第56話 烈女、ポポンヨーと都の観光スポット・覇喇呪区へ繰り出して無双する⑤
「うーむ」
押し問答が続いたあと、舜は唸りながら腕を組んだ。
天井を見上げ、一体どうしたものかと思案する。
何せ猫に押しきられてしまうほど、押しに弱い皇帝である。
公務や旅行ではなく、皇帝の同伴でもないのに皇后が宮城の外に出るというのは前例がない。
本来なら、そう言って一蹴してしかるべき事案なのだが……。
同時に、彼はこうも考えた。
何も泊りがけで地方へ出るわけではない。
都に日帰りで遊びに行くくらいならいいか……とも。
しばらく悩んだあと、舜は勿体ぶった口調で言った。
「わかった。街へ出かけてもよいが、これは前例のないことである。官たちもよい顔はせぬであろうし、クレームが来たらわしが処理せねばならぬのだ。無条件で許すわけにはいかぬ」
「何よ。条件があんの?」
「わしに黒毛のアルパカを献上せよ。それならば遊びに行ってもよい」
舜は、自身のアルパカを持つことを諦めてはいなかった。
暁の歴代皇帝で、神獣の麒麟を所持した者はいない。
烈から高貴な黒麒麟をもらい、皇帝として箔をつけたい気持ちがあった。
麒麟を従えた霊験あらたかな姿を見せつければ、官民はその神々しさにひれ伏し、自分を畏れ敬うようになるだろう。仁徳に厚い麒麟皇帝と呼ばれるのも悪くない。
「え~!」
烈はあからさまに顔をしかめた。
「だめだって。アルパカは家族や仲間と引き離すと死んじゃうんだって。あんたにあげて、むざむざ死なせるわけにはいかないよ」
「黒毛も引き続き霓龍殿で飼えばよい。時々外廷へ連れて行き、わしの麒麟として披露目をしたいのだ」
「お披露目してどうすんのよ」
「傍に侍らせ、特別に餌をやったり触らせてやったりする。麒麟との交流イベントを開いて、官の慰撫に努めるのだ。下僕のストレス軽減をはかるのも福利厚生であるぞ」
舜としては、職場には女がいないからアルパカを連れて行って癒されるしかない……という気持ちもある。
「正宮に散歩に行くくらいなら……いいか」
烈は大仰に嘆息した。
「しょうがないなあ……。いいよ。黒毛のアルパカはあんたの名義にしてあげる」
旦那におねだりするはずが、逆にねだられてアルパカをあげる羽目になってしまった。
してやられたと思うとちょっと悔しいが、ここはギブアンドテイクと割り切るしかない。旦那のものは嫁のもの、嫁のものは旦那のものである。
アルパカと引き換えに妃たちの外出を許可した舜は、最後に念を押すように言った。
「明るいうちだけであるぞ。宵までは必ず帰ってくるのだぞ」
こうして旦那の許しを得た烈は、意気揚々と覇喇呪区へ遊びに出かけることにした。




