40. 戦場での再会
厚い雲に覆われ、白天の季節にかかわらず、星明かりの届かない闇の中。
損傷を逃れた、数少ない基地の照明。
それらが照らし出すのは、瓦礫の散らばる破壊の跡。
「稼動できる機体は順次補給! 手の開いてる者は負傷者の収容!」
基地司令が指揮車の外で拡声器を手にして叫んでいる。
「敵のパイロットは拘束して連れてこい! 死んでいてもかまわん」
基地司令は敵が誰なのかを知りたかった。
圧倒的な数を相手に戦い続けた者を。
滑走路へと続く誘導路に倒れている1機の武闘Ⅴ型ラピッドアーマー。
周囲には小銃を構えた兵士達。
それらを見ているキミズカ中尉のGGA03ザンゲツ。
その隣にはコハルの武闘Ⅵ型ストームアーマー。
両機は頭部についている照明で、敵を照らしていた。
「――無線はもう壊れているようです」
コハルが何度か呼びかけていたが、応答は無かった。
「ああ、この状態じゃ生きてるかも怪しい」
整備兵が機体のハッチを外から強制開放する。
ロックが外れ、キミズカ機が腕を伸ばしてハッチに手をかけた。
ゆっくりと開いてゆくハッチ。
中を確認する小銃を持った兵士達。
コハルは外部マイクを起動し、兵士達の声を聞いていた。
「生きてるな……ゆっくりだ……よし、出てこい」
「……」
「あなたは……まさか?」
兵士が銃口を上に向け、手を伸ばした。
コックビットの中から手が伸びる。
その手は上にいた兵士の手を握った。
コックピットの枠をつかんで、頭が見えた。
腕を引き上げられ、姿を表した男。
男はゆっくりと、機体の上で立ち上がった。
「投降する……と言っても今の俺はテロリスト扱いなんだろな軍曹」
「私にはわかりません大尉殿。それは基地司令が判断することです」
「大尉殿か……相変わらずだな軍曹。あんたのそういうとこ、嫌いじゃない」
コハルはモニターを見ていた。
しかし、兵士の影で敵のパイロットの姿は見えなかった。
だが、そのパイロットが誰なのか気がついた。
銃を向け、砲弾を浴びせた敵。
「……嫌いじゃないって……その声……まさか……お父さん!?」
コハルの声はⅥ型の外部拡声器で、周囲の者達に聞こえた。
敵のパイロットの前にいた兵士が振り返り、一歩だけ後ろに引く。
「コハル……なのか?」
「お父さん!」
聞き間違いじゃなかった。
モニターに映っているのは、紛れもなくコハルの父親だった。
コハルの機体が膝をついて、ハッチが開く。
中からコハルが飛び出し、ワイヤーを握って降りていた。
父親も機体から滑るように降り、駆け出そうとしたが、足がもつれ倒れかけた。
倒れかけた父を抱きしめ、支えながら、膝をつく二人。
「お父さん……」
「コハル……」
コハルは泣きながら伝えたかった言葉を口にしていた。
それを周囲の者は聞き取れなかった。
ただ、聞き取れなくても、理解はできていた。
そんな二人の幸せな時間を、現実の状況が許さなかった。
「何をやっている! 敵とそのパイロット。二人とも拘束しろ!」
地下格納庫の方角から接近してくる小型車両。
そこから響く基地司令の声。
地下の指揮車のモニターに二人の姿はずっと映っていた。
周囲には、ほかのザンゲツが現れ、キミズカ機に銃口を向けていた。
ほかの機体は、腕に仕込まれている対人散弾の銃口をコハル達に向けていた。
「従ってください。我々は命令に逆らえません……」
「そっか……管理区か……」
「はい」
「そうだったな、ならもう安心しろ――」
基地司令の乗った車両が停止し、ドアが開いた。
中から基地司令が降りると、腰のホルスターから銃を取り出す。
安全装置を解除し銃口をコハルに向けた。
「キミズカ中尉! キミも機体から降りたまえ」
「――了解しました」
キミズカ中尉の乗るザンゲツが膝をつき、ハッチが開いて地上に降りる。
両手を上げ、頭の後ろで組むキミズカ中尉。
背後に小銃を手にした兵士が駆けより、銃口を向けた。
格納庫内ではエリカ達、スズシロ工業の社員が集められ、兵士達に小銃の銃口を向けられていた。
そんな状況のなか、清掃用カートを押し、レーションを配る清掃作業員達。
兵士や整備作業員、それと来賓達にはレーションを渡していた。
しかし、残っていた清掃作業員に渡しているのはレーションだけではなかった。
レーションの包みの影に、小型の拳銃やスタンガン。
それにナイフもあった。
「キミズカ大尉……貴様がテロリストに寝返っていたとはな……」
「サザナミ司令。テロリストではありません……まっ、そんなことはどうでもいいことです。司令、ココ以外の基地はすでに制圧されています。無駄な戦闘はさけ武装解除し投降してください」
「そんな話を信じろと……」
基地司令はコハルに銃口を向けていたが、引き金には指をかけていなかった。
「抵抗は無意味です」
「無意味か……大尉、こんなことで世界が変わると信じているのかね」
「はい、今よりはましです」
「そうだな、今よりは君達にはましになるだろう。だが、現状を望むものには、悪夢でしかないのだよ。抵抗するなと言うのは無茶な話だ」
基地司令は予想していた。
上級民と呼ばれる者達が地獄へと尽き落とされる世界になることを。
「それは……」
「そういうことだよ……遅すぎたんだよ大尉……」
「……」
基地司令はコハルに向けていた拳銃の安全装置を戻した。
「三人を連れて行け!」
そう言って振り向いた基地司令は、小型車両に乗り込んだ。
兵士達は3人を、ほかの車両へ乗るように指示し、三人はそれに従った。
走り出す2台の小型車両の背後には、膝をついたままの機体が残されていた。
◇
「大ガラスより小隊長へ、予定ポイントに到達。ハッチ開放――幸運を」
厚い雲に覆われた基地の遥か上空。
月の無い満天の星空を背にして、2つの巨大な黒い影。
「降下開始!」
巨大な黒い影の後方から放たれたのは、4機の猟機兵装。
そのコックピットシートの上に白いシールに黒い文字が書かれていた。
『バイオレット31』と……。
赤い機体の左肩には、牙を剥いたオオカミ。
黒い機体の左肩には、銀の空挺徽章、エアボーンウイングス。
菫色の2機は、ホウキに乗った魔女が描かれていた。
次回、スカーレットモード起動!
2019.04.09 次回、スカーレットモード起動!の予定でしたが、つなぎの話が長くなり変更です。




