エンドロール
それから、時代は流れ、数千年後……。
「行ってきます!」
「これ、待つのじゃ! 妾を置いてくでない!」
焔月の継承者として立派に成長した火乃香が、都市の道を玉藻前と共に走る。
行き先は月の国で、すぐに転移すると、月の国の神宮へとついたのだった。
「おはようございます! 小雪さん、南雲さん!」
「おはようございます、火乃香様」
「おはよう、火乃香」
火乃香は焔月の使いの巫女である小雪と、配下である南雲と挨拶を交わす。焔月一族は、火乃香を境にあれから立て直し、火乃香もすくすくと育って焔月の当主は神癒奈から火乃香へと移ったのだった。
「今日の仕事、友達と遊びに行きたいから、早めに終わってもいいかな?」
「うむ、よいぞ、じゃが、夕飯時までには帰ることじゃぞ、なんせ今日は妾が飯の当番じゃからな!」
「玉藻おばぁちゃんの作ってくれる料理、楽しみだなぁ!」
「これ! 名前を端折るな! 不敬じゃぞ!」
火乃香達は、今日も焔月の一族として、月の国を見守っていく。かつての当主の、思いを背負いながら。
ーーー
「センパイ、今回の飛行訓練ちょっとやりすぎですよ」
「おや? 貴方こそ、今日の訓練で張り切りすぎたのでは?」
天界の格納庫を、リンゴジュースを飲みながら歩く二人、フィアネリスとアンフェリア。二人は数千年もの時を重ねて、天界にて天使として認められ、フィアネリスは大天使に、アンフェリアはその次席につくこととなった。
「センパイの無茶苦茶な機動を見て新人達は怯えてましたよ? 天使のする飛び方じゃないと」
「おや、嬉しいですね、化け物認定されると、もっともっと可愛がりたくなります♪」
「うげ……さすがファースト、考えることがえげつない」
フィアネリスがニコニコ笑顔で歩くのを見て、アンフェリアはドン引く、機械の天使と恐れられた彼女達も、今では新人天使の教師、アカデミーの教員となっていた。
「そういえばアン、今日は火乃香と遊びに行く約束をしてたでしょう?」
「してたけど……何?」
「後は私が仕事をしておきますので、貴方は先に上がっていいですよ」
「……じゃ、お言葉に甘えて」
そうしてアンフェリアはフィアネリスの目の前から消える。するとフィアネリスはどこかに向いてこんな事を言い出した。
「やはり物語は、ハッピーエンドを迎えるべきですね、その方が、皆様もすっきり終わりを迎えられるでしょう?」
どこかに語りかけるフィアネリスは、そう楽しげに笑うのだった。
ーーー
「マスター、流石にこんな仕事、うちらには無理ですぜ……こんな綺麗な仕事は……」
「何言ってんのこのバカ! ようやく表通りに店を出せたかと思えば仕事できませんと弱音? 寝言は寝て言え!」
サキュバスクイーンとして成長した渚が、昔と変わらない姿で冒険者達を怒鳴る。
彼女は叔父ジェフリーからナハトヴォルフを受け継ぎ、冒険者たちやサキュバスたちと共に作り上げては都市最大級のギルドへと成長させた。
裏の仕事からは足を洗い、今では、真っ当な都市のギルドとして活動をしている。
「あらあら、渚姉さんまた怒ってる」
「姉さん、あんまり怒ると可愛さが台無しよ?」
「うるさいやい! ママからもらったこの肩書き! 貰わなけりゃよかった! こんな大所帯の世話をする事になるなんて!」
今までの倍以上に広くなったギルドを見て、渚は辟易する。大手のギルドになったせいで闇ギルド時代に出来てたちょろまかしなども効かなくなった。サキュバス達も、今では立派な労働力で、ギルド自体も、今じゃ何代目かもわからないエルデバの酒場と業務提携を結ぶレベルだ。こんな事なら父親から経営術を学ぶべきだったと渚はしょんぼりしながら仕事をする。
「そう言えばお頭、お頭の兄貴は今どうしてるんだい?」
「おにぃちゃんのこと? おにぃちゃんは確か……」
渚は永戸のことを思い、考える。だが隣にはいつも神癒奈が立ってきてボクなんかじゃ近づけない領域だと思う。
「はぁ……連絡はするといつでも電話で返ってくるけど、おにぃちゃん達、今頃どうしているんだろう」
兄の事をずっと考えては、渚はうんざりしつつ仕事をするのだった。
ーーー
そして…………彼らは。
「なーに見てるんですか?」
「ん? いや何、昔、みんなで撮った写真を見てるんだ」
永戸と神癒奈、英雄と呼ばれた二人は、片方はイストリアのトライクにガソリンを入れていて、もう片方はそれを待ちながら、懐かしい写真を見ていた。古い写真だが、劣化しないように加工が施されて、いつまでも懐かしい姿がその写真に映っていた。
思えばこの数千年で色々なことが変わった。都市の光景に仲間の姿、そして、自分の所属さえも。
「みんな、色々あったよな。結婚して子供を産んで先に逝ってしまったり、戦いの果てに戦死したり、あるいは、意外なところまで上り詰めた者までいたり」
「えぇ、本当に、これまで色々ありました」
永戸の言葉に、神癒奈も懐かしむように振り返る。数千年間戦いを続けたが、その間に本当にさまざまな出来事に巻き込まれたと。時に絶望的な状況に陥り、時に仲間たちと笑い、それぞれかけがえのない時間を過ごした。
「にしてもいつか語った夢、叶ったのはいいですけど、まさか部隊まで変えさせられるなんて、よっぽどイストリアは私たちを離したくないんですね」
「二人だけの部隊ってそれ部隊って呼べなくないかと思うんだけどな、まぁでも、こうしてゆっくり旅ができるようになったんだ、俺は嬉しいよ」
すると永戸は肩についた部隊章を触る。赤黒いコートは変わらずだが、コートについた部隊章は変わっていた。
かつての四課とは数字が違う、"異世界特別調査隊五課"、その名は旅人と……。
永戸はいつか語った夢を思い返す。
「"俺はもう戦うのが嫌になったから異世界を旅するスローライフが送りたい"、上層部に本気でそう言ったらこんな隅っこ部隊におくられるなんて、笑えるよな」
「泣き言は言わないでください、夢自体は叶ったんですから」
ガソリンを入れ終えると、永戸はトライクに跨り、神癒奈は後部座席でうんと背を伸ばす。
「それで、次はどこに向かうんですか?」
「次は? そうだなぁ……」
永戸は吹きすさむ風の感覚を感じとり、笑って言った。
「風の導くままに、行くか」
「……そうですね、その先に、まだ見ぬ面白い光景が待ってると信じて、行きましょうか」
そうして二人はトライクを走らせ、風の導くままに、ゆったりと長い道のりを走っていくのだった。
異世界には、まだまだ闇が潜んでいるかもしれない。
けれどそんな闇が見つかる度に、守る者達が現れる。
異世界の歴史が変わる時に現れてきた彼らは、その力を持って、異世界を守り抜いてきた。
それは、誰も知らないかもしれないし、あるいはどこかで耳にしている物語かもしれない。
吟遊詩人が語り、ネットのサイトに小さく載る、ある天使の日記は、こんな名前で呼ばれていた。
ーヒトとキツネの異世界黙示録ー
と…………。
〜Fin〜
ご愛読! ありがとうございました!
これにて、長く続いてきたヒトとキツネの異世界黙示録は堂々完結です!
永戸達の戦いは、これからも続くかもしれないし、或いは、また何かの形で違う側面が見られるかもしれない。
ここまで見てきた彼らの英雄譚を知る者達へ、大いなる感謝を!




