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一撃で倒したけど、たぶん俺じゃなくても倒せてたな!(※倒せません)

インターバルを置いて、加速スキルが再使用可能になった。モンスターの群れに対しての勝率は0でも、ボスモンスターに対してなら0じゃない。


可視化したHPバーはグレーター・ドラゴンよりも遥かに長い10段。数値化したHPの総量は160万きっかり。スキルを全力で使用しても、最低2発は必要だ。


1発撃って15秒、どう逃げ回るかは後で決める。



「気づくなよ........俺に」



隠密スキルを発動させて、姿を隠しながら狙撃ポイントに立つ。ボスモンスターも群れと同じく、障壁に向かって攻撃を加える。


長い尻尾の一振りで、障壁に大きな亀裂が走った。ただの一振りであの対モンスターの強固な障壁にダメージを与えた。仮に俺に攻撃が向けられたら、一瞬で死んでしまう。



(........なんでだろう。あのデカブツに弓を向けるのは、初めてじゃないように思える)



俺は補助スキルを全て発動し、矢を引き絞る。初めて見る筈のモンスターなのに、俺の指先は射落とす方法を知っていた。必中スキルの指示を待つまでもなく、俺は力の込め方と狙うべき部位が理解できた。


身体が覚えている、とでも言えばいいのか。


頭の中では知らないはずなのに、指先は知っている。この感覚は、一体なんだ?



(この、情景は)



脳裏に、モノクロの映像が投射される。継ぎ接ぎだらけのまばらな映像。


雄々しく豪奢な弓を構えた誰かが、空に向けて矢を放つ。放たれた矢は上空へと飛んでいき、雲の彼方に消える。そして、断末魔の叫びと共に、息絶えた大蛇のようなドラゴンが空から落ちてくる。



「―――......っ」



中天を舞う“ドラゴン”をもう一度見据える。弓につがえたのは一本の矢。鉄の矢じりが付いただけの、どこにでもある矢だ。


けれど、確信している。必要なのはこの一本の矢だけ。二発目はいらない。


俺には、派手な攻撃スキルも魔法スキルも必要ない。ただ一本、撃ち放つための矢があればいい。



「――専用スキル発動。 ≪――の――≫!!」



放った矢は、飛んでいく。


ヒュンッという甲高い風切り音を立てて、引き寄せる引力に逆らって、最高速度でドラゴンに向かって飛んでいく。


はたから見れば取るに足らないような攻撃だ。雲よりも大きなドラゴンの巨体と比べれば、針の先くらいの大きさしかない。



「ォォォォォォォォォォォォォァァァァァ!!」



ドラゴンの咆哮が響き渡る。俺の放った攻撃に気が付いたのか、激しく巨体を捩らせてうねり狂う。雨雲を引き裂いて、暴風を押し退けてドラゴンは逃げ惑う。


遥かな遠い昔に、誰かによってもたらされたのと同じ結末から逃げようとして。


雲の切れ間の中に、俺の矢は消えた。


そして。



「ォォォォォォォォォォォォォァァァァァ........ァァァァァァ.......ァァァァ」



巨体が、落ちた。ドラゴンの巨体は雲に巻かれて、ゆっくりと消散しながら消えていく。それと共に、街を覆っていたモンスターの群れも初めからそこにいなかったみたいに綺麗さっぱり消えた。空を覆ていた雨雲も消えて、真っ青な空が広がる。



「やった! 勝った........ぞ........ぁ」



足の先から力が抜けて、最後に全身の力が抜けた。意識を保っていた部分もぐらりと揺れる。そのまま俺は、意識を失った。




頭に、柔らかさを感じた。枕の柔らかさとは違う、ちょっとアンバランスで、でも優しい暖かさと香りがする。



「........山?」



最初に目に飛び込んできたのは二つの山。山の上から滑り落ちてきているのは、金色の髪。寝ぼけ目がクリアになってきて、俺は気づく。


気づいて、しまったのだ。



「目が、覚めたんですね」



「シャ、シャルロッテ!? お、俺はもしかして、あの、その」



頭上から響いてきたシャルロッテの声で、気づきは確信へと光の速さで変わる。


脳内の伝達物質が亜音速で駆け巡り理解した。俺は今、シャルロッテに膝枕をされていると。な、ならばこの目の前にある山はもしやっ!?



「ぶふぉっ!」



「きゃぁ!? し、しっかり!? 今回復魔法スキルを掛けますから!!」



両方の鼻の穴から、俺は盛大に鮮血を噴き出させてしまった。勘弁してくれ、俺はカイゼルやカインと違って女性経験が全くないんだぞ。


そんな俺にシャルロッテみたいな子が膝枕なんてしてみろ、クリティカルヒット越えてHPが消し飛ぶぞ!?


ヤバい、鼻血が止まらない。鼻血って回復魔法スキルで止まったっけ?



(アホなこと考えてる場合か!!)



右手で鼻を抑えながら、俺は起き上がる。


それでも左手に弓を持ったままなのは、職業病だ。


そのまま、自分の足で立った。まだ少しふらつくけどこれは怪我のせいとかじゃない。


主にシャルロッテから受けたクリティカルヒットのせいだ。



「い、いやお構いなくですわよシャルロッテはん。あのー、と、止まるからほっとけばええでなぁ! うん!」



「こ、言葉遣いがおかしいですよユウマさん。まさか、頭を打ったんじゃ........!?」



心配そうにシャルロッテが上目遣い気味に覗き込んでくるが、逆効果だ。


俺の鼻血を止めたいならそっとしておいてくれ。というか、君の顔を直視させないで。


膝枕されるくらい密着していたと思うと、余計に鼻に血が回ってしまう。



「平気だから、ホント! そ、それより今、状況は?」



あたりを見渡すと、王国の正規兵たちが瓦礫の撤去と避難民の誘導を行っているのが見えた。辺りは薄暗くなっていて、小さな星が瞬いている。もう夜一歩手間の夕暮れ時だ。



「しばらくこの街とはお別れになると思います。冒険者ギルドもモンスターの群れに飲まれて消えてしまいましたから」



「そっか。あー........困ったな、せっかく手に入れた素材もパァだもんなぁ。生活どうしよ」



せっかく倒したグレーター・ドラゴンの素材も失われているだろう。ドロップアイテムの中にゴールドもあったとはいえ、弓や装備のメンテナンス費用も考えたら2週間も保つかどうか。



「私はこれから王都の方に行こうと思っています。ユウマさんは? も、もしよろしければですけど一緒に」



後でドガシャンと派手な音を立てて瓦礫が崩れた。正規兵たちの怒号が響き、若い兵士が平謝りで先輩兵士たちに謝っている。



「うーわ、派手に崩してやんの。ごめん、何か言った?」



「何でもないです。もういいです」



急にシャルロッテが不機嫌になる。女の子ってよくわからない。



「おーい、ユウマさん! シャルロッテさんも!」



大声で名前を呼ばれて振り向くと、蘇生師が向かってきていた。肩で息をして、ひどく慌てた様子だ。



「どうしたんですか慌てちゃって」



「どうもこうしたもないですって! ていうか、貴方強かったんですねもの凄く! いやー見かけによらないものですなぁ」



これは俺、怒ってもいいのかな。いいよね。


無礼すぎやしないかなこの人。弓使いって死に職業だし基本裏方でしか活躍できないけど、ここまで感動されたら逆に腹立ってくるんだけど。



「それでですね、先ほど蘇生寺院の伝令水晶に国王陛下から直々の命令が来ていまして。弓使いさん、シャルロッテさん、そして私に王都への出頭命令が出ています。なんでも街を救った褒賞を賜るそうで! いやぁー悪いことの後はいいことがあるもんだ!」



俺とシャルロッテは顔を見合わせた。王都への出頭、それも国王自らが俺たちを呼ぶとは。



「ユウマさんが呼ばれるのはわかりますけど、どうして私まで........?」



ピンとこない顔でシャルロッテが小首をかしげる。小動物みたいで可愛い。


自分が出頭命令をだされたのが腑に落ちないらしい。でも、蘇生師はともかくとして、障壁を張って街を守ったのはシャルロッテだ。堂々と胸を........なんでもない。これ以上は言うまい。



「シャルロッテは街を守ったじゃないか。俺はただ、ドラゴンを一匹仕留めただけだよ」



俺から言わせれば、自分が呼ばれた事の方が納得いかない。俺がやったことと言えば、たまたま出て来たボスモンスターを倒しただけ。もしもあの時、あのドラゴンが出てきてなかったら何もできなかっただろう。



「何を言っているんですかユウマさん! ユウマさんはたった一人で傷ついた子供を助けて、ドラゴンを撃ち墜としたんですよ! 紛れもなく英雄です!!」



「英雄、か。いやそんなことはないよ。偶然と幸運に助けられただけだ。俺より、元パーティメンバーの皆の方がずっと凄いよ」



目を瞑り、元パーティメンバーたちの強さを思い出す。もしも皆がいてくれたら、簡単にモンスターの群れを殲滅して俺よりも早くドラゴンを倒しただろう。


俺なんて、まだまださ。



「ユウマさんって、勇者様みたい。私の憧れた勇者様みたいです!」



とろんと瞳をうるませながらシャルロッテが俺を見つめる。


瓦礫のせいで埃っぽいから目に埃が入ったんだろう。かわいそうに。



「あのーお二人さん? イチャつくのはいいですけど後にしてくれませんかね」



「わ、私! イ、イチャついてません! 何を言うんですか蘇生師さん!」



シャルロッテが真っ赤になって蘇生師に抗議した。そうだそうだ、もっと言ってやれ。顔を真っ赤にして起こるに決まってるだろ。俺みたいなやつとイチャついてるとか言われたら。



「あー、はいはいそうですか。出立は明日になりますから、準備をお願いします。今夜は蘇生寺院に泊まればよろしいかと」



言うだけ言うと、蘇生師は蘇生寺院に引っ込んだ。その場に、俺とシャルロッテだけが残される。下手にイチャついてるとか言われたせいで、意識してしまって気まずい。



「えぇっと、その。女の子の容態は?」



「蘇生寺院で安静にして眠っています」



「そうなんだ」



沈黙。何を話せばいいのやら。星空の話でもしようか、それとも身の上話でもすればいいのか。今日はやけに夜風が冷たい。


結局俺は少し考えて、やはり何も思い浮かばなかったので蘇生寺院に入ることを提案した。女の子と何を話せばいいのかなんてわかるわけないだろ。



「くちゅんっ! す、すみません」



小鳥のさえずりのような耳に心地いい音色が響いた。すなわち、シャルロッテのくしゃみの音。



(えぇい、冷静になれ俺!)



頭を振ってブレきった意識のピントをまっすぐに整える。女の子が寒そうにくしゃみしてら、くしゃみの音に耳澄ませて悦に浸ってる場合じゃないだろうが。



「あっ....ありがとう、ございます」



「いや、いいよ。えっと、風邪ひくからさ。もう蘇生寺院に入ろうよ」



来ていた外套を脱いで、肩を丸めているシャルロッテに掛けた。よっぽど夜風が寒かったのか、俺の外套に全身で包まる。『あったかい』と小声で言ってくれたが、汗臭くないか心配だ。



「汗、臭くないか? 走り回ったからさ」



「い、いえ全然! 凄く落ち着きますし、むしろこのままタオルケットにしたいくらいです!! ........えへへ」



扉を開けてやる。レディーファーストってやつだ。続いて俺が蘇生寺院に入ると、万雷の拍手が起こった。



「ありがとうございます! 本当にありがとう!」


「弓使いだからって舐めてたけど、さすがはS級冒険者さんだ!」


「勇者様の生まれ変わりよ!」



なんだか照れ臭いな、こんなに感謝されると。


少しくらい、天狗になってもいいかなと思ったがやめた。俺ごときでもどうにかなった相手なんだから、正規兵たちや、あるいはここに元パーティメンバーの皆が居たら秒殺できただろう。



それに、俺たちが今、一丸となって警戒するべき敵は魔王だ。



(魔王........果たして俺たち人間は、奴に勝てるのか......?)



その時、ゴトリと何かが落ちた。落ちたそれはクルクルと一人でに転がって、俺の足の先にぶつかって止まる。拾い上げるまでもなく、見ればわかった。



金塊だ。俺が≪竜紋者の弓≫から変えた金塊。それが、怪しげに光を放ち始める。

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