第61話:野営の夜と崩壊する均衡
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前回までのあらすじ:健太の元から逃亡し獣に襲われた陽菜を神田が必死に庇うも力及ばず、土壇場で佐藤が獣を『支配庫』へ隠密に処理して二人を救うが、神田が真実を隠して陽菜と偽りの愛を結ぶ一方、二階では辻姉妹が王の圧倒的な救済力に陶酔して奉仕に耽り、陽菜を玩具としてどう壊すかの残酷な謀略を佐藤と共有していた。
それでは、第61話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、停滞していた沈黙を切り裂くような鳥の鋭い羽ばたきが響き渡った。かつては日常の一部であったはずの朝日は、異世界の植物に遮られ、毒々しいほどに鮮やかな極彩色の斑模様を地表に落としている。世界が変貌し、この場所が外界から隔絶されてから、今日で53度目の夜明けを迎えていた。昨日までの絶望が夜の冷気に溶け去ることはなく、むしろ朝日を浴びて、より一層重苦しい現実として住人たちの肩にのしかかっていた。
早朝の101号室。窓から差し込む光は明るいが、集まった住人たちの表情は一様に暗い。
「みなさん、もう限界です……。昨夜、陽菜さんがアパートのすぐ傍で襲われた。これは、もうここに安全な場所なんてないという証拠です」
神田英雄と、まだ憔悴した様子の石堂陽菜から昨夜の凄惨な襲撃の詳細を聞き出した金井智哉が、自室である101号室に住人たちを招集していた。真面目な公務員である彼の顔は、かつてない危機感に歪んでいる。
「今まで、化け物は森の奥にいるものだと思っていました。でも、陽菜さんは敷地から数歩の地点で殺されかけたんです。かろうじて神田くんが死に物狂いで食い止め、追い払ってくれましたが、そんな個体がすぐそこに潜んでいる。危機はもう、空想ではなく現実として僕たちの喉元にあります。今すぐここを離れるべきです」
智哉が提示した剥き出しの現実に、その場に集まった住人たちは重苦しい沈黙の中で頷いた。アパートを囲む森は日に日にその密度を増し、未知の捕食者たちの気配を色濃く漂わせている。食料も底を突きかけ、インフラの死んだこの建物に固執する理由はもはやなかった。全員の目が、最終的な決断を下すべき佐藤悠へと注がれる。
しかし、その総意に不快感を示したのは田中健太と川瀬涼太だった。
「おい、本気かよ。外に出る方が危ねえに決まってんだろ」
健太が智哉を睨みつける。隣に立つ川瀬も鼻で笑いながら同調した。
「そうですよ。森の奥の方がもっとヤバい化け物がウジャウジャいるんだ。ここにいれば壁があるだけマシだろ。俺は反対だね」
二人は、自分たちがこのアパートで築き上げた「支配」の形が壊れることを恐れていた。得体の知れない森の深淵に踏み込む恐怖を隠すように、慣れ親しんだ拠点を死守しようと躍起になっていた。
だが、その場の空気は脱出へと完全に傾いていた。美咲や綾香、そして北川結衣たちの、言葉にできないほど切迫した視線が佐藤悠に集まる。
「……準備しろ。今日、ここを出る」
佐藤の冷徹な一言が、最終的な決定打となった。健太たちは不満げに舌打ちをしたが、佐藤の圧倒的な威圧感を前に、それ以上の反論はできなかった。
出発の準備が進む中、一階の廊下で荷物をまとめていた神田英雄は、田中健太と川瀬涼太に呼び止められた。自分たちの意見が通らなかった苛立ちを隠そうともせず、健太は壁を蹴り、川瀬は神田を射貫くような視線で睨みつける。
「おい神田、陽菜をこっちに渡せよ。元々俺たちの仲間の女だろ」
健太が神田を威嚇するように一歩踏み出し、川瀬がその横から嫌な笑みを浮かべて口を出す。
「そうだよ。ここを出発する前に、最後にしっかり一発やっていくからよ。お前みたいな陰キャが連れてるなんておかしいだろ。おとなしく俺に返せよ」
川瀬は本気でそう言っていた。自分が生き残るために田中健太へ陽菜を「献上」したその時から、陽菜の心が自分から完全に離れ、深い軽蔑に変わっていることなど、彼の都合のいい脳内からは消去されていた。
「……断る。陽菜さんは、あんたたちの道具じゃない」
神田は静かに、だが鋼のような意志を込めて答えた。ここで彼らに陽菜を返せば、彼女が再びどのような酷い目に遭わされるか、神田には痛いほど分かっていた。昨夜、自分を必死に求めた彼女の震える指先の熱が、まだ肌に残っている。献上された絶望の夜から、陽菜の心はもう、神田という存在によって上書きされているのだ。
「調子に乗るなよ、ガキが!」
苛立った健太が、太い腕を振り上げた。反射的に神田がその腕を掴む。
「ぐああっ!?」
健太の巨体が、驚くほど容易に床に組み伏せられた。神田はほとんど力を込めていないつもりだったが、自分の中に人間を赤子のように扱える力が宿っていることに初めて気づき、自ら驚愕した。
(なんだ、この感覚……。こいつらが、まるで脆い枝のように感じる……)
神田は自身の内側に芽生えた力の大きさに触れ始めていた。だが、同時に苦い劣等感が胸を焼く。
(人間相手なら、こんなに……。だけど、昨夜のあいつには俺の拳は届かなかった。あいつを消し去ったのは、俺じゃない。佐藤さんだ……)
智哉の前では自分が追い払ったことにして沈黙を貫いているが、神田自身は理解していた。あの漆黒の獣を退けたのは、到底自分などではない、圧倒的な「何か」を持つ佐藤悠の介入であったことを。自分の不甲斐なさを自覚しながらも、背後で自分を英雄として見つめる陽菜の視線を裏切ることができず、彼は唇を噛み締めた。
午後。一行はついにアパートを後にし、不慣れな森の踏破を開始した。
先頭を行くのは佐藤と彼に付き従う女たち。大きく遅れて、神田に背負われた陽菜と、健太、川瀬が続く。陽菜は打撲の痛みに耐えながら、自分を守ってくれる神田の背中に、今まで感じたことのない深い情愛を募らせていた。
出発からしばらくして、佐藤は「忘れ物を確認してくる」と告げ、一人で来た道を静かに引き返した。
無人となったアパート『シャン・ソレイユ』の前に立った佐藤が、その無機質な建物を一瞥し、右手を虚空に掲げる。
刹那、空間が歪み、巨大な影がアパート全体を飲み込んでいく。音もなく、そこにあったはずの鉄筋コンクリートの塊が、地面の土をわずかに抉り取った痕跡だけを残して消失した。佐藤の『支配庫』の中には、今や一つの建物が丸ごと、静かにその所有権を移して収まっていた。
何食わぬ顔で一行に合流した佐藤の瞳には、一切の揺らぎはなかった。
数時間の移動の末、一行は澄んだ水が流れる小川のほとりに辿り着いた。
「今日はここまでにしよう。最初の野営だ。ここには何度か来ている場所なので割と安全かと思います。交代で見張りを立てて休みましょう」
探索時にこの場所を把握していた智哉の提案に、極限の疲労に達していた全員が安堵の息を漏らした。
夜の帳が降り、周囲を異世界の不気味な鳴き声が包囲し始める。
小川のせせらぎが聞こえる静かな場所で、一人で見張りをしていた佐藤の元に、二つの人影が忍び寄った。辻有美と亜美の姉妹だった。
「悠さん……お願い、私を抱いて……今、ここで私をあなたのものにして」
亜美の瞳には、死の恐怖を塗りつぶそうとする必死な情欲が宿っていた。有美は佐藤の前に跪くと、彼のすべてを受け入れるように寄り添う。迷いのない手つきで彼に熱を伝え、吐息を混じり合わせる。その濃密な空間の中で、佐藤は亜美の衣を紐解き、その聖域に触れた。
佐藤が執拗に愛撫を重ねると、亜美は身体をのけぞらせ、抗いがたい熱に溺れていく。
準備が整うと、佐藤は亜美を木の幹に向かわせ、立ちバックの姿勢を取らせた。有美が亜美の正面に回り込み、その口を自らの唇で塞ぐ。声が漏れないように、そして密やかな痛みを分かち合うように。
「んんぅ……ッ!」
佐藤が深く根を張るように満たしていくと、有美の腕の中で震える亜美の口から、甘い高揚の声が漏れ始めた。佐藤はそのまま、軽い亜美の身体を軽々と抱え上げ、深く、奥へと突き上げていく。
結合部をまじまじと見つめる有美の視線に耐えかね、亜美は顔を背けた。しかし、有美はその頬に手を添えて顔を向けさせた。
「……おめでとう、亜美」
有美はそう囁き、愛しい妹の唇に深い口づけを落とした。
佐藤は再び立ちバックの姿勢で彼女を木の幹に手をつかせ、激しく腰を打ち付ける。有美は佐藤の身体を支配するかのように寄り添い、放出を促すと、佐藤は亜美の内奥で熱い欲望を解き放った。
余韻に震える姉妹は、競い合うようにしてその情愛の証を清め、佐藤への献身を深めていった。
その頃、野営地の暗がりでは、健太と川瀬が物資の整理をしていた北川結衣を取り囲んでいた。
「おい、佐藤にばっかりいい顔しやがって……。俺たちだって、もう限界なんだよ」
健太が結衣を背後から突き飛ばすように押し倒すと、結衣は悲鳴を上げて激しく抵抗した。「やめて! 誰か、誰か助けて!」
川瀬は苛立ち、その口を乱暴な手つきで塞いだ。「うるせえな、静かにしてろよ! 今さら誰が助けに来るんだ?」
健太は躊躇なく結衣の衣服を乱暴に捲り上げると、隠されていた素肌を、獣のような貪欲さで蹂躙した。「いい肌してんじゃねえか……」
健太は指先で敏感な部位を執拗に弄び、結衣が身体を跳ねさせるのを楽しんでいるかのように、大きく口を開き、その片方を根元まで吸い付いた。耳元で、卑猥な音と呼吸が執拗に繰り返される。
「んんっ……!」
結衣が鼻から苦悶の声を漏らすのを無視し、反対側の部位も指先でいじり倒す。その感触の良さに、健太の呼吸が荒くなった。「たまんねえな、この柔らかさ……佐藤の所有物にするにはもったいねえよ。我慢できねぇ」
健太はそう低く唸ると、腰のベルトに手をかけ、一気に奪おうとした。まさに凶行に及ぼうとしたその瞬間。
「そこまでだ」
冷徹な声と共に、佐藤悠と田中美咲が現れた。美咲は、かつての夫である健太を汚物を見るような目で見つめる。
「佐藤様の所有物を、勝手に汚そうとしているの? 本当に汚らわしいわね」
蔑みに満ちたその一言が、二人の欲情を瞬時に凍りつかせた。
屈辱と恐怖から逃げ出した二人は、森の縁で小型の獣の群れに襲われた。戻ってきた二人の姿は無残だった。川瀬は腕を噛み砕かれ、健太もまた右足に深い怪我を負い、一人でまともに歩くこともできず、初めての敗北に震えていた。
冷え切った夜が明け、朝が訪れた。
二人の変わり果てた姿を見た金井智哉が、見かねたように歩み寄ってくる。「待ってください、二人とも……」
智哉は眉をひそめ、健太の足を指差した。「その怪我では、移動は無謀です。もう一日、ここで留まって傷を癒やしませんか?」
しかし、健太は智哉の申し出を鋭い視線で跳ね除けた。
「ふざけるな……。こんな森の奥で、のんびり傷を癒やしてられるかよ。ここで止まるっていうのは、次の獣の餌食になるのを待ってるのと同じだ」
痛みで顔を歪めながらも、彼は狂気じみた形相で叫ぶ。「進む……! あそこに戻るよりはマシだ……!」
血を吐きながら叫ぶ健太の執念を背に、佐藤は『支配庫』の管理をさらに強固なものへと切り替えていく。
一行を待ち受けるのは、森の先にある新たな「王国」への序曲であった。
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