第25話:隷属のかたち
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前回までのあらすじ:息子の死を受け入れられず健太の暴行に心身を破壊された美咲が、自ら衣類を脱ぎ捨てて佐藤悠のもとへ走り、綾香らに抱かれ号泣した末に、喪失の痛みを埋めるため悠への「完全な所有」を渇望して絶望的な隷属へと身を投じる。
それでは、第25話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、十九度目の陽光が力なく、しかし確実に降り注いでいた。
あの大惨事から一夜が明け、空の色は不気味なほどに澄み渡っている。昨日、広場を濡らした生温かい鮮血は、今や黒ずんだ染みとなって土に吸い込まれ、代わって立ち込めるのは、湿った土と、どこか甘ったるい死の残り香だった。住人たちが数えていたはずの「日常」という月日は、もはや意味をなさないほどに歪み、アパート全体が深い澱のような絶望の中に沈み込んでいる。
201号室のカーテンは閉め切られ、外の光を拒絶していた。
電気が遮断され、静寂に包まれた室内には、ただ女たちの微かな吐息だけが満ちている。そこは外界の飢えや暴力から隔離された、佐藤悠が支配する「揺り籠」であった。
広いリビングには、本来あるはずのない光景が広がっていた。本来は寝室にあるべきベッドが、まるで細胞分裂を繰り返したかのようにいくつも整然と並んでいる。佐藤の『模倣・複製』の力は、無機質な家具すらも無尽蔵に生み出していた。シーツが汚れれば捨て、新しいものへ。その過剰な物資の豊かさが、この部屋を異界の聖域たらしめていた。
美咲は、その増殖したベッドの一つで、丸まった姿勢のまま深い眠りに落ちていた。
昨夜、ボロボロの姿で辿り着き、綾香と舞香に抱きしめられた彼女は、そのまま泥のような眠りに沈んだのだ。彼女の白い肌には、夫である健太が執拗に刻みつけた赤黒い指の痕が、醜い痣となって浮かび上がっている。
しかし、彼女が自覚することのない力――『自愛の微光』が、持ち主の深い悲しみに反応したのか。彼女の指先から淡い光が染み出し、その醜い痣を包み込んでいく。健太の残した汚らわしい記憶を拭い去るかのように、肌は瑞々しい白さを取り戻していった。
その光景を、佐藤が無表情に眺めていた。
「……消えたな」
「ええ……。美咲さん、不思議な力を持っているみたい。あんなに酷かった傷が、一晩で綺麗に……」
傍らに寄り添う綾香の瞳には、佐藤の影響下で醸成された独特の色香が宿っていた。
「使い道はいくらでもある。これからは、彼女も『こちら側』の住人だ」
佐藤は冷淡に告げ、まだ眠る美咲の元へ歩み寄った。
足音に気づいた美咲が、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
「あ……佐藤、さん……」
美咲は寝具から這い出し、服を失ったままの肢体を晒して佐藤の足元に額を突いた。
「おはようございます、ご主人様……」
その呼び方に、舞香が口元を緩めて歩み寄る。
「ふふ、美咲さんもようやく馴染んできたみたい」
佐藤がベッドに腰を下ろすと、美咲は吸い寄せられるようにその膝の間に割り込んだ。
これまで何度も、彼女はこの男に身体を預けてきた。だが、かつてのそれは「大愛に水とパンを与えるため」の、心を殺した代償としての奉仕だった。一刻も早く終わってほしい、汚らわしい時間。しかし、守るべき息子を失い、夫から蹂躙された今、美咲にとっての佐藤は、地獄の底で差し出された唯一の「拠り所」へと変貌していた。
美咲の震える指先が、佐藤のズボンのベルトに触れる。
カチリ、という金属音が静かな部屋に響く。彼女は自ら、佐藤の欲望を解放した。
以前は視線を逸らしていたその猛々しい質量を、今は縋るような瞳で見つめる。美咲は躊躇なく顔を寄せ、その熱を唇で受け止めた。
「……っ、ん、は……」
溢れる唾液が顎を伝い、佐藤の肌を濡らす。健太の時のような吐き気はない。むしろ、この圧倒的な雄の臭気に包まれることで、自分の内側にある空っぽな喪失感が塗り潰されていく感覚。美咲は喉を鳴らし、佐藤の最深部を抉るように舌を這わせた。
「美咲さん、もっと深く……。佐藤さんを感じて。そうすれば楽になれるから」
舞香の囁きが耳元で弾ける。佐藤の手が美咲の豊かな髪を掴み、強引にその頭を前後に揺さぶった。
「あ、う……っ……!」
無理やり喉の奥を突かれる苦しさが、かえって美咲に「生きている」実感を与えた。涙目で佐藤を見上げながら、彼女は必死に奉仕を続ける。かつての事務的な取引ではない。自分を支配し、壊してほしいという、狂おしいまでの自己放棄の情熱がそこにはあった。
やがて佐藤が彼女を引き上げ、真っ白なシーツの上に組み伏せた。
綾香が美咲の両手を左右に広げて固定し、舞香が彼女の足首を掴んで、その蕾を佐藤の眼前に晒け出させる。
「見て、美咲さん。佐藤さんが、貴女を求めてるよ」
佐藤の無機質な視線が、美咲の秘部を貫く。彼女は顔を赤らめることもなく、ただ熱い吐息を漏らしながら、佐藤を受け入れる準備を自ら整えるように腰を浮かせた。
佐藤が、美咲の最奥へと一気に侵入した。
「ああぁっ……!」
美咲の身体が弓なりに反る。
今までとは、感触のすべてが違った。以前はただ痛烈に感じた「異物の侵入」が、今は自分の壊れた欠片を一つに繋ぎ止める「楔」のように感じられた。
佐藤が容赦なく腰を叩きつけるたびに、シーツと肌が擦れる卑猥な音が部屋に充満する。美咲の脳裏では、死んだ大愛の笑顔と、血塗れの広場が激しく明滅していた。だが、佐藤が深く突き上げる衝撃が、その忌まわしい記憶を一時的に吹き飛ばしてくれる。
もっと、もっと強く。脳が揺れるほどの衝撃で、私を壊して。
美咲は佐藤の首に必死にしがみつき、彼の肩に歯を立てた。
「……あ、あ。佐藤、さま……。私、を……消して……田中美咲を、殺して……!」
佐藤は美咲の懇願に応えるように、さらに速度を上げた。
肉と肉がぶつかり合う激しい音。綾香と舞香もまた、その熱気に当てられ、互いの身体を愛撫しながら美咲の耳元で淫らな言葉を紡ぎ続ける。
佐藤が美咲の最深部で、熱い白濁を容赦なく放った。
「ん、ぐ……ぅ……っ!!」
美咲は全身を細かく震わせ、白目を剥いて絶頂に達した。内側を満たす熱い感触。それは、健太に汚された記憶を洗い流す、唯一の清めのように感じられた。
行為の後、佐藤は美咲の身体から離れ、冷淡に言い放った。
「今日から、お前の食事と水は俺が管理する。一階に戻る必要はない」
「はい……。ありがとうございます……」
美咲は、佐藤に与えられたコップ一杯の水を、震える手で飲み干した。
喉を潤すその冷たさは、かつて「大愛に飲ませるために必死に求めた水」ではなく、今は「佐藤という絶対者に生かされている証明」としての、隷属の味だった。
一方、103号室では――。
田中健太が、荒れ果てた部屋の真ん中で、狂ったように拳を壁に叩きつけていた。
「……出て行ったきり、戻ってこねえだと?」
川瀬が、引き攣った笑いを浮かべながら報告する。
「健太さん……、美咲さん、201号室に入ったっきりですよ。ドアも開けてもらえねえ。佐藤の野郎、俺たちの女を囲い込みやがった」
「あの女……! 誰のおかげでここまで生き延びてこれたと思ってやがる!」
健太の脳裏には、自分を冷たく見下ろした美咲の瞳が焼き付いていた。
自分よりも圧倒的に上の存在。自分よりも多くの水と食料を持ち、女たちを支配下に置く佐藤悠。その存在が、健太の劣等感を極限まで刺激していた。
「……決まってるだろ。奪うんだよ」
健太の瞳には、昏い炎が宿っていた。
「佐藤の野郎から、すべてを奪い返す。水も、食料も……そして、俺を馬鹿にしたあの女も、全部だ」
アパートの腐敗は、決定的な「対立」へと形を変えていた。
佐藤に完全に服従し、隷属の安らぎに溺れる美咲。
そして、奪われたものへの執着と劣等感から、さらなる暴走を予感させる健太。
外の樹海からは、風に乗って獣の遠吠えが聞こえてくる。
異界がもたらした秩序の崩壊は、住人たちの内側にある「人間性」という最後の一線を、音を立てて踏み越えさせていた。
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