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猟機兵装 - 思いつきの記録 -  作者: イワトノアマネ
28/45

28. ワタクシにしか出来ないこと。

また、日常回です。


【旧王国にあるタイガ運輸が管理する空港】


「また負けたぁ~」

「ぜんぜん勝てる気がしないわね」


 訓練が始まり、模擬戦での激しい動きに慣れ、1度だけ勝利。

 それからは勝利どころか、始まってすぐに撃破されていた。

 機体に慣れるまで手加減されていただけ。


「シャーロット・リーダーより全機へ。休憩にしましょ」


 各機が返事をした後、格納庫の前へ移動し膝をついて並んだ。

 操縦席のハッチが開き、パイロットが吊り下がったワイヤーを引き出し、足をかけワイヤーについているグリップを握って降下した。


 5人はパイロットスーツのファスナーを少し下げ、太い襟巻きのようなヘッドパックを肩の後ろにさげた。




 格納庫前には浮遊石を装備した大型コンテナトラックが1台。

 軍の戦闘指揮車両と同じもの。

 

 後部の扉が開け放たれ、薄暗い中には壁や机にモニターが並んでいる。

 その前にある椅子にイヤホンマイクを装着しキーボードを操作する者が数人。

 その後ろでサトコが情報端末を手にした作業服の男と話していた。

 

「やはりな、これじゃ勝てない。プロ相手ならどんなにがんばっても無駄だ」

「じゃあ、戻さなきゃダメってことですね」

「ああ。そうだ……すぐに始めて、なれたほうがいい。にしても、誰が許可したんだコレ」


「タキタ教官です。アライ部長も私が好きに決めろって言われてます」

「そっか、タキタとアライ部長か……たぶん君達が強くなる前に操縦が好きになる事を優先したんだな」

「みんな、やり直しか~」

「大丈夫、コレからでも間に合う。教官達はあの人の教え子だからな」


 サトコは男の後ろについて行き、トレーラーの後部から外に出て階段を降りた。

 そして、パイロットの休んでいるテントへと向かった。




「あっ、コウタ! やっと来たわね」


 テントの下で椅子に座って容器に入った飲み物を手にしていたアイ。

 彼女が指揮車から降りてきた二人を見て手を振った。

 となりに座っていたセイジも手を軽くあげた。


「二人とも調子よさそうだな」

「ええ、そうね。コッチはいいけど、エリカとコハルはそろそろ限界ね」


「すみません」

「がんばって、動いても1発ってのはショック大きすぎだぞぉ~」


 アイはみんなの前で説明した。

 動きが硬いから狙いやすいと。

 機体の感覚が合わなかったのは、パイロットが未熟だからと。

 実戦では、激しく滑らかに上下左右に移動し、狙いが合った瞬間に撃つ。

 

「――と、言うことで機体の再設定と調整が終わるまでお休みです」

「あとは俺達でやるから、3人には休暇を与える」


 コウタがサトコ達にそう告げた。




 その後、3人そろってサトコの実家であるタイガ運輸の社員用宿泊施設へ向かうことになった。


 荷物を持ってターミナルから出ると、1台のワンボックス車が待っていた。

 サトコが車に近づくと、助手席の窓が開いて明るい女性の声がした。


「サトコちゃん、久しぶりね!」

「サヤカおばさん。御無沙汰してます」

「とりあえず話はあとあと、乗って乗って! ママが早く会いたいって」


 3人を後部座席に乗せた車は、白い雪を山頂に残す山脈へ向かって進み始めた。

 はじめは楽しそうに話していた3人も、これまでの緊張が解けたせいか、すぐに眠ってしまった。

 そんな3人を気遣って、そっと運転するサヤカだが、カーブの続く峠道をスイスイと走りぬけていた。

 

 左側に湖を眺めながら進む車。

 車内から屋敷が見えた時には、西の空が薄紅色になりはじめていた。

 そのとき、サトコが目をさました。


「いつ見ても、ここは綺麗」

「そうね」


 サヤカはルームミラーに視線を移しサトコの横顔を見た。

 空と湖それに屋敷までが、薄紅色に染まった景色と同じくサトコの顔も薄紅色に染まっていた。

 すぐに視線を戻して運転していると、エリカとコハルも目を覚ました。

 

「なにコレ、すごい!」

「そうね、こんな綺麗な景色を見られるなんて、凄い贅沢なことね」


 統一経済圏の勝利で終わった世界。

 数年前、任務中に行方不明となり、戦死扱いとなったコハルの父。

 その遺族への保障は僅かだった。

 

 母親と娘の給料では、遠くへ旅行をする余裕など無い。

 旅行は上級民が楽しむもの。

 

 社員用に宿泊施設を用意する企業など、ほんの僅か。

 そこを管理するサトコの両親はが良いと言えた。


 屋敷に到着したサトコは両親と抱き合い、涙をあふれさせた。

 それを見ていたエリカとコハルもつられて泣いていた。

 



 サトコとエリカは部屋へと案内された。

 二人には夢のような世界。

 大きな屋敷に広い部屋。

 大きなベッド。


 夕食を終えた後、サトコはエリカとコハルを自分の部屋へと案内した。

 ドアを開けると、エリカが駆け込んで、ベッドに両手を広げ飛び込んだ。

 

「このベッド、部屋のベッドよりちょっとと小さいぞぉ!」

「そうですね、コレがクイーンサイズです」

「コレならベッドのサイズに詳しいわね」

「あれっ? じゃあ、サトコが世話になってる家のベッドは何なの?」

「同じ……です」


 エリカが部屋の中を見まわした。コハルも同じように見ていた。

 高価な物があるわけではない。

 同じ色の机に椅子と本棚にクローゼット。

 綺麗に整理され、掃除の行き届いた部屋。


「やっぱ、サトコはお嬢様だぁ~」

「そうね、不思議ねこうして一緒にいられるなんて」

「すみません……」

「あっ、ごめんなさい。一緒にいられることが嬉しいってことよ」

「ありがとう……」


 その後、二人は部屋に戻り、サトコは両親と遅くまで話してから眠った。

 二人との出会いと、日々の生活。

 両親はそれを嬉しそうに聞いていた。




【ワタクシにしか出来ないこと】


 透き通った青い空。

 雪解け水をたたえた湖。

 湖面をゆっくりと流れる風。

 

 湖を見渡せる丘の上。

 薄い緑色の若葉におおわれた大きな木。


 木の下でレジャーシートを広げて座っている3人。

 今日は休日。

 少し遅く起きて、軽い朝食のあと、湖を自転車で1周。

 サトコの母に渡された大きなバスケット。

 中にはレジャーシートと、お弁当に飲み物。


「サトコのお父さんって、イケメンだよね」

「イケメンとか言うのヤメテください」

「なんで?」

「母がソレと同じことを、私に言うから……あんまり……」

「そうね、ソレはちょっと、イヤね」


 コハルが口元に手をかざして、少し笑っていた。


「そっか~でも、お母さんも綺麗だし優しそうで、すごくいいな~」

「ありがと……でも、ちょっと変わってるけどね」

「そうなの?」


 食事を終えて、くつろぐ3人


「そうね、ちょっと気になったのは、今朝けさここで手を合わせてたけど、なにかあったの?」

「ああっ、それは、戦争で亡くなった人々へ毎日、祈りをささげているそうです」

「毎日なの、すごいね」

「そうですね、天気が悪い日とか、寝坊したときは家の中ですませるけど……」

「だよね~」

「でも、忘れずにするのって、すごいわね」


 サトコが、ゆっくりと流れる薄い雲を見上げ、母の顔を想い浮かべた。


「知らない誰かより、知ってる誰かに祈ってもらったほうがいいでしょ、それが出来るのは、もうワタクシ(・・・・)だけだから……。小さいころに、そう聞いたけど、よくわかんないですよね」

「もしかして、お母さんって昔、アイドルやってたとか?」

「それは、無いと思います。お母さん結婚したのすごく若かったから」

「そうね、戦争中は連合も反連合でも、そういうの禁止されてたから無理ね」


 その後もしばらく選考会のことなどを話していた。

 

「そろそろ、行きましょう」

「ねぇねぇねぇ、このままサクッと帰っちゃダメ? すぐそこだよ」


 エリカが指し示す方向に屋敷が見える。

 自転車なら数分もかからない距離。


「まっ、荷物を置いてから、でもいいわね」

「帰ってゴロゴロしようよ~」

「あんだけ食べて、ゴロゴロとか危険よ、わかるでしょ!」

「あっ、はい」


 エリカはうつむいて、おなかを見ていた。

 3人は屋敷に立ち寄り、湖を午前とは反対方向に1周した。


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