表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

第十三話 戦士の休息

「えっ!? 私の部屋より奇麗……」リナはそんなことを思った。


 銃器や剣の曲線部分を生かして、部屋のデコレーションをしているという風変わりな所はあるものの、総じて――フィオナ・ニールセンの部屋は整頓されていた。


 店で着ていた窮屈な上着を脱ぎ捨て、フィオナは黒のチューブトップと、ヘソの先まで見えるヒップハングパンツに着替えていた。バスタオルで頭を拭きながら、リナたちへも二組のタオルを投げる。


「えっ……あんな際どい格好もあるの……。リアルの世界でも、あんなの見たことないかも」


 それは、女性のリナが目のやり場に困るほどだった。胸元は小高い丘陵を描き、秘密の湿原へと誘うくびれのラインは、たとえそこにトラップがあると分かっていても世の男性全てが引き込まれてしまうだろう。


 リュウガは借りてきた猫のように大人しくなっている。さっき、リナの前で激戦を繰り広げた人とはとても思えない。


 何本かのコンバットナイフが並んで突き立てられた円卓と椅子。その色とりどりのナイフをしげしげと見つめ、


「どうだ、可愛かわいいだろう?」とフィオナ。


 リュウガは女性の「可愛かわいさの感性」について、小物だろうが洋服だろうが、端から理解できないと思っている。そこで、とりあえずうなずいた。


 フィオナはリュウガたちと差し向かうようにして椅子に腰掛け、その長くスラリとした足を組んだ。


「で? お前らはできてんのか?」


 二人はそのむき出しの質問に、今出されたばかりのダージリンティーをブッと吹き出した。


「まあ、冗談だ。気にしないでくれ。こういう質問を、お約束っていうだろう」


 フィオナはピント外れの調子で、どこからか出してきた缶入りの飲みものをグイとやりながら言った。


「で? どうだ? その……、この世界の感想は?」矢継ぎ早に質問が飛ぶ。


 すると、目ざとくリナが反応した。


「フィオナさんって、その口ぶりからして。もしかしてこの世界の……運営側の関係者なんですか?」


「いい質問だ、子猫ちゃん。だが、それを聞いてどうする? 私はただの武器屋の女店員だといったら」質問に質問で返すのは、フィオナの常套じょうとう手段だ。


「それは……」


「そうだ、それでいい。何でも聞いて答えをもらえると思ったら大間違いだ。それより、もっと楽しい話をしよう。リュウガ、あいつをぶっ倒したいか? ヴィニール、いや、ハーデスだ」


 さりげなくフィオナの呼び方が、少年からリュウガに変わっていた。


「それは余り楽しい話じゃないよ、フィオナ。まあぶっ倒したいというか、ぶっ倒さなきゃいけないんだろ。ただ、そのやり方をこれから探ろうとは思ってる。てっきり、こんだけ強くなったから、無双プレイができると思ってたんだけどな。あいつは手強てごわそうだ」


「なあに、その無双プレイって?」幸便とばかりに、リナが聞く。


「ああ……それはな」とフィオナが答えようとする。あからさまに、口を膨らますリナ。


 おっと、こいつが口を膨らますときは、むくれてるときだ。その分かりやすい癖は、まだ直ってないのか。しょうがない。


「えっとな、リナ。大づかみにいうと、一人で大人数の敵を一掃するような力押しのプレイを指すんだ」


「ほ、ほぅぇえー」


 ん? お前ってそんなキャラだったか? MMOの世界じゃ、確かにスラングが飛び交ってるけど……いろいろと無理してないか。


「まあ、さすがにレベル99もあれば、ここいら一帯の敵は無双できるだろうさ。ただそれだけじゃ納得がいかないんだろ。お前みたいなヤツはもっと高みを目指す。誰よりも強く、そして誰よりも早く、な」


「それを世間では、廃人と呼ぶ」リュウガが調子を合わせる。


「はうぇええー。リュウガ君、小林一茶とか好きだったっけ?」


「うーん、俳人違いか。まあ、それでいいや」


「うむ、それでいいな。ときに小娘、お前、料理はできるか? もしできるなら、先に風呂に入れてやってもいいぞ」


 リナは話の流れについていくのが、やっとだった――MMO世界での会話は、こうした速い流れの場合が多い。


「で、できますよ。でも、お風呂はフィオナさんが先でいいです。悪いですもん」


「いや、お前が先でいい。風呂はそこの先にあるからな」と後ろ手に廊下を指差し、「着替えも好きなのを使っていいぞ、ただし布きれしかないから覚悟しておけ」


 その勢いに押されたのか、リナが渋々席を立った。とはいえ、ずぶれで気持ち悪いのも事実だろう。素直にお風呂に向かって走っていった。


「さてと……ここからは大人の時間だ。分かるだろう? リュウガ」


 フィオナが身を乗り出し、円卓の上で息がふれあう距離まで近づく。間近で見ると、全ての部位が伝統工芸のように流麗な線で造形されている。リナが白く可憐かれんな花の美しさであるならば、彼女はズバリ薔薇ばらだ。そして彼女のとげは、危険なほどの魅力を放っている。


「目をそらさず……私の……を見てくれないか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ