めりぃちゃんは頑張るお人形さん
ザッパァァァン。白波が立つ砂浜。
水打ち際に立つ、めりぃの体から妖気が立ち昇る。彼女の寸胴な胴体、ウエストと思われる場所に荒縄が括り付けられ、それは背後に続き遥か後方に鎮座している、ダンプカーのタイヤに結ばれている。
「打倒!シュークリーム!フォォォォ!」
ビン!荒縄が張り詰める。胴に喰い込み躰を折るめりぃ!
ふぬぉぉぉ!動けぇぇ!気合いを入れるが、びくともしない巨大タイヤ。
「ハァハァ、動かない!負けるかぁぁ!ライフセーバーみたいなモン先輩!お願いしますぅぅ!」
「えええ?リア充でもない存在に向けて?」
手伝う様に頼まれた、ライフセーバーの姿をしている、モン先輩。姿はイケメンマッチョなライフセーバーなのだが、その実は、浜辺で捨て置かれた花火が、アヤカシ化したモノ。
「生きるか死ぬかの!気合いがないとぉぉぉ!」
後輩が射ってくだひゃい!と頼み込む。
うーん。悩む彼。
胴にぐるりとロケット花火を差し込み、赤いキャップを被っているのに、白のはちまきをし、鬼の角の様にロケット花火の束を差し込んでいる、先輩は『リア充』じゃないしなぁと首を傾げつつ、かわいい後輩の頼みを聞いた。
シュ!ヒュゥゥゥ!パァァァン!
火の粉が、めりぃに向かって一直線!
――、知ってる?ここの浜辺で、カップルで花火をすると、『真実の愛』が試されるんだって。
夏の終りに遊びに来ていた二人は、浜近くのラーメン屋で少し早い夕食をとっていた。
「花火して帰りたぁい♡」
「だめだよ、禁止されてるじゃん」
「夜になったら、ライフセーバーの人も居ないし、大丈夫、みんなやってるもん」
「えー、お巡りさんとか来るんじゃね?」
「ちょこっとだけなら、大丈夫だって。やっくんの愛を確かめたいのぉ♡」
「確かめなくっても、大丈夫さ、ハハハ!バカだなぁ」
チャーシュー麺を食べつつ、バカップルな会話を展開していた。
「だめですよ、お客さん。あそこの浜は夏場は『出る』んだから、それに花火は厳禁、ライフセーバーみたいなもんが、花火片手に追いかけてくるって話だ」
ラーメン屋の店主が、二人の話を小耳に挟み止めるよう話す。
「ええー?ライフセーバーのオバケなの?こわぁい」
少々、オーバーなリアクションで彼に身を寄せた彼女。
「怖がりだなぁ、ハハハ」
そして。おバカな二人は会計を済ますと、コンビニで半額シールが貼ってある、手持ち花火の袋を買った。
夜の浜は風がある。昼間と違い、塩の香りも濃い。
「ねぇ、ライフセーバーみたいなもんって、オバケなのかな」
パチパチ、パチパチ。オレンジ色の花火。
「違うんじゃない?」
シュウ、シュウ、ボボ。青白い花火。
「オバケだったら……、守ってくれる?」
「当たり前だよ、あ、最後の一本、一緒に持とう」
ぴっとり密着をし、一本の花火に点火。
イチャラブな二人の顔を明るく照らす。
パチパチ、パチパチ、チチ、シュゥゥ……
「終わっちゃった。ねぇ、終わってからなの?試されるのって、え?」
花火が終わるのを見計らい、彼女に(ピー)な事をしようとした彼。満更でもない彼女。
その時。
ヒュゥゥゥ!パァァン!
闇を切り裂くロケット花火の音!
「うお!」
異常な気配に即座に気が付き、立ち上がる彼。
バランスを崩し砂浜に、尻もちをつく彼女。
ボゥゥ……。
立ち上がった彼は見た!
ラーメン屋で聞いた『ライフセーバーみたいなもん』が、闇夜に見事な筋肉美を浮かび上がらせているのを!
「イイなぁ、その花火、花火の役目を終えて、俺なんて、俺なんて」
シュッ!ロケット花火を一本、握るソレ。
「花火してから帰るぅ♡、買ってきたの、ええ?ここは駄目なんだから、ええーそうなの?じゃぁ、これいらなぁい、ポイ!捨てされたそれが俺様なのだ……、貴様らの様な、バカップル、バカップル!」
ビシ!ッと二人に突き付ける。
「お、おい、た立て、に!逃げるぞ」
「ふええ!駄目!う、動けない!」
ジリジリと下がる彼。
助けて!とすがりたい彼女。
離れた場所のソレが、準備運動なのか、屈伸運動をし、手首足首をプラプラさせているのが二人の目にしっかりと届いている。
「に!逃げるぞ!」
「ええ!待って!」
二人の声が重なったその時!
シュッ!ロケット花火に点火!
発射と同時に、ライフセーバーらしいモンも砂浜を蹴った!
「リア充!撲・滅!」
二人に向かう!向かう走る!
ここで試される、真実の愛!
彼氏が彼女を引っ張り上げ共に逃げるか、向かってくるソレを迎え撃つか。
とっとと、ひとりで逃げるか!
どっちだ!
――、『かわいい♡めりぃ』は、来る日も来る日も、頑張った!打倒シュークリームだったのが、ある日を堺に
『打倒!クマゴロウ』
に変わった!夜、今日こそはと訪れた日。
電話を取ったのも、ドアを開けたのも、共にワゴンで過ごしたヤツだったのだ!
『ククク。ユウタロウ殿は不在でござる、ユウタロウ殿は家を出てるのでござる、ククク。残念だったな』
キィィィ!クマァァァァ!
『かわいい♡めりぃ』は、さらに過酷な訓練に取り組む。
……、クマ!くまぁぁ!熊ぁぁぁ!おのれ熊!アイツさえいなければぁぁぁ!
怨念がめりぃをさらに強く鍛えていく。
そして月日は流れ、ユウタロウは、めりぃちゃん絡みながらも、それなりに真っ当な道を歩んでいた。
彼はあの夜、
『おいひい』
このひと言が何故か忘れられず、更に調べると魑魅魍魎と呼ばれる存在は、酒と甘いものが好きが多いと知り、オカルトマニアの道を歩きつつ、高校卒業後は、パティシエの専門学校へと進学したのだ。
めりぃは知らなかった!
冥界異界と現世との時間のズレを!
特訓に特訓を重ね……。
これならばクマに勝てるだろうと、思った『かわいい♡めりぃ』はある夜、電話をかけた。
プルルル、プルルル
「はい。もしもし」
……、はう!だ、だれ?気配は『あべのせいめい ユウタロウ』よね。声が違う!大人の声……。
甘い声が、髪を伝ってめりぃに、ふわふわ届く。
「わ、わたし、メリーさん、今駅にいるの……」
『かわいい♡めりぃ』は、パンヤをほこほこしながら話す。
「久しぶり、ああ、そうだ。丁度シュークリーム、あるんだ」
ユウタロウは、懐かしいなと思いながら通話を終える。
……、はううん。かけないと!電話、……。クマをボッコボコにしないと!でもぉ……、シュークリーム。きゃん、恥ずかしい。
もじもじ。身をくねらせる『かわいい♡めりぃ』、念波を送るべく気合いを入れる。
意識を全集中!
……、ペ、ポ、ピ、ピ、ポ、ペ、パ、ピ、ピ、ピ。
「はい、もしもし?」
「わたし、メリーさん。今、郵便局にいるの」
ちょっぴり、甘い声になったのは。
『かわいい♡めりぃ』だけの。
ヒ、ミ、ツ。
終わり。




