もしもし、わらひめりぃちゃん!
「はい?メリーさんって、あの?で、ソレが今年の自由研究、……」
ねぇねぇお母さん!仕事を終え、帰るなり息子に協力を求められた母親。
「うん!ヨリちゃんにも色々聞いたし、ばっちり大丈夫」
ハァァ。ため息をつく母親。
「だいすきなだって!お母さんだって好きでしょ?都市伝説とか、妖怪とか。パソコンで書いてるの、知ってるもんね」
ニコニコと笑うユウタロウ。
「え!ちょっと、嘘!なんで知ってるの?」
「うん、この前ね、お父さんに教えてもらったぁ!」
夫婦の危機が訪れるやもしれない、……。
――、夜。
ユウタロウの部屋。オカルトマニアのヨリちゃんに、最終確認の為に、電話をかけたユウタロウ。
黒歴史確定の『メリーさん観察日記』を広げ、せっせと書き記して行く。その様子を今日はベッドの上から、じっと凝る様に見ているクマゴロウ。
ヨリちゃん曰く。
『縁は結ばれているから、絶対かかってくるさ』
出迎える為に、ユウタロウは、母親に断りキッチンから椅子をひとつ、運び込んでいる。
チコチコ、チコチコ、
部屋にかけられている時計の秒針の音。
雰囲気を出すために部屋の灯りはスタンドだけ。
きっと!かかってくる予感がビンビンなユウタロウ。
そして。
ピロ!ピッ!
ワン切りならぬ、ワン取りをするユウタロウ。
「……(ふぉぉぉ!)」
めりぃちゃんは、ドギマギ!
モゴモゴ、モゴモゴ、パンヤが膨れて固くなる。緊張が、一気に高まり……。
「も、もしもひ」
ガチガチの中で言葉を発しためりぃ。念波から伝わる、相手の息遣いと生者の気配。
「わ、わ、わらひ、めりぃちゃん!今、駅にいりゅの!」
「?メリーさんじゃなくて、めりぃちゃん?ふーん。わかった、待ってるね」
ガチャン。
……、ふぐぅぅぅ。セリフ噛んじゃった。
びゅわん!音速で駆け抜けるめりぃ。落ち込む気持ちを奮い立たせた!
ピロ!ピ!
「もしもし、わたしメリーさん、今、郵便局にいるの」
あの日と同じやり取り。ワン取りするのも同じなのだが。
「ええ!『めりぃちゃん』の方が、(書くとき平仮名で簡単)いいなぁ、次は、前のにしてよ!」
ピ!通話を終えるユウタロウ。
「めりぃちゃんのがいいって!先輩!それでもいいのかな?」
めりぃはついてきて、側で見守る先輩達に聞く。
「まぁ、ええんとちゃう、メリーはんもようけいはることやし……」
お菊先輩。
「番号呼びだけど、区別がつけば何でもいい」
コロシニイクヨ先輩が、頑張れ!とエールを送る。
「うふん♡めりぃちゃんのがいいって!キャ~!めりぃちゃん!モノにするのよ!脈はあるわ!」
どすこいオネエ先輩が、何かを妄想をし、ときめきで身をくねらせ萌え萌えしつつ、応援をしている。
「はい!頑張ります!」
めりぃは気合いを入れた。
――、この後、マンションで、玄関だっけ?以前のやり取りを書いてある、ページをパララとめくり確認。新しい事を新しいページに書き記す。
……、『宿題』故、目をつぶるでございまする!ユウタロウ殿ぉぉぉ!
切ない思いにより、フワフワな植毛が、トゲトゲになりつつあるクマゴロウ。
「さてと。袋から出しておいた方がいいかな」
立ち上がるユウタロウ、部屋に持ち込んだ椅子の上に向かう。皿の上に、至極ありふれたコンビニの、シュークリーム。
ベリリ!中身を出すと、皿の上に置く。
ピロロロ、ピロロロ
呼び出し音。予測通りのやり取り。玄関に向かうべく部屋を出たユウタロウ。その間に、シュークリームを食ってやろうかと、クマゴロウは考えたがそこはぐっと、腹の綿を固めて辛抱をした。
「さてっと。次に鳴ったら、僕の後ろにいるんだよな、えーと。今の時間と、カメラカメラ、試しにクマゴロウ撮ってみよ」
机に向かうユウタロウ、椅子に座ったまま、自撮り棒でカシャ。
「こんな感じかな、あ!」
ピロ!ピッ!
素早くワン取りをした。
カチャ……。閉めたはずのドアが開いた気配を察知した、ユウタロウ。
ヒタリ……。陰気を膨らませながら、部屋に入り込んだめりぃ。
心はウキウキワクワク、ニヤける顔の少年。
心がドキドキバクバク、緊張マックスの妖。
「わたし、めりぃちゃん……、ふぇ!」
スゥゥ……、空に浮かび上がり進む、めりぃ目の前に、シュークリーム。
……、ユウ。メリーさん対処法は、いくつかある、家に入れない、振り向かない、電話に出ない、それと『シュークリーム』だ。
ヨリちゃんはユウタロウに、しっかりと教えていた。
「どうぞ、めりぃちゃん」
振り向かないまま、ユウタロウはすすめる。手には自撮り棒。カメラの用意は、バッチリ。
……、ユウ、シュークリームを勧めるんだ。何故かは知らないが、メリーさんはシュークリームを勧めたら食べるそうだ。食べおえたら、そのまま消える、だからチャンスはその時|!
おいしそう……。ふっくらとしたシュークリームからは、甘いクリームの香りがうっすら。
めりぃは魅入られた様に、シュークリームに手を付けた。
「ふぉぉ。おいちい……」
パフン。頬張るめりぃ。口の中にカスタードとホイップクリームが広がる。バニラの香り。うっとりとしたその時、
バッ!フラッシュ!カシャカシャカシャカシャ!連写の音。
「ふえ!」
シュボン!シュークリームを手にしたまま、めりぃは、一声上げてその場から消えた……。
「あれ?めりぃちゃん消えちゃった?」
……、ククク、愚かな。
キョトンとするユウタロウ、ベッドの上で、一部始終を見ていたクマゴロウが黒く笑っている。
「フラッシュがダメだったかなー。もうちょっとしてから、写真撮ればよかったかなー。えっと、確認確認……」
フォトが撮れているかどうか、確認を始めるユウタロウ。撮れてなかったら、去年みたく『絵』かかないと、ノートに今日の出来事を時系列に書くユウタロウ。
一方。
「ふぇぇぇ!シュークリームにやられました!」
異界に戻ってしまった、めりぃ。
「悔しいい!もうちょっと、だったのに!」
食べかけのシュークリームをぺろりと平らげると、クリームを口の周りにつけたまま、地団駄踏んで悔しがる。
「くぅぅ!きっと!きっと!まだ修行が足りないから!『あべのせいめい』に負けちゃうんです!」
「偽モンやと、思うけど……、ほなら、めりぃはん、修行のやり直しかえ?」
フォォォォ!黒髪を逆立てるお菊先輩。
「ハイ!次こそは!次こそは!負けない!コロシニイクヨ先輩!特訓をお願いします!」
めりぃは、あの砂浜へと向かった!
己を鍛え上げる為に!
次回で終わりです。8月末日で終わってやれやれー。




