58 アリスの努力(前)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めているのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
次の日から特に用事のない放課後は生徒会の相談室でアリスと一緒に勉強をすることになった。
1年の勉強はできていて、その先にすぐ進むことになったので、私とウォロはただ一緒に自分の勉強をして、マリアやアンドレアスに教えてもらうような感じになったけど。
エドワードとティエルノも時々一緒に来た。
セレナにもちゃんと謝ってくれた。
次の休みに魔法の練習をしようとアンドレアス達に誘われたけれど、1-1だけで久しぶりに孤児院に行くことを予定してると話したら、わかった、それは行って来いと言われた。
休みにミクラとジュンの家に行き、午前中はクッキーを作り、午後は孤児院に行った。
今回からジュンとミクラは孤児院には付いて来ないことになった。
うふふ、ジュンのお腹に新しい命が宿ったことを教えてもらったのだ。
赤ちゃん、楽しみだなあ!
大切にしなくちゃね!
孤児院ではエドワードとウォロと私とセレナが児童部に行き、勉強や魔法を見た。
幼児部ではオードリーとティエルノとライト、それにシーラとマナが小さい子の世話や遊び相手をしてくれた。
アリスは前の派手さと可愛さ追及みたいな外見を装うことをやめ、落ち着いたデザインの制服に替え、髪型もシンプルで上品なものにした。
性格もかなり落ち着いたと思う。そして彼女の良いところでもある明るさも徐々に取り戻すことができてきている。
見ていて、調子に乗り過ぎそうな時は、私やマリアに一言注意されて自分で反省して直すみたいな感じで、だいぶ4-1の一度離れたメンバーにも受け入れてもらえることが増えてきたよう。
アリスは年上なんだけど、本当に妹みたいな感じ。
時々4-1寮に行って自分の仕度を自分でできるようにとか、簡単な料理を教えたりもした。
私の脳裏に時々女神ユーチャリスの姿と今のアリスの姿がだぶって見えることがある。
だから今世では姉なんだけど、妹のような感じがするのかも。
聖魔法の授業にも積極的に参加して、できないことを隠したりしなくなった。
伸び悩んでいた4属性魔法についても、自分からいろいろな人に教えて下さいと言えるようになっている。
先生にも友人にも。そしてお礼の言葉も忘れずに。
すごく努力していると思う。
無理していないか聞いたことがあるが、無理はしていないと言う。
素直な気持ちで人と関わることが楽しいと。
なぜ自分はあんなに人の裏ばかり見て、利用してやろうとか、人を傷つけることで優位に立ったつもりになっていたのだろうと、時々思い出してとても恥ずかしくなるそうだ。
だから、そういうことを思わないで済む今の自分がとても好きになってきたと。
それは良かった。
アリスがちゃんとしたヒロインになるとその反動で私が悪役令嬢と言われることが増えるかも?! とちょっと心配していたが、どうやらそれは今のところ大丈夫みたい。
学内では悪役令嬢の噂はほとんど消え、今は『魔王の嫁』と言われている。
悪役令嬢より好きな人の『嫁』と言われる方がいいか……。
そういえば、ウォロと約束した『ひとつなんでも言うこときく』権利? はまだ使わないそうだ。
そんな感じで12月を穏やかに過ごしていたのだが……。
お父様と兄様がダナンに行き、王都に不在の時の休みのこと。
アリシア夫人が屋敷に来るようにとアリスを呼びだした。
その日はボランティアを予定していた日で……。
実はアリスは魔法対戦大会の日、アリシア夫人に黙って屋敷を出てから戻っていない。
そのまま寮に入り、メイドのアンとお父様が荷物を取りに行ったそう。
無事復学できたので、良かったんだけど、アンからアリシア夫人がかなり荒れていたという話を聞いた。
アンは私が屋敷を出た後にメイドになったそうで、私のこともエミリアというよりアリスの学友のネモとして接することにすぐ慣れてくれて仲良くなった。
アリスとしては、アリシア夫人が私にしていたことを見てるので(一緒にやってた時もあったし)、それが自分に向くかもしれないという恐怖もあるみたい。逆にやる方の快感とか中毒性みたいなそういうこともわかっているだけに余計に怖いんだろうな……。
でもアリスにしてみれば実の母だし、私の様にずっと避けて逃げ続けているわけにもいかない……。
アリスに一緒に来てくれないかと言われて驚いた。
えー、私も?!
アンドレアスとランスも一緒に行くのでと言われ、それならウォロもオードリーもエドワードも一緒に行くと言い出した。
アポロとマリア、ティエルノやセレナとライトは孤児院のボランティアの方に行ってくれることになった。
私もアリシア夫人から逃げ続けるだけではダメかなと思うこともあったので、この機会に辺境伯爵家の屋敷に行ってみることを決めた。
昼食後、王家の馬車とランスの子爵家の馬車(ランスは子爵家令息だった。ちなみにアポロは公爵令息)に分乗して向かうことに。
アンドレアスの使う王家の馬車は初めてだ。エドワードのと似てるけど、飾りとかちょっと豪華かな?!
アンドレアス、アリス、エドワード、ウォロ、私の5人で乗ったんだけど。
ランスの方の馬車にオードリーとメイドのシーラとアン。
男性の従者(ウォロにはいないから3人)は御者台に乗っていた。
なんかランスが女性に囲まれてる。そういうのもスマートに周囲を楽しませちゃうような感じ(ちょっとチャラい?)のランスだから心配ないか~!
辺境伯爵家に到着する。
シーラとアンを馬車に残し、アリスとアンドレアスを先頭に玄関ホールへ入って行った。
これからみんなで用事があり、出掛ける前のお茶の時間だけお邪魔するということにしてある。
なので従者はホールで、メイドは馬車で待機してもらうことにしたのだ。
今日私が来ることは伝えてない。
婚約者であるアンドレアスと学友達がアリスと一緒に行くとしか連絡しなかった。
アリシア夫人がにこやかに迎えてくれ、アリスの様子を見てちょっと顔をしかめた。
アリスは以前と比べたらかなり地味にしているように見えるかも。
濃い化粧や凝った髪型や髪飾りもやめてナチュラルで上品な感じにしている。
元がいいから、これで十分! こっちのほうが断然かわいい!!
いつの間にかアリス推しみたいになってる私はアリシア夫人の表情に心の中で文句を言った。
夫人は周りにいた私達を見やると「いつもアリスがお世話になりありがとうございます」と言って軽く礼をした。
「お母様、私へのご用事は何でしょう?
皆様をお待たせしてはいけないので、お茶の時に一緒にお聞きしますわ」
アリスが落ち着いた感じで言った。
「まあ、アリス。なかなか会えなかったからふたりで話をたくさんしたいと思っていたのに残念だわ。
娘なんて、友達ができると親なんてどうでもよくなるものよね……」
私達は何とも言えなくて無言のままでいた。
たぶんアリシア夫人は誰かが『そんなことないですよ』と言ってくれると思ったのだろう。
辺境伯爵家の執事が気を使って、咳払いすると「奥様、お茶の用意ができております」とアリシア夫人に話を再開するきっかけを作ってくれた。
「お茶の席を設けましたの。皆様、こちらにどうぞ」
アリシア夫人が何事もなかったかのように1階の室内テラスの方へと歩み始める。
1階のテラスは温室みたいになっていて、いつでも何かしらの花が咲いている辺境伯爵家の自慢のテラスだ。
私がここにいる約1年間、よく土運びや植木や花の手入れをさせられたっけ。
まあ、それは嫌がらせしているつもりだったんだろうけれど、私はアリシア夫人やアリスから離れられて良かったことも多いので、久しぶりにテラスに入れるのは楽しみだ。
執事は昔からいた人物だけれど、私に全然気が付いていない様子。
私達は席に案内された。
使用人を数人見かけたが、知らない人が多い。入れ替えが激しいのかな?
テラスは前より花が少なめな気がした。緑の葉物が多いのも素敵だけど、ちょっと暗い感じがする。庭師も変わったのだろうか?
「あら、こちらの方々は前に孤児院でお見掛けしたことがあるわ」
アリシア夫人が私とウォロとオードリーを見て言った。
「はい、孤児院の慰問の時にお会いしたことがあります」
ウォロが答えてくれた。
「確か、あなたはミーア帝国の方でしたよね。家名がネモ? でしたっけ」
私にそう話しかけられて返事をしようとしたらアリスが言った。
「ええ、ミーア帝国のネモよ。家名でなくてネモが名前。私の大事なお友達なの」
私を守ろうとしてくれてるのかな?
「そう、ネモさん、いつも娘がお世話になっております」
にっこり言われたので軽く頭を下げた。
「そういえば、孤児院でお話しされていたエミリアのことですが、今でもお困りですか?」
オードリーがアリシア夫人に話しかけた。
そう、今回はもう噂を流させないように私や王子達がいるところで存分に私の悪口を言って頂き、みんなで聞いて、もう誰も信じないからやめた方がいいよと伝えることも目的になっている。
アリシア夫人がうれしそうに話に乗ってきた。
「ええ、エミリアはまだアリスに嫉妬しているのでしょう。先日の魔法大会でしたっけ?
ローベルトやジョシュアが観に行ったそうですが、エミリアについて何も話していないところを見るとすぐ負けたんでしょうね。アンドレアス様、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます。
いや、アリスを私の所に案内して来てくれたのはエミリアなのですよ。
アリスと話す機会を作ってくれたエミリアには感謝です」
アンドレアス王子が言った。
「いえいえ、私もアリスに試合を観に行くように言って良かったですわ!
エミリアもたまには珍しくいいことをするんですね。でも、何を考えているかわかりませんわ。
決して気を許さずに。また変な噂になるかもしれませんしね」
むー、次は何の噂を立てるんだよ。
「確かに、アリスを捕まえて引っ張って来てたもんな!」
ランスが笑いながら言った。
「まあ、そんなことが!
では全くいいことではありませんでしたね。アリスを困らせるためにそうしたのかもしれません。
結果、アリスとアンドレアス様が仲直りできて悔しがっているかもしれませんね。おほほ」
「お母様、私、お母様からは学校に行くなと言われたんだけど……」
アリスが夫人を見て話しだし、途中からアンドレアスに視線を戻して続けた。
「お母様の言うことを聞いていたら、アンドレアスと話ができないところだったし、学校もやめることになっていたかもしれない。エミリアには感謝してるの」
「まあ、アリス!
私は行きなさいって言ったわよ。ええ、あの時はエミリアのせいで傷ついていたので、きっと記憶が混乱しているんじゃなくて?」
アリスは首を振って黙ってしまった。
エドワードが夫人に聞いた。
「アリスとエミリアは一緒に暮らしていた時期もあったんだろう。
なぜそんなに仲が悪くなってしまったのですか?」
「それは……。アリスと私はエミリアにやさしくしていたのですよ。なにしろ母親、あんな母親でも母親を亡くしたばかりでしたからね……。なのに、エミリアはまったく感謝もせず、我儘ばかり。しまいには優しくしてくれるアリスに対して高圧的な態度を取ったり、時には暴力をふるうことがありましてね。
アリスがアンドレアス様との婚約が決まった時も羨ましかったのか蹴ってきたわよね?」
アリスが同意を求められて悲しげな顔をする。
「ああ……、そうね。蹴って髪を掴んだわ……。本当になんてことを……」
アンドレアスがアリスの手を握って安心させている。
エドワードが思い出したように言った。
「そういえば、8歳の時かな。エミリアをお茶会で見かけたことがあります。
雨の後で、水たまりに倒れてこんで泥だらけになってしまっていました……」
「まあ、あの時いらしてたんですね。
そうなんですよ。あの子はボーッとしてて転んでね。本当に動きや感情が鈍い子でした。
今でも1年のみなさんのお荷物になっているのでは?
あ、ミーア帝国の方がいるところでお話しすることではありませんでいたね。
でも、もしミーア帝国の皇族の方にお会いする時があったら、エミリアは贈名持ちで魔力は高いかもしれないけれど、とんでもない子です。本当にそんな子をもらって頂いて……、ミーア帝国には感謝しかありませんとお伝え下さい」
「……そうですか。俺が見たのと違いますね。
俺が見たのはまだ子どものエミリアをあなたが平手打ちして、水たまりに突き飛ばして泥を顔につけるように強要していた姿なんですが……」
「何で私が、そんな?! エミリアが嘘をついているのでしょう!」
「いや、同い歳の俺が見てたんです。
平手打ちして打ち身で頬が赤くなったから、わざと水たまりに突き飛ばして、顔に泥をつけさせてましたよね」
「……転んでいたのを助けようとしていたところを見たのでは?
あの子は私を困らせようとわざと顔を水たまりに突っ込んでましたから」
「お母様、そんなことまでしてたの?!」
アリスが泣きそうな声で言った。
ああ、アリスは悲しくなるし、みんなは攻撃的になるし、これはもうやめた方がいいのでは?
心配してアリスを見るとウォロが私の手を握ってきた。
私の心配をしてくれてるのか……。
私は大丈夫だけど、アリスが大丈夫かな?
「エミリアがとんでもない子だったのは、その頃に我が家に来て下さったお客様達がよくおわかりですよ。
あの子は動きも雑でしたから、ティーカップは壊すわ、お皿は割る。乱暴に扱うのでしょう、すぐにポットにもひびが入りお客様のお召し物を汚してしまう時もありました。
何度も何度も教えたのですが、結局、お客様にお茶出しすら最後までできませんでしたからね。
そうよね、ロイ?」
執事にも同意を求める。
「はい、さようでございます。エミリア様に何度食器を壊されたかわかりません」
はあ……。
「あの! エミリアのお母様ってどんな方だったのですか?
ミーア帝国ではあまり知られてない話なので知りたいです!」
オードリーが大きな声で言った。
読んで下さりありがとうございます。
思いがけずアリシア夫人と対決してます。
アリシア夫人をぎゃふんと言わせるためとはい、ネモとアリスには辛い時間がもう少し続きます。
長めになったので午後の投稿はお休みします。
これからもよろしくお願いします。