27. 故郷
山頂に白い雪の残る標高の高い山岳地。
その上空に黒い菱形の輸送機が2機。
白く輝く太陽を背にして、ゆっくりと飛んでいた。
Ⅳ型を空中から投下するために作られたステルス輸送機。
製造から十数年。
強力な磁界変性燃料を使用した推進器。
これによって、通常型輸送機よりも速く飛べる優秀な機体。
だが、運用コストが高い。
自力で長距離飛行が可能となったⅤ型の登場。
そのせいでステルス輸送機は不要となった。
そんな、時代に取り残された機体。
しかし、廃棄されずに残されていた。
理由は、民間に貸付け、維持管理費も負担させ利益を出すためだった。
その貸付先にされたのが、タイガのいる巨大流通企業。
山々にかこまれた空港。
この国で最初の戦闘があった場所。
沖合いにあった空港は駐留軍専用となり、戦後に作られた民間用空港。
いまは、駐留軍が縮小され、民間機の運行も沖合いの空港へ戻った。
そして、今はタイガのいる会社に貸付られていた。
「やっと着いたぞぉ~」
「人も一緒に運ぶなら、窓ぐらい欲しいわね」
「そうですね。照明も改善してほしいです。暗いです」
冷たい風を受けながら、後部ハッチのスロープから出る社員たち。
迎えの車はバスではなく屋根もない蛇のような貨物輸送車。
荷物を積んで、足を縮めて床に座ってターミナルへ運ばれて行く。
「風冷たいねココ」
「そうね。でも気持ちイイし、なんか楽しいわねコレ」
「そだね、ジェットコースターだっけ? のったことないけど」
「私もよ」
初めて来たエリカとコハルは楽しそうにしていた。
サトコだけは山の方を見つめたまま、何も言わなかった。
「サトコ。大丈夫?」
「ええ。大丈夫です」
「なんか、元気ないぞ」
「いえ。ここ、私の故郷なんです。なんか、ぜんぜん変わってないなって」
サトコはこの国で生まれ、基礎教育学校を卒業。
両親の友人に支援され、連合国へ渡りシステム基礎学校を卒業。
そして就職。
故郷に帰って来るのは、就職してから初めてだった。
改装されたターミナル内の部屋に荷物を置いて外に出る。
猟機兵装が輸送機から降ろされ、小さな車両に引かれていた。
格納庫へ向かって運ばれている。
輸送機も別な格納庫に向かっていた。
今は、ここが輸送機の保管場所だった。
機体のチェックが終わって、戦闘機動訓練が始まる。
その前に、敵役でもあり教官でもある3人が紹介された。
「空港警備隊、隊長のトワダ・アイです。よろしく」
「同じく副隊長のトワダ・セイジです」
「同じく隊員のキヌタ・サラサです。キヌタ専務の孫です」
隊長と副隊長は、過去に反連合国のパイロットだったと。
両親と子供が連合国の用意した管理居住区で暮らしている。
だから、猟機兵装乗りとして就職できたと。
管理居住区とは、家族の誰かが武器を使用する仕事に就職する場合、人質となり暮らす場所。
訓練は空港を利用し、選考会と同じような方法で行われる。
ただ、敵の機体は違う。
本番はGGA03ザンゲツだが、ここではバイオレット21だった。
警備業務の武器は粘着弾を撃てる銃と格闘用の長いパイプ。
訓練では粘着弾の代わりにペイント弾のみで戦う。
滑走路の両端に分かれ、ペイント弾を打ち合う。
最終目標のマトは穴の中にあり、上からしか当てられない。
敵は損傷と判断されると、代わりの機体を投入できる。
第2回の選考会では、損傷した機体を盾にし、何機も投入する方法で軍が勝利している。
今年も、この方法だろうと予測された。
連日、厳しい訓練が行われ、エリカとコハルは腕をあげていった。
サトコも参加してみたが、基礎訓練が少なかったせいで、ここでは標的にしかならなかった。
二人は、訓練の中で、パイプを使った格闘戦を習った。
いつか、何かの役にたつだろうと。
◇
【便器じゃなくてベンチです!】
訓練を終えて情報端末を手にし、その日の訓練情報を見ながら話し合う3人。
テーブルを挟んで床に座って向き会うエリカとコハル。
ふと、顔をあげたコハル。
ベッドに腰掛け、ひじをたて足をそろえて頬杖をつくサトコが視界に入った。
「そのかっこ、考える人に似てるわね」
退屈して居眠りしそうだったエリカがすぐに目を開いて反応した。
「それ知ってるぞ~。便器に座ってる人でしょ」
「便器じゃなくてベンチです!」
自信ありげに言い放ったサトコは顔を上げ、頬杖をやめた。
「二人ともなに言ってんの、ぜんぜん違うわよ!」
「あれっ? 違いました?」
「石の上にも三年って別名があるでしょ!」
「それって、たぶんなにも考えてないね、死んじゃってるよ」
エリカが、両手を合わせて首と一緒に合わせた手をかたむけた。
「じゃあ、三年もパンツ降ろして考えてたの? ダメですねその人」
「トイレじゃないんだから、脱がなくてもいいでしょ!」
「そうだっけ? 全裸だったような気がするぞ!」
「もっと、ダメですねその人」
情報端末で調べた結果……。
便器に座る全裸の男のブロンズ像が表示された。
「ほらね。あってたでしょ。正解だぞ!」
それは、衛生器具を販売している大企業。
その本社ビルのエントランスに飾られていると表示されていた。
08.と10.で書いた、サトコの口調をですますに変更。コハルと被ってたので、ちょっと年下のイメージにしてみた。




