ持っている枝を伸ばせば葉に届きそうだった。試しにと両手に持ち直して枝を振りバッサバッサと葉を叩き枝を揺らす。落ちてくるのは千切られた葉と虫。


「っぶは!」


 うう、だめだ虫が。

パタパタと顔に落ちてた虫を払って、服についていないか確かめる。背中は見えないからタヌキに見てもらおうと声をかけようと口を開いた時、先にチョウチョの声が聞こえてきた。


「みんなー、変わったのを見つけたわ!赤い実をつけた蔦があるの。下からだと蔦が見えにくいから私とキンギョは空から行くわ。目印に赤い実を落とながら飛ぶからついてきてね!」


 蔦!?空って、え?飛ぶ?

 きょろきょろと見回してもチョウチョもキンギョも姿が見えない。空を見上げると夕焼けの空に大きな何かが・・・・・


「チョウチョ!?」


 空をひらひらと飛ぶチョウチョが目に飛び込んできた。大きな羽は蝶そっくりで、全体に紫色で針葉樹の葉に似た線が、羽の根元が黄色で先にいくほどオレンジ色に変わっている。少し向こう側が透けて見ていて夕焼けの色も重なってキレイだった。だからチョウチョのマスクをかぶっていたのかと思うぐらいチョウチョだった。


「マジか!アイツら空を飛べるのかよ。シースルーの生地を巻き付けたワンピースだと思ってた。変な服って言わなくてよかった。」


 タヌキが空を見上げ、本音をこぼしながらこちらに近づいてくる。そうしている間にもチョウチョは飛んで行って見失いかける。


「ちょっと待って───ッ、どっちに向かうか教えて!!」


 焦って声を掛けるが聞こえないのかひらひらと飛んで行ってしまった。

 

「俺らをおいて行きやがった。」


「赤い実!探して、落ちてるはずだから」


 持っていた枝など投げ捨てて、チョウチョがいたあたりへ走って行くと確かに赤い実がいくつも落ちていた。摘まみ上げたタヌキが顔を顰める。


「これ小さいから枯れ葉に埋もれたらアウトだな。」


「大丈夫そうだよ、ほら数個纏まって落ちてるのが点々とあっちに続いてる。」


 指を指した先に赤い実が数個落ちている。その先にもまた数個。木の上のほうを目を眇めて見てみると葉と葉の隙間から赤い実が見えた。


「蔦って言ってたけどここからじゃ枝葉が邪魔でよく見えないな。ちょっと登って見てくるわ」


「こんな高い木に?無理でしょ」


 木は大きくて足を掛けれそうな枝は手も届かない高い位置にあって登るのは難しい。木が曲がってたり皮がゴツゴツしてたら登れるかもしれなかったが、この木は真っ直ぐに伸びて木の皮は何故か艶があって足をかけたら滑りそうだ。

 タヌキは全く意に介さないようで、ほっ!と軽い掛け声と共にジャンプして枝へ足をかけた。

二人の身長はたいして違わない。だというのに、タヌキはサカナの身長以上にジャンプして見せた。


「はぁ?なに今のっ、タヌキ助走しなかったよね?跳躍力おかしくないか。」


「これくらい普通だろ?行けるとこまで登ってみる。」


 するすると淀みなく登っていくタヌキを口を開けて見送る。

さすが別々の世界なだけあるな。空を飛ぶとか、高い位置まで跳べるとか羨ましい・・・・・ネコとユーナとマツリも凄い特徴があったのかなぁ。僕は何にもないな、普通だ。


 それぞれの世界でそれぞれが普通なことに気が付いていないサカナだった。








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