転校生【桜庭】
はい、どうものんびり+です。
最初に言っておきますと、この物語は最後まで書けるか分かりません。あしからず。
正直プロットとかもあまり出来てません。思いつきです。
私恒例の思いつきです。
どこまでいけるかわかりませんが、頑張ります。
――何も感じない。
物心ついた時から、何も。
それはまるで、音の出ない白黒テレビの様な。ただ淡々と、白黒の世界を眺めているだけの様な。そんな感覚。
誰もが、テレビの中の出来事は他人事だ。どこか遠くの国でどんな悲劇が起ころうと、可哀想だと思っても、それは他人事。実際に自身が経験するまでは、テレビの中の出来事は作り話の様に、現実味を帯びない。
俺の人生も同じだ。
あらゆる事が無関心。全てに無感動。
俺という人間の人生を、テレビの向こう側でもう一人の俺がボーっと観ているかの様に、俺の人生は俺にとって他人事なのだ。
俺には、おおよそ感情と呼べるものがない。
喜びも、悲しみも、憎しみも、怒りも、愛も。俺にはわからない。
俺の知る限り、人間は感情が豊かな生き物だ。
誰かの為に泣く事が出来る、誰かの為に怒る事が出来る、誰かの為に喜ぶ事が出来る、誰かを好きになる事が出来る。
人間の強さであり弱さ。人間の美しさであり醜さ。
皆にあって、俺にはないもの。
俺は果たして、人間と呼べるのだろうか。
羨ましい、と思う事はない。悲しいとも感じない。
何も感じない。
別に、俺にとってはどうでも良い事なのだ。
人間として重大な欠陥があっても、別にどうでも良い。
それで俺がどうこうする事はない。
ただ、時間が過ぎていくだけだ。
朝がきた。
太陽が昇り、空を照らす。
俺はいつも通りに作業に取り掛かる。
顔を洗い、朝食を食べ、歯を磨き、家を出る。
いつもと同じ時間、同じ行動、同じ日常がそこにはあった。
しかし、一つだけ、いつもと違う事があった。
朝のホームルーム、担任の横には少女がいた。
転校生らしかった。
転校生は黒板に"朝日奈まつり"と丸い文字を書いて、こちらに向き直った。
「皆さんはじめまして、朝日奈まつりと言います! 父の仕事の関係で、こっちまで引っ越してきました。早く皆と馴染める様に頑張りたいので、遠慮せずに話し掛けて下さい!」
朝日奈まつりが礼すると、拍手が湧いた。
「朝日奈さん、席は桜庭君の隣ね」
担任が俺の隣の席を指差した。
その時、朝日奈まつりと目が合った。
既視感を覚える。
どこかで一度会ったがあるのだろうか。
朝日奈まつりは隣の席に座ると、俺を見て微笑んで言った。
「これからよろしくね、桜庭君」
「よろしく」
返事だけは返しておいた。
転校生など大して珍しいものではないが、何かが違う。
この朝日奈まつりという転校生を、俺は既に知っている気がする。
そして、向こうの方はというと、何故か俺にしつこく接触してきた。
「桜庭君、学校案内してもらっても良いかな?」
「桜庭君、読書が好きなの? それ何読んでるの?」
「桜庭君、ご飯一緒に食べよ!」
「桜庭君、部活とか入ってないの? じゃあ途中まで一緒に帰ろ!」
桜庭君、桜庭君……。
何だこいつは。
今までこんなにも俺にくっついてくるやつはいなかった。
俺はあまり人とは関わらない。関わる必要性を感じないからだ。
故に、俺に積極的に声を掛けてくる人は珍しい。それも、相手は恐らく初対面だ。どうして、他のクラスメイトとのコミュニケーションを削ってまで俺に構うのか。理解が出来なかった。
「じゃあ、私はあっちだから」
そう言って、朝日奈は十字路を左に進んだ。
「また明日ね、桜庭君」
「あぁ」
最後まで笑顔を崩さずに去っていく朝日奈の後ろ姿から目を逸らし、俺も家路を辿る。
何だか、面倒臭い事が起こりそうだと、俺は漠然とした予感を覚えずにはいられなかった。