イストリア基地見学祭
ある日、イストリア本部に出勤してくると、人があちこち右往左往していた。
「っ? 何してるんでしょうか?」
「ん? あぁ神癒奈は知らなかったか」
そうすると永戸はEフォンで検索して写真を出す。するとそこにはこう書かれていた。
「イストリア基地見学祭?」
「そう、今日は言わば祭りの日、イストリアが普段のはめを外して一般市民に活動を公開したり体験までさせてくれる日なんだ」
「へぇー、私達は何をするんですか?」
「出店」
「えっ」
すると永戸は親指で指を指すと、その先には四課のメンバー達が揃っていつもの炊き出しに使うテントを張っていた。
「炊き出し体験という事で出店をするんだ、やることはいつもと同じ、出店をして客を集め、料理を売る、後はそうだな、トライクや装甲車の試乗体験なんかもやる」
「因みに他の課は何をするんですか?」
「一課はグラウンドを使用した演習、二課はVRでの探索体験、三課は災害時の避難の説明とかだな」
「私たちが一番地味!」
「いつものことだ」
永戸はそう言うが、もう一つ、大切な役目を話した。
「今回は市民との交流が大事だ、もしファンサービスを求められたらしっかり答えるように」
「分かりました!」
そうして彼らは四課のブースへ行き、全員に指示を出す。
「隊長、出す食事はいつものでいいの?」
「いや、流石にスープとパンだけじゃ客に可哀想だ。今日はカレーと焼きそば、それとサイドメニューにポテトとかを出す」
「おっ、学園祭の出店みたいっすね、歩、一緒に頑張るっすよ!」
「わかったから肩組むなって、胸当たってるから!」
冷静な南雲と、はしゃぎ気味の桐枝、恥ずかしそうにする歩を行かせると、永戸は備品のチェックをする。
「出店をするってことは、やっぱり客引きも大事ってことですよね」
「そうだな、神癒奈、頼めるか?」
「任せてください!」
神癒奈が胸を張って答えると他のメンバーの客引きの担当を決めに行く。今回の炊き出しはいつもの簡単なメニューとは違う、気合いを入れねばと永戸も背伸びをする。
トライクと装甲車も並べた。準備は万全だ。
時間が来ると、基地見学祭が始まった。客がゾロゾロ入って来ては、あちこちのブースを回る。神癒奈達はいつものように客引きをして出店に客を寄せた。
「こっちで料理の炊き出しをやってますよー! 値段もお安くなってます!」
「ここの料理は美味でありますぞー! そこのお客人も食べていってはいかがか⁉︎」
神癒奈やフローレアが客引きをする中、一方テントではクレスとメルトが料理を作っていた。
「珍しいな、メルトが料理を作るなんて」
「うん、普段は…怪我人の手当てが目的だからね、私も不思議に思ってる」
メルトがそうして料理を作っていると、遠くの方では永戸がトライクの説明をしていた。
「こちらのトライク、クラウドレイザーは、トライクとは銘を打たれてますが、実際は後方二輪を合わせたバイクのようなもので、トライク特有の走破性とトルクを併せ持った強靭な作りになってます。その為、物資の運搬に非常に強い作りになっており、また、非常時には後方二輪が左右に開き、安定した走行で戦闘を行うことができます」
観客達に説明をする永戸だが、すると、その中から子供が出て来た。
「すごーい! かっこいいー!」
「乗ってみるか?」
「うん!」
永戸が普段見せないような優しい顔をしながら子供をトライクに乗せていた。こういう見学祭になると彼も気が安らぐのか、どこか落ち着いた表情を見せている。
「どうだ? かっこいいだろう」
「うん! お兄さんも普段これに乗ってるの?」
「あぁ、これは俺の愛車だ」
一通り載せた後、子供をトライクから降ろす。すると子供は言った。
「お兄さんの背中のその剣、聖剣だよね? って事は、世界を救う勇者様なの?」
「ふーむ、まぁそうだな、俺は勇者だ。俺達は世界を守る為に、毎日戦っている」
「四課って人に物を配ったり…ご飯を作るのが仕事だよね? それでも戦う勇者なの?」
「勇者だよ、戦いとは、何も魔物と戦うだけじゃない、お腹が空いて困った人達や、病気や災害で苦しむ人たちを助けるのも勇者の仕事だ」
「うーん? なんか勇者にしてはパッとしないね」
そう言われると永戸もそうだな、と困ったように笑う、でも言った。
「けどな、何のために生まれ、何をして生きるのか、俺はこの生き方を選んだ、地味な仕事かもしれない、でもそれでも、誰かが救われるならと俺達は毎日、困っている人を助けにいくんだ」
「よくわかんない」
「いずれわかる時が来るさ、そうだ、剣は抜けないが、試しに手に持ってみるか? 重いけどかっこいいぞ」
「いいの⁉︎」
「あぁ、大サービスだ」
永戸はリヴァンジェンスⅢの鞘に入ったままのイクセリオスを子供に持たせる、支えられてるとはいえ、子供は重そうに持つが、永戸から剣を貸してもらい、満足そうにしていた。
一方、神癒奈の方では珍しいことが起きていた。少女が目をキラキラさせながら神癒奈に寄っていたのだ。
「あっ、ミユナおねぇちゃんだ!」
「来てくれたんですか?」
「うん! いろんなところ回ったけど、やっぱりミユナおねぇちゃんのところが一番好き!」
どうやら四課のファンのようで神癒奈と楽しく会話している。
「わたし、イストリアでミユナおねぇちゃんが一番大好き! 優しくて、強くて、かっこいいから!」
「そう言われると私も嬉しいですね」
「うん! ミユナおねぇちゃんはわたしにとってのヒーローなんだもん!」
そう言われると神癒奈は一瞬目を見開くが、すぐに表情を作ると、ポケットからあるものを出した。
「じゃあそんな貴方には、これをプレゼントしようかな、じゃーん、四課のバッジですよ、これで今日から貴方も、四課の一員です」
神癒奈は四課のピンバッジを、少女のカバンに付けてあげる。
「本当⁉︎ やったー! わたし、将来イストリアに入って四課のお仕事する!」
「ここのお仕事は大変ですよ、みんなを守るのが仕事ですからね」
「大丈夫! ミユナおねぇちゃんがいるって信じてるから!」
ばいばーいと別れを告げて、神癒奈はちょっと誇らしくなった。自分を目指す存在がいることに対して。
更に一方、幼児向けの託児所の方では、フィアネリスが読み聞かせをしていた。
「こうして勇者様とお姫様は、魔王と仲良くなり、人間と魔物は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ…いかがでしたか? この物語は?」
「ゆうしゃがやさしかった! かわいそうなまおうをたすけるところ!」
「おひめさまがつよいのはじめて! どうしてそんなにつよいの!」
「さて、何故でしょうね? ですが彼らは、よい結果を求めて戦ったのです。誰もが優しくて、暖かな勇者の物語」
子供達はフィーネが読み聞かす話に夢中で、時間を忘れていた。
「じゃあじゃあ、てんしさんのおはなしきかせて!」
「私のお話、ですか?」
「うん! てんしさんも、さっきのゆうしゃみたいにやさしそうだから!」
「そうですか、それでは……ある天使がいました」
フィアネリスは過去の記憶を懐かしむように思い出すと、自分の物語を語り始めた。かつて共に歩んだ友のことを思い出しつつ、フィアネリスは語っていく。
「天使は消えていった友達のために夢を追うことを誓いました。いろんな世界を旅して、いろんな景色を目にして、物語を見て、そうして天使はいつしか物語を見届ける者になったのです」
「てんしさん、やさしいんだね」
「そうですね、私は優しいのかもしれません」
「てんしさんはいろんなものがたりをしってるの?」
「えぇ、それはもう沢山の」
「じゃあ、わたしも、てんしさんみたいにいろんなものがたりをおぼえられるのかな?」
「ええ、勿論、貴方達が道を歩み続ける限り、様々な物語を知る事になるのです」
フィアネリスの方もどこか優しげな表情で話していて、落ち着いていた。
「隊長さん達、あんな風に喜んじゃってまぁ」
「けど…あんな顔の隊長さん、私見た事ない」
「神癒奈も、何だか嬉しそう」
「フィアネリス殿も楽しそうでありますな!」
いつもとは違う三人の一面を見れた四課のメンバー達、こうして、基地見学祭は楽しそうに進んでいくのだった。




