57 魔法対戦大会(中)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めているのでお付き合いいただけるとうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
残り5人でくじ引きするんだけど、普通だとここで不戦勝枠がひとつできる。
さすがにそれは運が良すぎる……ということで、変則的な対戦方法となる。
まずA対B、C対Dで試合する。
例えばAとCが勝者とすると、5人目のEが両者と対戦する。
A対E、C対E。これで全員2戦したことになる。
EがAにもCにも勝てば、E優勝。
EがAにもCにも負ければ、A対Cの決勝戦。
ややこしいのはEがどちらかに負けてどちらかに勝った時。
その時はEに勝った方が優勝になる。
Eは不戦勝枠ではなくて、最後に勝ち上がった強者相手に2連勝しないと優勝できないから、結構きついのかも?!
表示を作成するとかで、休憩中にくじを引いた結果……。
Aウォロ
Bネモ
Cランス
Dライト
Eアンドレアス
つまり、ウォロ 対 私の試合が最初……。
あー、負けたな。
聖魔法、どうしよう。
少しでもあがくために申請してみるべきか。
考えているとランスに話かけられた。
「ネモ、ウォロがエドワード達に連れて行かれたけど……」
えっ?
見ると確かにいない。
「こっち!」
ランスに連れられて控室を出ると裏の庭に回る。
「だから、手を抜くなよ!」
エドワードの声が聞こえた。
「でも、ネモに攻撃するのは……」
ウォロの困ったような声。
「魔道具で保護されてるから大丈夫なんだよ」
ライトの声も聞こえた。
「でも、全力でやるのは……ちょっと無理」
あー。どうしょうかな。
ランスと一緒に身をかがめて声の方に近づいていくと3人の姿が見えた。
「好きな女の子に勝つっていうの良くないか?
自分ができるってところが見せられるし、俺はうれしいけどな」
エドワードの言葉にはっとする。
だから、長剣だとうれしそうに練習して、勉強も得意な歴史ばかり教えたのか?!
それはどうかと思うぞエドワード!!
ウォロがエドワードの言葉に『?』という顔をしている。
ランスが「あー、もう!」と急に言って私の手をつかむと立ち上がる。
3人がぎょっとしてこちらを見て、エドワードが真っ赤になった。私は苦笑いするしかない。
「こういうタイプが一番やる気になるのは……。ネモ、俺の言うこと真似して続けて言って。
私に勝ったら」
「私に勝ったら?」
「ひとつ」
「ひとつ?」
「なんでも」
「なんでも?」
「いうこと」
「いうこと……?」
「きく」
「……なにそれ」
「それなら、ウォロやる気になるだろ?」
ウォロは考え込んでるし、エドワードとライトの方が赤くなってるけど?!
ウォロは頷いて「ネモ、ほんとに?」と聞いてきた。
うっ。
ランスに背中をどんと押されてウォロにぶつかりそうになる。
「えっと……」
私は周りを見た。
みんなが聞いてるの恥ずかしいんだけど!
私はウォロの肩に手を掛けて少し屈ませると耳に囁いた。
「私に勝ったらひとつ何でも言うこときく。だから、ちゃんと戦って私に勝って。私も簡単に勝たせはしないよ。全力でやるから」
ウォロがにっこり笑った。
あ、ランスの言葉は言わなくても良かったんじゃないか?!
そうだよ。なんで言っちゃったんだ?!
「ウォロ、ランスの言葉はなしってわけには……」
「ダメ。もう聞いたから」
ウォロがウキウキしたような感じで言った。
なんか楽しそうですね……。
「聖魔法申請していい?」
私はウォロに確認した。
「いいけど。光魔法で攻撃してくるの?」
「うん、全力でやりたいから」
闇魔法は強力なんだけど、展開やものによっては時間がかかることが多い。
たぶん、単純な攻撃なら光魔法の方が断然早い。
4属性の方はウォロの方が上だと思うから、光魔法で引っ掻き回して抵抗するしかない。
「じゃあ、自分も全力でやる」
ウォロがにやりと笑った。
控室にみんなで戻り、光魔法を申請、ウォロが承認した。
ランスが「な、俺の言った通りになったろ!」と言っている。
いや、ランスがいなくても何とかなってた気がするぞ。
いたから、変な約束しちゃったじゃん!!
試合用の魔道具を付けながら作戦の手順を確認する。
ウォロの巨大火球が一番怖いので、アイスファイアと水の2重の防護壁展開して、水に電撃……、思念化した光とか入れられるかな? 入れられそうな気がする。
電撃はマリアとの試合でやったから、電撃と思わせておいて光で攻撃とかも奇襲になるかな?
これまでの試合通り、防御に専念しつつ隙を見て攻撃を当てて行くしかないな。
そういや、マッちゃん、静かだな。
いろいろな魔法見られて大興奮してるのかも。
『そうじゃ、もう面白い魔法ばかりでワクワクじゃ!』
そうか、なら良かった。
『ウォロとネモの試合も楽しみにしとるよ!』
うん。
チャンスがあれば新しいことやってみるよ。
試合場でウォロと向かいあう。
笛が鳴り、私はアイスファイアと水の防護壁を展開。
ウォロは闇魔法の黒い靄のような防御壁を展開した。
なんだあれ?
左手でかけ続けている様子。この隙に攻撃しないと!
私は水球に電撃を入れ込んで打ち込む。
靄に触れると動きが遅くなり、中に入ると弾けた。
ん? どんな作用なんだ?
左手で闇魔法をかけ続けているウォロが右手で巨大火球を作りぶつけてくる。
うわ! この威力で同時進行できるのか!
こちらの防護壁の相殺を狙っている!
しょうがない、光の壁をこちらも張る。
火球により2重の防護壁が相殺され、蒸気が立ち込めるが光の壁のおかげで、こちらにダメージはなかった。
うーん、あの靄のような防御を何とか攻略しないと。
光魔法で中和というか相殺できるのだろうか?
光魔法を直接ぶつけてみる。
あ、少し靄が小さくなった!
強力なストーンバレットが飛んできて、光の壁をいくつか通過してしまい被弾してしまう。
あー、焦らない!!
小さな水球に光の思念化を入れ込んでみる。大丈夫そう。それを風魔法の威力でたくさん打ち込んでいく。
少しずつ黒い靄が薄く小さくなっていく。
ウォロの左手が下ろされる。かけ終わったんだ。
ということは、次の闇魔法が繰り出されるな。
私は次の火魔法に対抗するためにアイスファイアの防御壁を光の壁の向こう側に張った。
ウォロがまた右手で火球を作り、左手で黒い靄を球にしたようなものを作っている。
なんだあれ?
けっこうでかい火球を連続して打ち込まれアイスファイアが相殺され……。
光の壁に黒い靄の球がぶつけられると、中和したように全部どちらも消えた。
すかさずストーンバレットを打ち込まれる。
やば! 風で威力を抑えるが、それでも被弾。
わ、やっぱり強いな……。
水の防御壁を展開するが、火球で相殺され、ストーンバレット……。
どんどんこちらのダメージが蓄積されていく。
ウォロの打ち込んできたストーンバレットに光の思念化を入れ込んで打ち返す。
ウォロがストーンバレットでそれを打ち落としていくが、まばゆい光がフラッシュの様に展開する。それを予想して風魔法で攻撃。一瞬動きが止まったウォロにちょっとだけ当てることができた。
そこで笛がなった。
あー、なんとか時間まで粘ることができたんだ……。しかしもうダメージ量はぎりぎりで、体力も魔力もバテバテだす。
私はその場にへたり込むように座ってしまい大きくため息をついた。
ウォロがこちらに来ると手を取り助け起こしてくれた。
「大丈夫? 抱っこする?」
「いや、こんなところでしない!!」
私はあわてて言った。
あ、でも、前のウォロならこの衆人環視の中でも何も言わずに抱っこしてたか?!
聞いてくれるようになったのは進歩?!
私はちょっと笑ってしまった。
魔道具を外してウォロと控室に戻ると、マリアとエドワードが迎えてくれてお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
ふたりは試合終了と同時に控室に戻り、休めるようにと仕度していてくれたらしい。
ウォロもこの後まだ試合が続くし、ランスとライトの試合も気になるけど、観に行かずに身体を休めないと。
代わりにエドワードにライトの応援に行ってくれるように頼んだ。
「後で、試合の話聞かせて!」と頼むと「わかった!」と走って行った。
マリアが私とウォロの手を握りながら言った。
「すごい試合だったわね。私、ウォロが手加減しちゃうんじゃないかと思ったけど……。杞憂だったわね」
あ、本当は手加減しようとしてたんですよ、ウォロは!
いい話っぽくなってるから黙っててあげよう。
「ネモと約束したから。全力でやろうって」
ウォロが話し出したのでちょっと焦ったが、さすがにランスのことは言わなそうだな。
安心した時、ウォロが言った。
「ネモに勝ったら何でも言うこときいてくれるっていうし」
あれ、ひとつだよね?
「……ネモ? どういうこと?」
マリアが微笑んでいるのに目が笑ってない。
私はウォロが私と戦いたくなくて手加減しようとしていたこと、その気持ちを変えさせるためにエドワードとライトとランスと一緒に話していたら、ランスの思いつきで、ウォロが勝ったら私がひとつ何でも言うことをきくという約束をすることになってしまったことを話した。
「それでふたりとも全力で戦ってたのか!」
マリアが納得したようだ。
「ウォロ、次、アンドレアスとの試合だよね。体力と魔力、大丈夫そう?
私はもうバテバテで……」
「うん、まあ、そこまでじゃない」
大丈夫そうかな?
試合のある選手は光魔法で体力回復とかしちゃいけないルールだから、何もしてあげられないんだけど。
マリアがお菓子を持って来てお茶をまた入れてくれる。
「そうね。ネモの方がいろいろな魔法をどんどん展開していたからね」
「防御壁、作る度に相殺されちゃうんで……。途中かなり焦って、自分で焦らない! と言い聞かせてましたよ……」
「ちょっとエドワードの気持ちがわかった」
突然ウォロが言った。
エドワードの気持ち?
「あ、好きな女の子に勝つとうれしいってやつ?」
「ネモが必死になって自分に向かってきてて、それ見ているとかわいいっていうか、なんかもっと必死にならせたいって、自分だけ見ててくれるような?」
確かに大変過ぎて他のこと何も考える余裕はありませんでしたけれど……。
うん、わからないではないけど、だからといって自分の得意なものばかりで勝負に持ち込もうとするのはフェアじゃない気がするよ。
ランスとライトの試合が終わったみたい。大きな歓声が聞こえた。
エドワードが戻ってきた。
「ランスが勝ったよ。同じ属性だから、力勝負になって。ライトも頑張って時間ぎりぎりまで粘ったけど、ランスの方が強かった」
「そっか……。じゃあ、迎えてあげないと」
しばらくするとライトとランス、アンドレアスも一緒に戻ってきた。
ライトは涙目になってる。
同じ属性だし、自分の得意なことがもっと得意な人にやられちゃうっていうのは辛いよね。
「ライト!」
私が声をかけると、目を手でこすってから、ちょっと笑って「負けちゃった」と言った。
「うん、私も負けちゃった。でも、1年生でここまでやれたのすごいよね!
それは自分を褒めてあげたいな。ライトもね」
「でも、ウォロも1年生だぞ」
ランスが余計なことを……。
えーと、ウォロが強いのは十分わかっているから!!
「でも、すごいな。今年の1年は……。
ウォロが破格の能力を持っているとしても、一緒に切磋琢磨することで、周囲の1年生もこんなに伸びていたんだな」
アンドレアスが感心したように言った。
「そうだな、この1-1寮だったから。みんなで競い合って能力を伸ばしたんだろうな」
ランスもそう言って頷き、ライトに声をかけた。
「本当にライト、強かったよ。俺が1年の時とは比べものにならないくらい強いよ」
「ウォロ、次の試合行けそうか?
もう少し休憩を申請することもできるけど?」
アンドレアスがウォロに聞いてくれている。
「行けます」
立ち上がり歩き出すウォロ。
ちょっと立ち止まりこちらを見た。
「楽しんで!」
私はそう声をかけた。頷くウォロ。
見送ってからライトに言われた。
「頑張れとか、勝ってじゃないの?」
「うーん、もう最後だし、後悔のないように試合できるだけでいいと思うんだよね。
強い人と戦うのは悪いことだけじゃないし、より得るものも多いよね」
今までの試合を見てきて、アンドレアスはかなり強い。
おそらくだけど……、さすがのウォロも4属性だけの魔法に限ればアンドレアスのレベルまで到達できているか怪しいと思う。
技のバリエーションが多いというのではなく、得意な技の精度がすごいのだ。見ているとアンドレアスが努力家だということがすごくわかる。
アリスも応援に来ればいいのに……、本当にバカだよ、アリス。
『アリス……、来とるぞ。隠れて来とるようだな』
マッちゃんが教えてくれた。
そうか、来てるのか!
探し出して捕まえてやる。
そしてアンドレアスとちゃんと話をさせるんだ。
私はニヤリと笑った。
読んで下さりありがとうございます。
ブックマークと評価ありがとうございます。
頑張れます!!
今日は午後投稿する予定です。
これからもよろしくお願いします。