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7.初戦闘

はじめての戦闘回

 修練場に入った智之。

 彼が見たのは。ドーム状のグラウンドの周囲に沿うように立つ学生たちの姿。


 そして。


「おらぁ!」

「岩を鱗に!」


 彼らの中心で激しくぶつかり合う二人がいた。


 かたや岩の盾を作り、かたや紅い炎で障害をゴリゴリ削っていく。

 火の粉と礫が飛び散る。

 魔法でできたそれは、周囲に降りかかる前にかき消える。


 観客である生徒たちから大きな歓声が上がった。

 なかなか見ない光景に興奮しているようだった。


 どれだけ魔法があっても、こんな一大スペクタクルはアクション映画か魔法決闘士ぐらいしかいないだろう。


「セレナ!」


 人を書き分けて一歩中に入った智之は、その片方──見覚えのある制服を着た金髪の後ろ姿に声をかける。

 そのとたん、殴りかかってる右手から溢れる炎がゆらりと揺れた。


 セレナは炎を消したかと思うと、くるりと身を翻す。

 拮抗する力を失って眼前に迫る岩を踏み台にしながら、彼女は大きく飛び退った。


 地に足をつけ、砂埃を巻き上げながら智之の側までやってきた。

 その綺麗な顔や新品の服はところどころ土で汚れている。


 しかし。


「やっと来たのね、トモ。遅いじゃない」


 振り返った彼女の唇は楽しそうに歪んでいた。


「何してるのさ、こんな大勢の前で」

「見てわかんないの、ケンカよケンカ! あいつが先に売ってきたんだから!」


 指差す先にいたのは、メイド服を着こなしたひとりの女性だった。

 身長は遠目から見ても分かるほどに背が高い。

 キズが入った左頰を釣り上げ、彼女は嘲笑的な笑みを浮かべていた。


「へぇ、そいつがアンタのマスターかい」


 ナイフを突きつけられるような鋭い視線が智之を貫く。

 殺気にも似た感覚。

 ギリギリと心臓を締め付けられ、ゆらゆらと背後には魔力が揺らめいている。


 その姿に、智之は一匹の動物を見た。


「──蛇」

「へぇ。よくアタシの種族が分かったね。アタシはヴルム。見ての通り、そっちにいるマスターの使い魔さ」


 ヴルムと名乗った女性に促されてそちらを見る。

 そこにいたのは、講堂で見た姿。


「よぉ、夕川」

「那波くん?」

「小狐は届けれたか?」

「うん。ご主人さまと出会って嬉しそうにしてたよ」

「そうかよ」


 その言葉を聞いて、央麻は少しつまらなそうな顔をした。


「なぁ、夕川。どうせならオレたちもやりあおうぜ。使い魔同士戦ってるんだしよ」

「決闘ってこと?」

「おう、どうせ見世物になってんだ。このままいっちょやってみようぜ」


この学校は、スポーツとしての魔法決闘を容認している。

理由は二つ。魔法は使ってこそ成長するため。そして、使い魔との絆を深めることができるためだ。


学内、学外を問わず大会も開かれており、


「いいじゃない、トモ。やりましょうよ」

「でも、こういうのって立ち会いが……」

「なら、私が立ち会おう」

「あん?」

「ウェスカー先生」


 そう言って周囲から出てきたのは、ここを仕切ってるはずのウェスカーだった。


「何だよ、急に仕切りやがって。さっきまで何も言わなかっただろうが」

「あの程度は彼女たちのようなAランク以上の魔物じゃれあいみたいなものだ。現に周りには危害を出さないように魔法の威力を抑えていたし」

「そう、みたいですね」


 周囲を見回す。

 確かに、地面は少し荒れていても大きく抉れたりしているところはない。

 セレナが本気になれば、体育館ほどの大きさがある修練場なんて崩壊してしまうだろう。


「だが、マスターが介入するというのなら話は別だ。それは決闘になる。各自、制服に魔力を通せ」


 そう言われて、制服に魔力を流す。

 服の上にうっすらと魔法のコーティングが作られ、カーキ色が濃い紅色に染まる。


 この制服には魔法障壁が内蔵されていて、魔力を通すと傷つかない鎧のようになっている。

 障壁にダメージが入るたびに色がどんどん色褪せていく仕様だ。


 言われた通りに準備をし、距離を開ける。


「ひとりで戦わせてごめん、セレナ」

「私を舐めるんじゃないわよ。もしもの時はあれが残ってるし」

「ダメだよ。あれは人に向けて使っちゃいけない」

「ちっ……面倒くさいわね」

「大丈夫だよ、使わせないために俺がいるんだから」


久しぶりの戦いだ。

セレナみたいに戦いが好きってわけじゃないけれど、身体を動かすのは好きだし。

だから。


「やろう、セレナ」

「えぇ、全部燃やし尽くしてあげる」




  – ☆ – ☆ – ☆ – ☆ – ☆ – ☆ – ☆ – ☆ −




「どりゃぁ!」


 二組の間は十メートル。

 いの一番に動いたのはセレナだった。

 腕に炎を纏わせ、一気に距離を詰めて殴りかかる。


「それはさっき見たばっかりだよ! <シュランゲ・デ・ヘルゼン>」


 が、攻撃は同じでも今は智之がいる。


「ショット!」


 杖を振って魔力の球を飛ばす。

 狙う先はヴルムの投げた鱗。


「させねぇ! <土走り>!」


 しかし、魔力はどこまで行ってもただの魔力だ。

 携帯電話に似たデバイスを持った央麻の礫に弾かれ、鱗には届かない。


「どうした、何もしないのか? いや、できねぇのか!」


 セレナが大きくバックジャンプで距離を取る。

 再び智之の隣までやってくると、今度はヴルムから視線を外さずに問いかけた。


「何か分かった?」

「うん、だいたい動きは見えた」


 智之は魔法が使えない。

 実体化を使ったとしても、それは魔力を集めて固めただけ、

 純粋な魔法には敵わない。


 だから、目を使う。耳を使う。頭を使う。

 セレナに身を削るその力、破壊魔法を使わせないために。


「次で決めるよ」

「上等、ぶっぱなすわ!」


 両手両足に炎を纏わせ、セレナはヴルムに突撃していく。


「来るよ、魔力回しな!」

「使い魔ごときがマスターに命令すんじゃねぇ。<身体強化・土>」

「鱗よ、堅牢なる盾になれ!」


 ヴルムは鱗を三枚投げる。

 鱗はすぐさま大きくなり、巨大な盾となる。


 けれど、それぐらいでセレナは止められない。


「<インフェルノ・ストライク>!」


 炎の拳で盾を粉砕する。

 そのまま手を組み取っ組み合いになった。


「ようやくこの距離まで近づけたわね」

「やるじゃないかドラ娘。だけど──」


 ヴルムは頭を振り、セレナに頭突きをかます。


「ぐっ! いっっっっったいのよ、このデカ蛇女!」

「手を離さないかい、やるねぇ……っ!」


 セレナとヴルムの力は拮抗していた。


 この場にいる全員が二人の取っ組み合いの行方を眺める。

 赤と黄土色がぶつかり合い。お互いの制服の色をガリガリと削っていく。


 その中でひとり。


「──圧縮」


 ただひとり、智之は目を閉じていた。

 右手で杖を繰り、左の握りこぶしに魔力を集中させる。


「圧縮、圧縮、圧縮、圧縮」


 集めて、固めて、縮めて、捻って。

 作り上げるは一つの弾丸。

 唱えるは勝利への一手。


「はぁあああああああああ!」


 セレナの気迫に満ちた声。


 智之は、智之だけは、央麻の姿を見ていた。

 いや、正確には彼の手にある杖と同じ意味を為すものを。


「──魔弾、解放」


 言葉を紡いで左手を開く。

 その瞬間、今まで溜めていた力が弾けた。


「は?」

「ちっ、避けなっ!」


 気づいたヴルムが注意をするも、もう遅い。

 白き一条の光は央麻へと向かっていき──


 呆気にとられる彼のデバイスを吹き飛ばした。


 デバイスは軽い音を立てて地面に落ちる。

 ヴルムにかかっていた身体強化の魔法が解ける。

 その隙をセレナはそれを見逃さない。


「どらっしゃぁああああ!!!」


 気迫のこもった雄叫びを上げ、ヴルムを引き倒して地面に叩きつける。

 砂埃が舞う。


「はぁ、はぁ……ざまぁみさらせ」

「参ったねぇ、土蛇のアタシが土に汚れるなんて」


 セレナは肩で息をしながら、地面に倒した空いてを見下ろす。

 ヴルムは苦笑しながら立ち上がった。


「そこまで! 勝者、夕川智之とセレナ・ドルマン!」


 砂塵を切り裂くように、ウェスカーの声が修練場の中に響き渡った。


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