プロローグ
「今日は何をしましょうか?」
「前回がポーカーだったよなぁ…久々にルーレットでよくね?」
「ルーレットって運ゲーでしょ?私は嫌だわ」
「ほとんどの賭け事は運だろう。とはいえ、少し飽きてきたところではある」
ここは高級ホテルの一室。
男女4人が机を囲み、本日行う賭け事を決めていた。
この4人はそれぞれ別々の地域で孤児院を営む施設長である。
元々は情報共有や意見交換の場として月に一度集まっていたが、気付いた時には賭け事だけをする場となっていた。
「そういえば噂になってるぞ、アラシマの所で新しい兵器がもうすぐ完成するって。どんなのか教えてくれよ」
紫色のサングラスを掛け、両腕に刺青がびっしり入っている男が正面に座っているアラシマという男に声を掛ける。
「わざわざ敵対している所に情報を漏らしませんよ、ウドノさん。仮に漏らしたら私は粛清されます」
スーツに眼鏡、いかにも真面目そうな男が淡々と答える。
「それにしても今日のオオアザの服装は何?今までの中でも奇抜な方じゃない?」
長髪で高身長の女性がタバコをふかしながら問う。
「仕方がない。最近の気分はこれのようだ。アリマも分かってて聞いておるのであろう」
直ぐに答えたオオアザという男の服装は黒の帽子、黒のメンズワンピース、黒のハイヒールを着用しているが、強面な彼には正直似合わない。
「さっきオオアザも言っていたが、正直飽きてきたよな、小銭稼ぐのにも」
ウドノの言葉に一同頷く。
賭け事を始めてからどれだけの月日が経ったか誰も覚えていない。
もう賭け事という賭け事は全てやり尽くした。
「冷戦状態が続いているからこそ、私達が集まれているところもありますがね」
と話すアラシマ。
この世界は大きく4つの国に分断されている。
約20年前に世界統一をかけた大戦が勃発したが、あまりにも甚大な犠牲を出したその戦争は結末を見ぬまま泥沼の冷戦へと移行し、今に至る。
「最初の方なんて酷かったものね。意見交換の場なのに皆の殺気が」
「お主がそれを言うか?」
過去に戦争をしていた者同士とは決して見えない程、4人は和気藹々と話す。
するとウドノが急に立ち上がる。
「よし! なら、新しい賭け事を始めようぜ」
ウドノは身を乗り出し、意地悪な笑みを浮かべながら3人の顔を見回した。
「いつまでも自分たちの手元にある小銭でチップを動かしたって退屈だ…。どうだ? 今度は自分たちの持ち駒を懸けてみねぇか」
「持ち駒…? ウドノ、一体何を言い出す気だ?」
オオアザが怪訝そうに太い眉をひそめる。ウドノはニヤリと鼻で笑い、自身の胸をどんと叩いた。
「俺たちがそれぞれの国で育ててる、あの孤児院のガキ共さ。各院から代表を1名選び出して、各国に送り込む。国を裏から動かす俺たちの大博打…誰がこの分断された世界を統一するか、その代行者としてな」
一瞬、部屋の中の空気が凍りついた。
タバコの煙を吐き出していたアリマの手が止まり、眼鏡の奥でアラシマの目が光る。
「…正気ですか、ウドノさん。それはもはや個人的な賭け事の域を超えています。下手をすれば、保たれている冷戦の均衡が崩れますよ」
「だから面白いんだろうが、アラシマ。兵器だの魔術だの冷戦だの、大人しく牽制し合うのにも飽きたろ? 代表のガキがどこまで登り詰めるか、誰が最後に生き残って世界を一つにまとめるか」
「どうせいつか破綻する世界だ。俺たちの手で一番でかいゲームの盤にしてやろうぜ」
ウドノは机の上に両手をつき、ギラついた目で3人を見渡した。
「勝った奴の国が、世界のすべてを手に入れる。乗るだろ、お前ら?」
ウドノの言葉に、部屋を重い沈黙が支配した。
テーブルの上で、高級な葉巻の煙がゆらりと揺らぎ、消えていく。
最初に口を開いたのは、アリマだった。
彼女はタバコの灰をトレイに落とすと、面白がるように冷たく微笑む。
「私の院には私を超えるであろう才能の持ち主がいるの。今までの賭け事の中で1番運ゲーじゃなさそうね。乗ったわ、ウドノ」
「ほう、アリマが一番乗りか。オオアザはどうだ?」
ウドノに振られたオオアザは、黒のメンズワンピースの裾を不器用に整えながら、ふん、と鼻を鳴らした。
「退屈な平和をぶち壊す刺激としては、悪くない」
最後に、メガネの奥でアラシマの目が冷徹に光った。彼はスーツの袖を直し、静かに息を吐く。
「…狂っていますよ、あなたたちは。ですが」
アラシマは立ち上がり、ウドノの目の前に冷ややかな笑みを向けた。
「ただ、私も狂っているうちの1人なんですよ」
「決まりだな!」
ウドノは机を強く叩き、笑った。
かつて世界を破滅に導きかけた大戦の影に連なる者たちが、今度は子供たちを盤上に並べ、新たな戦争ゲームの幕を引き上げる。
分断された4つの国。
別々の孤児院で育った4人の主人公。
大人たちの気まぐれとエゴによって仕組まれた、世界統一をかけた最悪の賭け事《FCAG》が、こうして密室の裏で産声を上げたのだった。




